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昼休みの全校放送
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その日。
わたしは田中くんと学校近くの公園にいた。
季節は梅雨どき。
霧雨の降るなか、わたしたちは傘も差さずに向かい合う。
「西澄……。
お前、こんなところに俺を呼び出して、なんのつもりだ」
わざわざ公園に呼び出したのには、理由があった。
田中くんは預かり知らぬことなのだけど、いまから校内では、とある計画が実行されようとしていた。
そして、その場に田中くんを居合わせたくない。
だからこうして彼を学校から引き離し、この公園まで呼び出したのだ。
けれどもそんな事情を田中くんに伝える筋合いは、わたしにはない。
表情を変えないまま、話し掛けた。
「……お願いがあります」
「お願いだぁ?
なにを言ってるんだお前は。
散々この俺の言い付けを無視した挙げ句、こんな怪我まで負わせやがって……。
いまさらなにを願うっていうんだ。
都合のいいことを言うな!」
目の前の男子が、激昂しながら治療中の目と鼻を見せつけてきた。
けどそれは自業自得だ。
わたしはその言い分には取り合わない。
「……あなたが先生たちに、さきの件でデマを吹き込んだのは承知しています。
それを撤回して下さい。
いま大輔くんは、あなたがついた嘘のせいで必要以上の処分を受けようとしています」
「ああ!?
ふざけてるのかお前……。
なんだその態度は!」
田中くんが怒りの形相をみせた。
そのおぞましい貌に怯みそうになるけれども、ぐっとお腹に力をこめてその場に踏みとどまる。
「……もう一度お願いします。
嘘を撤回して下さい。
そしてもう……。
わたしたちに、関わらないでください」
「なんだと!?
お前……!」
鬼のような表情をした彼が、わたしに向かって一歩踏み出した。
その乱暴な歩みに、身体が緊張する。
「……西澄ぃ、良い度胸だ。
どうなるかわかってるんだろうな。
いま、ここに北川はいない。
あの時と違って、もうお前を助けてくれるやつはいない」
田中くんが激昂しながら距離を詰めてくる。
けれどもそれに、横合いからの声が待ったを掛けた。
「そこまでだ、田中」
物陰からひとりの男子が歩み出る。
「ざ、財前……!
いつからそこにいた」
姿を現した彼を目にして、田中くんの足が止まった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方その頃、学校では――
「……そろそろ時間よ。
準備はいい?」
雪野みなみが、友人かつ放送部部長である如月麻美の肩に手を置く。
ここは天光寺高校の放送室。
そしていまは昼休憩の時間。
学校中のあらゆる場所で、生徒たちが銘々に親しい友人たちと談笑し、食事を摂っていた。
「えっと。
ここを、こうしてっと……」
麻美が機材をあれこれと触っている。
彼女は昼食も摂らず、これから行う全校放送に向けての準備を進めていた。
「……よし。
ばっちりオッケーよ!」
機材のセッティングを終えた麻美が、親指を立ててみせる。
「ありがと!」
「ふぅ……。
しっかし雪野。
あんたも大胆なことを考えるものねぇ」
「そう?
まぁ計画自体は財前くんの発案なんだけどね。
麻美も手伝わせてごめんね。
あなたの名前は出さないよう注意するわ。
それに、今度なにか奢るから」
「気にしないでもいいわよ。
田中だっけ?
私もその子にはいい気がしないし。
それよりほら。
もう放送の時間よ!」
時刻は12時15分。
ちょうどアリスが、公園で田中と対峙している頃合いである。
ふたりの女子が頷き合った。
そして、みなみがマイクに顔を近づける。
「……やるわよ」
小さく呟いてから手のひらを胸に添え、みなみは大きく深呼吸をしたあとに話し出した。
◇
『あー、あー、こほん。
お昼の放送をはじめまぁす。
本日のパーソナリティは、あたし、3年の雪野みなみがお送りするわよ』
スピーカー越しの声が、全校中に響き渡る。
「……なんだ?
今日の放送はいつもの音楽じゃないのか」
「ん?
