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6 謎の事件と聖人候補
923 戻ろう!
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923
ここまでの地図はもちろん調査団の方々も作っていたので、出口までの最短ルートはすでに把握できている。
(まぁ、私の《完全脳内地図》と比べるとかなり精度の低いラフスケッチみたいだけど、移動するのには十分なクオリティだね。これに情報をいろいろ書き加えてから清書してギルドに提出すると報酬がもらえるってことみたい)
私はラフ地図を書き留めておく必要はないのだが《完全脳内地図把握》というレアスキルは秘密にしているので、面倒だが手書きの地図も書いている。
「私の《索敵》で、敵の出没場所はかなり正確にわかりますから、できる限り戦闘は避けて進んでいきましょう。とにかく安全第一で!」
戦闘大好きの冒険者揃いとはいっても、何日も昼夜問わず湧いてくる魔物と戦い続けたあとのこの状況では、さすがに魔物に飛び込んでいくのは辛いのだろう。最速で戻るという私の方針に反対する様子はまったくない。
次に決める必要があるのは移動の際のフォーメーションだが、動ける冒険者集団を先に行かせると、敵の場所がわからず不用意に遭遇してしまう可能性が高い。それこそ時間の無駄なので、私と負傷者そしてその介添をしてくれる人たちが《防御結界》に入った状態で先頭に立ち、後ろの冒険者たちに安全なルートを示すことにした。
怪我人にはひとりずつ付き添い役を置き、動けない一名は担架に乗せた状態で運んでもらう。それぞれの介添人は魔法を使って筋力を増強、加えて病人たちには《重力低下》という躰が軽くなる魔法を使ったので、私の〝負傷者チーム〟も歩行速度はみなさんをイラつかせるほどは遅くはない……と思う。
出発直後のしかも最大の難所と思われた地下三階部分には、一箇所どうしても〝洞窟狼〟と遭遇してしまう場所があった。いざとなったら私がなんとかするしかないかと思っていたが、さすが優秀なパーティー、体力を取り戻した冒険者の方々はさして苦戦することなく撃退してくれた。
(気力と体力が常人並に回復していれば、問題ないぐらい強いんだね。これなら安心して任せておけそう)
あとはひたすら戦闘を避けつつ、なんとか無事二階へと戻ることができた。
「ああ、三階を抜けられた! これで一息つけますね」
「そうだな。二階には手こずるような危険生物はいなかったはずだ。だが、気は緩めるなよ」
「それにしても、あのお嬢さんの魔法はなんなんですかね。あんなすごい《索敵》は初めてみました。どこまで見えているんでしょう?」
「あの移動する《防御結界》もすごいぜ。あの広範囲で、しかも大きな石が降ってきてもびくともしない強度! あんなの見たことねぇよ」
「さすがはグッケンス博士のお弟子さまというところだな! うちのパーティーに入ってくれないかなぁ」
「無理無理! ありゃ魔術師の中でもとびきりだぜ! 〝国家魔術師〟なんじゃないのか?」
小休憩をとりながら談笑する冒険者の方々の様子には余裕がみえてきた。
(これなら、サクサクっと出口までいけそうね)
ソーヤからもらったお水を飲みながらそう思っていると、冒険者のひとりが慌てて私のところへやってきた。
「メイロードさま! お休みのところ申し訳ありません。もしよろしければ、我々の作ったこの二階の地図をご覧いただけますか?」
「?……はい、もちろんいいですよ」
そして見せてもらったニ階のダンジョンの地図は、驚くべきことに私が作ってきた地図とはかなり違うものだった。
「これは……私の地図とはだいぶ違いますね」
「三階を進んでいる段階から違和感があったのですが……やはり、そうでしたか」
そこへ、リーダーのキックスさんもやってきた。
「本当か! 俺たちの地図が使えないってのは」
「ええ、いま両方の地図を見比べてみましたが、みなさんが作られた地図のルートは塞がっている場所がだいぶありますね。もしかして、みなさんが閉じ込められている間に、何度か地震のようなものがあったのでしょうか?」
「はい、確か四回は地震のような揺れがありました……いやもっとあったのかもしれません」
「そのとき、みなさんの前に壁ができたように、他の場所にも変動があったのではないでしょうか」
私の言葉にキックスさんは頭を抱える。
「なんてこった! ああ、まいったな。それじゃ俺たちの苦労は何の役にも立たないじゃないか」
これだけ酷い目に遭いながら、ここまで彼らが作ってきた地図は、この瞬間価値がほとんどないものになってしまった。その徒労感は半端ないだろう。
「でも、そのことを突き止めたわけですから、無駄じゃないですよ。調査ってそのためでもあるんですよね」
「そう言っていただけると少し救われますが……はぁ」
あとで知ったことだが、彼らには作った地図の権利が与えられることになっていたそうだ。有名になりそうな新ダンジョンの地図となれば何年もかなりの使用料が支払われるお宝。それが、なくなってしまったことが確定し、意気消沈してしまったということのようだった。
(それは……ガッカリするよね)
「私の地図はまだ問題なく使えそうですから、ここからはこれを見ながら最短で行くことにしましょう。いま目指すべきは〝最速〟です。またダンジョンの中が変わるようなら、それこそ面倒が増えます」
「そうですね。それでは、先導をお願いしてよろしいですか」
「ええ、いきましょう!」
キックスさんも気を取り直し、ここから出口まではノンストップで移動することにした。
一度、下の方でゴゴゴッという地鳴りのようなものは聞こえたが、一、二階には影響は見えずそこから五時間をかけて、私たちはなんとかダンジョンの出口まで辿り着いたのだった。
