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6 謎の事件と聖人候補
921 穴を開けよう
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921
「壁の中に……でございますか?」
「うん、どうみても目の前はただの壁だし、この層はここで終わりに見えるけど、私の《地形把握》と《索敵》は、この壁の奥に空間があって、そこに人がいるって教えてくれてるの」
「なるほど……先程の悲鳴もそこからでしたか。だとすると、状況はかなり悪い可能性が出てきましたね。彼らが閉じ込められてもう数日経過していますから……」
ソーヤは眉を寄せている。確かに冒険者調査団がここで閉じ込められた状態のままになっていて、しかも先ほどのような落石に何度もあっていたとすれば、状況はかなり切迫しているに違いない。
ユリシル皇子から私への連絡はかなり迅速だったけれど、緊急事態を告げる〝双子球〟が割れそのまま連絡が途絶えている。その状況を告げるユリシル皇子の口振りも生存確率は半々ぐらいの感じだった。〝双子球〟が割れたことが確認されたのは、彼らがこのダンジョンの入って三日目の朝だったというが、彼らがどの段階でここに閉じ込められたのか、正確なところはわからない。
(不測の事態で割れてしまったのか、危機を知らせるために自分たちで割ったのか……どうなんだろう)
どちらにしてもこの状況では、ここで私が引いたら彼らの生存確率は確実に下がる気がする。私がここから出て、皇子にこの生存者状況を告げ、そこから緊急捜索隊が入ったとしても、おそらく一日以上は経過してしまうだろう。しかも私の《索敵》は彼らの中に横になってまったく動かない人がいることも確認しているのだ。
(これは動けないほどの怪我をしているんだろうな。となると、猶予は……やっぱりないね)
「声が届けばいいけど、さっきの大きな悲鳴ですら微かにしか聞こえなかったからなぁ。この分厚い壁の向こうには、私の声は届かないよね」
「そうでございますね。かなり厳しいかと思います」
小さな声を聞き取る薬はあるけれど、こちらの声が届かないようなら意思疎通が難しいし、こちらに応えてくれているかも、壁越しのこのままでは確認しようがない。
壁の中にいる人たちの状況を確認したかったので《索敵》と《地形探索》で慎重に壁の向こう側の様子を再度確認した。そして、誰も壁近くにいない場所を右隅に見つけ出し、そこを目標と定めた。
「あまり大きな穴を開けたらどうなるかわからないし、とりあえず人がいないところに小さく穴を開けてみようか」
崩落の可能性も考えられるので、あまり大きな魔法で派手に壊すことは考えない。まずは、状況確認のための小さな穴を開けよう。
「ちょうど山ほど小石があるから《流風弾》を、人がいない場所に連続で打ち込むわ。危ないからソーヤも下がっていてね」
「承知しました。メイロードさまもお気をつけください」
「ありがと。じゃ、早速いくね」
そういうと私はすぐ《流風弾》の連射を開始した。
高速で回転する風に乗せて速力を増した小石を打ち出すこの魔法は、銃をイメージした私のオリジナル魔法だ。今回は、より早く壁を打ち砕くダメージを与えたいので、小石よりやや大きめの石を《的指定》を使って正確に一箇所に叩き込んでいく。
「これはまた……素晴らしいですね、メイロードさま!」
ものすごいスピードで発射し続けられる《流風弾》は、ガンガンと大きな音を立てながら、猛スピードでダンジョンを削っていく。その様子はさながら工事現場のようだ。決して大袈裟な魔法ではないけれど、攻撃目標を絞れば威力は大きい。
十発目ぐらいで穴ができ始め、五十発目になるともう深い穴、そして八十三発目でついに穴は貫通した。ものすごい厚さの壁だったが、壁は壁、攻撃し続ければなんとかなるものだ。
「ふぅ、さすがに百発はいらなかったわね」
「お疲れさまです。お見事でございます」
労ってくれるソーヤに頷いてから、私は自分の顔ぐらいの大きさに開いた穴の奥に向かって声をかけた。
「どなたかいらっしゃいますかー? 私はある方の依頼でこの新ダンジョンの調査にきたメイロード・マリスと申します」
すると間髪を入れずに穴の奥に髭を蓄えた、いかにも辣腕冒険者という風貌の男性が顔を出した。
「た、助けか!? ありがたい。こちらは、冒険者ギルド新ダンジョン調査隊だ。ここに閉じ込められている。総勢二十三名だが、一名が重症。十名が軽傷。体調不良は…‥ほぼ全員だ」
「了解です。では皆さんが出られる大きさの穴を作るので、危険ですからこの穴からなるべく距離を取ってください」
「わかった! すぐ動くので、少しだ時間をくれ」
「では、用意ができたら知らせてください」
短い会話を終えた私はソーヤの方を振り向いた。
「ソーヤお願い。この穴ぐらいの大きさの石を集めてくれる?」
「はい、すぐに!」
そういうとソーヤは駆け出し、ダンジョンの中から見つけ出した大量の石を抱えてすぐに戻ってきた。
「これで足りますでしょうか?」
「十分だわ。ありがとう」
そこへ穴の奥から準備ができたという知らせがあったので、私は人が通れる大きさに穴を拡張するため《流風弾》にさらに炎をまとわせ、しかも大きな石を弾丸にした《流風炎弾》を打ち込み始めた。
威力が凄すぎて一発で大量の小石や粉塵が舞うがそんなことは気にしていられない。派手な土煙は上がるが、これが周囲に影響が少ない穴あけ向きの魔法だと判断した。
(それ! つぎ、いっくよー!!)
