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3 魔法学校の聖人候補

522 謁見の始まり

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522

朝からご機嫌のセーヤに髪をフルセットされてから、私にしてかなり気合の入ったお貴族様風の衣装で家を出た。

今日のロームバルト王国での謁見は、シド帝国の正妃であられるリアーナ様の名代という立場でのものとなる。当然、出で立ちにも気を抜くわけにはいかない。それでなくともシドのすべてに突っ込みたくて仕方のないという、困った人しかいない場所、ある意味〝敵地〟へと乗り込むのだ。というわけで今日は朝からセーヤ・オンステージ。異世界グッズと魔石ドライヤーを駆使した入念なヘアケアとブラッシングの後は、一部を複雑な編み込みにした上後ろに流し、さらにセーヤ特製の美しい一点ものの髪飾りでしっかりと飾った。

「おおなんという輝き! このツヤ感の素晴らしさはどうでしょう! 丁寧に編み込みました髪の一本一本にまで行き渡るこの光沢! 流れる御髪のなんという美しいゆらめき……メイロードさまのこの麗しき御髪の素晴らしさをわからない者がいましたら、私が許しません! ああ、なんという見事な……」

家を出るまで、セーヤはこの調子で私の前後左右を激しく行き来しつつ、ちょいちょい髪を直しながら私の髪を鑑賞していた。もしセーヤがスマートフォンを持っていたら、メモリが尽きるまで連写しそうな勢いだった。

(相変わらずだなぁ、は……はは)

私はヘアメイクの最後の直しをされてからセーヤに見送られ、ソーヤと供に《無限回廊の扉》を抜け、ロームバルト王国の首都アンクルーデへと向かった。謁見はベラミ妃様の体調を考慮して、謁見室ではなくソファーや寝椅子が用意されたサロンで行われることに決まったと宿に連絡がきている。

(うん、マリリア様は上手くやってくれたようだ)

先触れの方に名前を紹介され、私がその部屋に入ると、現在のロームバルト王妃の取り巻きだと思われる多くの貴族の奥様やお嬢様方がいらっしゃった。そして、その奥にはベラミ妃様と王太子様、そして王妃様もご臨席されていた。ベラミ妃様そして王太子様は心からの笑顔を向けてくださっているが、王妃様を含め多くの方々の笑顔は、目の笑っていないものだった。

(これは手強そうね)

私は笑顔を崩さないよう細心の注意を払いながら、ベラミ妃様の前に進み出ると片膝をつき、正式な謁見の挨拶を型通り行った。周囲からは〝こんな子供に使者をさせるなんて、随分とシドは人材が不足しているようね〟とか〝ベラミ妃様は、随分軽んぜられているのではなくて?〟と言った声が聞こえてくる。

それをかき消すように、マリリア様が私へと声をかけてくれた。

「お忙しいというのに、メイロードさまにこのような名代を勤めさせてしまい申し訳ございません。いまやとも言われている大都市イス最年少の商人ギルド登録者であり大商人でもあられる貴方にお越しいただけるとは感謝の言葉もございません」

もちろん私はこれに応じて、少しの動揺も感じさせぬよう細心の注意を払いながら、ゆったりとした口調をキープしつつ笑顔で返事を返す。

「とんでもございません。いまの私がございますのは、ひとえにリアーナ皇后様そしてベラミ妃様のお引き立てを賜った故にございます。これまでお二方の審美眼とお優しさにどれだけ助けていただいたことでございましょう。本日はこの若輩者が、そのリアーナ皇后様から使者の勅命を賜り、恐れ多いことでございます。僭越ではございますが、私が今回の贈り物に関わった経緯がございまして、このめでたき御懐妊に華を添えさせていただきたく、まかり越しました次第です」

ここで、私の立場を明らかにして、皇后から依頼を受けてきた使者の私に半端なことをするんじゃないよ! と一応脅しをかけた。実際のところ、ベラミ妃様とはお目にかかったのも二、三度だし、そこまで親しいわけではないのだが、目をかけていただいていることは事実なので、ここはあえて親密な間柄であることを強調しておくことにした。

私の言葉にベラミ妃様も微笑んで頷いてくれたので、どうやら私が正式な使者であることは皆納得してくれたようだ。

子供のような使者の姿にだいぶ雰囲気は緩和したものの、まだまだ、〝シドに隙は見せられないわ!〟という緊張感がある様子に、私はまずは胃袋を掴みにいくことに決めた。

「シド帝国の工芸品は、前回の謁見にてご披露させていたきました。そこで今回はベラミ妃様もお好きなシド帝国の菓子をお持ちいたしました。ぜひ皆様もご賞味いただければ幸いにございます」

そこからはサロンでのティータイムのための準備を、マリリア様が事前に打ち合わせしておいてくれたベラミ妃様付きの侍従たちと共にテキパキと行った。

「今回ご用意致しましたお飲み物は、ベラミ妃様のご成婚を祝って作られました〝皇女の薔薇ープリンセス・ローズティー〟、そして新作でございます御子様のご誕生と健やかなご成長を祈願し調合いたしました〝王家の至宝〟でございます」

どちらもガラスのティーポットに入れられ、その美しく茶葉が舞う姿を見せつけながら、恭しく運んでいく。〝王家の至宝〟は、甘い物好きのロームバルトの方々に合わせて作ったもので、美しい色合いの柑橘の皮を使い、さらにいただく時には甘いジャムを入れるロシアン・ティー風のものだ。今回の柑橘はシド帝国の名産マルマッジを使用し、ジャムの甘味には首都アンクルーデの名産〝飴の木〟を使ってある。ふたつの国の平和で甘美な融合がテーマだ。

「まぁ……このガラス器は、確か王妃様もお持ちでございましたわね。あ、そう……シド帝国で作られたものでございましたの。このようなものが作れる職人が、シドにもおりますのね。ほほほ」

このガラスのティーセットは、王妃様にもすでに献上されており、非常に気に入って使っておられるもののため、さすがロームバルトの皆様も公には貶しにくいようだ。

(まぁ、わかっていて出してますけどね)
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