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6 謎の事件と聖人候補
936 料理人の戦い方
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クランの設立というのは、前世でいうならば会社を起こすのに近いようだ。まずは拠点となる家を借り、所属ギルドに報告。簡単な審査のあと、クランとして登録されるという手順だという。どのクランも大抵は小規模から始まり、クランのメンバーの活躍とともに大きくなっていく。が、そう順調にいくクランはごく少数で、ほとんどのクランは数年で消滅してしまうし、大都会ましてパレスに拠点を持てるような大規模クランとなれば、それは選ばれしものといえるだろう。
そんな選ばれしクランのひとつ〝金獅子の咆哮〟ともなれば、その拠点となる館は凡百の貴族の邸宅を軽く超える規模だ。立派な塀に囲まれた屋敷は複数の建物で構成され、居住スペースはもとより立派な会議室や応接室、訓練のための多彩な施設など、さまざまな機能を兼ね備えたものになっているのだ。
マルコとロッコの料理人兄弟が〝金獅子の咆哮〟の拠点へ向かったのは、私と話した翌日だった。
まさか翌日にすぐ訪ねていくとは思わなかったが、戦う料理人マルコとロッコに私が与えた指示はこうだった。
「ふたりにはまず〝金獅子の咆哮〟で、適正試験を受けてきて欲しいの。ふたりが武術を習うために冒険者登録をして、ギルドで剣術や槍術・棒術の授業に出ていることや日々の鍛錬も欠かしていないことはわかっています。
でも私の従者として連れて行く以上、この大規模パーティーのメンバーとして問題ない実力があることを、しっかり認めてもらっておいたほうがいいと思うの」
マルコとロッコは私の言葉に大きくうなずく。
「たくさんの冒険者に囲まれて料理をするなら、たしかに舐められない実力は示しておいたほうがいいですね。その方が絶対指示が出しやすいでしょう」
「その〝金獅子の咆哮〟で、俺たちの試験ってことですね。望むところです」
「そう、でね。それが終わったら、各ギルドの生活支援担当と連携強化しておいて欲しいの。ほら、料理って段取りが大事でしょう? ダンジョンに入ってからアタフタするのは得策じゃないと思うの」
「なるほど、おっしゃる通りです。基本的な料理の手順や必要素材について、事前に打ち合わせるということですね。わかりました!」
ふたりはすぐに意を汲んでくれる。そこは、長く付き合ってきた間柄だからこそだろう。
「それにしても……メイロードさまは〝金獅子の咆哮〟の試験に俺たちが受かることを微塵も疑っていらっしゃらないのですね」
「大丈夫、あなたたちが料理人のみんなを守り、お店を平穏に運営するために、誰よりも努力してくれていたことを私は知っているもの! 気負う必要はないわ……普段のように、頑張ってきてね」
そして送り出された〝金獅子の咆哮〟の庭で、ふたりは早速試験を受けていた。
「メイロードさまから《伝令》で事情はお聞きしております。おふたりを生活支援班の炊事担当に推薦したいということでしたが、それで間違いないですね」
「はい!」
彼らの前にいるのは、いかにも貴族らしい風体の姿勢の良い若者だった。彼は〝金獅子の咆哮〟の中でも名の知れた冒険者で、いくつもの武術を収め中でもレイピアは達人と名高い、今回のパーティーにも参加予定のベルン・ソーサという人物だ。
「わかりました。メイロードさまご推薦の料理人とのことで、そちらの技術については何も問題ございません。あとはダンジョンで生き残れるかどうか……そのための技術を査定させていただきます。武器はどうなさいますか?」
「ふたりとも杖でお願いします」
「なるほど…‥いい選択ですね。試験ではおふたりで同時に攻撃していただいてかまいません。では始めましょう」
相手を傷つけることを目的としていないマルコとロッコは、杖術をよく学んでいた。相手との間合いを広くとれる長い棒状の武器を使った戦い方は防御にも優れ、料理人である彼らの手に馴染みやすかったようだ。