ここまでの地図はもちろん調査団の方々も作っていたので、出口までの最短ルートはすでに把握できている。
(まぁ、私の《完全脳内地図》と比べるとかなり精度の低いラフスケッチみたいだけど、移動するのには十分なクオリティだね。これに情報をいろいろ書き加えてから清書してギルドに提出すると報酬がもらえるってことみたい)
私はラフ地図を書き留めておく必要はないのだが《完全脳内地図把握》というレアスキルは秘密にしているので、面倒だが手書きの地図も書いている。
「私の《索敵》で、敵の出没場所はかなり正確にわかりますから、できる限り戦闘は避けて進んでいきましょう。とにかく安全第一で!」
戦闘大好きの冒険者揃いとはいっても、何日も昼夜問わず湧いてくる魔物と戦い続けたあとのこの状況では、さすがに魔物に飛び込んでいくのは辛いのだろう。最速で戻るという私の方針に反対する様子はまったくない。
次に決める必要があるのは移動の際のフォーメーションだが、動ける冒険者集団を先に行かせると、敵の場所がわからず不用意に遭遇してしまう可能性が高い。それこそ時間の無駄なので、私と負傷者そしてその介添をしてくれる人たちが《防御結界》に入った状態で先頭に立ち、後ろの冒険者たちに安全なルートを示すことにした。
怪我人にはひとりずつ付き添い役を置き、動けない一名は担架に乗せた状態で運んでもらう。それぞれの介添人は魔法を使って筋力を増強、加えて病人たちには《重力低下》という躰が軽くなる魔法を使ったので、私の〝負傷者チーム〟も歩行速度はみなさんをイラつかせるほどは遅くはない……と思う。
出発直後のしかも最大の難所と思われた地下三階部分には、一箇所どうしても〝洞窟狼〟と遭遇してしまう場所があった。いざとなったら私がなんとかするしかないかと思っていたが、さすが優秀なパーティー、体力を取り戻した冒険者の方々はさして苦戦することなく撃退してくれた。
(気力と体力が常人並に回復していれば、問題ないぐらい強いんだね。これなら安心して任せておけそう)
あとはひたすら戦闘を避けつつ、なんとか無事二階へと戻ることができた。
「ああ、三階を抜けられた! これで一息つけますね」
「そうだな。二階には手こずるような危険生物はいなかったはずだ。だが、気は緩めるなよ」
「それにしても、あのお嬢さんの魔法はなんなんですかね。あんなすごい《索敵》は初めてみました。どこまで見えているんでしょう?」
「あの移動する《防御結界》もすごいぜ。あの広範囲で、しかも大きな石が降ってきてもびくともしない強度! あんなの見たことねぇよ」
「さすがはグッケンス博士のお弟子さまというところだな! うちのパーティーに入ってくれないかなぁ」
「無理無理! ありゃ魔術師の中でもとびきりだぜ! 〝国家魔術師〟なんじゃないのか?」
小休憩をとりながら談笑する冒険者の方々の様子には余裕がみえてきた。
(これなら、サクサクっと出口までいけそうね)
ソーヤからもらったお水を飲みながらそう思っていると、冒険者のひとりが慌てて私のところへやってきた。
「メイロードさま! お休みのところ申し訳ありません。もしよろしければ、我々の作ったこの二階の地図をご覧いただけますか?」
「?……はい、もちろんいいですよ」
そして見せてもらったニ階のダンジョンの地図は、驚くべきことに私が作ってきた地図とはかなり違うものだった。
「これは……私の地図とはだいぶ違いますね」
「三階を進んでいる段階から違和感があったのですが……やはり、そうでしたか」
そこへ、リーダーのキックスさんもやってきた。
「本当か! 俺たちの地図が使えないってのは」
「ええ、いま両方の地図を見比べてみましたが、みなさんが作られた地図のルートは塞がっている場所がだいぶありますね。もしかして、みなさんが閉じ込められている間に、何度か地震のようなものがあったのでしょうか?」
「はい、確か四回は地震のような揺れがありました……いやもっとあったのかもしれません」
「そのとき、みなさんの前に壁ができたように、他の場所にも変動があったのではないでしょうか」
私の言葉にキックスさんは頭を抱える。
「なんてこった! ああ、まいったな。それじゃ俺たちの苦労は何の役にも立たないじゃないか」
これだけ酷い目に遭いながら、ここまで彼らが作ってきた地図は、この瞬間価値がほとんどないものになってしまった。その徒労感は半端ないだろう。
「でも、そのことを突き止めたわけですから、無駄じゃないですよ。調査ってそのためでもあるんですよね」
「そう言っていただけると少し救われますが……はぁ」
あとで知ったことだが、彼らには作った地図の権利が与えられることになっていたそうだ。有名になりそうな新ダンジョンの地図となれば何年もかなりの使用料が支払われるお宝。それが、なくなってしまったことが確定し、意気消沈してしまったということのようだった。
(それは……ガッカリするよね)
「私の地図はまだ問題なく使えそうですから、ここからはこれを見ながら最短で行くことにしましょう。いま目指すべきは〝最速〟です。またダンジョンの中が変わるようなら、それこそ面倒が増えます」
「そうですね。それでは、先導をお願いしてよろしいですか」
「ええ、いきましょう!」
キックスさんも気を取り直し、ここから出口まではノンストップで移動することにした。
一度、下の方でゴゴゴッという地鳴りのようなものは聞こえたが、一、二階には影響は見えずそこから五時間をかけて、私たちはなんとかダンジョンの出口まで辿り着いたのだった。
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