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3 魔法学校の聖人候補
453 新年会
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453
「明けましておめでとうございます。乾杯!」
無事に二学期を終えた私は、年も開けたことだし、と今日はイスのマリス邸で新年会をしている。残念ながら、私は今年もジュースで乾杯だ。
こうして新年の挨拶をしている私がちびちびジュースをすすっているというのに、博士とセイリュウ、そしてサイデムおじさま、それにセーヤとソーヤも、私が異世界から取り寄せた和洋の銘酒を、じゃんじゃか飲み始めている。
(ああ、菊姫の特別吟醸 加陽菊酒、しっかり寝かせたシーバス……ウラヤマシイ……)
まだまだ十代も前半の私がお酒を飲める日は遠い。目の前にはたくさんの美酒が並んでいるのに、悲しすぎる。
でも、みんなが楽しんでくれているので、今はそれで良しとしよう。私は気持ちを切り替えて、新年会のために用意した料理を仕上げていく。
なんとなく正月気分を出すために、なますも作ったし、豆を煮たり、かまぼこを作ってみたり、栗きんとん風のものも作ってみた。こんな日本風のおせちが喜ばれるとは思わなかったが、なんとなくこれがないと新年ぽさが足りない気がして、できる限り再現してしまった。どれも日持ちがするから残ったら私がチビチビ食べていこう、と考えていたが、それは杞憂に終わった。
この人たちにとっては、甘かろうが辛かろうが、酒のつまみに変わりはないらしい。特にかまぼこと栗きんとんはものすごい勢いで減っている。
次はマホロの魚市場で厳選してきた刺身盛り合わせを大皿で。今回はカワハギっぽい魚を発見したので、肝醤油も添えてみた。酒飲みなら、嫌いとは言わせない。
「メイロードさま、お刺身どれも最高です。ブリブリのプリプリのコリコリのトロントロンで、もう最高です!! 日本酒が足りません。もう一本出してきますね」
もう酔っているのか、やけに擬音の多い褒め方をした後、ソーヤは素早く《無限回廊の扉》に向かい、ストックしてある日本酒を数本抱えてきた。
(一本じゃないじゃん!)
心の中で突っ込みつつ、今日は無礼講でいこうと注意はしなかった。
(ま、ソーヤはいつでも無礼講か)
肉用の包丁に持ち替えた私は、今度は今日のメイン料理のために肉を切り分けていく。
「これが〝アイスベア〟の肉でございますか」
私の背後で手伝いをしつつ〝髪見酒〟を楽しんでいたセーヤが面白そうに肉を見ている。
「うん。冒険者ギルドの買い取り担当の方に聞いてみたらアイスベアは普通の熊より癖がなくて美味しいんだって。特にこの時期は脂が乗っていて最高だって言うから、お肉を一部買い取らせてもらったの」
というわけで、本日は貴重なアイスベアの肉を使ったすき焼き。
「俺もアイスベア食うのは初めてだわ。うめぇ、うまいな、これ!!」
だいぶ出来上がってきているサイデムおじさま、ものすごく美味しそうに綺麗な赤身のお肉をどんどん食べていく。
負けじと手を出すソーヤ。
「この甘辛味がサックサクの歯ごたえのいいアイスベアの肉に染み渡って、噛むと程よい脂身とともに喉を滑っていきます。そのままでも、また生卵と合わせても美味しいです。そして、そんなアイスベアの味が染み込んだこの焼きドーフや野菜の美味しさ! たまりません、たまりませんよぉ!!」
なんだかこうなる気がしていたので、グッケンス博士とセイリュウの前にも小鍋仕立てのアイスベアのすき焼きを置く。
「あちらの大食らいたちは戦争状態ですから、どうぞこちらで落ち着いて召し上がってください」
私の言葉に大笑いのふたりも、アイスベアのすき焼きをかなり気に入ってくれた。
「メイロード、研究の方は順調に進んでおるか?」
グッケンス博士が、私の《白魔法》研究について聞いてきた。
「そうですね。治癒の《白魔法》と《魔法薬》の関係性はおぼろげながら見えてきました。博士の得意とされる魔法を作り出す技術、それにイスのトルッカ・ゼンモンさんのような優秀な薬師の生み出す《魔法薬》、そして超古代の最初の《魔法薬》……すべては繋がっている気がします」
〝男山生酛 純米〟の熱燗に切り替えたグッケンス博士は、ゆるゆると盃を口に運びながらうなづいている。
「そうだな……そうなのかもしれん。
わしの新しい魔法を作ることを得意としているが、実はこの技術は目新しいものではない。これまでに解明されたこと、そしてこれまでに作られてきた魔法があってこその新しい魔法なのじゃ。《魔法薬》もしかり。複雑に見えても、そこには積み重ねられた知識が息づいている。その関連の糸、きっとお前ならば解きほぐせよう」
「メイロードに与えられた加護やこれまでの経緯がなければ、癒しの《白魔法》にたどり着くことはなかったかもね。メイロード、これは君にしかできない研究だよ。あとは、君のひらめき次第さ」
セイリュウも〝ボウモア〟の入ったグラスを傾けながら優しい目でそう言ってくれた。
「早くいい報告ができるよう、研究を続けますね」
私はふたりと乾杯しながら、相変わらずすき焼きの大食いバトル中のおじさまとソーヤを見ながら、のんびりしたお正月を楽しんだ。