ああ、そうみたいだな」
「珍しいなぁ。
けどまぁ、いつもみたいにBGMを流してるだけよりいいんじゃねえの。
それよりさぁ。
俺、このまえカラオケでさぁ――」
まだ生徒たちには、放送を気に止めた様子はない。
構わず友人たちと歓談しながら、食事を続けている。
『唐突だけど、みんなちょっと聞いてくれる?
先日の全校集会、びっくりしたわよねぇ。
かくいうあたしも驚きました。
知ってるかしら?
あのとき、壇上に上がって演説をした金髪の女の子。
2年A組の西澄アリスちゃんって子なの。
って、有名な女子だからみんな知ってるわよねー』
生徒たちが食事の手を止めた。
なんだか普段と違う様子の昼放送に、興味を引かれ始める。
『あの時アリスちゃんが訴えていた話。
覚えてるかな?
いま無期停学処分を受けている、2年の北川大輔くんと、彼に暴行されたと訴えている田中大翔って子のお話。
……アリスちゃん言ってたわよね。
本当の加害者は田中くんだって。
でも、まだあの話について疑ってる子も多いんじゃないかしら?
だって相手は、あの噂では乱暴者の北川大輔くんですものねぇ』
全校生徒が異常に気づく。
「おい。
なんの話だこれ」
「いや、この間の全校集会の話なんだろうけど……」
呟きながら、とある男子が首を捻る。
これは単なるお昼の放送ではない。
そのことに思い至った生徒たちが、放送に注目しはじめた。
『さてさて。
あの暴力事件、真実はどこにあるのでしょう?
答えはこのあとすぐ。
学校の正門最寄りの公園から、中継でお送りしちゃいまぁす。
生中継よ、生中継!』
教室で、屋上で、運動場で――
全校で生徒たちが騒ぎ出す。
それは職員室の教師陣も同様だ。
みなみの放送は続く。
『……あたしはね。
正直いって、とても怒っているの』
スピーカーから響く声のトーンが、ひとつ落ちた。
『田中って子もそうだけど、それに簡単に騙される不甲斐ない我が校の教師たちにね。
……特に生徒指導の吉澤先生。
いいかしら?
これから流れる放送が、事件の真相よ。
その曇った目を見開いて、耳の穴をかっぽじってから、しっかりと聞きなさい!』
みなみが手にしたスマートフォンを、マイクにあてがった。
田中とアリスのやり取りが、生中継で全校に流れる――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
物陰から姿を見せたのは、財前くんだった。
彼の登場に驚いた田中くんが、唾を飛ばしながら叫ぶ。
「ざ、財前!
なんでお前がいるんだよ!
西澄ぃ、騙しやがったな……」
「……騙した?
なんの話でしょうか。
わたしはひとりで待っているとは、伝えていません」
さすがに田中くんのような危険人物と1対1で向き合うほど、わたしは無謀ではない。
この公園に彼を呼び出したのは、わたしの独断ではない。
財前くんの計画なのだ。
狼狽えている田中くんの眼前に、財前くんが立ち塞がった。
背中でわたしを庇いながら、こちらを振り返る。
「……囮にしてすまなかったな、西澄。
こうでもしないと、こいつは呼び出しに応じなかっただろう。
とはいえ怖い思いをさせた」
「いいえ。
わたしは大丈夫なのです」
財前くんが頷いてから、田中くんに向き直る。
「さて。
田中、話がある」
「……なんだ」
「お前について、調べてみた。
お前……。
中学の頃はずいぶんと好き放題やっていたな。
お前が以前住んでいた街まで足を運んで調べたが、興味深い話がぼろぼろと出てきたぞ。
同級生への暴力、いじめ、婦女暴行。
それらをすべて親の権力で握り潰してもらい、また繰り返す。
……まったく。
救いようがない。
だがさすがの父親も、最後にはお前を庇いきれなくなったようだな」
田中くんの家は地元ではかなりの名家らしい。
これは事前に財前くんから聞いていた話だ。
しかし田中くんの親は、度が過ぎるほど立て続けに問題を起こす息子に手を焼き、高校進学と同時に彼を手元から遠ざけた。
「…………」
田中くんは、なにも応えない。
噛み殺さんばかりの目つきで、財前くんを睨んでいる。
「確認だ、田中。
あの日、西澄をつけ回していたお前は、教室でひとりきりの彼女を見つけ、これ幸いと襲いかかった。
間違いないな」
「…………」
「そして駆けつけた大輔に殴られ、その場にやってきた教員の吉澤先生に、事実とは異なる証言をして騙した。
応えろ田中」
「……なぜそんなことを聞こうとする」
田中くんがきょろきょろと周囲を見回す。
きっと財前くんのほかに、まだ誰か隠れていないか警戒をしているのだろう。
「心配するな。
ここにいるのは俺たちだけだ、
……いまはまだな」
周囲にひとの気配がないことを確認し終えた田中くんが、くつくつと嗤う。
唇の端を吊り上げて語り始める。
「……そうだよ、財前。
全部お前のいう通りだ。
ったく。
過去のことまで調べ回りやがって……。
それでお前はなにがしたいんだ?
