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4 聖人候補の領地経営
628 がんばれ土地神様!
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628
セイリュウは不気味な呪いを撒き散らす石と対峙していた。
「残念だろうが、お前の呪いは潰えた。この森は遠からず元の森へと戻るだろう……不浄の瘴気を撒き散らすのはここまでだ」
以前セイリュウに聞いたことがある。セイリュウには〝厭魅〟のような、禍々しいものの声が聞こえるのだそうだ。呪いを発するほとんどのものは、うめき声のような声ともいえないようなものだそうだが、〝厭魅〟レベルになると、もう少しはっきりとその恨みのたけを、ずっと言い続けているのだそうだ。
きっといまも、セイリュウはその声を聞いているに違いない。それにより、呪いがどうやって成長し〝厭魅〟となったのかも、推測することができるというが、決して気分のいいものではないと、悲しげに言っていた。
いまもセイリュウは〝厭魅〟を見下ろし、神の眷属の務めを果たすため、呪いの言葉を浴びながら、それに立ち向かっている。
普段はあまり見ることのない厳しい表情のセイリュウは、美しい海のような青色の髪をなびかせながら〝厭魅〟に向かってゆっくりと手をかざし、神への祈りのような呪文を静かに唱え始めた。セイリュウのかざした細く長い指の手のひらからは、見る間にたくさんの光の粒が現れ始め、セイリュウがくっと力を入れると、そこから青味を帯びた一条の光が放たれた。その光は、呪いもろとも封じ込めるように〝厭魅〟を包み込んでいく。
私にも超音波のようなキーンという音が聞こえてきた。これは〝厭魅〟の最後の抵抗の音なのだろう。だが、それもセイリュウから放たれる光が強まるごとに、弱まっていく。
それと同期するように、徐々に周囲の空気が澄んでいくのが感じ取れたのは、神様に力を頂いている私にも少しだけそれを感じる力があるからなのかもしれない。
(これは《聖魔法》なんだろうな。なんて綺麗な光……)
抵抗しようとする〝厭魅〟に、三十分以上光を浴びせ続け、ついに〝厭魅〟は屈した。
最後に、キンッという金属のような音を残し、あたりからおどろおどろしい気配がすべて消え失せた。
「終わったね……セイリュウ」
「そうだね、メイロード。助かったよ、ありがとう」
いつもの笑顔でそういうセイリュウは、やはりかなり消耗はしている様子で、少しふらふらとしながら地上へと降りた。
「また、いつものように解呪のために清浄な土地へ持っていくんでしょう? すぐにアタタガを呼んで小さくしてもらうね」
私がそう言うと、セイリュウは小さくうなずいた。
「ああ、アタタガに小さくしてもらうのはいいね。とても助かるよ。だけど、これはすぐには解呪しないつもりなんだ。少し調べたいことがあるからね。グッケンス博士の知恵も借りることになるかもしれない……」
〝厭魅〟の声を聞いたセイリュウは何か気になることがあるらしい。だが、疲労困憊のセイリュウにそんなことを聞いている場合ではないだろう。
危険すぎるので離れていてもらったアタタガを《念話》で呼び寄せ、完全に封じられた〝厭魅〟を小さくして、ゴルフボールぐらいにしてもらい、それをセイリュウは自分の持つ特殊な魔法がかけられているというマジックバッグへとしまった。
「さあ、帰ろうか。“守護妖精”たちがきっと心配しているよ」
セイリュウの言葉にうなずいた私は、跳ぶ元気もないセイリュウとともにアタタガ・フライの移動箱に乗り、セイたちの待つ聖地の湖へと戻っていった。
私たちが湖へ着くと、“守護妖精”たちの半分が、ひざを折って迎えてくれた。
「まだ、土地神様の浄化は続いているの?」
私の問いに、跪いたレンが真剣な表情と口調でうなずく。
「はい……土地神様は苦しそうなご様子ですが、おやめになるつもりはないとおっしゃり、いまも浄化を続けておられます。私たちの半数も、土地神様におつきしております」
それを聞いた私は、セイリュウを振り返ってこう聞いた。
