719 / 840
6 謎の事件と聖人候補
908 岩亀の贈り物
しおりを挟む
なんとなく、番外編っぽいお話を書きたくなりました。
^ ^
908
山とみまごうような巨石の甲羅を持つ大きな亀と対峙しながら、セイリュウは穏やかな笑みを浮かべ、話していた。
「苦しげな様子がなくなって良かった」
「はい、ご心配をおかけいたしました。青龍様からいただいた霊水のおかげで、私の傷も
癒えてまいりましたので、この土地の守護もまたしていけそうです」
亀の年は計り難いが、四方をゴツゴツとした岩に囲まれた山の奥地を守護しているこの〝岩亀〟とセイリュウは随分長いつき合いだ。この〝岩亀〟は長く生きることで聖獣となったが、その力は主にその土地の自然環境の平穏を保つことに割かれていて、じっとその土地にいることが仕事となっている。
「大雨それに重なる嵐が続き、その上落雷まで受けてしまい、お前が弱ってしまったと聞いて驚いたよ。お前が弱ればこの土地もまた弱ってしまうからね」
渡り鳥から〝岩亀〟の苦しい状況を聞いたセイリュウは、数日前にその体力回復のために聖獣を癒やす高い効果のある霊水をこの地域に降らせ、〝岩亀〟を回復したのだ。
「今日は、ダメ押しにこれを持ってきたよ」
セイリュウは大きな瓶を取り出して、そこに並々と透明な液体を注ぐ。
「これは、霊酒でございますか? 私が飲んでよろしいので?」
「うん、君のことを心配した子が持たせてくれたんだ。亀の名の酒だそうだよ」
そう言いながらセイリュウもしっかり盃を持っている。
ゆっくりと瓶に顔を近づけた〝岩亀〟がゴクリと酒を口にする。
「ふぉ、おお、おおお!!」
躰に酒が巡るのを確かめるように〝岩亀〟は何度も声を出す。
「これは、これはなんという美味しさ。そしてなんという清浄さ。すべての悪素がこの躰から消えていくようでございます」
「そうか、良かったよ。あの子もきっと喜ぶ」
セイリュウの表情はどこまでも優しい。
そうして〝岩亀〟が喜びに震えるたびに周囲の緑は深みを増し、山の空気の清浄さも増していく。
「ああ、気持ちのいい山が戻ってきたね」
セイリュウも盃を傾けながら満足そうだ。
「このような霊験あらたかなる神酒をいただいてしまっては、その方にお礼をせぬわけにはまいりません。どうしたらよろしいでしょう。この地で採れる金や宝石でよろしければ、いくらでもご用意いたしますが……そんなものではとてもこれのお礼には……」
「いや、気にせずとも良い。そうだね……どうしてもというなら、いま一番おいしいキノコや山菜をわけてくれるかな。それが一番だと思うよ」
「山菜とな⁈ ふぉ、ふぉ、ふぉ。なんと欲のない」
そう〝岩亀〟が笑うと、すぐにいろいろな小動物たちがどこからともなくたくさんのキノコや山菜を集めてきて、セイリュウの前に積み上げた。
「お土産をありがとう、また様子を見に来るよ。そのときも酒を持ってこよう」
「それはうれしいですな。気長にお待ちしておりますよ、青龍様」
そして山の恵みが大量にメイロードのキッチンに持ち込まれた。
「すごい量ね。いいものをもらってきてくれてありがと、セイリュウ!」
メイロードは張り切って機嫌良く選別。
「すごい! この香り……これって、もしかして」
キノコの中に大量の松茸を見つけて狂喜乱舞したのだった。
「すごいすごい! 今日は鍋と土瓶蒸しね。期待しててセイリュウ!」
いい食材に囲まれて、ソーヤとはしゃぐ満面の笑みのメイロードに、セイリュウは
(やっぱり宝石よりこっちだったね)
と苦笑するのだった。
^ ^
908
山とみまごうような巨石の甲羅を持つ大きな亀と対峙しながら、セイリュウは穏やかな笑みを浮かべ、話していた。
「苦しげな様子がなくなって良かった」
「はい、ご心配をおかけいたしました。青龍様からいただいた霊水のおかげで、私の傷も
癒えてまいりましたので、この土地の守護もまたしていけそうです」
亀の年は計り難いが、四方をゴツゴツとした岩に囲まれた山の奥地を守護しているこの〝岩亀〟とセイリュウは随分長いつき合いだ。この〝岩亀〟は長く生きることで聖獣となったが、その力は主にその土地の自然環境の平穏を保つことに割かれていて、じっとその土地にいることが仕事となっている。
「大雨それに重なる嵐が続き、その上落雷まで受けてしまい、お前が弱ってしまったと聞いて驚いたよ。お前が弱ればこの土地もまた弱ってしまうからね」
渡り鳥から〝岩亀〟の苦しい状況を聞いたセイリュウは、数日前にその体力回復のために聖獣を癒やす高い効果のある霊水をこの地域に降らせ、〝岩亀〟を回復したのだ。
「今日は、ダメ押しにこれを持ってきたよ」
セイリュウは大きな瓶を取り出して、そこに並々と透明な液体を注ぐ。
「これは、霊酒でございますか? 私が飲んでよろしいので?」
「うん、君のことを心配した子が持たせてくれたんだ。亀の名の酒だそうだよ」
そう言いながらセイリュウもしっかり盃を持っている。
ゆっくりと瓶に顔を近づけた〝岩亀〟がゴクリと酒を口にする。
「ふぉ、おお、おおお!!」
躰に酒が巡るのを確かめるように〝岩亀〟は何度も声を出す。
「これは、これはなんという美味しさ。そしてなんという清浄さ。すべての悪素がこの躰から消えていくようでございます」
「そうか、良かったよ。あの子もきっと喜ぶ」
セイリュウの表情はどこまでも優しい。
そうして〝岩亀〟が喜びに震えるたびに周囲の緑は深みを増し、山の空気の清浄さも増していく。
「ああ、気持ちのいい山が戻ってきたね」
セイリュウも盃を傾けながら満足そうだ。
「このような霊験あらたかなる神酒をいただいてしまっては、その方にお礼をせぬわけにはまいりません。どうしたらよろしいでしょう。この地で採れる金や宝石でよろしければ、いくらでもご用意いたしますが……そんなものではとてもこれのお礼には……」
「いや、気にせずとも良い。そうだね……どうしてもというなら、いま一番おいしいキノコや山菜をわけてくれるかな。それが一番だと思うよ」
「山菜とな⁈ ふぉ、ふぉ、ふぉ。なんと欲のない」
そう〝岩亀〟が笑うと、すぐにいろいろな小動物たちがどこからともなくたくさんのキノコや山菜を集めてきて、セイリュウの前に積み上げた。
「お土産をありがとう、また様子を見に来るよ。そのときも酒を持ってこよう」
「それはうれしいですな。気長にお待ちしておりますよ、青龍様」
そして山の恵みが大量にメイロードのキッチンに持ち込まれた。
「すごい量ね。いいものをもらってきてくれてありがと、セイリュウ!」
メイロードは張り切って機嫌良く選別。
「すごい! この香り……これって、もしかして」
キノコの中に大量の松茸を見つけて狂喜乱舞したのだった。
「すごいすごい! 今日は鍋と土瓶蒸しね。期待しててセイリュウ!」
いい食材に囲まれて、ソーヤとはしゃぐ満面の笑みのメイロードに、セイリュウは
(やっぱり宝石よりこっちだったね)
と苦笑するのだった。
310
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
