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1章 此花 美桜
大好きよ
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「仲良くなるの早いねぇ、二人とも」
「当然です。私ですから」
二人分の夕飯の配膳をする萌姉と、なんとなくデジャヴを感じるやり取りを繰り広げる真璃。
真璃の提案を受けて、私と真璃は私の病室で一緒に夕飯を食べることになった。
今は病室の中にある小さめのテーブルに、二人で向かい合って座っている。
小さめと言っても、二人で夕飯を食べる分には問題ない大きさだ。
「お、カレーだ」
萌姉が並べてくれた夕飯を見て、つい呟いた。
「みぃちゃん、カレー好きだもんね~」
萌姉は、言いながら真璃の方にもお皿を並べる。
真璃の方に並べられるのも当然カレーだと思っていたが、そこにあったのは卵が混ざったお粥だった。
私の方にはカレーの他にもサラダや林檎などもあったが、真璃にはそれも無い。
「真璃、お粥だけなの?」
不思議に思ってそう聞くと、真璃は頷く。
「ええ。私にはこれで十分なの」
真璃はそう言うが、普通なら病院食が違うなんてことは無いはずだ。
あったとしても、お粥だけというのは少しおかしい気がする。
あまり考えないようにしていたが、真璃の体の調子は、私が思っているよりも悪いのかもしれない。
「じゃああたしは他の部屋にも行かないとならないから、もう行くね」
配膳が終わった萌姉は、扉を開けながら言う。
「うん。ありがとう」
萌姉は手を振りながら出て行った。
「さて、食べましょうか」
「そうだね」
二人で「いただきます」と手を合わせた後、真璃はレンゲを、私はスプーンを手に取り、それぞれの夕飯を食べ始める。
私はカレーを咀嚼しながら、真璃のお粥を見つめた。
お粥は風邪をひいた時よくお母さんに作ってもらったが、あまり美味しいイメージは無く、私はそんなに好きではない。
「味、気になる?」
私の視線に気づいたのか、真璃がお粥を食べていた手を止めて言う。
「ん、ちょっとだけね」
そう答えると、真璃はお粥をレンゲですくって私の方に向けてきた。
「はい、あーん」
「え!?」
その顔は相変わらずいい笑顔だ。
「いやいや、大丈夫だよ! 貰うなら貰うで、このスプーン洗って自分で食べるし!」
「あーん!」
必死に首を横に振って断るも、真璃は全く聞き入れる気は無いようだ。
満面の笑みでレンゲをこちらに向ける真璃を退けるのは無理だろうと、私は何となく悟った。
「…………あーん」
私は真璃のレンゲに向け、おずおずと口を開ける。
恥ずかしい。
さっき頬にキスされた時と同じくらい体が熱くなってきた。
またもや私の顔は真っ赤になっているに違いない。
真璃の持つレンゲの先が私の口に入ってくる。
口を閉じてお粥を受け取ると、レンゲはゆっくりと引き抜かれた。
少しの咀嚼の後、お粥はすぐに喉に流れていく。
「どう?」
真璃が聞いてくるが、味はよく分からなかった。
味付け自体が薄いこともあるだろうが、とにかく緊張のせいである。
「……うん、おいしい」
正直に言おうか数瞬だけ逡巡した後、しかし私はおいしいと答えることにした。
分からなかったと答えたら、「じゃあもう一口」となる未来が見えた気がしたからだ。
それを聞いた真璃は満足そうにして言う。
「じゃあ私にもカレーちょうだい」
「え?」
この流れは明らかにあーんを要求されている。
「でも食べて大丈夫なの? 良くないからお粥なんじゃないの?」
「一口くらい大丈夫よ」
そう言いつつ、真璃はこちらに向かって口を開けた。
ですよね。
私はまださっきの緊張が残っている体を動かしてカレーをすくうと、そのスプーンを真璃の口に入れる。
真璃が口を閉じるのを確認して、スプーンを引き抜いた。
「うん。カレーは安定のおいしさね」
カレーを食べる真璃は嬉しそうに感想を言う。
私は大きく息を吐いて、体の熱を冷ますようにコップの水を飲みほした。
「真璃ってさ、絵描くのが好きなの?」
あーんの後はおとなしく食事を進めていた真璃に、私は談話室で見たスケッチブックの絵を思い出しながら聞いてみる。
「好きよ。小さい頃から親によく色々絵画を見せられててね。だから自分でも描いてみたいって思ったのがきっかけだったわ」
「へぇー。絵画って、美術館に飾られてるようなやつでしょ?」
