利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

804 メイロードのお願い

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804

「何が欲しい?」

そう言われることは予想していた。

ルミナーレ様を動かしてまで今回私の訪問を切望された理由が、レジェーナ姫を呪いから解放したことへのお礼をしたいということならば、きっと私になんらかの褒賞を与えることが目的だろうと想像はつく。

(グッケンス博士はまったくそんなことには興味がないと皇族の皆さんは周知されてるんだよね。今回もあの呪いの塊になったまま封印されている〝虹彩鳥〟を研究のため引き取りたいということ以外には何もいらないと言っているそうだし、名誉なんぞウンザリ、富などもういらんって日頃から公言してるしなぁ……)

せめてあのとき同行していたグッケンス博士の愛弟子だけにでも手厚い褒賞を与えて、皇族の皆さんの感謝を確実に博士へ伝えたいのだろう。

「皇帝陛下からは、皇宮の宝物庫からなんでも好きなものを持っていってよろしいという許可もいただいておる。金銀財宝よりどりみどりだぞ。どうだメイロード、興味はないか?」

リアーナ様はそう言われたが、私は少し困った顔を作り、やんわりと辞退する。

「大変恐れ多いご厚情とは思し召しますが、ついこの間まで田舎者の庶民でございました私には皇家の至宝はあまりにも貴重に過ぎるのでございます。そのような眩しいばかりの品物を、私のような子供がいただきましても、どう取り扱えば良いのかわかりませんゆえ、誠に申し訳ございませんが頂戴しかねます」

私の言葉にリアーナ様が少し困った表情で眉を寄せる。

「うむ……そうか……そなたは宝飾品など興味はないか。自分の店であれほどの逸品を作っておるのだから、宝飾品に興味があるのではと思ったのだが、やはり自らを飾ることにはあまり興味がないのだな」

今日も小さな緑の宝石がついたイヤリングと〝パレス・フロレンシア〟の若者向けラインのシンプルなチェーンネックレスという最低限の装飾品しか身につけていない私を見ながらリアーナ様は、少し微笑まれた。

だがリアーナ様も、どうやら私のこういった反応は想定済みだったようで、

「皇子たちよ、お前たちの妹を助けることに尽力してくれたこのメイロードに相応しい褒美とはなんであろうな?」

という問いかけがなされ、皇族の皆さんからはさまざまな褒賞の候補が口にされた。

「皇家の所有する牧場には、管理の行き届いた素晴らしい馬がおります。その中から選び抜いた最高の駿馬はどうでしょう。見目麗しい馬ばかりだし、あれに馬車を引かせれば、いままでの倍の速度で移動できるはずです」
「魔法使いの弟子であるならば、皇宮所蔵の書物はどうだろうか? メイロードも貴重な書物には興味があろう。魔法の秘術に触れられるかもしれんぞ?」
「いっそパレスの近くにメイロードの領地を移動してはどうか。皇家の持つ土地を分けてやろう。このパレス周辺の土地は肥沃だ。領地の収入も増大するに違いなかろう。きっと領地の運営が楽になるぞ」

どれも過分すぎる提案で、魅力的なのだろうが、私の心には響かない。

移動なら〝無限回廊の扉〟とアタタガ・フライのコンボの方が圧倒的に速い。グッケンス博士の書物庫以上の蔵書がここの書物庫にあるはずもない(すでにその皇宮書物庫には博士が何度も入ってめぼしい本は全部写してきてるんだよね)。それは確かにパレス周辺に領地があることは貴族としてのステータスを上げるのかもしれないが、手塩にかけて育てている私の領地を移動するなんてことは論外だ。

(宝石も駿馬も地位も領地も欲しない私も、グッケンス博士に負けず劣らずめんどくさいヤツといえるかもしれないなぁ……)