西澄と同じように、馬鹿な教師どもにデマを訂正して回れとでもいうつもりか?」
田中くんが鼻で笑う。
「バカが……!
そんなこと、してやるわけないだろうが!」
財前くんが珍しく悪そうな顔で、眼鏡を持ち上げ、ニヤリとほくそ笑んだ。
そのとき――
◇
「あそこだ、あそこ!
あの公園だぞ」
遠くから誰かの声が聞こえてきた。
「うぉー!
まじか!?
あの金髪、まじで西澄が居やがる!」
「ってことは、あの放送マジだったのか!」
複数の生徒の声が近づいてくる。
その数はまだ少数だ。
けれども遠くに目を凝らせば、もっと多く、何人もの生徒がここを目指して走ってくる姿が見える。
田中くんが狼狽えた。
「な、なんだ……?
どうなってるんだ!?」
財前くんが胸ポケットに手を忍ばせた。
そこからスマートフォンを取り出して、田中くんに見せつける。
「すまんな、田中。
いまの会話。
全校放送で中継させてもらった。
こいつらは、放送を聞いて現場に冷やかしにきた生徒たちだろう。
……ふっ。
きっとまだまだ増えるぞ」
田中くんが唖然としている。
「さぁ、田中。
覚悟しておけ。
最後の仕上げといこうか」
事態が飲み込めない田中くんは、財前くんを見つめながら呆然としていた。
わたしは田中くんと学校近くの公園にいた。
季節は梅雨どき。
霧雨の降るなか、わたしたちは傘も差さずに向かい合う。
「西澄……。
お前、こんなところに俺を呼び出して、なんのつもりだ」
わざわざ公園に呼び出したのには、理由があった。
田中くんは預かり知らぬことなのだけど、いまから校内では、とある計画が実行されようとしていた。
そして、その場に田中くんを居合わせたくない。
だからこうして彼を学校から引き離し、この公園まで呼び出したのだ。
けれどもそんな事情を田中くんに伝える筋合いは、わたしにはない。
表情を変えないまま、話し掛けた。
「……お願いがあります」
「お願いだぁ?
なにを言ってるんだお前は。
散々この俺の言い付けを無視した挙げ句、こんな怪我まで負わせやがって……。
いまさらなにを願うっていうんだ。
都合のいいことを言うな!」
目の前の男子が、激昂しながら治療中の目と鼻を見せつけてきた。
けどそれは自業自得だ。
わたしはその言い分には取り合わない。
「……あなたが先生たちに、さきの件でデマを吹き込んだのは承知しています。
それを撤回して下さい。
いま大輔くんは、あなたがついた嘘のせいで必要以上の処分を受けようとしています」
「ああ!?
ふざけてるのかお前……。
なんだその態度は!」
田中くんが怒りの形相をみせた。
そのおぞましい貌に怯みそうになるけれども、ぐっとお腹に力をこめてその場に踏みとどまる。
「……もう一度お願いします。
嘘を撤回して下さい。
そしてもう……。
わたしたちに、関わらないでください」
「なんだと!?
お前……!」
鬼のような表情をした彼が、わたしに向かって一歩踏み出した。
その乱暴な歩みに、身体が緊張する。
「……西澄ぃ、良い度胸だ。
どうなるかわかってるんだろうな。
いま、ここに北川はいない。
あの時と違って、もうお前を助けてくれるやつはいない」
田中くんが激昂しながら距離を詰めてくる。
けれどもそれに、横合いからの声が待ったを掛けた。
「そこまでだ、田中」
物陰からひとりの男子が歩み出る。
「ざ、財前……!