「私がセイリュウに飲ませている“お神酒”は、土地神様にも有効かな?」
すると、セイリュウはにやりと笑って頷いた。
私はそこで《異世界召喚の陣》を展開。私の知る限りもっとも高価な最高級の大吟醸酒を一升瓶ごと取り寄せた。値段は補正込みで金貨2.5枚およそ二百五十万というふざけた値段だが、いまは容器を準備する時間すら惜しい。
私はそれをセイリュウに渡すと、もう一本それを《異性召喚の陣》から取り出し、すぐにアタタガに乗ってミゼルと私が《捕縛の森》でとらえた動物たちと土地神様のいる場所へと向かった。
〔土地神様、土地神様、少しだけお話していいですか? 土地神様のお力になれるかもしれません〕
〔おお、娘よ。あの方は、あれを封じられたか?〕
〔はい。あの〝厭魅〟は、セイリュウが完全に聖なる結界の中へと封じ込めました。もうこの森にあれは何もできません〕
〔そうか……そうか……〕
アタタガ・フライから走って降りて近づいた土地神様の放つ光は、ここを出る前に見たときよりずっと小さくなっている。やはり、かなり消耗している様子だ。
〔土地神様、どうぞこちらをお召し上がりください〕
私は一升瓶に入った異世界産の極上の日本酒を差し出す。
〔これは……酒か?〕
〔はい! セイリュウお墨付きの回復効果のあるお酒です。さあどうぞ〕
私が急いで一升瓶の蓋を開け、土地神様の前に持っていくと、少し香りを確かめた土地神様は素直に口を開けた。
〔そのまま口へと流し込んでくれればよい〕
〔わかりました〕
神様なのでどぼどぼと口に流し込んでもむせたりはしないらしい。私は一升瓶を傾け、透き通ったお酒を一気に土地神様の口へと注いでいった。
そしてお酒を注ぎ終わったその直後、土地神様の丸々したかわいらしい姿は、再び光に包まれ、最初に見た時以上の強い光に包まれていった。
〔おお、これは……娘よ、ありがとう、これでこの者たちを救える……〕
愛らしく光の中で微笑んだ土地神様は、小さく頷いてからゆっくりと動き始める。
〔はい、お願いします……土地神様!〕
私も微笑みながら、土地神様が再び元気に捕縛されている動物や魔物の解呪へ向かう姿を見送った。
セイリュウは不気味な呪いを撒き散らす石と対峙していた。
「残念だろうが、お前の呪いは潰えた。この森は遠からず元の森へと戻るだろう……不浄の瘴気を撒き散らすのはここまでだ」
以前セイリュウに聞いたことがある。セイリュウには〝厭魅〟のような、禍々しいものの声が聞こえるのだそうだ。呪いを発するほとんどのものは、うめき声のような声ともいえないようなものだそうだが、〝厭魅〟レベルになると、もう少しはっきりとその恨みのたけを、ずっと言い続けているのだそうだ。
きっといまも、セイリュウはその声を聞いているに違いない。それにより、呪いがどうやって成長し〝厭魅〟となったのかも、推測することができるというが、決して気分のいいものではないと、悲しげに言っていた。
いまもセイリュウは〝厭魅〟を見下ろし、神の眷属の務めを果たすため、呪いの言葉を浴びながら、それに立ち向かっている。
普段はあまり見ることのない厳しい表情のセイリュウは、美しい海のような青色の髪をなびかせながら〝厭魅〟に向かってゆっくりと手をかざし、神への祈りのような呪文を静かに唱え始めた。セイリュウのかざした細く長い指の手のひらからは、見る間にたくさんの光の粒が現れ始め、セイリュウがくっと力を入れると、そこから青味を帯びた一条の光が放たれた。その光は、呪いもろとも封じ込めるように〝厭魅〟を包み込んでいく。
私にも超音波のようなキーンという音が聞こえてきた。これは〝厭魅〟の最後の抵抗の音なのだろう。だが、それもセイリュウから放たれる光が強まるごとに、弱まっていく。
それと同期するように、徐々に周囲の空気が澄んでいくのが感じ取れたのは、神様に力を頂いている私にも少しだけそれを感じる力があるからなのかもしれない。
(これは《聖魔法》なんだろうな。なんて綺麗な光……)
抵抗しようとする〝厭魅〟に、三十分以上光を浴びせ続け、ついに〝厭魅〟は屈した。
