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3 魔法学校の聖人候補
443 冬合宿の始まり
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443
冬合宿は二学期の終わり、最後の二泊三日で行われる。
三日目が表彰式兼終業式となり、多くの生徒たちは新年を故郷で迎えるために帰って行く。そして、三学期になれば《基礎魔法講座》も、銘々の適正に合わせた講座を選んで受けるようになるため、クラス内もバラバラになり、クラス単位で一緒に受ける授業もどんどん減っていく。
そういう意味でも、この合宿は仲間と協力してミッションを遂行する数少ない機会だと言えるのだが、多くの生徒たちはそのことをわかってはいないようだ。事前の偵察で他のグループの動向も少し探ってみたが、貴族たちは自然と地位の高い者がリーダーになり、それ以外はより魔法力の強い者が上に立っている。どこも基本的にリーダーの命令に従って行動してはいるが、事前準備に時間をかけたグループはないようだった。
魔法力の高い子たちは、出たとこ勝負で見つけた獣を狩っていけばいい、としか思っていないので、ほとんど打ち合わせらしい打ち合わせもしていない。実際、例年ならそれで十分いけるのだ。
(今回は、ちょっと違いますよ。私たちがいるからね)
早朝に山中の合宿所へ着くとすぐ、改めてルールとポイントについての説明が行われた。
学校職員からは、影に日向にあちこちから学生たちを監視しながら見守っているので、不正など考えないように、というお言葉もあった。過去には、事前に狩った動物を使って、数を水増ししようとした輩もいたそうだが、当然すべてバレてひどいペナルティーを受けたそうだ。
「私たちは、常に見ています。それを忘れないように」
先生の言葉に姿勢を正す学生たち。いよいよ狩りの始まりだ。
グループごとに集まって時間差で山へ向かう門を出て行く。
狩りの時間は8時間、食べ物はある程度支給されたものがマジックバッグの中に用意されている。それ以外の飲食物も持ち込み可能だ。食事休憩は適宜グループごとにとり、その時間や配分も自分たちで決めて良い。
時間までに帰還しないと、20ポイントの減点。
「では、次の5グループ、出発!」
係員が時間を記録し、リーダーのクローナがその紙にサインし終え、私はたちはいよいよ冬合宿1日目の狩猟実習に出発した。
この季節の冬山はまだ雪は多くないが、なかなか寒い。今回お留守番のセーヤとソーヤが私の体調を心配して用意してくれた防寒用の分厚い装備でがっちり防寒対策をして着ぶくれているので、やや動きが悪いけれど、私は皆に遅れないようちょこちょこと歩き、すべきことを始めた。
まず《索敵》で周囲の状況を慎重に探っていく。
「マリスさん、状況はどうですか?」
オーライリにそう聞かれた私は、みんなに聞こえるように説明した。
「どのチームも同じ方向へ進んでいるみたい。たしかにみんなが進んでいるあの道は足場がいいから、早く進むにはいいけど、人が多すぎるね。あの道を行くのは得策じゃないと思う。私たちは、反対側の山道を行きましょう」
状況を見極めた結果、みんなで多くの学生たちとは反対の方向へ進むことに決めた。
私の選んだ方向は獣道が多く、知らない人は迷う危険をはらんだ見晴らしの悪い山道だ。だが、地形は完全に把握してあるので迷う心配はないし、最短で最適な場所へ移動できる。
《索敵》をやや広域に展開して、メインの登山道の方の様子を見てみると、案の定色々なチームが好き勝手に狩りを始めたせいで動物たちが驚いて、多くがその場所を離れ逃げ、遠ざかる様子が見えた。
特に後発組は、そうやって荒らされた場所を通ることになるため、獲物を見つけることも大変だろう。
(いくら魔法力に自信があっても、長時間の狩りを続けるには、もう少し効率的にやらないと大変だと思うんだけど……)
遠くから〝ドーン〟とか〝バチバチ〟とか音が聞こえるところをみると、朝からかなり激しく派手な魔法を使っているようだ。ウサギやネズミに使うには強すぎる魔法に思えるが、本人たちは一生懸命なのだろう。
歩きやすい道を探しながら行軍を続けつつ、自分たちの周囲を慎重に探っていると、30分もしないうちに動物たちの水場のある場所が《脳内地図》に現れた。その周囲には、小動物たちの食料になりそうな木の実が多くあり、周囲にはかなりの数の動物が確認でき、他の人影もない。
そこで私はみんなに最初の狩りを始めようと伝えた。
「みなさん、準備はいいですか。最初の獲物は小動物です。深追いはせず、多くを捉えるよりも、ひとつひとつを正確に確実に仕留めることを重視しましょう。くれぐれも怪我のないよう慎重にね」
私の言葉にみんな頷き、トルルたち遊軍は少しづつ私が示した獲物のいる方向へ音を立てず距離を詰めていった。一生懸命訓練したので、その姿はかなり様になっている。
「じゃ、行きますよ」
私の左右に立つクローナとオーライリにとアイコンタクトをしてから《的指定》 で対象の10匹の動物を補足し、威力を弱めた《風魔法》に乗せ10個のペイント弾を放った。
