利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
685 / 840
6 謎の事件と聖人候補

874 多すぎる贈り物

しおりを挟む
874

模擬戦から一週間後のこと。

魔法学校にあるグッケンス博士の研究棟のリビングは、溢れかえらんばかりの大量の贈り物で埋め尽くされていた。

皇宮から使者がやってくるという先触れがあり、それには私も同席するようにと書かれていたので、その日は私も魔法学校にきていた。博士は使者のことを伝えた段階から、ものすごく迷惑そうに眉を顰めていたが、ちゃんとリビングにいて興味なさげにコーヒーを啜っている。

到着した使者を迎えた私はソーヤにも手伝ってもらって、従者の方々と一緒に小一時間かけて品物を一番広い部屋に運び込んだ。
(皇宮から贈られたもので、しかも高価なものばかりだから、やたらと作業が丁寧で時間がかかるんだよね)

検品を終えたあとは使者の口上が始まる。その丁寧極まりない長い長い説明によると、この大量の品物は、日頃の帝国への貢献と先日の模擬戦に対するお礼の品だそうだ。座ったまま動く気のないグッケンス博士の代わりに私が受け取った分厚い目録によれば、どれも庶民なら売り払ってしまえば一生暮らしていけそうな高価な品々で、例によってギラついた金ピカな像だの燭台だの家具だのがどっさりだ。

グッケンス博士はまったく興味なさげに、それでも確かに受け取ったことを使者に伝えると、目録の読み上げも不要だと伝えて、さっさと型通りの下賜の儀式を終わらせた。

「受け取ったのじゃ。それで良かろう。もう帰りなさい」

グッケンス博士に睨まれた使者は、それでも丁寧に挨拶をしてから、逃げるように帰っていった。

(でも使者の様子はどうも博士の〝塩対応〟がわかっているみたいだったんだよね。博士はいつもこんな感じってことなのかな)

「さて、これこのままだと邪魔ですね。整理しましょうか。ソーヤ手伝ってくれる?」
「はい、メイロードさま。こちらの金色家具はとりあえず倉庫に移動しますね」
「うん、そうして……モノはいいんだろうけど、ここで使うにはあまりにも落ち着かない色合いなのよねぇ」

大物は力持ちのソーヤに任せて、私は机の上に山積みの小物の整理を始めた。

「なんだか、小物もずいぶん多いですね。ネックレスもいくつかあるし、指輪にイヤリングに……変なの?」

男性であるはグッケンス博士に与える褒賞にしては、やけに多い女性物の装飾品に私が不思議な顔をしていると、博士が教えてくれた。

「それはな、当然メイロード、お前さんへの褒賞のつもりで持ち込まれたものだぞ」
「ええ!! わ、私にですか!? この装飾寡多デコラティブな金ピカアクセサリーなんだかすごく高価そうだし、あんまり私の趣味には合わないし…‥正直いらない……」

私はそう言いながら品物を見ていき、ひとつだけとても素敵なネックレスを見つけた。

「ああ、これはなかなか品があって素敵かも、って……」

私がいいなと思ったのは〝パレス・フロレンシア〟謹製のネックレスだった。

「自分がプロデュースした商品を贈られてもなぁ……ははは」

(それだけ高価で有名な宝飾品としてパレスで認知されているということなんだろうけれど、贈り物の選定をした人は私のことよく知らずに選んでるのかな。まぁ、これだけの品物の数だし、そういうこともあるのかもね。私はいまではパレス・フロレンシアで表に出ることもないからなぁ。それにしても……)

「博士、どう考えても私には高価な品物過ぎて荷が重いので、この宝飾品全部お返ししたいんですが……」

私の言葉にグッケンス博士はコーヒーを啜ってから首を振りこう言った。

「それは寝覚めの悪いことになるから、やめておきなさい」
「え?」

そこでやっと私は、グッケンス博士が使者を追い返したりもせず、仰々しい説明も聞き、欲しくもない品物を受け取った理由を知った。

「皇命を受け、使者としてこれだけのものを用意する大きな仕事なのじゃ。仮にわしが受け取らずに終われば、使者の仕事は失敗となる。わしのキゲンを損ねるようなことをした、と評価されたその使者がどんな目にあうと思う? 降格、労役、最悪なら死罪かも知れぬな。それほど皇命というのは重い。それに使者ひとりの首では済むまいよ。任務失敗となれば、類はこの贈り物の剪定に関わった者たちにまで及ぶだろう」

「そんな……なんですか、それ! そんな無茶苦茶なことって……」

目を向いて驚く私にグッケンス博士は優しい顔で言う。

「皇帝家の名の下に行なわれたことで、その実行者が失敗をすることはこの世界ではそれほどに重いのよ。皇子もあの模擬戦をわしに受けさせたことで、わしが不愉快な気持ちでいることはわかっているのだ。それでも、これを受け取ることで〝特級魔術師マスターウィザード〟との関係は良好と、対外的にもわしにも認めてほしいのだろうな。まぁ、そんな理由もあってな。これを受け取らねば、さらに面倒ごとが増えるだけなのじゃ」

「博士の家に、どう考えても博士が買いそうにもない大量の品物があるのは、この贈り物のやり取りのせいだったんですね」
「あやつらとの付き合いも長いからの。それに、高価すぎる品は簡単には売りにくくての抱え込むしかないのよ」
「確かに宝物庫にあるような品が大量に流出したら噂になりますね」

うなずいたグッケンス博士は、興味なさげに宝の山を見渡し、ふとその中から一枚の絵に目をとめた。

「ソーヤ、これはわしの寝室に運んでおくれ」
「はい、かしこまりました!」

それは、古びたひとりの女性の肖像画だった。

「なにか聞きたそうだな、メイロード」
「教えていただけるのであれば、ですけど……」
「ふふ、なに大したことではない。では、その荷物の整理が終わったところで茶飲み話でもしようかの」
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。