利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

627 氷の箱

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627

〔ワタクシにお任せください、メイロードさま〕

この場面で頼りになるのは、竪琴の達人こと私の“武装魔具”ミゼルだ。

私はまず妖精たちに後方へ下がるように指示した。そして、彼らが引いたことを確認したところで、行動を起こす。

「《捕縛の森》」

私はそう言いながら、上空に向けて美しい弓を引き魔法の矢を放つ。

上空に放たれた魔法の矢から出現した無数の細い光は、そのまま雨のように地面へと吸い込まれ、地面からは大量のツタが一気に伸びていく。ツタは動物たちが戸惑っている間に、スルスルとその身を捕らえ、麻痺の効果を与えながら、さらに縛り上げていった。

助けを呼ぼうとする声すら出せないうちに、あたりは静けさに包まれ、数分後には、数千、もしかしたら万以上の動けない動物たちが森の中で彫像のように立ち尽くしていた。

「これは……」

レンはあまりの出来事に、あっけにとられているが、私にはすでに見慣れた光景だ。

〔ありがとう、ミゼル……助かったわ〕
〔なんのこれしき。お役に立ててなによりでございました。でも、呼んでいただくならば竪琴として呼んでいただく方がうれしいですね〕
〔私もなるべくそうしたいと思っているわ、ミゼル〕

そんな《念話》を交す私とミゼルの前には、先ほどまで轟音を上げながら動物や魔物が突進してきていた森の中の少し開けた場所。いまは動けなくなった動物や魔物の姿が、あたり一面に広がっている。

私は作戦の成功をレンに告げ、〝守護妖精〟たちをねぎらった。

「みんな、よくやってくれました。うまくいったね。でも、これはそう長くは持たない術なの。いずれ“厭魅エンミ”を封じた後に、解放しようと思うけれど、彼らを解放したら、またしばらくは……」

地上に降り、まだ呪いに染まった血走った眼をしたまま、ツタにとらわれている彼らを見ていた私に、少し空に浮いた状態で近づいてきた、土地神様が話しかけてきた。

〔それは、わしがなんとかしてみせよう。すぐには無理でも、なに数時間あれば、ある程度は正気に戻せる。呪いの浄化は任せなさい!〕

相変わらずまるまっちくてかわいいのに、なんだかその姿がいまは頼もしい。

「よろしくお願いします! ありがとうございます! 土地神様!」

土地神様は、その丸い躰から強い光を放ち始めた。この光に呪いを浄化する力があるのだろう。そのまま、ふわふわと浮きながらそのまぶしい光を動物たちに浴びせていく。すると、徐々に動物たちの目から血走った色が消えてゆくのがわかった。

〔すごい! すごいです! 土地神様!〕

うれしくなった私がそう《念話》で告げると、相変わらずプカプカ浮いている、土地神様に怒られた。

〔そんなことを言っている間はないぞ。娘! そなたはあの方を助けに行かんか! “厭魅エンミ”の周りには、まだ厄介な魔物たちが残っているのだろう〕

〔あ、はい! そうでした! 行ってきます!!〕

私はすぐアタタガ・フライとともに、“厭魅エンミ”へと再び近づいて行った。

土地神様の言ったことは、まさにその通りで、セイリュウは複数の大型の魔物に攻撃されながら、“厭魅エンミ”と向き合っている。

「セイリュウ! 遅くなってごめん! 魔物のことは任せて!」

私はそう言うと《土障壁アース・ウオール》を5メートルの高さまで一気に建て、魔物たちとセイリュウの間を分断した。

〔助かった! じゃ僕は“厭魅エンミ”のやつを封じることに専念するよ〕

壁の向こうから念話が届く。その間も、魔物たちは狂ったように壁に攻撃をして破壊しようとしているが、その間にさらに壁を作って、そう簡単には壊せないように補強した。

それで、ほっとしたのもつかの間、どうやっても破壊できない壁に業を煮やした魔物たちは、まずは私を攻撃するよう方針を変えてきた。

〔この魔物たちはあまりに“厭魅エンミ”の瘴気を浴び過ぎた。もう元には戻れない。残念だけど、土に返してやってほしい〕

悲しそうにセイリュウの《念話》が届く。先ほどの戦いで、セイリュウがそう感じたのなら、もう彼らは戻れないのだろう。

〔わかったよ、セイリュウ。彼らには眠ってもらう〕

私は正気を失い、暴れ狂う彼らを哀れに思っていた。おそらくセイリュウもそうだろう。

「《氷箱アイス・ボックス》」

私はそう言うと、まず《地形把握》と《索敵》を使い、“厭魅エンミ”の周囲に残っていた《狂化》した魔物たちの位置を把握し、それぞれの魔物が収まるサイズの箱の大きさを指定した。そしてその中に一気に水と冷気を魔法で流しいれる。

魔物たちは、何が起こったのか知ることもなく一瞬で、皆氷の柱の中に封じ込められた。巨大なミスリルクローベアもキングバイソンも三つ目トロールも、氷の中で立ち尽くし動く隙もなかっただろう。

やがて、命の絶えた彼らの目からは、輝きとともに《狂化》の影も消えていった。

(後はセイリュウ、お願いね!)




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