いよいよクローナ組の狩りの始まりだ。
冬合宿は二学期の終わり、最後の二泊三日で行われる。
三日目が表彰式兼終業式となり、多くの生徒たちは新年を故郷で迎えるために帰って行く。そして、三学期になれば《基礎魔法講座》も、銘々の適正に合わせた講座を選んで受けるようになるため、クラス内もバラバラになり、クラス単位で一緒に受ける授業もどんどん減っていく。
そういう意味でも、この合宿は仲間と協力してミッションを遂行する数少ない機会だと言えるのだが、多くの生徒たちはそのことをわかってはいないようだ。事前の偵察で他のグループの動向も少し探ってみたが、貴族たちは自然と地位の高い者がリーダーになり、それ以外はより魔法力の強い者が上に立っている。どこも基本的にリーダーの命令に従って行動してはいるが、事前準備に時間をかけたグループはないようだった。
魔法力の高い子たちは、出たとこ勝負で見つけた獣を狩っていけばいい、としか思っていないので、ほとんど打ち合わせらしい打ち合わせもしていない。実際、例年ならそれで十分いけるのだ。
(今回は、ちょっと違いますよ。私たちがいるからね)
早朝に山中の合宿所へ着くとすぐ、改めてルールとポイントについての説明が行われた。
学校職員からは、影に日向にあちこちから学生たちを監視しながら見守っているので、不正など考えないように、というお言葉もあった。過去には、事前に狩った動物を使って、数を水増ししようとした輩もいたそうだが、当然すべてバレてひどいペナルティーを受けたそうだ。
「私たちは、常に見ています。それを忘れないように」
先生の言葉に姿勢を正す学生たち。いよいよ狩りの始まりだ。
グループごとに集まって時間差で山へ向かう門を出て行く。
狩りの時間は8時間、食べ物はある程度支給されたものがマジックバッグの中に用意されている。それ以外の飲食物も持ち込み可能だ。食事休憩は適宜グループごとにとり、その時間や配分も自分たちで決めて良い。
時間までに帰還しないと、20ポイントの減点。
「では、次の5グループ、出発!」
係員が時間を記録し、リーダーのクローナがその紙にサインし終え、私はたちはいよいよ冬合宿1日目の狩猟実習に出発した。
この季節の冬山はまだ雪は多くないが、なかなか寒い。今回お留守番のセーヤとソーヤが私の体調を心配して用意してくれた防寒用の分厚い装備でがっちり防寒対策をして着ぶくれているので、やや動きが悪いけれど、私は皆に遅れないようちょこちょこと歩き、すべきことを始めた。
まず《索敵》で周囲の状況を慎重に探っていく。
「マリスさん、状況はどうですか?」
オーライリにそう聞かれた私は、みんなに聞こえるように説明した。
「どのチームも同じ方向へ進んでいるみたい。たしかにみんなが進んでいるあの道は足場がいいから、早く進むにはいいけど、人が多すぎるね。あの道を行くのは得策じゃないと思う。私たちは、反対側の山道を行きましょう」
状況を見極めた結果、みんなで多くの学生たちとは反対の方向へ進むことに決めた。
私の選んだ方向は獣道が多く、知らない人は迷う危険をはらんだ見晴らしの悪い山道だ。だが、地形は完全に把握してあるので迷う心配はないし、最短で最適な場所へ移動できる。
《索敵》をやや広域に展開して、メインの登山道の方の様子を見てみると、案の定色々なチームが好き勝手に狩りを始めたせいで動物たちが驚いて、多くがその場所を離れ逃げ、遠ざかる様子が見えた。
特に後発組は、そうやって荒らされた場所を通ることになるため、獲物を見つけることも大変だろう。
(いくら魔法力に自信があっても、長時間の狩りを続けるには、もう少し効率的にやらないと大変だと思うんだけど……)
遠くから〝ドーン〟とか〝バチバチ〟とか音が聞こえるところをみると、朝からかなり激しく派手な魔法を使っているようだ。ウサギやネズミに使うには強すぎる魔法に思えるが、本人たちは一生懸命なのだろう。
歩きやすい道を探しながら行軍を続けつつ、自分たちの周囲を慎重に探っていると、30分もしないうちに動物たちの水場のある場所が《脳内地図》に現れた。その周囲には、小動物たちの食料になりそうな木の実が多くあり、周囲にはかなりの数の動物が確認でき、他の人影もない。
そこで私はみんなに最初の狩りを始めようと伝えた。
「みなさん、準備はいいですか。最初の獲物は小動物です。深追いはせず、多くを捉えるよりも、ひとつひとつを正確に確実に仕留めることを重視しましょう。くれぐれも怪我のないよう慎重にね」
私の言葉にみんな頷き、トルルたち遊軍は少しづつ私が示した獲物のいる方向へ音を立てず距離を詰めていった。一生懸命訓練したので、その姿はかなり様になっている。
「じゃ、行きますよ」
私の左右に立つクローナとオーライリにとアイコンタクトをしてから《的指定》 で対象の10匹の動物を補足し、威力を弱めた《風魔法》に乗せ10個のペイント弾を放った。
いよいよクローナ組の狩りの始まりだ。
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