聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~

雪丸

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第16話 聖獣保護作戦

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聖獣保護作戦において、聖獣の誘導は私1人で行うつもりだった。だけど、イヴァンがどうしても自分もやりたいと申し出てきたので、私と彼の2人でやることになった。

私先導の元、イヴァンと2人でマーロメンの森に向かう。今回の保護作戦にあたり、ラルヴァクナ王国管理の天竜を2頭貸してもらうことができた。私たっての希望で、私が乗るのはあのグレグビーにしてもらった。イヴァンが乗る天竜はまた別の個体で、レチュンという名前らしい。レチュンもグレグビー同様にその場で私が手懐けたため、私はこの保護作戦における主導権を完全に握ることができた。

「それにしても見事だった。本当にお前はオルコットの民…聖獣使いなのだな。」
「疑っていたんですか?」
「いや、この目で見ることができて、改めて実感したんだ。お前は本当に聖獣使いだったんだなと。」

マーロメンの森に向かう道中、イヴァンにそう声を掛けられた。キルベキア王国にいたときも何度か同じことを言われた記憶があり、私の中では掛けられる声としてはあるあるな部類のセリフだった。そんなセリフがイヴァンから出てきたことが、何故だかおかしく感じてしまい、私は1人小さく笑った。

「改めて確認です。まず、見つけた聖獣のリーダー格を見つけます。そのリーダー聖獣に、私が”仲間を集めて東南の方角の街に迎え”と支持を出します。」
「お前はリーダー聖獣に従い行動し、群れをまとめる。俺はその群れの後ろをまとめればいいんだな。」
「はい。群れの後ろでまとめる役は、とても重要な役割です。必ず成功させましょう。」

お互いの顔を見合い、力強く頷き合う。私たちは天竜を加速させ、目的地であるマーロメンの森を目指した。

◇◇◇

「…!あれは!」
「知っている聖獣か?」
「はい!天馬のリーダー格であるスヴァナという個体です!周りに何頭かいるのも、キルベキアの聖獣舎から逃げ出した個体で間違いないです!」

マーロメンの森に入って数十分、川のほとりに佇んでいる天馬の集団を発見した。天馬の中でも一際大きな体であるリーダーのスヴァナを筆頭に、6匹ほどその場にいるのが見えた。イヴァンが調べてくれた情報によると、例のキルベキア聖獣舎倒壊事故で逃げ出した天馬の数は21頭。あと15頭はどこかにいるはずだ。

私はグレグビーの手綱を握り、スヴァナの元へ降り立つ。イヴァンには上空から様子を見ていてもらうため、その場で待機してもらうことにした。

私は天馬の群れから少し離れた場所にグレグビーを待機させ、スヴァナたちの元に単身で向かう。スヴァナたちは一応他の聖獣にも慣れているはずだけど、余計な刺激は与えたくないためグレグビーには離れてもらった。


「”スヴァナ、私だ。アメリアだ。覚えているか?”」

私はスヴァナの前に立ち、小さくゆっくりとした声色で話しかけてみた。スヴァナは私のことを覚えていてくれたのか、頭を下げてながら大きく嘶く。

「”…!よかった、覚えていてくれたんだね!”」

私はスヴァナの顔に手を伸ばし、優しく毛を撫で上げた。スヴァナは顔をぶんぶん振りながら、私に答えてくれる。
視線を感じて後ろを振り返ると、グレグビーが半目でこちらを見つめていた。どうやら、撫でたりなかったらしい。スヴァナに羨望の眼差しを向けているのが分かった。

(後で撫でてあげるから。)

私は心の中でそう呟き、スヴァナの方に振り返る。

「”スヴァナ、仲間を集めて東南の方角の街に迎って欲しい。”」
「…。」

スヴァナは大きく頷くと、その場にいた他の天馬たちに向けて大きく嘶いた。この場にいた天馬たちがスヴァナに合わせて飛び立ち、西へ向かうのが見える。おそらく、他の天馬の群れがそちらの方角にいるのだろう。

「イヴァン!スヴァナを追ってください!」
「承知!」

私はイヴァンに声を掛けると、イヴァンはスヴァナの後を追って飛び立っていった。私も急いでグレグビーに飛び乗り、後を追う。上空にいるころには、イヴァンとスヴァナたちが先の先の方で飛んでいるのが見えた。

「”グレグビー、行くよ!”」

私が指を差しながら指示を出すと、グレグビーは唸り声をあげた。大きく翼を羽ばたかせて、イヴァンたちの跡をつける。小さくなっていくイヴァンたちを追い、私とグレグビーは急いで彼の元に向かった。


◇◇◇

「20、21。よし、これで報告にあった頭数が揃ったな。」
「はい。とりあえず、天馬をラルヴァクナ聖獣舎に向かわせましょう。」

あれから1時間ほど駆け回り、記録にあった頭数を集めて群れを作ることができた。私は1頭1頭に声を掛け、顔を確認していく。きちんと全員顔見知りであり、私のことを覚えていてくれた。

拗ねていたグレグビーも存分に撫でまわし、ご機嫌をとっておいた。聖獣は神聖で孤高の存在だと言う人もいるけど、私からしてみればブランディ牧場で駆け回っているゾロンとあまり大差はない。

「”スヴァナ、変わらず先導を頼む。東南の方角の街に迎って欲しい。”」

スヴァナが飛び立つのと同時に、私もグレグビーと共に飛び立つ。当初の予定通り、イヴァンは後ろから群れの様子を見てくれていた。みんな良い子たちばかりなのが幸いし、滞りなく事が運ぶ。

私たちは少し飛ぶ速度を上げ、ラルヴァクナの聖獣舎を目指した。


◇◇◇

聖獣の保護作戦は、3日に分けて行われた。2日目は天竜ベルクトリガン、3日目は天狼の群れを保護した。資料通り、天竜ベルクトリガンは16頭、天狼は32頭保護することができた。私とイヴァンは最後の天狼が聖獣舎に入ったのを確認し、扉を閉めて鍵をかける。

「…以上で、保護作戦、終了です!」
「ああ、上手く事が運んで安心した!アメリア、お疲れ様!」
「イヴァンもお疲れ様です!」

私とイヴァンは聖獣たちを驚かせないように、小さな声で労をねぎらい合う。お互いを抱き締め、拳と拳を軽くぶつけて歓喜する。

今回の影の功労者であるグレグビーとレチュンにも、後でお礼を言いに行こうと、イヴァンと約束をした。
この時、イヴァンが向ける優しい眼差しに、私は気付いていなかった。
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