利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

908 岩亀の贈り物

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なんとなく、番外編っぽいお話を書きたくなりました。
^ ^

908


山とみまごうような巨石の甲羅を持つ大きな亀と対峙しながら、セイリュウは穏やかな笑みを浮かべ、話していた。

「苦しげな様子がなくなって良かった」

「はい、ご心配をおかけいたしました。青龍様からいただいた霊水のおかげで、私の傷も
癒えてまいりましたので、この土地の守護もまたしていけそうです」

亀の年は計り難いが、四方をゴツゴツとした岩に囲まれた山の奥地を守護しているこの〝岩亀〟とセイリュウは随分長いつき合いだ。この〝岩亀〟は長く生きることで聖獣となったが、その力は主にその土地の自然環境の平穏を保つことに割かれていて、じっとその土地にいることが仕事となっている。

「大雨それに重なる嵐が続き、その上落雷まで受けてしまい、お前が弱ってしまったと聞いて驚いたよ。お前が弱ればこの土地もまた弱ってしまうからね」

渡り鳥から〝岩亀〟の苦しい状況を聞いたセイリュウは、数日前にその体力回復のために聖獣を癒やす高い効果のある霊水をこの地域に降らせ、〝岩亀〟を回復したのだ。

「今日は、ダメ押しにこれを持ってきたよ」

セイリュウは大きなカメを取り出して、そこに並々と透明な液体を注ぐ。

「これは、霊酒でございますか? 私が飲んでよろしいので?」

「うん、君のことを心配した子が持たせてくれたんだ。亀の名の酒だそうだよ」

そう言いながらセイリュウもしっかり盃を持っている。

ゆっくりと瓶に顔を近づけた〝岩亀〟がゴクリと酒を口にする。

「ふぉ、おお、おおお!!」

躰に酒が巡るのを確かめるように〝岩亀〟は何度も声を出す。

「これは、これはなんという美味しさ。そしてなんという清浄さ。すべての悪素がこの躰から消えていくようでございます」

「そうか、良かったよ。あの子もきっと喜ぶ」
セイリュウの表情はどこまでも優しい。

そうして〝岩亀〟が喜びに震えるたびに周囲の緑は深みを増し、山の空気の清浄さも増していく。

「ああ、気持ちのいい山が戻ってきたね」

セイリュウも盃を傾けながら満足そうだ。

「このような霊験あらたかなる神酒をいただいてしまっては、その方にお礼をせぬわけにはまいりません。どうしたらよろしいでしょう。この地で採れる金や宝石でよろしければ、いくらでもご用意いたしますが……そんなものではとてもこれのお礼には……」

「いや、気にせずとも良い。そうだね……どうしてもというなら、いま一番おいしいキノコや山菜をわけてくれるかな。それが一番だと思うよ」

「山菜とな⁈ ふぉ、ふぉ、ふぉ。なんと欲のない」

そう〝岩亀〟が笑うと、すぐにいろいろな小動物たちがどこからともなくたくさんのキノコや山菜を集めてきて、セイリュウの前に積み上げた。

「お土産をありがとう、また様子を見に来るよ。そのときも酒を持ってこよう」
「それはうれしいですな。気長にお待ちしておりますよ、青龍様」

そして山の恵みが大量にメイロードのキッチンに持ち込まれた。

「すごい量ね。いいものをもらってきてくれてありがと、セイリュウ!」

メイロードは張り切って機嫌良く選別。

「すごい! この香り……これって、もしかして」

キノコの中に大量の松茸を見つけて狂喜乱舞したのだった。

「すごいすごい! 今日は鍋と土瓶蒸しね。期待しててセイリュウ!」

いい食材に囲まれて、ソーヤとはしゃぐ満面の笑みのメイロードに、セイリュウは

(やっぱり宝石よりこっちだったね)

と苦笑するのだった。

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