身の軽いマルコとロッコに、さらに軽やかに動く試験官ソーサのレイピア。
始まった試験は序盤からかなりのスピード勝負となっていった。
「ああ、やはり杖相手は切り込みにくいですねぇ。うん、スキのないとてもいい間合いです。息もぴったりだ。では、これはどうでしょう?」
長い杖を高速で見事に操りながら、レイピアの鋭い攻撃をいなし、何度もスレスレのタイミングでかわしていくふたりに、訓練していた周囲のクランメンバーも驚いている。
「ソーサ相手に、やるなぁ」
「いい動きだ。新しくクランに入る子かな」
「杖術とは珍しいが、実にいい動きだ。俺、勝てるかな……」
数分の攻防の末、最後は疲れてきたところにレイピアを合わせられて、ふたりはあえなく降参となったが、ソーサは嬉しそうに笑っていた。
「うんうん、いいね。実にいい! 素直で力強い動きだ! 料理人をしながらよくぞここまで極めたものだよ、感心した。文句なく合格だよ。ぜひ、このパーティーに加わってほしいね。君たちなら大歓迎だ!」
さすがに息を乱し大汗をかきながらも、ふたりも笑顔だ。
「あ、ありがとうございます。とても勉強になりました。このご恩は、必ず料理で返させていただきますね」
「ソーサ様、素晴らしい剣技でした。パーティーのため、一生懸命務めさせていただきます」
周囲からの拍手が起こり、マルコとロッコはすっかり彼らに気に入られたようだ。
「では……生活支援班の皆さんと打ち合わせをさせていただきます」
「ああ、明日には全員パレスに集める予定だそうだ。よろしく頼むよ」
「はい、メイロードさまとみなさんの美味しい食事のため、しっかりと打ち合わせをしたいと思います」
「はい、メイロードさまとみなさんの健康のため、できるだけ効率と技術を上げたいと思います」
満面の笑顔がさわやかなふたりだったが……実は翌日から数日間、この鍛え上げられた妥協なき料理人ふたりにより、生活支援班にはなかなかにハードな特訓が課せられた。
マルコとロッコが涼しい顔でやってみせる料理技術を習得するため、
(双子料理人、ハンパねぇ‼︎)
と、密かに叫びながら必死で食らいついていた、と偵察に行ってくれたソーヤが笑いながら報告してくれた。
クランの設立というのは、前世でいうならば会社を起こすのに近いようだ。まずは拠点となる家を借り、所属ギルドに報告。簡単な審査のあと、クランとして登録されるという手順だという。どのクランも大抵は小規模から始まり、クランのメンバーの活躍とともに大きくなっていく。が、そう順調にいくクランはごく少数で、ほとんどのクランは数年で消滅してしまうし、大都会ましてパレスに拠点を持てるような大規模クランとなれば、それは選ばれしものといえるだろう。
そんな選ばれしクランのひとつ〝金獅子の咆哮〟ともなれば、その拠点となる館は凡百の貴族の邸宅を軽く超える規模だ。立派な塀に囲まれた屋敷は複数の建物で構成され、居住スペースはもとより立派な会議室や応接室、訓練のための多彩な施設など、さまざまな機能を兼ね備えたものになっているのだ。
マルコとロッコの料理人兄弟が〝金獅子の咆哮〟の拠点へ向かったのは、私と話した翌日だった。
まさか翌日にすぐ訪ねていくとは思わなかったが、戦う料理人マルコとロッコに私が与えた指示はこうだった。
「ふたりにはまず〝金獅子の咆哮〟で、適正試験を受けてきて欲しいの。ふたりが武術を習うために冒険者登録をして、ギルドで剣術や槍術・棒術の授業に出ていることや日々の鍛錬も欠かしていないことはわかっています。
でも私の従者として連れて行く以上、この大規模パーティーのメンバーとして問題ない実力があることを、しっかり認めてもらっておいたほうがいいと思うの」
マルコとロッコは私の言葉に大きくうなずく。
「たくさんの冒険者に囲まれて料理をするなら、たしかに舐められない実力は示しておいたほうがいいですね。その方が絶対指示が出しやすいでしょう」
「その〝金獅子の咆哮〟で、俺たちの試験ってことですね。望むところです」