いつからそこにいた」
姿を現した彼を目にして、田中くんの足が止まった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方その頃、学校では――
「……そろそろ時間よ。
準備はいい?」
雪野みなみが、友人かつ放送部部長である如月麻美の肩に手を置く。
ここは天光寺高校の放送室。
そしていまは昼休憩の時間。
学校中のあらゆる場所で、生徒たちが銘々に親しい友人たちと談笑し、食事を摂っていた。
「えっと。
ここを、こうしてっと……」
麻美が機材をあれこれと触っている。
彼女は昼食も摂らず、これから行う全校放送に向けての準備を進めていた。
「……よし。
ばっちりオッケーよ!」
機材のセッティングを終えた麻美が、親指を立ててみせる。
「ありがと!」
「ふぅ……。
しっかし雪野。
あんたも大胆なことを考えるものねぇ」
「そう?
まぁ計画自体は財前くんの発案なんだけどね。
麻美も手伝わせてごめんね。
あなたの名前は出さないよう注意するわ。
それに、今度なにか奢るから」
「気にしないでもいいわよ。
田中だっけ?
私もその子にはいい気がしないし。
それよりほら。
もう放送の時間よ!」
時刻は12時15分。
ちょうどアリスが、公園で田中と対峙している頃合いである。
ふたりの女子が頷き合った。
そして、みなみがマイクに顔を近づける。
「……やるわよ」
小さく呟いてから手のひらを胸に添え、みなみは大きく深呼吸をしたあとに話し出した。
◇
『あー、あー、こほん。
お昼の放送をはじめまぁす。
本日のパーソナリティは、あたし、3年の雪野みなみがお送りするわよ』
スピーカー越しの声が、全校中に響き渡る。
「……なんだ?
今日の放送はいつもの音楽じゃないのか」
「ん?
ああ、そうみたいだな」
「珍しいなぁ。
けどまぁ、いつもみたいにBGMを流してるだけよりいいんじゃねえの。
それよりさぁ。
俺、このまえカラオケでさぁ――」
まだ生徒たちには、放送を気に止めた様子はない。
構わず友人たちと歓談しながら、食事を続けている。
『唐突だけど、みんなちょっと聞いてくれる?
先日の全校集会、びっくりしたわよねぇ。
かくいうあたしも驚きました。
知ってるかしら?
あのとき、壇上に上がって演説をした金髪の女の子。
2年A組の西澄アリスちゃんって子なの。
って、有名な女子だからみんな知ってるわよねー』
生徒たちが食事の手を止めた。
なんだか普段と違う様子の昼放送に、興味を引かれ始める。
『あの時アリスちゃんが訴えていた話。
覚えてるかな?
いま無期停学処分を受けている、2年の北川大輔くんと、彼に暴行されたと訴えている田中大翔って子のお話。
……アリスちゃん言ってたわよね。
本当の加害者は田中くんだって。
でも、まだあの話について疑ってる子も多いんじゃないかしら?
だって相手は、あの噂では乱暴者の北川大輔くんですものねぇ』
全校生徒が異常に気づく。
「おい。
なんの話だこれ」
「いや、この間の全校集会の話なんだろうけど……」
呟きながら、とある男子が首を捻る。
これは単なるお昼の放送ではない。
そのことに思い至った生徒たちが、放送に注目しはじめた。
『さてさて。
あの暴力事件、真実はどこにあるのでしょう?
答えはこのあとすぐ。
学校の正門最寄りの公園から、中継でお送りしちゃいまぁす。
生中継よ、生中継!』
教室で、屋上で、運動場で――
全校で生徒たちが騒ぎ出す。
それは職員室の教師陣も同様だ。
みなみの放送は続く。
『……あたしはね。
正直いって、とても怒っているの』
スピーカーから響く声のトーンが、ひとつ落ちた。
『田中って子もそうだけど、それに簡単に騙される不甲斐ない我が校の教師たちにね。
……特に生徒指導の吉澤先生。
いいかしら?
