利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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5森に住む聖人候補

818 お泊まり

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818

この突然の訪問者の名は、お父さんが〝アゲル〟息子さんは〝イーオ〟といった。名前も聞いたことだし、そこから私と同年輩の彼のことを〝イーオさん〟と呼んでみたところ、少年から呼び捨てにしてくれないと躰がかゆくてたまらないと訴えられたので、彼のことはイーオと呼ぶことにした。

処置も終わり、アゲルさんはいまのところ熱もやや高いぐらいで収まった状態で眠りについている。

〝ポーション〟を密かに混ぜた薬草茶を何度か飲んでもらっているので、おそらく今夜は食べずとも十分栄養補給できていると思うが、イーオはそういうわけにもいかないだろう。

今日一日長い逃走劇だったようだし、イーオもアゲルさんと同じく、もしくはそれ以上に疲労しているはずだ。

それにそろそろ日が暮れる時間になる。少年だけをここから村に帰らせるのはあまりにも危険だ。今夜の少年の衣食住もここで面倒をみた方がいいだろう。

この地に定住し始めてからも、実は私は一週間の半分ぐらいは夕食だけイスのマリス邸に戻り、しっかり料理も作り、博士やセイリュウたちと食べている。もちろんそのときにはおじさまようのお弁当の補給もしているし、博士たちのための作り置きの惣菜もたくさん用意しておくのだ。そうして、日々健康状態を観察していないと、無理が平気な大人たちの体調が心配でしょうがないのだ。

(グッケンス博士は多忙すぎるし、セイリュウはお酒の飲み過ぎだし、おじさまは働きすぎ……健康は日々の積み重ねなんだからね!)

この家にも《無限回廊の扉》の開け放たれた出入り口を作ってあるので、たまにはセイリュウや博士がふらっと様子を見にきて、そのままここでご飯を食べたりすることもあるところをみると、ふたりも私との食事を楽しみにしてくれているようだ。

そのためダイニングテーブルは大きく作ってあるので、お客さまが増えても問題ないし、今日はどちらも来ない予定なので、イーオを交えての夕食としよう。

「今夜は簡単なものにしちゃったけど、どうぞ遠慮なく食べてね」

お湯で躰を拭いてから用意した着替え(セーヤたちのものを流用)を身につけて、さっぱりした様子のイーオは食卓をみて驚いているようだ。

さすがに怪我の治療に時間を取られすぎたので、体力温存のため、今日の夕食は本当にありものばかりだった。

お漬物三種に大量に作り置きしてある二十品目サラダを盛り付けて鶏ハムの薄切りを飾ったもの。ドレッシングもシンプルに油と酢に塩胡椒を少し混ぜただけのフレンチドレッシングだ。それから自家製のオークベーコンを使ったベーコンエッグと作り置きのコーンスープ、ちなみにこのオークベーコンは大変評判がいいので《生産の陣》で大量に増やし、知り合いへの手土産にもよく使っている。

ハルリリさんがニンジンに匹敵する美味しさだと太鼓判を押してくれているところをみると、かなりいい出来だったようだ。ベーコンは塩漬けの燻製だから保存も効くし旨味も強い、調理も手軽ないい食材なのだ。あまり料理が得意でないハルリリさんには、焼きさえすれば必ず美味しいベーコンはとっても有難い食材みたいだ。

もちろんパンも私が焼いたものだが、出来立てを《無限回廊の扉》に保存しているので、まるでさっき焼き上がったかのような温かさが残っている。小さめの丸いパンでチーズを練り込んだものとプレーンなもの。あとは近所の川でソーヤが採ってきてくれた川魚の塩焼き。

「こんな豪勢な食事をいただいてしまっていいんでしょうか?」

テーブルに並んだ料理をみて、食卓についたイーオはかなり戸惑っている。

(しまった、これでもやりすぎだったか……うーん、いつもよりかなり質素にしたんだけどなぁ……加減が難しい)

「いいのよ、どんどん食べてね。今日はちょうど食べないと痛んでしまう食材が多かったので、多めになってしまったの。食べてくれた方がうれしいわ」

私の言葉にちょっとホッとした様子になったイーオは、やはり相当空腹だったようで、一口食べてからはソーヤに匹敵する速さで食事をし始めた。

「う、むぐっ、うまいっす! なんすか、この肉? オーク肉のベーコン? ああ、塩漬け肉ですか。いや、うまいです。このパンも食べたことがない味がします。チーズ? いや知らないっすけど、うまいですね。二十種類もいろんな野菜が入っているサラダなんて……木の実に乾燥した果物まで! しかもこの野菜にかかっている汁がなんとも甘酸っぱくてうまい。うちでは塩をかけるだけなんで、こんなの食べたことないですよ」

食事は遠慮を知らない大食漢ソーヤがいるおかげで、イーオも気兼ねなく食べられたようだ。

(ふむ、ソーヤの大食いにはそういう効果もあるのね)

大いに食べ空腹が満たされるとイーオの緊張もなくなったようで、食後のお茶を飲むころにはとてもリラックスした表情になっていた。そこからは食事をしながら、怪我に至るまでのことをいろいろと話を聞いてみた。

彼らが住むのは〝ルフト〟という小さな集落だ。

ここから一番近い人の住む場所なので、私もチェックしていた。私の〝脳内地図〟にもしっかりマークがついている。
住む人の数が百人ぐらいという本当に小さな集落だ。

アゲルさんを家長とする彼ら一家は、祖父母とアゲルさん夫妻そして四人の子供の八人家族だという。アゲルさんの奥さんは祖父母と共に農業を、アゲルさんは農業の傍ら狩猟と素材採集を副業としておこなっているという。

「まだまだじっちゃんたちは元気なんで、体力がいるけど畑より稼げる狩りや採取を俺もやりたいんです!」

今回はそんなイーオの初めての本格的な山歩きだったという。深い森の中へ分入っての数日にわたる仕事だった。

野営も含め二泊三日、初日からいい群生地を見つけられたため、採取の仕事も捗り、狩りは最終日である今日行うという予定になっていた。

「全部、俺のせいなんです……」

眠る父の姿に目をやりながら、イーオは語りはじめた。


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