利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

920 調査団の行方

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920

新しいダンジョンの上層階で内部の状態をという簡単なお仕事ではあるが、一応努力のあとは残しておくべきだろう。

(まぁ、これが簡単で安全だと言い切れるのは、私のこれまでの経験と訓練を積んだ魔法があるからだけどね)

まずは《鑑定》と《地形把握》そして脳内で地図を作り上げられる能力を使い、一階の様子を観察していく。この能力も以前よりずっと洗練されてきたので、空間の把握範囲もさらに広くなり、マッピング精度も高くなった。

「一階はほぼ円形でいくつかの石柱に支えられている感じかな。邪魔になるものが少ないし見晴らしがいいから地図作成はやりやすそう。ほぼ三キロ四方ってところかな。なかなか広いね」
「了解です。主な採取可能植物のサンプルは採っていきますね」
「ありがとうソーヤ、助かる」

(さっさと回るためにも、魔法で筋力強化もしておいたほうがよさそうね)

とはいえ端から端まで歩かずとも、マッピングは可能なので、律儀にすべて歩く必要はない。適当に歩きながらほぼ植生や魔物の状況を把握したところで調査は終わり、一時間とかからず下へと降りることができた。このダンジョンは隆起しているものの上部分には空間がなく、下へと続く形状らしい。

「一階で一番強そうな魔物はツノウサギだけだし、戦闘ができない近隣の村人でもここは入れそうね。植物採取だけの人に向いてそう」
「そうでございますね。近隣の方々のいい小遣い稼ぎになりそうです。それにツノウサギもなかなか美味しいですから、危険のないいい狩場ですね」
「美味しいんだ……ツノウサギ」
「はい。野趣のある味で、弾力があり良いものです」
「じゃ、そのうちジビエ料理で使ってみましょうか」
「それは!! 楽しみでございますね。なんなら、いま十匹ほど狩ってきましょうか!?」
「あ……それは次の機会にね」

私のジビエ料理発言に目が爛々と輝き始めてしまったソーヤを制しつつ、さっさと地下二階へと移動。

「第一陣の冒険者の皆さんも、確実にここは通ってそうね」

明るくするための魔法が足りなかったのか、ランプやたいまつを併用しているらしい彼らの残した木屑の燃え残り、そして足跡からおおよその移動の仕方も見えてくる。彼らは順調に二階へ辿り着き、ここではそこそこ戦いもあったようだ。

「魔法も使って応戦したみたいね。燃えた跡もあるし……」
「この階ではダンジョン以外ではあまりみられない魔物が出てきていますね。オオツメコウモリは好戦的なので、狙われると鬱陶しいですよ。それにゴブリンもいますね。大きな群れがあるようだと厄介な連中です。どうも、この階かなり広そうです」

「そのようね。この階の探索は大変だったでしょうね」

目の前をパタパタとオオツメコウモリが飛んでいるが、まったくオオツメコウモリやゴブリンの視野に入っていない我々は、もちろん一切戦ったりはせず、お互いスルーだ。
平和に粛々と植生と生き物のチェックが終わったらすぐに三階へと向かう。筋力強化のおかげでスピードも上がったので、この階も問題なく調査を終えた。

「ふぅ、二階はもう冒険者でないと厳しいエリアになってるわね。鉱物も出てきてるし、お金にはなりそうだけど……」
「そうでございますね。この階の情報をしっかり冒険者ギルドにお伝えすれば、きっと大丈夫ですよ」
「そうね、ギルドで考えてくれるわね」

そんなことを話しながら、三階へ向かう階段に足をかける。たくさんの足跡が残っているので、冒険者調査隊がここを通っているのは間違いないだろう。

「足跡の様子では、特に慌てている様子もなさそうだし、彼らも順調に調査を続けているみたい……とするとこれからよね。気を引きしめて行きましょう」
「承知いたしました」

そして私たちは今回の調査の最終地点と決めていた地下三階へと下っていく。

そのとき、突然大きな地響きが起こった。

「うわっ!」
「メイロードさま、大丈夫ですか?」
「平気よ。小石が降ってきたけど結界のおかげで防げたわ。ちょっとバランスを崩しただけ。それにしても、いまのは何かしら?」
「まだできたばかりのダンジョンでございますからね。まだ、内部がしっかりとしていないのかもしれません」
「確かに、その可能性はあるわよね……となると、第一陣の皆さんはそれに巻き込まれたのかな……」
「…‥ありえなくはないですね。地下に進むほど、振動の回数が増えているようですし……大きな落石があれば命も危ういでしょう」

確かにソーヤの言う通り、地下へ進むほどに振動の回数は増えている。地面にもゴロゴロとした大きな石が散見されるし、それに三階は地形も複雑になってきている。

「見通しが悪いからしっかり《地形把握》で確認しながら進みましょう。ここを調査し終われば、あとは冒険者の皆さんのお仕事よね」
「はい。この三階分の地図だけでも、素晴らしいお仕事ですよ」
「ありがとう、そう言ってもらえるとやる気が出るわ。できれば第一陣の皆さんの無事も確かめたかったんだけど……もっと下まで行っちゃったのかなぁ」

地図を作るために周囲を慎重にスキャンしていた私は、ある場所の地形に違和感を感じた。

「あれ?」

そのとき、また大きな振動が起こり、ダンジョン内に隆起が生じ始めた。

「うわ! このダンジョン、まだ出来上がってないんじゃないの? 危なすぎ!」

バランスを崩さないよう踏ん張っていると、遠くで悲鳴が聞こえた。

「きゃー!!!」

顔を見合わせた私とソーヤが急いで近づいてみたものの、くぐもった感じのその声の聞こえた場所には壁しか見当たらない。

「なんだろう?」

私は《索敵》のスキルで慎重に壁の周辺を調べる。そして、見つけてしまったのだ。

「ソーヤ、大変! 冒険者の皆さん、ここにいるの。ダンジョンの壁の中に完全に閉じ込められちゃってる!」


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