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4 聖人候補の領地経営

664 場所決めと入植者選抜

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664

私は第八区にやってきた。とは言っても街に来たわけではなく、〝守護妖精〟たちが守っているあの聖地の湖の近くに設置した《無限回廊の扉》を抜け、あの〝厭魅エンミ〟との死闘が繰り広げられた広大な山脈の中へとやってきていた。

私が聖地に一歩足を踏み入れると、大量の花びらが空から降り注ぎ、ひっきりなしに美しく羽ばたきながら〝守護妖精〟たちが挨拶にやってきた。なんとも幻想的で美しい光景だが、いつまでもそうしてのんびり挨拶をしているわけにもいかない。

〔レン! 今日は少しお願いとお話があるの〕

私が《念話》を使い〝守護妖精〟たちのリーダーであるレンを呼び出すと、わらわらと寄ってきていた〝守護妖精〟たちがスッと左右に分かれ、そこにレンが現れた。

〔メイロードさま、よくお越しくださいました〕

レンもまたそれは嬉しそうな笑顔で私の近くへと足早にやってきて、膝をつき丁寧に挨拶を始めた。

〔素敵な歓迎をありがとう。みんなが元気そうで嬉しいわ〕

私はレンに案内され、花とツタでできた美しい東屋へと案内された。そこには植物でできたソファーと石を加工したらしいテーブルがあり、花の蜜を材料に作ったという甘い飲み物でもてなしてくれた。

〔複雑な花の香りがして、とてもおいしいわ。ありがとう〕

私の言葉にレンは、また嬉しそうに羽を揺らしている。

〔レン……実はこれからお話しすることはあなたたちにとっては、あまり嬉しいことではないかもしれないの。でも、この場所は私がしようとしていることにとても都合がいいのよ。まずは話を聞いてくれる?〕

頷くレンに、私はこれからしようとしていることを話した。

それは〝イワムシ草〟の畑をこの聖地から少し離れた山の中に作るというアイディアだ。ここは、高山で日光が強く当たる。これは〝イワムシ草〟の生育条件として絶対に欠かせないことだ。

さらに〝厭魅エンミ〟による浸食を受けたせいで、浄化こそ終わったものの、その影響下にあった広大な土地に生えていた木々はすべてたち枯れてしまい、だだっ広い何もない土地ができている。これは、大量の〝イワムシ草〟を栽培しようと目論んでいる私には、うってつけの場所といえた。

〔それに、ここならばいまや高値で取引されている〝イワムシ草〟を狙う人たちも、簡単には来られないでしょう?〕

これから行う作業は、おそらく簡単には真似はされないとは思うが、特産品にすると決めた以上、その育成方法については外部にはあまり伝えたくはないし、商品である〝イワムシ草〟を盗まれたりもしたくない。

ここならば〝守護妖精〟さんたちに警備をお願いすることができるし、ここへアクセスしやすい近場にここでは働く人たちの村を作り、いくつか関所を挟んで出入りを制限すれば、そう簡単には近づくことはできなくなるはずだ。

〔みんなにはお願いすることばっかりで、申し訳ないんだけど、この場所で〝イワムシ草〟がたくさん採れたら、多くの人の助けになるの〕

私の言葉にレンは微笑んで答えてくれた。

〔メイロードさまのされることに、どうして私たちが協力を惜しみましょう。メイロードさまのお仕事、それを支える方々を守ることをどうしてイトいましょう! ご命じください、なんなりと……〕

東屋をいつの間にか取り囲んでいた〝守護妖精〟たちが、皆膝を折り私を見ている。

〔ありがとう……助かります〕

ちょっと感激してしまい、涙が出そうになってしまったが、気を取り直して私は持ってきていた地図を広げた。昨日の夜この計画のために急いで作った地図だ。

これからこの土地で新しい仕事についてもらうのは、農業経験のある土地からの入植者にする予定だ。八区はもちろん隣接した七区、九区からも入植希望者を募る。もちろん最初の収穫までの生活は保証するし、引っ越し費用も出すし、村作りに必要な資材も確保するつもりだ。

この入植希望者を募りたいという話を各地区の代表者たちにしたところ、彼らはとても歓迎してくれた。これらの地区にはどうしても農作物のできのよくない土地があり、そういったところの住む者たちは喜んでこの仕事を受けてくれるだろうとのことだ。私の出した条件も破格の待遇らしく、希望者が多すぎて困ることになるかもしれないと言われた。

実際その通りで、募集は五十家族、それに独身男女三十人、鍛冶や建築など村作りに有用な技能者優遇という募集に、合計三百世帯を超える応募があった。今回は場所や栽培の秘密を守れる人であることも重要な要素だったので、私はすぐに始められたすべての面接に《迷彩魔法》を使って隠れたまま立ち会った。

こういったことに〝ご領主さま〟が出張るというのはかなり変なことらしくて、農民たちが緊張するからと言われてしまったので、こっそり観察するしかなかった。

選定会議で、条件に合致している理想的に見える人物を排除したりする私の評価基準について、担当者は首を捻っていたが、私には《真贋》がある。どんなに取り繕っても、面接で嘘をついている人たちは、私にはバレバレなのだ。何もかも正直に話せとまでは思っていないが、さすがにブスブスと真っ黒い霧が立ち上っている人たちには入植して欲しくない。

(私の領地を支えることになる最初の特産品候補、失敗はしたくないし、厳しく選ばなきゃね)
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