利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
257 / 840
3 魔法学校の聖人候補

446 緊急招集

しおりを挟む
446

「すまん、メイロード。お前の力がいる」

私のところにやってきたのはグッケンス博士。

この合宿には来ていないはずの博士がいきなり現れたことに、トルルやオーライリを始め、みんなびっくりしている。おそらく博士もこの緊急事態に《伝令》で呼び出しをくらい、私がもしもの時のために作っておいた合宿所内の《無限回廊の扉》を抜けてやって来たのだろう。

相手がグッケンス博士なので《伝令》を送った直後に現れるといった、こんな無茶なことをしても、なんとなく納得されてしまうし、誰も驚きはするものの、あまり疑問には思われない。博士もそれがわかっているので、知らん顔して普通に回廊を抜けてきた……と思われる。

ともかく私ももう少し事情を聞きたかったので、みんなから少し離れた場所で博士と立ち話をした。簡易的なものだが、博士がその場に音を遮る結界を張ってくれたので、私たちの声は周囲に聞こえないだろう。

「この合宿のために、ついこの間、この辺りの地形をアタタガ・フライと一緒にかなり詳細に調べたと言っていたな」

「はい。徒歩での移動ですから、かなり詳しく知っておく必要があったので、きっちり脳内地図を作りましたよ。けもの道までバッチリです」

「うむ。ならばおそらくお前の脳内地図は最も現状に近い周辺状況を反映しているはずじゃ。こちらにも《索敵》ができる者はいるが、おそらくお前以上の術者はおらんだろう。それに地図も例年同じ場所なので何年も前のものを流用しているようだしの。だが、お前の《索敵》と地図があれば、ここからでも、あのバカどもや魔獣の場所がつかめるのではないか?」

今回の狩場およそ50キロ四方全域プラス外周分にまで及ぶ広域魔法とは、博士もとんだ無茶振りだが、実際のところできなくはない。採集と旅と農業で鍛え上げた私の《完全脳内地図把握パーフェクト・ナビゲーション》と無尽蔵の魔法力があれば、広域になってもある程度は状況が見えるはずだ。

「これだけ広範囲だと、精度は下がりますが、かなりの人数とそれを上回る魔獣の集団なら、おそらく位置ぐらいは絞れると思います」

私は脳内地図に意識を集中し、広域の《索敵》を開始した。とにかく高速で移動している集団と魔獣の群れそれに今回の狩場の外周ギリギリの場所、という情報を頼りに地図上を探っていった。

(これだ!)

私は手製の地図を広げ指差した。

「ここです。北西の山中、魔獣たちのいるのは狩場の外周よりかなり外です。ここまで踏み込む気だとしたら、危なすぎますよ。彼らが昨日見たという魔獣の群れに関する情報は、本隊じゃありません。見張り役です。後ろにその10倍はいますよ!」

残念ながら、さすがにこの位置からでは魔獣の種類までは特定できないが、どんな魔獣でも攻撃を仕掛けてしまえば、確実に集団すべてが敵として襲いかかってくる。集団で移動する魔獣は、獲物を襲うのも統率された集団で行うため、その連携はチームの学生たちより優れているのだ。しかも圧倒的に少ない20人にも満たないだろう3グループだけでは、多少魔法が使えたところでまったく歯が立つわけもない。

そして、最悪なことに彼らはこの事実を知らぬまま、不用意に全速力で近づきつつある。

「なんとか彼らが攻撃に入る前に止めないと!」

私は走ってみんなの元に戻ってこう告げた。

「ごめん、みんな! どうやらものすごく危険な場所へ入り込んじゃった人たちがいるみたいなの。それで一番最近この場所を調査してしかも《索敵》が使える私がいないと、彼らを早く見つけられないの。なるべく早く戻るから、私抜きで今日の狩り始めてくれる?」

私の言葉に、みんな頷いてくれた。

「わかった。大丈夫、私たちにはマリスさんの作ってくれたこの詳細な地図があるし、昨日の狩場を重点的に探すから。昨日頑張ったおかげで貯金もあるし、なんとかなるって! でも、気をつけてね。グッケンス博士と一緒なら大丈夫だろうけど、マリスさんは攻撃力がないから、ちょっと心配」

トルルは、戦えない設定の私の身をすごく案じてくれた。なんだか申し訳ない。

「私とオーライリで、このグループはまとめます。こんな暴走をした短慮で愚かな彼らですが、私には大事な学友です。どうぞ助けてあげてください」

きっと親しい人もそのグループにいるのだろうクローナは真剣な表情で、私に頭を下げてくれた。

「うん。ありがとう。無事に助けられるよう、頑張ってくるね! みんなも気をつけて、じゃ!」

私と博士は、緊急で呼び出したアタタガ・フライに乗り、彼らの後を追うため全速力で走った。

私がみんなに了解を取っている間に、グッケンス博士は私が先ほど示した地図を大会本部の人たちに見せ、現在の状況を伝え、時間が惜しいから先行して追いかける旨を話してくれていた。

「状況が大きく動けば、その都度《伝令》で伝えるが、これだけの数の魔獣に襲われれば子供たちの命はない。わしは弟子を連れて先に行く」

そう宣言してくれたので、弟子の私も動きやすい。博士と全速力で消えても不思議には思われなくて済んだようだ。

魔法学校側も、グッケンス博士から思った以上の数の魔獣がいることを伝えられて、騒然となっていた。緊急の討伐隊を編成し、すぐに後を追うとのことだったが、それで間に合うとは到底思えなかった。

私はアタタガ・フライの移動箱の中にも《無限回廊の扉》をつなぎ、これからのための準備をした。どういう状況になっているにせよ、子供たちの無事だけは確保したい。

(できるだけの準備だけはしていこう。着けば修羅場だ。もう考える時間はない)
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。