「そうね。私のお父さんとお母さんは、特にフランス絵画が好きだったみたい」
「フランス絵画……」
私は美術や芸術には全くと言っていいほど疎い。
昔から絵心は無いし、フランス絵画とか言われても正直全然分からないけど。
真璃の柔らかい笑みを見ると、本当に絵が好きなんだというのが伝わってきた。
「だから私の名前を付けるときも、フランスの女流画家から名前を探したらしいわ」
「マリって人がいたの?」
「ええ。マリとかマリーとかね。もっとも、日本人の名前にそのまま持ってこれるような名前が、それくらいしか無かったみたいだけど」
そう言って真璃はおかしそうに笑う。
「でも真璃の絵、ほんとに上手だったよ。ちょっとしか見てないけど」
「ありがとう。いくつか賞も貰って、有名な人から才能があるって褒められたこともあったわ」
「凄いじゃん!」
真璃の言葉に驚いていると、真璃の顔からふっと笑顔が消えた。
「でもそれが気に入らない人がいたのか、学校では色々酷い事を言われたりされたりしてね。しかもちょうどその頃私の体も調子が悪くなって、絵を描くのが嫌になった時があったの」
「え……」
私は、どう言葉を返していいかすぐには分からない。
まだ知り合って数時間だが、真璃はいつも笑顔だし、コミュニケーション能力も高いし、そんな話とは無縁のような印象を勝手に持っていた。
かける言葉を頭の中で思慮していたが、真璃は思い出すように目を閉じて、口を開いた。
「そして自暴自棄になって、何もかもどうでもいいやって思ってたんだけど。そんな時ね、懸命に励まして、こう言ってくれた人がいたの」
————そんなの気にする必要ないじゃん。あなたの絵は凄く綺麗なんだから。友達が欲しいなら私がなるし、絵を描く理由が欲しいなら私が見たいって理由があるよ。あなたが絵をやめちゃうのは、絶対勿体ないよ!————
「私はその人に随分救われたわ。今こうやって笑っていられるのも、その人のお陰なの」
そう語る真璃の顔に、また優しい笑顔が帰ってくる。
その顔を見て、私はかける言葉を迷っていた事も忘れて思わず声を発した。
「好きなんだね。その人が」
真璃が驚いたように目を開く。
そして私を見据えると、晴れやかな笑顔で言った。
「ええ、大好きよ」
多分、その人には一生かなわないな。
なんてことを、無意識に考えたのは内緒だ。
「当然です。私ですから」
二人分の夕飯の配膳をする萌姉と、なんとなくデジャヴを感じるやり取りを繰り広げる真璃。
真璃の提案を受けて、私と真璃は私の病室で一緒に夕飯を食べることになった。
今は病室の中にある小さめのテーブルに、二人で向かい合って座っている。
小さめと言っても、二人で夕飯を食べる分には問題ない大きさだ。
「お、カレーだ」
萌姉が並べてくれた夕飯を見て、つい呟いた。
「みぃちゃん、カレー好きだもんね~」
萌姉は、言いながら真璃の方にもお皿を並べる。
真璃の方に並べられるのも当然カレーだと思っていたが、そこにあったのは卵が混ざったお粥だった。
私の方にはカレーの他にもサラダや林檎などもあったが、真璃にはそれも無い。
「真璃、お粥だけなの?」
不思議に思ってそう聞くと、真璃は頷く。
「ええ。私にはこれで十分なの」
真璃はそう言うが、普通なら病院食が違うなんてことは無いはずだ。
あったとしても、お粥だけというのは少しおかしい気がする。
あまり考えないようにしていたが、真璃の体の調子は、私が思っているよりも悪いのかもしれない。
「じゃああたしは他の部屋にも行かないとならないから、もう行くね」
配膳が終わった萌姉は、扉を開けながら言う。
「うん。ありがとう」
萌姉は手を振りながら出て行った。
「さて、食べましょうか」
「そうだね」
二人で「いただきます」と手を合わせた後、真璃はレンゲを、私はスプーンを手に取り、それぞれの夕飯を食べ始める。
私はカレーを咀嚼しながら、真璃のお粥を見つめた。
お粥は風邪をひいた時よくお母さんに作ってもらったが、あまり美味しいイメージは無く、私はそんなに好きではない。
「味、気になる?」
私の視線に気づいたのか、真璃がお粥を食べていた手を止めて言う。
「ん、ちょっとだけね」
そう答えると、真璃はお粥をレンゲですくって私の方に向けてきた。
「はい、あーん」
「え!?」
その顔は相変わらずいい笑顔だ。
「いやいや、大丈夫だよ! 貰うなら貰うで、このスプーン洗って自分で食べるし!」
「あーん!」
必死に首を横に振って断るも、真璃は全く聞き入れる気は無いようだ。