最後に、キンッという金属のような音を残し、あたりからおどろおどろしい気配がすべて消え失せた。
「終わったね……セイリュウ」
「そうだね、メイロード。助かったよ、ありがとう」
いつもの笑顔でそういうセイリュウは、やはりかなり消耗はしている様子で、少しふらふらとしながら地上へと降りた。
「また、いつものように解呪のために清浄な土地へ持っていくんでしょう? すぐにアタタガを呼んで小さくしてもらうね」
私がそう言うと、セイリュウは小さくうなずいた。
「ああ、アタタガに小さくしてもらうのはいいね。とても助かるよ。だけど、これはすぐには解呪しないつもりなんだ。少し調べたいことがあるからね。グッケンス博士の知恵も借りることになるかもしれない……」
〝厭魅〟の声を聞いたセイリュウは何か気になることがあるらしい。だが、疲労困憊のセイリュウにそんなことを聞いている場合ではないだろう。
危険すぎるので離れていてもらったアタタガを《念話》で呼び寄せ、完全に封じられた〝厭魅〟を小さくして、ゴルフボールぐらいにしてもらい、それをセイリュウは自分の持つ特殊な魔法がかけられているというマジックバッグへとしまった。
「さあ、帰ろうか。“守護妖精”たちがきっと心配しているよ」
セイリュウの言葉にうなずいた私は、跳ぶ元気もないセイリュウとともにアタタガ・フライの移動箱に乗り、セイたちの待つ聖地の湖へと戻っていった。
私たちが湖へ着くと、“守護妖精”たちの半分が、ひざを折って迎えてくれた。
「まだ、土地神様の浄化は続いているの?」
私の問いに、跪いたレンが真剣な表情と口調でうなずく。
「はい……土地神様は苦しそうなご様子ですが、おやめになるつもりはないとおっしゃり、いまも浄化を続けておられます。私たちの半数も、土地神様におつきしております」
それを聞いた私は、セイリュウを振り返ってこう聞いた。
「私がセイリュウに飲ませている“お神酒”は、土地神様にも有効かな?」
すると、セイリュウはにやりと笑って頷いた。
私はそこで《異世界召喚の陣》を展開。私の知る限りもっとも高価な最高級の大吟醸酒を一升瓶ごと取り寄せた。値段は補正込みで金貨2.5枚およそ二百五十万というふざけた値段だが、いまは容器を準備する時間すら惜しい。
私はそれをセイリュウに渡すと、もう一本それを《異性召喚の陣》から取り出し、すぐにアタタガに乗ってミゼルと私が《捕縛の森》でとらえた動物たちと土地神様のいる場所へと向かった。
〔土地神様、土地神様、少しだけお話していいですか? 土地神様のお力になれるかもしれません〕
〔おお、娘よ。あの方は、あれを封じられたか?〕
〔はい。あの〝厭魅〟は、セイリュウが完全に聖なる結界の中へと封じ込めました。もうこの森にあれは何もできません〕
〔そうか……そうか……〕
アタタガ・フライから走って降りて近づいた土地神様の放つ光は、ここを出る前に見たときよりずっと小さくなっている。やはり、かなり消耗している様子だ。
〔土地神様、どうぞこちらをお召し上がりください〕
私は一升瓶に入った異世界産の極上の日本酒を差し出す。
〔これは……酒か?〕
〔はい! セイリュウお墨付きの回復効果のあるお酒です。さあどうぞ〕
私が急いで一升瓶の蓋を開け、土地神様の前に持っていくと、少し香りを確かめた土地神様は素直に口を開けた。
〔そのまま口へと流し込んでくれればよい〕
〔わかりました〕
神様なのでどぼどぼと口に流し込んでもむせたりはしないらしい。私は一升瓶を傾け、透き通ったお酒を一気に土地神様の口へと注いでいった。
そしてお酒を注ぎ終わったその直後、土地神様の丸々したかわいらしい姿は、再び光に包まれ、最初に見た時以上の強い光に包まれていった。
〔おお、これは……娘よ、ありがとう、これでこの者たちを救える……〕
愛らしく光の中で微笑んだ土地神様は、小さく頷いてからゆっくりと動き始める。
〔はい、お願いします……土地神様!〕
私も微笑みながら、土地神様が再び元気に捕縛されている動物や魔物の解呪へ向かう姿を見送った。
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