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3 魔法学校の聖人候補
444 チームワーク
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444
狙い通りペイント弾は10匹の小動物に向かって進んでいき、その頭部に着弾した。
私はペイント弾を放つとすぐさま両隣の攻撃役のふたりに声をかけた。
「はい。攻撃お願いします」
「了解」
クローナは《炎の槍》、オーライリは《風の刃》をマーカーの見える場所へすかさず叩き込んでいく。彼女たちは、まだ複数への同時攻撃を習得していないので、タイムラグはあるが、それでも正確にヒットしている。さすがに生徒会に名を連ねるふたり、とても優秀だ。
私がペイント弾の中に少しだけしびれ薬を混ぜているため、これを受けた動物は動きが鈍くなる。そのため、追尾が楽になるのだ。逃げようとする動物の位置は、私が《索敵》をしながら口頭でふたりに伝え捕捉、遊軍のみんなは倒れた動物を次々に捕獲していった。
今回の収穫は、野ウサギ4羽にオオネズミ3匹。7割の獲物を回収することができた。
「最初としては上出来だと思います。逃げたものを深追いするより、先に進みましょう。野生の小動物は警戒心が強いですから、一度荒らした場所で狩りをするより、違う場所へ移動した方がいいと思います」
「うん、そうだね。私も自分の村で狩りはしたことあるけど、こんなに簡単に捕まえられたの初めてだよ。マリスさんの指示があれば、もっとちゃんと捕まえられると思うから、頑張るよ。次行こう!」
トルルが獲物を掲げて笑う。山育ちのトルルは多少狩りの経験があるので、今回の私たちの狩りのやり方の歩留まりの高さが実感できるのだろう。今はできるだけたくさん捕まえたくてたまらないようだ。
「トルル、狩りの時間は8時間もあるんですから、あんまり張り切りすぎないでね」
オーライリがたしなめるが、遊軍のみんなは早速の収穫に興奮して一様にテンションが高い。動き回らなければならない彼らの士気が高いのは、今後のためにも悪いことではないので、私も彼らの成果を称えつつ、次の移動方向の指示を出した。
この狩りの獲物は学校のものとなり、食料は大食堂に、それ以外の素材は街へ卸される。冬山の狩りはそれなりに危険が伴うため、私たちが狩ってくる大量の毛皮などの素材は、冬の厳しい高地にあるセルツの街の人たちにとっても大事な品物になっている。上級生の狩りでは、更に大量の貴重な素材が手に入るので、街の人たちの期待も大きい。
上級生の狩場は、かなりリスクの高い場所だそうで、私たちに先んじて既に今期の狩りは終わっている。市場の人が、今年もいい毛皮が手に入りそうだ、と興奮気味に言っていたところをみると、セルツの街の人たちにとっても、冬の始まりを告げる大事な行事なのだろう。
(まぁ、上級生の狩りは個人戦なので、全然私たちとは様子が違うんだろうけどね)
街の人たちのためにも頑張ろうと思いつつ、私は皆に遅れすぎないよう山道を進んでいった。
「五羽の〝アイス・バード〟がいます。まだ攻撃するには遠すぎるから、もう少し近づきましょうか」
私は《索敵》で捉えた〝アイス・バード〟の位置を指差しながら地図上で示し、それを確認しうなづいた遊軍のみんなはその方向に向かって静かにだが素早く進んでいく。その姿も、どんどんサマになってきていて頼もしい限りだ。
「〝アイス・バード〟の攻撃は、当たればかなりのダメージがあります。みんなに怪我がないよう、私たちでキッチリ仕留めていきましょう」
攻撃班の私たちはうなずき合って、攻撃準備開始。まず私がしびれ薬入りのペイント弾を、ターゲットの〝アイス・バード〟たちに向かって発射。その直後、木の上の三羽をクローナとオーライリの魔法で仕留め、とどめがさせなかったしびれ薬が効いた二羽は、枝から落ちたところを遊軍のみんなが仕留めてくれた。