満面の笑みでレンゲをこちらに向ける真璃を退けるのは無理だろうと、私は何となく悟った。
「…………あーん」
私は真璃のレンゲに向け、おずおずと口を開ける。
恥ずかしい。
さっき頬にキスされた時と同じくらい体が熱くなってきた。
またもや私の顔は真っ赤になっているに違いない。
真璃の持つレンゲの先が私の口に入ってくる。
口を閉じてお粥を受け取ると、レンゲはゆっくりと引き抜かれた。
少しの咀嚼の後、お粥はすぐに喉に流れていく。
「どう?」
真璃が聞いてくるが、味はよく分からなかった。
味付け自体が薄いこともあるだろうが、とにかく緊張のせいである。
「……うん、おいしい」
正直に言おうか数瞬だけ逡巡した後、しかし私はおいしいと答えることにした。
分からなかったと答えたら、「じゃあもう一口」となる未来が見えた気がしたからだ。
それを聞いた真璃は満足そうにして言う。
「じゃあ私にもカレーちょうだい」
「え?」
この流れは明らかにあーんを要求されている。
「でも食べて大丈夫なの? 良くないからお粥なんじゃないの?」
「一口くらい大丈夫よ」
そう言いつつ、真璃はこちらに向かって口を開けた。
ですよね。
私はまださっきの緊張が残っている体を動かしてカレーをすくうと、そのスプーンを真璃の口に入れる。
真璃が口を閉じるのを確認して、スプーンを引き抜いた。
「うん。カレーは安定のおいしさね」
カレーを食べる真璃は嬉しそうに感想を言う。
私は大きく息を吐いて、体の熱を冷ますようにコップの水を飲みほした。
「真璃ってさ、絵描くのが好きなの?」
あーんの後はおとなしく食事を進めていた真璃に、私は談話室で見たスケッチブックの絵を思い出しながら聞いてみる。
「好きよ。小さい頃から親によく色々絵画を見せられててね。だから自分でも描いてみたいって思ったのがきっかけだったわ」
「へぇー。絵画って、美術館に飾られてるようなやつでしょ?」
「そうね。私のお父さんとお母さんは、特にフランス絵画が好きだったみたい」
「フランス絵画……」
私は美術や芸術には全くと言っていいほど疎い。
昔から絵心は無いし、フランス絵画とか言われても正直全然分からないけど。
真璃の柔らかい笑みを見ると、本当に絵が好きなんだというのが伝わってきた。
「だから私の名前を付けるときも、フランスの女流画家から名前を探したらしいわ」
「マリって人がいたの?」
「ええ。マリとかマリーとかね。もっとも、日本人の名前にそのまま持ってこれるような名前が、それくらいしか無かったみたいだけど」
そう言って真璃はおかしそうに笑う。
「でも真璃の絵、ほんとに上手だったよ。ちょっとしか見てないけど」
「ありがとう。いくつか賞も貰って、有名な人から才能があるって褒められたこともあったわ」
「凄いじゃん!」
真璃の言葉に驚いていると、真璃の顔からふっと笑顔が消えた。
「でもそれが気に入らない人がいたのか、学校では色々酷い事を言われたりされたりしてね。しかもちょうどその頃私の体も調子が悪くなって、絵を描くのが嫌になった時があったの」
「え……」
私は、どう言葉を返していいかすぐには分からない。
まだ知り合って数時間だが、真璃はいつも笑顔だし、コミュニケーション能力も高いし、そんな話とは無縁のような印象を勝手に持っていた。
かける言葉を頭の中で思慮していたが、真璃は思い出すように目を閉じて、口を開いた。
「そして自暴自棄になって、何もかもどうでもいいやって思ってたんだけど。そんな時ね、懸命に励まして、こう言ってくれた人がいたの」
————そんなの気にする必要ないじゃん。あなたの絵は凄く綺麗なんだから。友達が欲しいなら私がなるし、絵を描く理由が欲しいなら私が見たいって理由があるよ。あなたが絵をやめちゃうのは、絶対勿体ないよ!————
「私はその人に随分救われたわ。今こうやって笑っていられるのも、その人のお陰なの」
そう語る真璃の顔に、また優しい笑顔が帰ってくる。
その顔を見て、私はかける言葉を迷っていた事も忘れて思わず声を発した。
「好きなんだね。その人が」
真璃が驚いたように目を開く。
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なんてことを、無意識に考えたのは内緒だ。
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