利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

492 ドレープス にて

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492

「いや、こっちの赤いやつの方がいいんじゃないか?」
「いえいえ、サイデム様。メイロード様の御髪の美しさを引き立てるには、こちらの緑と白を合わせたものの方が……」

現在、私は着せ替え人形と化して、大量のドレスに囲まれ、佇んでいる。

私の前では、サイデムおじさまとセーヤが、私のドレスについてあーだこーだとお話中。

どうしてこうなっているかといえば、キャサリナを罠にかけるために開くパーティーに、隠れてばかりじゃなくちゃんと出席するようにおじさまに言われ、つい

「パーティー用のドレス……あったかなぁ?」

と、言ってしまったせいだ。

私が会場に行くのは最初だけで、後は《幻影魔法》でおじさまを追跡するつもりなので、そんな大げさなものはいらないとすぐにフォローしてはみたのだが、無視された。

おじさま、すぐに私を拉致してイスで最も高級なドレス工房へと引きずってきて、この状態だ。

本来ならば、この超高級ドレス工房〝ドレープス〟では、当然何日も前に(ことによったら何ヶ月も前に)予約しなければ採寸などしてもらえない。だが、常に多忙を極めるイスの首領ドンサガン・サイデムだけは特別扱いらしく〝今から行く〟という先触れだけで、店の前にはお迎えが待っていて、たくさんの見本のドレスに囲まれた豪華な個室へと、ずっと前から決まっていたかのようにすんなりと通された。

「お嬢様にお似合いになりそうなドレスを色々とご用意させていただきましたので、ごゆっくりお選び下さいませ」

高級店らしい落ち着いた対応の上品なお店の方に案内されて入ったその広い部屋には、大量のドレス用の見本を抱えたお姉様方が次から次へと現れ、豪華絢爛な生地や装飾品そしてドレスの見本を運び込んでくる。
素晴らしい調度品に囲まれて、ソファーでお茶を飲むおじさまは、店の方に、その運び込まれた美しい布地を次から次へと広げさせ、デザイン見本のドレスを立てかけさせていく。めぼしいものは、次々と私の肩へとかけられ、私はよろめきつつ着せ替えられていた。

「おじさま、お忙しいんでしょう?
早く決めましょうよ。これ、これでいいんじゃないですか?!」

私が、肩にかけられている深い赤色のベルベットのような肌触りの布を手にとってヒラヒラと見せると
「いや、それではいかにも子供っぽいぞ。当日は、お前も私と共にパーティーに行くのだから、もう少し上品で大人っぽい感じもだな……」

横では私の方を真剣な顔で見つめながら、セーヤが口を開く。
「もちろん、メイロードさまの高貴さを際立たせることが一番大切でございます。当日は、髪をお隠しにならずともよろしいのでございましょう? ならば、肩にかかるその緑の艶やかな御髪が美しく映えるお色がよろしゅうございます! こちら、こちらはいかがですか?!」

もう、ふたりはそれは楽しそうに私のドレス選びをしてくれている。
このパーティー、おじさまには危険が伴うかもしれないミッションもあるというのに、私のドレス選びが楽しくて仕方がないらしい。

「お前は何も欲しがらないから、こういう機会でもないと贈り物もできん。何着でもいいから、好きなだけ買って持っておけ」

私はまた新たな生地を肩から掛けられて、その重さに閉口しながら言い返す。

「私も一応成長期なんですからね。まだ、背も高くなる予定なんです!
ここでそんなにたくさんドレスを作っても、すぐに着られなくなっちゃいますよ」

「それでもいいじゃないか、急に必要になって困るよりも、持っていた方がいいさ」

そんなやりとりをしつつ、結局、とりあえず作って当日どれがいいか決めればいいとおじさまが強引に決定。ドレス工房の皆さんに呆れられるほど、大量のドレスを作ることになってしまった。

(10着は超えてたよね……もう、もったいない!!)

しかも面倒なことに今日は色合わせとデザイン決めをしただけで、また明日仮縫いに来なくてはいけない。特急仕上げの別料金も発生するらしいが、そんなことはおじさまには何でもない、いつものことらしい。

「素晴らしいおじさまをお持ちで、羨ましいですわ」

工房の方にはそう言われたけれど、私は答えに窮し、急に仕事を増やして申し訳ないとしか言えなかった。

(おじさま買い過ぎですって!)

私はここがイス一番の高級店ということで、ふと気になって、何気ない風を装いこう聞いてみた。

「そういえば〝リナ〟さんも、こちらでドレスを作られたそうですね」

これはブラフだったのだが、きっと彼女ならここへ来ているはずという予想は当たっていた。

「ええ、お知り合いの方でございましたか。お美しく魅力的な方でございますね。
とても面白い注文をされる方で、デザインに悩みました」

〝リナ〟の注文は、きっちり手首まで隠れるデザインで、手首には余裕を持たせその腕をまくっても美しく見えるデザインというものだった。

「なんでもお気に入りの腕輪があるそうで、それは特別な方以外には見せたくないのだそうですよ」

(それだ!)

おそらくその腕輪が《魅了》を増幅するためのアーティファクトなのだろう。

思わぬところでいい情報が聞けた。一応、おじさまにも感謝しておくことにしよう。
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