「やったー!全部捕まえたよ!!」
トルルが嬉しくてたまらないという顔で、私たちの場所へ戻ってきた。
「すごいです。まだ開始2時間も経っていないのに、しかも〝アイス・バード〟まで。これはいけます。マリスさん。いけますよ!」
「こんな速さで狩りができるなんて! みんなで協力するとこんなことができるのね。驚いたわ」
オーライリもクローナも、すっかり興奮している。
全員確かな手応えを得たようなので、今度は少し大物を探しつつ移動した。山の上にあるセルツの冬は厳しいため、毛皮の需要は非常に高くいつも不足していると聞いたので、モフモフの毛皮を持つセルツ山羊や銀毛鹿を狙っていこうと思う。
「セルツ山羊は、かなり傾斜の厳しい場所にいるようなので、遊軍のみなさんは滑落に気をつけてください。深追いは絶対にしないようにね」
短いミーティングをしながら、私たちは更に山の中へ分け入った。
その後2頭のセルツ山羊を仕留めたところで、午前中の狩りを終え、食事と休憩を取ることにした。
雨風が避けられる洞窟のような場所を《地形探査》で近くに見つけたので、そこへみんなで移動し、用意してきた鍋一杯の温かい汁物を火にかけて温めた。今日の汁物は〝呉汁〟
たっぷりの野菜と豆の味が躰を温めてくれる味噌汁だ。タンパク質も豊富で体力の回復にも効果がある。
熱々の汁物と大食堂が用意してくれた、具材たっぷりのサンドウィッチを食べてから、一時間半ほどしっかりと休憩をした。午前中に十分満足できる収穫があったので、皆気持ちに余裕があるのだろう。銘々仮眠をとったり躰をほぐしたりしながら、落ち着いた時間を過ごせた。
明日も続く長丁場のこの狩りで焦りは禁物だ。
午後は少し天候が悪くなりそうだったので、足場の悪いところにいる大物は諦め、ウサギ狩りを中心にすることに狩りの方針を決め、再び行軍開始。
規定時間の30分前には出発した場所へ戻り、成果を報告して合宿1日目を終えた。
そして、私たち〝クローナ組〟は夕食に後に張り出された中間成績で、他のグループを驚嘆させることになってしまったのだった。
狙い通りペイント弾は10匹の小動物に向かって進んでいき、その頭部に着弾した。
私はペイント弾を放つとすぐさま両隣の攻撃役のふたりに声をかけた。
「はい。攻撃お願いします」
「了解」
クローナは《炎の槍》、オーライリは《風の刃》をマーカーの見える場所へすかさず叩き込んでいく。彼女たちは、まだ複数への同時攻撃を習得していないので、タイムラグはあるが、それでも正確にヒットしている。さすがに生徒会に名を連ねるふたり、とても優秀だ。
私がペイント弾の中に少しだけしびれ薬を混ぜているため、これを受けた動物は動きが鈍くなる。そのため、追尾が楽になるのだ。逃げようとする動物の位置は、私が《索敵》をしながら口頭でふたりに伝え捕捉、遊軍のみんなは倒れた動物を次々に捕獲していった。
今回の収穫は、野ウサギ4羽にオオネズミ3匹。7割の獲物を回収することができた。
「最初としては上出来だと思います。逃げたものを深追いするより、先に進みましょう。野生の小動物は警戒心が強いですから、一度荒らした場所で狩りをするより、違う場所へ移動した方がいいと思います」
「うん、そうだね。私も自分の村で狩りはしたことあるけど、こんなに簡単に捕まえられたの初めてだよ。マリスさんの指示があれば、もっとちゃんと捕まえられると思うから、頑張るよ。次行こう!」
トルルが獲物を掲げて笑う。山育ちのトルルは多少狩りの経験があるので、今回の私たちの狩りのやり方の歩留まりの高さが実感できるのだろう。今はできるだけたくさん捕まえたくてたまらないようだ。
「トルル、狩りの時間は8時間もあるんですから、あんまり張り切りすぎないでね」
オーライリがたしなめるが、遊軍のみんなは早速の収穫に興奮して一様にテンションが高い。動き回らなければならない彼らの士気が高いのは、今後のためにも悪いことではないので、私も彼らの成果を称えつつ、次の移動方向の指示を出した。
