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第2章 俺と幼馴染と異世界

14.

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今日の夕飯はカレーだった。

転移初日のカレーよりも断然美味しい。
そして、夕飯の時間のカンパレリの食堂は混んでいた。

こんなにも宿に泊まってる人がいるのかと思いきや、みんな夕飯メインできた町の人たちだった。
こんなにも人気のお店だが、泊まってる人が少ないのはなぜだろうと思ったが、アルラが答えてくれた。

「うちは、おとうが気に入った人じゃないと泊まらせないんだよ?」
家の手伝いが落ち着いたのが俺たちの席のところにアルラがやってきた。

「カレー美味しい?野菜とか僕が炒めたんだよ!」
「あぁ、いつも思うけど本当に美味しい。俺らのいた村と味付けが似てるみたいで助かるよ」

「さっきの続きだけど、うちのおとうは礼儀には厳しいんだ。だから、受付でおかあが判断してる。それに初級冒険者で礼儀正しい子がいたらこの宿を紹介してほしいって制限かけてるんだよ?知らなかったの??」

そうだったのか。。
エルミンさんから見たら俺らは礼儀正しいと受け取ってもらえたのだな。

相変わらずダルタさんは素っ気ないような気がするが、ここに泊まれる事で多少は認められているのだと感じた。

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カラン、カラン

「今日の夕飯はカレーかしら??」

見たことある姿の女性がいた。

「ローリエさん!?」

「あら、新人なのにこの店知ってるなんてツウだねぇ」

「私たちは昨日からここに泊まってます」

「そうだったのね。だからシュリアさんの名前が出てたのね。気づかなかったわ」

「彼女はここにいる方が珍しい位にワーカーホリックだからね」
シュリアさんがローリエさんにカレーを出す。

「んー、スパイシーな良い香り。今日は変な客が来たもんで疲れちゃったから早く終わらせたの。まぁ、そこの2人が追い返してくれたから良かったけど。それに金曜だし!これ食べたら一杯引っ掛けてくるわ♪」

「飲みすぎないようにね!もう!」

ローリエさんはなんとも豪快な女性である。

悠理はカレーを食べ始めたローリエさんのところに行って耳元で何か話す。
ローリエさんのカレーを食べるスプーンが止まった。

「勘がいい子は嫌いじゃないけど、今日は虫の居所が悪いのよ。今はその話聞かなかったことにするわ」
「それならいつなら良いですか」
「いつでもよくないと言ったら?」
「認めるまであなたの店に通います」
「防御陣の対象にあなたも入れるわよ」
「それなら、お店ではなくてこの宿で待つことにします」
「それ、ストーカーじゃない。勘弁してよ」

ローリエさんが呆れたように対応する。

「それは、あなたが、ま………」

悠理はその場で崩れるように倒れた。
「「「悠理/ユーリちゃん」」」

俺はローリエさんを見る。
ローリエが魔術を使ったのだ。

「あら、彼女はが出たみたいね。少し寝かせてあげた方がいいんじゃないかしら」

俺が何も言えないように、威圧感を出しながらも対応するローリエ。

俺は悠理を抱きかかえる。

「彼女に何をしたんですか…!」

「何もしてない、と言ったら嘘になるわね。言ったでしょ?今は私虫の居所が悪いって。その忠告を聞かずに五月蠅くしたのは彼女よ?あなたも、自身の周りでハエが飛んでたら殺したくなるでしょ?まぁ、殺してないから安心してね。眠らせただけだから」

そしてローリエはカレーを食べ終えたのか、椅子から立ち上がって、俺の元にくる。

「あたし勘のいい子は嫌いじゃないけど、自分の行動に対する影響を考えない子は好きじゃないのよ。これはよ。起きたら彼女に伝えて?」

ローリエさんは悠理を抱きかかえた俺に笑顔で優しくも厳しい言葉で伝えてきた。

「シュリアさん、ダルタさん、騒いで済まなかったわね。この謝罪は来月の納品で対応するわ」

「それに、僕。」
ローリエさんが俺を指差す。

「その子が大事なのなら、。それか…ね」

そういうとローリエはカンパレリから出て行った。


「悠理ちゃん災難だったわね。。」
シュリアさんが心配したように呟く。

「あんなにも容易く、人を…」
俺は悔しかった。

「ローリエちゃんとは何年もの付き合いだけど、あんなにも怒った姿を見たのは初めてだわ」
「僕もあんなおねーちゃん初めて見たよ」

ローリエさんを怒らすほど、何を言ったんだ。

《彼女よりも強くならないとね》

俺に対しては、その言葉がすべてだった。

転移してからも、ローリエさんのお店での時も、俺は悠理に助けてもらってばかりだった。

ダルタさんがキッチンから出てきた。

「シンジくん、覚悟は決まったようだね」

「はい。冒険者になったら、強くなれるんですよね?」

ダルタはシンジをまっすぐ見つめる。

「この世界で求められる冒険者の強さは単なる力の強さだけじゃない。
強い敵と出会った時にどれだけ、冷静な判断や、
戦略的撤退もあることを判断できるか。時として気持ちや判断が物理的な力に勝る時もある。
強さを履き違えるなよ。お前にとってはなんなのか今一度よく考えるといい」

「………はい」

単に強くなるだけで、悠理を守れると思ったシンジの気持ちをダルタは見抜いていた。

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ダルタ自身もシンジと同じように力をつければ良いという時期もあった。
この考えは誰しもが通る道であり、その間違いに気づくかどうかで
その冒険者がさらなる高みに行けるかどうかが決まる。

(俺は気づくのに何年もの時間を費やした。あいつは気づくことができるだろうか…)


「私は、伝わったと思うわよ。あなたの気持ち」
シュリアはダルタの背中に手を当てる。

人は守るものが出来た時、初めて本当に強くなることができるのだ。

「あぁ、そうだな」

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俺は悠理を抱きかかえ、自室に戻った。

どれくらいで目を冷ますのか分からない。
できれば起きた時に俺がいるのが良いのだろうが、、、

(1人で考えたい…)

考えが甘かった自分自身を。
そして、冒険者としての強さとは。
そして俺が守りたいものは。

「ちょっと散歩にいってくるから。ゆっくり休んでくれ」

ベットに寝かせた悠理の頭を撫でると起きた時のため、
ノートの切れ端に散歩に行く旨を書き残して俺は散歩に出かけた。



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