あまり喜んだ表情にならない私のために、それでも考え続ける皆さんに、私はひとつだけお願いがあると話を持ち出した。

「実はひとつ困りごとがございまして……」

そこから私は考えてきたあるについて話し始めた。

「思いもかけぬ事情で領主の地位を賜ることとなりましたが、私はまだ若く、いろいろな経験が足りません。できるならば、若いうちに人生経験を積みたい、いろいろな場所へ出向きたい、そしていろいろなものを見てみたいと考えているのです」

「なるほど、まだ若いそなたが見聞を広めたいと考えるのはもっともであるな」

「ですが〝領主〟という地位にある私には、それは職務上難しいのが現実なのでございます……」

領主という仕事は貴族にだけ許された特別なものだ。シド帝国の法律により、基本的に領主の仕事を代行できるのは領主の一族の者だけと定められている。一か月程度であれば一時的な代行を信用のおける側近に任せることは可能だが、その場合にも領主のサインが必要となる重要な決済はできないので、領主の外出が長引けば領地の運営には必ず支障が出てしまう。

領地に関する決済のすべては領主一族のみに許可されるというこの国の制度上、領主は長く領地を離れられないのだ。少なくとも一族の誰かが、領主代行として領地に留まり決済を続けなければ、一年を待たずに領地の機能は完全に止まってしまう。

「マリス家は、我が父アーサーの意思を継ぎ、祖父であるいまは亡きシルベスター 公爵より賜った領地を治めるために興した私ひとりだけの新しい家です。当然、私以外にマリス伯爵家の人間はおりませんから、このままでは私は長期の旅には出られないのでございます」

「なるほどのぉ、新しくできた家ゆえの問題よの。確かにそれは困ったことだ」

リアーナ様は私の状況をすぐにわかってくれた。

「そこでなのですが、私が長く留守できるよう、領主の業務を請け負うだけの能力のある者を領内から選んだ上で任命し、その者に領地での決裁を含む全権を委ねても良い、というご許可を公式にいただきたいのでございます。さすればその者の署名が公式なものとして機能いたしますので、たとえ私がいなくとも、すべての仕事を通常と変わりなく進めることができますから」

「それは領主の権利の侵害に当たりはしないのか? 不正や権力を濫用される可能性も考えなくてはいかんな」

ダイン皇子が問題点を指摘する。

「領主代行の仕事には、もちろん私がしている仕事にもですが、独立した組織による複数の監査が入る仕組みをわが領地ではすでに採用しております。この独立した組織には、領主代行の地位にある者に対しても罷免を言い渡すことのできる権利を与えております。問題があれば即刻代行者から権利を剥奪し、次の代行者を決める行政上の仕組みもすでに整えてございます」

私がスラスラと答えると、ダイン皇子は少し目を見開き、ほうという顔をした。

「あいわかった。そなたの望み皇帝陛下に進言しよう。マリス領については親族以外であっても領主が認めた者に限り代理人による自治を認める、そう書面にて許可をいただけるよう取り計らおう」

正妃様はにっこりと笑って約束してくださった。

「わがままを申し上げましたこと、どうかお許しください」

「なんの、皇家の姫の命を救った者への褒賞ぞ。これしきの便宜が図れずにどうする」

「そうですね。親族が他におらず領主も若年で、そのマリス領限定ということであれば、おそらく問題にされることなく許可は下りるでしょう。何しろ彼女は皇帝の孫の命を救うという大きな仕事をなしているのだから。
それに、こう言っては気の毒な気もするが、マリス伯爵の領地は北東部の僻地だ。他領への影響も小さいだろうからね。すんなりといくだろう」

ダイン皇子が笑顔で許可を得られる可能性が高いことを教えてくれた。

リアーナ様はその場で、その許可を出すための書面の準備をするようそばに控えていた者に伝えてくれた。公式の書類とするためにはいくつかの部署を経由する必要があるだろうが、そう時間はかからないとのことだ。

「兄上、仮にも伯爵家の領地に対して、僻地は言い過ぎですよ!」
ユリシル皇子が兄をたしなめるが、いや、ダイン皇子の指摘はその通りだと思う。

(まぁ、そんな北の寒冷地でもできることはたくさんあるんだけどね)

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