利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

937 ダンジョン侵攻前夜

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937

新ダンジョン攻略を目指す三クラン合同パーティーの事前準備は、イスの街で語り草になるほどの驚異的なスピードで整えられた。

通常こうした難しいダンジョンのしかもファースト・アタックとなれば、攻略のための準備期間は半年とも一年ともいわれている。ハイリスクハイリターンである最初の攻略者となるためには、それだけの長い準備期間と潤沢な準備金が必要なのだ。

だが今回の場合、財力にまったく問題のない大手三クランが共同出資しており、さらに冒険者の中では最も商売の機微を理解している最大手素材収集ギルド〝剣士の荷馬車〟がその中にあった。彼らの手腕と人脈が、わずか一月半という信じられない短期間での準備を可能とし、そのこと自体が大きな話題となっていた。

そして、この大きな話題となるほどの超速準備には、実はもうひとり影の支援者がいた。

「おいメイロード……世界漫遊中のヤツが、パレスのダンジョンに入ることになってんだよ。わかるように説明しろ!」
「あ、うう……えっとですね、話せば長いんですが……」

私は、今回の攻略参加が決まったとき、サイデムおじさまに報告した。

絶対に私の存在が外部に漏れないよう魔法契約をした上でのダンジョン攻略への協力なので、外部に知られる懸念はないのだが、それでもさすがにこのことはおじさまには知らせておくべきだと思ったからだ。

「私自身にはいろいろと安全対策があるので、どんな危険なダンジョンからでも逃げ帰ることができるとは思うのですが、それでもとが言い切れないので、後見人兼婚約者のおじさまだけには、状況をお伝えすべきかなぁーっと思いましてお話にきたんですが……」

私が持ってきたお昼用の中華弁当をバクバク食べながら、おじさまがギロリとにらむので、私はあわてて言いわけっぽいことを言った。

「ともかく、ダンジョンの壁を壊しながら進めるという私の魔法は、ほかの人には使えないみたいなんです。私がいないと攻略そのものが成り立たないと言われてしまうと断れなくて……」

「まぁ、お前ならそうだろうな」

「あ、おじさま、どうですか、そのお肉。オーク肉の 東坡肉トンポーロウ風です。じっくり煮て柔らかーくなったお肉に味がしみしみでご飯に合いますよね」

「ああ、うまい、絶品だ! だが、そんなことで誤魔化されんぞ!」

「誤魔化すなんて……ともかく一緒に攻略に参加する三クランはいずれも超一流ですし、準備もしっかりしてくれてます。大丈夫ですよ、きっと」

ジャスミンティーを淹れながら、ピクニックにでもいくようなのほほんとした雰囲気で笑う私に、おじさまは大ぶりの焼売をガブリと一口で頬張りながら目を閉じる。

「ファースト・アタックってのは、海千山千の冒険者たちでも腰が引けるほど危険なものなんだがな。お前のそのクソ度胸は間違いなく親譲りだな! 今更お前の無謀を止める気もないが、準備だけは完璧にしていけ。ダンジョンに入ってしまえば、それだけがお前の助けだ」

「はい、たくさんの方々とご一緒するので、そのつもりで考えます! おじさま、肉ばっかり食べないでください。中華風サラダも美味しいので、しっかり食べて野菜もとってくださいね」

「わかってるよ。よし、〝剣士の荷馬車〟の資材調達には最大限の便宜を図るよう通達を出そう、秘密裏にだがな」

「ありがとうございます。きっとみなさん喜ばれると思います」

「ふん! 仕事が終わったらすぐに知らせろよ、わかったな」

「ええ、真っ先にお知らせしますね。いい知らせを期待しててください」

「どうだかな……成果はどうでもいい。無事に戻ってこい、望むのはそれだけだ」

卵スープをグイッと飲んだおじさまは、真顔でそう言い、私を見る。

「もちろんです」

こうして知らぬうちに〝剣士の荷馬車〟は最強の後援者を得た形で資材調達を行うことになった。

そして本人たちも戸惑うほどの異例の速さでの準備を終え、必要な装備を整えたあと、パーティーに選ばれた人たちはパレスの街に集合した。

「メイロードさま、生活支援班は準備万端です」
「みなさん、事前にかなりの食材の準備を整えてくださいましたので、しばらくはかなり早く食事を出せるでしょう」

マルコとロッコは、ダンジョン内で最も効率よく食事を作れる体制を作り上げてくれたそうだ。

「ありがとう。きっとみなさん喜んでくれるわね」

「酒はあるのかい?」

今回ついてきてくれるというセイリュウが口を出す。

「ダンジョン内は禁酒なの! 教えたでしょう?」

セイリュウが首をすくめる。

「メイロードさま、今夜の食事はなんでしょうね」
「メイロードさま、やはりお髪はあげたほうが冒険にはお似合いです。実にお美しい!」

今回はセーヤとソーヤふたりともついてきてくれる。ふたりとも絶対自分が行くと引かなかったので、私が根負けしたのだ。

というわけで、メイロード隊は私を含めて六名が参加し、パーティーは総勢三十六名。

いよいよダンジョンへ入る日がやってきた。

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