これから流れる放送が、事件の真相よ。
その曇った目を見開いて、耳の穴をかっぽじってから、しっかりと聞きなさい!』
みなみが手にしたスマートフォンを、マイクにあてがった。
田中とアリスのやり取りが、生中継で全校に流れる――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
物陰から姿を見せたのは、財前くんだった。
彼の登場に驚いた田中くんが、唾を飛ばしながら叫ぶ。
「ざ、財前!
なんでお前がいるんだよ!
西澄ぃ、騙しやがったな……」
「……騙した?
なんの話でしょうか。
わたしはひとりで待っているとは、伝えていません」
さすがに田中くんのような危険人物と1対1で向き合うほど、わたしは無謀ではない。
この公園に彼を呼び出したのは、わたしの独断ではない。
財前くんの計画なのだ。
狼狽えている田中くんの眼前に、財前くんが立ち塞がった。
背中でわたしを庇いながら、こちらを振り返る。
「……囮にしてすまなかったな、西澄。
こうでもしないと、こいつは呼び出しに応じなかっただろう。
とはいえ怖い思いをさせた」
「いいえ。
わたしは大丈夫なのです」
財前くんが頷いてから、田中くんに向き直る。
「さて。
田中、話がある」
「……なんだ」
「お前について、調べてみた。
お前……。
中学の頃はずいぶんと好き放題やっていたな。
お前が以前住んでいた街まで足を運んで調べたが、興味深い話がぼろぼろと出てきたぞ。
同級生への暴力、いじめ、婦女暴行。
それらをすべて親の権力で握り潰してもらい、また繰り返す。
……まったく。
救いようがない。
だがさすがの父親も、最後にはお前を庇いきれなくなったようだな」
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これは事前に財前くんから聞いていた話だ。
しかし田中くんの親は、度が過ぎるほど立て続けに問題を起こす息子に手を焼き、高校進学と同時に彼を手元から遠ざけた。
「…………」
田中くんは、なにも応えない。
噛み殺さんばかりの目つきで、財前くんを睨んでいる。
「確認だ、田中。
あの日、西澄をつけ回していたお前は、教室でひとりきりの彼女を見つけ、これ幸いと襲いかかった。
間違いないな」
「…………」
「そして駆けつけた大輔に殴られ、その場にやってきた教員の吉澤先生に、事実とは異なる証言をして騙した。
応えろ田中」
「……なぜそんなことを聞こうとする」
田中くんがきょろきょろと周囲を見回す。
きっと財前くんのほかに、まだ誰か隠れていないか警戒をしているのだろう。
「心配するな。
ここにいるのは俺たちだけだ、
……いまはまだな」
周囲にひとの気配がないことを確認し終えた田中くんが、くつくつと嗤う。
唇の端を吊り上げて語り始める。
「……そうだよ、財前。
全部お前のいう通りだ。
ったく。
過去のことまで調べ回りやがって……。
それでお前はなにがしたいんだ?
西澄と同じように、馬鹿な教師どもにデマを訂正して回れとでもいうつもりか?」
田中くんが鼻で笑う。
「バカが……!
そんなこと、してやるわけないだろうが!」
財前くんが珍しく悪そうな顔で、眼鏡を持ち上げ、ニヤリとほくそ笑んだ。
そのとき――
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「あそこだ、あそこ!
あの公園だぞ」
遠くから誰かの声が聞こえてきた。
「うぉー!
まじか!?
あの金髪、まじで西澄が居やがる!」
「ってことは、あの放送マジだったのか!」
複数の生徒の声が近づいてくる。
その数はまだ少数だ。
けれども遠くに目を凝らせば、もっと多く、何人もの生徒がここを目指して走ってくる姿が見える。
田中くんが狼狽えた。
「な、なんだ……?
どうなってるんだ!?」
財前くんが胸ポケットに手を忍ばせた。
そこからスマートフォンを取り出して、田中くんに見せつける。
「すまんな、田中。
いまの会話。
全校放送で中継させてもらった。
こいつらは、放送を聞いて現場に冷やかしにきた生徒たちだろう。
……ふっ。
きっとまだまだ増えるぞ」
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