「壁の中に……でございますか?」
「うん、どうみても目の前はただの壁だし、この層はここで終わりに見えるけど、私の《地形把握》と《索敵》は、この壁の奥に空間があって、そこに人がいるって教えてくれてるの」
「なるほど……先程の悲鳴もそこからでしたか。だとすると、状況はかなり悪い可能性が出てきましたね。彼らが閉じ込められてもう数日経過していますから……」
ソーヤは眉を寄せている。確かに冒険者調査団がここで閉じ込められた状態のままになっていて、しかも先ほどのような落石に何度もあっていたとすれば、状況はかなり切迫しているに違いない。
ユリシル皇子から私への連絡はかなり迅速だったけれど、緊急事態を告げる〝双子球〟が割れそのまま連絡が途絶えている。その状況を告げるユリシル皇子の口振りも生存確率は半々ぐらいの感じだった。〝双子球〟が割れたことが確認されたのは、彼らがこのダンジョンの入って三日目の朝だったというが、彼らがどの段階でここに閉じ込められたのか、正確なところはわからない。
(不測の事態で割れてしまったのか、危機を知らせるために自分たちで割ったのか……どうなんだろう)
どちらにしてもこの状況では、ここで私が引いたら彼らの生存確率は確実に下がる気がする。私がここから出て、皇子にこの生存者状況を告げ、そこから緊急捜索隊が入ったとしても、おそらく一日以上は経過してしまうだろう。しかも私の《索敵》は彼らの中に横になってまったく動かない人がいることも確認しているのだ。
(これは動けないほどの怪我をしているんだろうな。となると、猶予は……やっぱりないね)
「声が届けばいいけど、さっきの大きな悲鳴ですら微かにしか聞こえなかったからなぁ。この分厚い壁の向こうには、私の声は届かないよね」
「そうでございますね。かなり厳しいかと思います」
小さな声を聞き取る薬はあるけれど、こちらの声が届かないようなら意思疎通が難しいし、こちらに応えてくれているかも、壁越しのこのままでは確認しようがない。
壁の中にいる人たちの状況を確認したかったので《索敵》と《地形探索》で慎重に壁の向こう側の様子を再度確認した。そして、誰も壁近くにいない場所を右隅に見つけ出し、そこを目標と定めた。
「あまり大きな穴を開けたらどうなるかわからないし、とりあえず人がいないところに小さく穴を開けてみようか」
崩落の可能性も考えられるので、あまり大きな魔法で派手に壊すことは考えない。まずは、状況確認のための小さな穴を開けよう。
「ちょうど山ほど小石があるから《流風弾》を、人がいない場所に連続で打ち込むわ。危ないからソーヤも下がっていてね」
「承知しました。メイロードさまもお気をつけください」
「ありがと。じゃ、早速いくね」
そういうと私はすぐ《流風弾》の連射を開始した。
高速で回転する風に乗せて速力を増した小石を打ち出すこの魔法は、銃をイメージした私のオリジナル魔法だ。今回は、より早く壁を打ち砕くダメージを与えたいので、小石よりやや大きめの石を《的指定》を使って正確に一箇所に叩き込んでいく。
「これはまた……素晴らしいですね、メイロードさま!」
ものすごいスピードで発射し続けられる《流風弾》は、ガンガンと大きな音を立てながら、猛スピードでダンジョンを削っていく。その様子はさながら工事現場のようだ。決して大袈裟な魔法ではないけれど、攻撃目標を絞れば威力は大きい。
十発目ぐらいで穴ができ始め、五十発目になるともう深い穴、そして八十三発目でついに穴は貫通した。ものすごい厚さの壁だったが、壁は壁、攻撃し続ければなんとかなるものだ。
「ふぅ、さすがに百発はいらなかったわね」
「お疲れさまです。お見事でございます」
労ってくれるソーヤに頷いてから、私は自分の顔ぐらいの大きさに開いた穴の奥に向かって声をかけた。
「どなたかいらっしゃいますかー? 私はある方の依頼でこの新ダンジョンの調査にきたメイロード・マリスと申します」
すると間髪を入れずに穴の奥に髭を蓄えた、いかにも辣腕冒険者という風貌の男性が顔を出した。
「た、助けか!? ありがたい。こちらは、冒険者ギルド新ダンジョン調査隊だ。ここに閉じ込められている。総勢二十三名だが、一名が重症。十名が軽傷。体調不良は…‥ほぼ全員だ」
「了解です。では皆さんが出られる大きさの穴を作るので、危険ですからこの穴からなるべく距離を取ってください」
「わかった! すぐ動くので、少しだ時間をくれ」
「では、用意ができたら知らせてください」
短い会話を終えた私はソーヤの方を振り向いた。
「ソーヤお願い。この穴ぐらいの大きさの石を集めてくれる?」
「はい、すぐに!」
そういうとソーヤは駆け出し、ダンジョンの中から見つけ出した大量の石を抱えてすぐに戻ってきた。
「これで足りますでしょうか?」
「十分だわ。ありがとう」
そこへ穴の奥から準備ができたという知らせがあったので、私は人が通れる大きさに穴を拡張するため《流風弾》にさらに炎をまとわせ、しかも大きな石を弾丸にした《流風炎弾》を打ち込み始めた。
威力が凄すぎて一発で大量の小石や粉塵が舞うがそんなことは気にしていられない。派手な土煙は上がるが、これが周囲に影響が少ない穴あけ向きの魔法だと判断した。
(それ! つぎ、いっくよー!!)
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