「そう、でね。それが終わったら、各ギルドの生活支援担当と連携強化しておいて欲しいの。ほら、料理って段取りが大事でしょう? ダンジョンに入ってからアタフタするのは得策じゃないと思うの」
「なるほど、おっしゃる通りです。基本的な料理の手順や必要素材について、事前に打ち合わせるということですね。わかりました!」
ふたりはすぐに意を汲んでくれる。そこは、長く付き合ってきた間柄だからこそだろう。
「それにしても……メイロードさまは〝金獅子の咆哮〟の試験に俺たちが受かることを微塵も疑っていらっしゃらないのですね」
「大丈夫、あなたたちが料理人のみんなを守り、お店を平穏に運営するために、誰よりも努力してくれていたことを私は知っているもの! 気負う必要はないわ……普段のように、頑張ってきてね」
そして送り出された〝金獅子の咆哮〟の庭で、ふたりは早速試験を受けていた。
「メイロードさまから《伝令》で事情はお聞きしております。おふたりを生活支援班の炊事担当に推薦したいということでしたが、それで間違いないですね」
「はい!」
彼らの前にいるのは、いかにも貴族らしい風体の姿勢の良い若者だった。彼は〝金獅子の咆哮〟の中でも名の知れた冒険者で、いくつもの武術を収め中でもレイピアは達人と名高い、今回のパーティーにも参加予定のベルン・ソーサという人物だ。
「わかりました。メイロードさまご推薦の料理人とのことで、そちらの技術については何も問題ございません。あとはダンジョンで生き残れるかどうか……そのための技術を査定させていただきます。武器はどうなさいますか?」
「ふたりとも杖でお願いします」
「なるほど…‥いい選択ですね。試験ではおふたりで同時に攻撃していただいてかまいません。では始めましょう」
相手を傷つけることを目的としていないマルコとロッコは、杖術をよく学んでいた。相手との間合いを広くとれる長い棒状の武器を使った戦い方は防御にも優れ、料理人である彼らの手に馴染みやすかったようだ。
身の軽いマルコとロッコに、さらに軽やかに動く試験官ソーサのレイピア。
始まった試験は序盤からかなりのスピード勝負となっていった。
「ああ、やはり杖相手は切り込みにくいですねぇ。うん、スキのないとてもいい間合いです。息もぴったりだ。では、これはどうでしょう?」
長い杖を高速で見事に操りながら、レイピアの鋭い攻撃をいなし、何度もスレスレのタイミングでかわしていくふたりに、訓練していた周囲のクランメンバーも驚いている。
「ソーサ相手に、やるなぁ」
「いい動きだ。新しくクランに入る子かな」
「杖術とは珍しいが、実にいい動きだ。俺、勝てるかな……」
数分の攻防の末、最後は疲れてきたところにレイピアを合わせられて、ふたりはあえなく降参となったが、ソーサは嬉しそうに笑っていた。
「うんうん、いいね。実にいい! 素直で力強い動きだ! 料理人をしながらよくぞここまで極めたものだよ、感心した。文句なく合格だよ。ぜひ、このパーティーに加わってほしいね。君たちなら大歓迎だ!」
さすがに息を乱し大汗をかきながらも、ふたりも笑顔だ。
「あ、ありがとうございます。とても勉強になりました。このご恩は、必ず料理で返させていただきますね」
「ソーサ様、素晴らしい剣技でした。パーティーのため、一生懸命務めさせていただきます」
周囲からの拍手が起こり、マルコとロッコはすっかり彼らに気に入られたようだ。
「では……生活支援班の皆さんと打ち合わせをさせていただきます」
「ああ、明日には全員パレスに集める予定だそうだ。よろしく頼むよ」
「はい、メイロードさまとみなさんの美味しい食事のため、しっかりと打ち合わせをしたいと思います」
「はい、メイロードさまとみなさんの健康のため、できるだけ効率と技術を上げたいと思います」
満面の笑顔がさわやかなふたりだったが……実は翌日から数日間、この鍛え上げられた妥協なき料理人ふたりにより、生活支援班にはなかなかにハードな特訓が課せられた。
マルコとロッコが涼しい顔でやってみせる料理技術を習得するため、
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