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3 魔法学校の聖人候補
446 緊急招集
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446
「すまん、メイロード。お前の力がいる」
私のところにやってきたのはグッケンス博士。
この合宿には来ていないはずの博士がいきなり現れたことに、トルルやオーライリを始め、みんなびっくりしている。おそらく博士もこの緊急事態に《伝令》で呼び出しをくらい、私がもしもの時のために作っておいた合宿所内の《無限回廊の扉》を抜けてやって来たのだろう。
相手がグッケンス博士なので《伝令》を送った直後に現れるといった、こんな無茶なことをしても、なんとなく納得されてしまうし、誰も驚きはするものの、あまり疑問には思われない。博士もそれがわかっているので、知らん顔して普通に回廊を抜けてきた……と思われる。
ともかく私ももう少し事情を聞きたかったので、みんなから少し離れた場所で博士と立ち話をした。簡易的なものだが、博士がその場に音を遮る結界を張ってくれたので、私たちの声は周囲に聞こえないだろう。
「この合宿のために、ついこの間、この辺りの地形をアタタガ・フライと一緒にかなり詳細に調べたと言っていたな」
「はい。徒歩での移動ですから、かなり詳しく知っておく必要があったので、きっちり脳内地図を作りましたよ。けもの道までバッチリです」
「うむ。ならばおそらくお前の脳内地図は最も現状に近い周辺状況を反映しているはずじゃ。こちらにも《索敵》ができる者はいるが、おそらくお前以上の術者はおらんだろう。それに地図も例年同じ場所なので何年も前のものを流用しているようだしの。だが、お前の《索敵》と地図があれば、ここからでも、あのバカどもや魔獣の場所がつかめるのではないか?」
今回の狩場およそ50キロ四方全域プラス外周分にまで及ぶ広域魔法とは、博士もとんだ無茶振りだが、実際のところできなくはない。採集と旅と農業で鍛え上げた私の《完全脳内地図把握》と無尽蔵の魔法力があれば、広域になってもある程度は状況が見えるはずだ。
「これだけ広範囲だと、精度は下がりますが、かなりの人数とそれを上回る魔獣の集団なら、おそらく位置ぐらいは絞れると思います」
私は脳内地図に意識を集中し、広域の《索敵》を開始した。とにかく高速で移動している集団と魔獣の群れそれに今回の狩場の外周ギリギリの場所、という情報を頼りに地図上を探っていった。
(これだ!)
私は手製の地図を広げ指差した。
「ここです。北西の山中、魔獣たちのいるのは狩場の外周よりかなり外です。ここまで踏み込む気だとしたら、危なすぎますよ。彼らが昨日見たという魔獣の群れに関する情報は、本隊じゃありません。見張り役です。後ろにその10倍はいますよ!」
残念ながら、さすがにこの位置からでは魔獣の種類までは特定できないが、どんな魔獣でもこちらから攻撃を仕掛けてしまえば、確実に集団すべてが敵として襲いかかってくる。集団で移動する魔獣は、獲物を襲うのも統率された集団で行うため、その連携はにわかチームの学生たちより優れているのだ。しかも圧倒的に少ない20人にも満たないだろう3グループだけでは、多少魔法が使えたところでまったく歯が立つわけもない。
そして、最悪なことに彼らはこの事実を知らぬまま、不用意に全速力で近づきつつある。
「なんとか彼らが攻撃に入る前に止めないと!」
私は走ってみんなの元に戻ってこう告げた。
「ごめん、みんな! どうやらものすごく危険な場所へ入り込んじゃった人たちがいるみたいなの。それで一番最近この場所を調査してしかも《索敵》が使える私がいないと、彼らを早く見つけられないの。なるべく早く戻るから、私抜きで今日の狩り始めてくれる?」
私の言葉に、みんな頷いてくれた。
「わかった。大丈夫、私たちにはマリスさんの作ってくれたこの詳細な地図があるし、昨日の狩場を重点的に探すから。昨日頑張ったおかげで貯金もあるし、なんとかなるって! でも、気をつけてね。グッケンス博士と一緒なら大丈夫だろうけど、マリスさんは攻撃力がないから、ちょっと心配」
トルルは、戦えない設定の私の身をすごく案じてくれた。なんだか申し訳ない。
「私とオーライリで、このグループはまとめます。こんな暴走をした短慮で愚かな彼らですが、私には大事な学友です。どうぞ助けてあげてください」
きっと親しい人もそのグループにいるのだろうクローナは真剣な表情で、私に頭を下げてくれた。
「うん。ありがとう。無事に助けられるよう、頑張ってくるね! みんなも気をつけて、じゃ!」
私と博士は、緊急で呼び出したアタタガ・フライに乗り、彼らの後を追うため全速力で走った。
私がみんなに了解を取っている間に、グッケンス博士は私が先ほど示した地図を大会本部の人たちに見せ、現在の状況を伝え、時間が惜しいから先行して追いかける旨を話してくれていた。
「状況が大きく動けば、その都度《伝令》で伝えるが、これだけの数の魔獣に襲われれば子供たちの命はない。わしは弟子を連れて先に行く」
そう宣言してくれたので、弟子の私も動きやすい。博士と全速力で消えても不思議には思われなくて済んだようだ。
魔法学校側も、グッケンス博士から思った以上の数の魔獣がいることを伝えられて、騒然となっていた。緊急の討伐隊を編成し、すぐに後を追うとのことだったが、それで間に合うとは到底思えなかった。
私はアタタガ・フライの移動箱の中にも《無限回廊の扉》をつなぎ、これからのための準備をした。どういう状況になっているにせよ、子供たちの無事だけは確保したい。