ちなみに、締めは手打ちうどんでした。
「明けましておめでとうございます。乾杯!」
無事に二学期を終えた私は、年も開けたことだし、と今日はイスのマリス邸で新年会をしている。残念ながら、私は今年もジュースで乾杯だ。
こうして新年の挨拶をしている私がちびちびジュースをすすっているというのに、博士とセイリュウ、そしてサイデムおじさま、それにセーヤとソーヤも、私が異世界から取り寄せた和洋の銘酒を、じゃんじゃか飲み始めている。
(ああ、菊姫の特別吟醸 加陽菊酒、しっかり寝かせたシーバス……ウラヤマシイ……)
まだまだ十代も前半の私がお酒を飲める日は遠い。目の前にはたくさんの美酒が並んでいるのに、悲しすぎる。
でも、みんなが楽しんでくれているので、今はそれで良しとしよう。私は気持ちを切り替えて、新年会のために用意した料理を仕上げていく。
なんとなく正月気分を出すために、なますも作ったし、豆を煮たり、かまぼこを作ってみたり、栗きんとん風のものも作ってみた。こんな日本風のおせちが喜ばれるとは思わなかったが、なんとなくこれがないと新年ぽさが足りない気がして、できる限り再現してしまった。どれも日持ちがするから残ったら私がチビチビ食べていこう、と考えていたが、それは杞憂に終わった。
この人たちにとっては、甘かろうが辛かろうが、酒のつまみに変わりはないらしい。特にかまぼこと栗きんとんはものすごい勢いで減っている。
次はマホロの魚市場で厳選してきた刺身盛り合わせを大皿で。今回はカワハギっぽい魚を発見したので、肝醤油も添えてみた。酒飲みなら、嫌いとは言わせない。
「メイロードさま、お刺身どれも最高です。ブリブリのプリプリのコリコリのトロントロンで、もう最高です!! 日本酒が足りません。もう一本出してきますね」
もう酔っているのか、やけに擬音の多い褒め方をした後、ソーヤは素早く《無限回廊の扉》に向かい、ストックしてある日本酒を数本抱えてきた。
(一本じゃないじゃん!)
心の中で突っ込みつつ、今日は無礼講でいこうと注意はしなかった。
(ま、ソーヤはいつでも無礼講か)
肉用の包丁に持ち替えた私は、今度は今日のメイン料理のために肉を切り分けていく。
「これが〝アイスベア〟の肉でございますか」
私の背後で手伝いをしつつ〝髪見酒〟を楽しんでいたセーヤが面白そうに肉を見ている。
「うん。冒険者ギルドの買い取り担当の方に聞いてみたらアイスベアは普通の熊より癖がなくて美味しいんだって。特にこの時期は脂が乗っていて最高だって言うから、お肉を一部買い取らせてもらったの」
というわけで、本日は貴重なアイスベアの肉を使ったすき焼き。
「俺もアイスベア食うのは初めてだわ。うめぇ、うまいな、これ!!」
だいぶ出来上がってきているサイデムおじさま、ものすごく美味しそうに綺麗な赤身のお肉をどんどん食べていく。
負けじと手を出すソーヤ。
「この甘辛味がサックサクの歯ごたえのいいアイスベアの肉に染み渡って、噛むと程よい脂身とともに喉を滑っていきます。そのままでも、また生卵と合わせても美味しいです。そして、そんなアイスベアの味が染み込んだこの焼きドーフや野菜の美味しさ! たまりません、たまりませんよぉ!!」
なんだかこうなる気がしていたので、グッケンス博士とセイリュウの前にも小鍋仕立てのアイスベアのすき焼きを置く。
「あちらの大食らいたちは戦争状態ですから、どうぞこちらで落ち着いて召し上がってください」
私の言葉に大笑いのふたりも、アイスベアのすき焼きをかなり気に入ってくれた。
「メイロード、研究の方は順調に進んでおるか?」
グッケンス博士が、私の《白魔法》研究について聞いてきた。
「そうですね。治癒の《白魔法》と《魔法薬》の関係性はおぼろげながら見えてきました。博士の得意とされる魔法を作り出す技術、それにイスのトルッカ・ゼンモンさんのような優秀な薬師の生み出す《魔法薬》、そして超古代の最初の《魔法薬》……すべては繋がっている気がします」
〝男山生酛 純米〟の熱燗に切り替えたグッケンス博士は、ゆるゆると盃を口に運びながらうなづいている。
「そうだな……そうなのかもしれん。
わしの新しい魔法を作ることを得意としているが、実はこの技術は目新しいものではない。これまでに解明されたこと、そしてこれまでに作られてきた魔法があってこその新しい魔法なのじゃ。《魔法薬》もしかり。複雑に見えても、そこには積み重ねられた知識が息づいている。その関連の糸、きっとお前ならば解きほぐせよう」
「メイロードに与えられた加護やこれまでの経緯がなければ、癒しの《白魔法》にたどり着くことはなかったかもね。メイロード、これは君にしかできない研究だよ。あとは、君のひらめき次第さ」
セイリュウも〝ボウモア〟の入ったグラスを傾けながら優しい目でそう言ってくれた。
「早くいい報告ができるよう、研究を続けますね」
私はふたりと乾杯しながら、相変わらずすき焼きの大食いバトル中のおじさまとソーヤを見ながら、のんびりしたお正月を楽しんだ。
ちなみに、締めは手打ちうどんでした。
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