この狩りの獲物は学校のものとなり、食料は大食堂に、それ以外の素材は街へ卸される。冬山の狩りはそれなりに危険が伴うため、私たちが狩ってくる大量の毛皮などの素材は、冬の厳しい高地にあるセルツの街の人たちにとっても大事な品物になっている。上級生の狩りでは、更に大量の貴重な素材が手に入るので、街の人たちの期待も大きい。
上級生の狩場は、かなりリスクの高い場所だそうで、私たちに先んじて既に今期の狩りは終わっている。市場の人が、今年もいい毛皮が手に入りそうだ、と興奮気味に言っていたところをみると、セルツの街の人たちにとっても、冬の始まりを告げる大事な行事なのだろう。
(まぁ、上級生の狩りは個人戦なので、全然私たちとは様子が違うんだろうけどね)
街の人たちのためにも頑張ろうと思いつつ、私は皆に遅れすぎないよう山道を進んでいった。
「五羽の〝アイス・バード〟がいます。まだ攻撃するには遠すぎるから、もう少し近づきましょうか」
私は《索敵》で捉えた〝アイス・バード〟の位置を指差しながら地図上で示し、それを確認しうなづいた遊軍のみんなはその方向に向かって静かにだが素早く進んでいく。その姿も、どんどんサマになってきていて頼もしい限りだ。
「〝アイス・バード〟の攻撃は、当たればかなりのダメージがあります。みんなに怪我がないよう、私たちでキッチリ仕留めていきましょう」
攻撃班の私たちはうなずき合って、攻撃準備開始。まず私がしびれ薬入りのペイント弾を、ターゲットの〝アイス・バード〟たちに向かって発射。その直後、木の上の三羽をクローナとオーライリの魔法で仕留め、とどめがさせなかったしびれ薬が効いた二羽は、枝から落ちたところを遊軍のみんなが仕留めてくれた。
「やったー!全部捕まえたよ!!」
トルルが嬉しくてたまらないという顔で、私たちの場所へ戻ってきた。
「すごいです。まだ開始2時間も経っていないのに、しかも〝アイス・バード〟まで。これはいけます。マリスさん。いけますよ!」
「こんな速さで狩りができるなんて! みんなで協力するとこんなことができるのね。驚いたわ」
オーライリもクローナも、すっかり興奮している。
全員確かな手応えを得たようなので、今度は少し大物を探しつつ移動した。山の上にあるセルツの冬は厳しいため、毛皮の需要は非常に高くいつも不足していると聞いたので、モフモフの毛皮を持つセルツ山羊や銀毛鹿を狙っていこうと思う。
「セルツ山羊は、かなり傾斜の厳しい場所にいるようなので、遊軍のみなさんは滑落に気をつけてください。深追いは絶対にしないようにね」
短いミーティングをしながら、私たちは更に山の中へ分け入った。
その後2頭のセルツ山羊を仕留めたところで、午前中の狩りを終え、食事と休憩を取ることにした。
雨風が避けられる洞窟のような場所を《地形探査》で近くに見つけたので、そこへみんなで移動し、用意してきた鍋一杯の温かい汁物を火にかけて温めた。今日の汁物は〝呉汁〟
たっぷりの野菜と豆の味が躰を温めてくれる味噌汁だ。タンパク質も豊富で体力の回復にも効果がある。
熱々の汁物と大食堂が用意してくれた、具材たっぷりのサンドウィッチを食べてから、一時間半ほどしっかりと休憩をした。午前中に十分満足できる収穫があったので、皆気持ちに余裕があるのだろう。銘々仮眠をとったり躰をほぐしたりしながら、落ち着いた時間を過ごせた。
明日も続く長丁場のこの狩りで焦りは禁物だ。
午後は少し天候が悪くなりそうだったので、足場の悪いところにいる大物は諦め、ウサギ狩りを中心にすることに狩りの方針を決め、再び行軍開始。
規定時間の30分前には出発した場所へ戻り、成果を報告して合宿1日目を終えた。
そして、私たち〝クローナ組〟は夕食に後に張り出された中間成績で、他のグループを驚嘆させることになってしまったのだった。
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