(できるだけの準備だけはしていこう。着けば修羅場だ。もう考える時間はない)
「すまん、メイロード。お前の力がいる」
私のところにやってきたのはグッケンス博士。
この合宿には来ていないはずの博士がいきなり現れたことに、トルルやオーライリを始め、みんなびっくりしている。おそらく博士もこの緊急事態に《伝令》で呼び出しをくらい、私がもしもの時のために作っておいた合宿所内の《無限回廊の扉》を抜けてやって来たのだろう。
相手がグッケンス博士なので《伝令》を送った直後に現れるといった、こんな無茶なことをしても、なんとなく納得されてしまうし、誰も驚きはするものの、あまり疑問には思われない。博士もそれがわかっているので、知らん顔して普通に回廊を抜けてきた……と思われる。
ともかく私ももう少し事情を聞きたかったので、みんなから少し離れた場所で博士と立ち話をした。簡易的なものだが、博士がその場に音を遮る結界を張ってくれたので、私たちの声は周囲に聞こえないだろう。
「この合宿のために、ついこの間、この辺りの地形をアタタガ・フライと一緒にかなり詳細に調べたと言っていたな」
「はい。徒歩での移動ですから、かなり詳しく知っておく必要があったので、きっちり脳内地図を作りましたよ。けもの道までバッチリです」
「うむ。ならばおそらくお前の脳内地図は最も現状に近い周辺状況を反映しているはずじゃ。こちらにも《索敵》ができる者はいるが、おそらくお前以上の術者はおらんだろう。それに地図も例年同じ場所なので何年も前のものを流用しているようだしの。だが、お前の《索敵》と地図があれば、ここからでも、あのバカどもや魔獣の場所がつかめるのではないか?」
今回の狩場およそ50キロ四方全域プラス外周分にまで及ぶ広域魔法とは、博士もとんだ無茶振りだが、実際のところできなくはない。採集と旅と農業で鍛え上げた私の《完全脳内地図把握》と無尽蔵の魔法力があれば、広域になってもある程度は状況が見えるはずだ。
「これだけ広範囲だと、精度は下がりますが、かなりの人数とそれを上回る魔獣の集団なら、おそらく位置ぐらいは絞れると思います」
私は脳内地図に意識を集中し、広域の《索敵》を開始した。とにかく高速で移動している集団と魔獣の群れそれに今回の狩場の外周ギリギリの場所、という情報を頼りに地図上を探っていった。
(これだ!)
私は手製の地図を広げ指差した。
「ここです。北西の山中、魔獣たちのいるのは狩場の外周よりかなり外です。ここまで踏み込む気だとしたら、危なすぎますよ。彼らが昨日見たという魔獣の群れに関する情報は、本隊じゃありません。見張り役です。後ろにその10倍はいますよ!」
残念ながら、さすがにこの位置からでは魔獣の種類までは特定できないが、どんな魔獣でもこちらから攻撃を仕掛けてしまえば、確実に集団すべてが敵として襲いかかってくる。集団で移動する魔獣は、獲物を襲うのも統率された集団で行うため、その連携はにわかチームの学生たちより優れているのだ。しかも圧倒的に少ない20人にも満たないだろう3グループだけでは、多少魔法が使えたところでまったく歯が立つわけもない。
そして、最悪なことに彼らはこの事実を知らぬまま、不用意に全速力で近づきつつある。
「なんとか彼らが攻撃に入る前に止めないと!」
私は走ってみんなの元に戻ってこう告げた。
「ごめん、みんな! どうやらものすごく危険な場所へ入り込んじゃった人たちがいるみたいなの。それで一番最近この場所を調査してしかも《索敵》が使える私がいないと、彼らを早く見つけられないの。なるべく早く戻るから、私抜きで今日の狩り始めてくれる?」
私の言葉に、みんな頷いてくれた。
「わかった。大丈夫、私たちにはマリスさんの作ってくれたこの詳細な地図があるし、昨日の狩場を重点的に探すから。昨日頑張ったおかげで貯金もあるし、なんとかなるって! でも、気をつけてね。グッケンス博士と一緒なら大丈夫だろうけど、マリスさんは攻撃力がないから、ちょっと心配」
トルルは、戦えない設定の私の身をすごく案じてくれた。なんだか申し訳ない。
「私とオーライリで、このグループはまとめます。こんな暴走をした短慮で愚かな彼らですが、私には大事な学友です。どうぞ助けてあげてください」
きっと親しい人もそのグループにいるのだろうクローナは真剣な表情で、私に頭を下げてくれた。
「うん。ありがとう。無事に助けられるよう、頑張ってくるね! みんなも気をつけて、じゃ!」
私と博士は、緊急で呼び出したアタタガ・フライに乗り、彼らの後を追うため全速力で走った。
私がみんなに了解を取っている間に、グッケンス博士は私が先ほど示した地図を大会本部の人たちに見せ、現在の状況を伝え、時間が惜しいから先行して追いかける旨を話してくれていた。
「状況が大きく動けば、その都度《伝令》で伝えるが、これだけの数の魔獣に襲われれば子供たちの命はない。わしは弟子を連れて先に行く」
そう宣言してくれたので、弟子の私も動きやすい。博士と全速力で消えても不思議には思われなくて済んだようだ。
魔法学校側も、グッケンス博士から思った以上の数の魔獣がいることを伝えられて、騒然となっていた。緊急の討伐隊を編成し、すぐに後を追うとのことだったが、それで間に合うとは到底思えなかった。
私はアタタガ・フライの移動箱の中にも《無限回廊の扉》をつなぎ、これからのための準備をした。どういう状況になっているにせよ、子供たちの無事だけは確保したい。
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