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ここから始まる僕らの物語

トラップさんの能力

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「──落トシ穴ニ、括リ罠、後ハワイヤートラップクライダナ。洞窟ノ中ダッタラ他ニモ色々デキルガ・・・」

 儀式によって新たなゴブリン──罠が得意だということで、通称『トラップさん』と呼ぶことになった。

 触媒として使ったのは、おじさんの腰にぶら下げられていた『トラバサミ』って名前の罠。ギザギザの歯が付いた金属製の物で、人間が森に仕掛けたのをいただいて来たものらしい。
 どうにもお気に入りだったみたいで、触媒に使うって決まったとき、おじさんはスゴく悩みに悩み抜いて涙目で首を縦に振っていたくらい。
 ゴメンねおじさん。だって他の物ときたら、縄とか堅い木の枝で作った矢とかそういったものばっかりで、一目で罠と分かるものがそれしかなかったから仕方ないよね?

 今度もし、森で見つけたら拾っておくから。ね?

 今はそのトラップさんが使える罠を、5人で焚き火を囲み確認しているところだ。

 なんでそんなことをしているかというと、僕達は今、僕も含め戦えないものを合わせて10人しかいない絶体絶命の状況だ。近くの森や洞窟を探せば別の生き残りの集団も多分いるだろうけど、きっとこことそれほど人数の違いはないと思っている。
 それをいくら集めたところで、無傷の5倍以上はくだらない『犬』の兵隊達を相手に真向勝負では勝てないことは誰でも分かる。

 それで思い付いたのが、罠を仕掛けて敵を無力化してしまえってこと。自分でも、なんで急にそんなことを思いついたのかはさっぱり分からない。
 これまでに、トラップさんのようには存在していなかった。それは、おじさんもホブおじさんも、ヒーラー様も知らなかったから間違いないだろう。

 僕自信、口から自然に言葉が出てきたものの、その言葉に半信半疑だった。でも・・・、なぜか確信があった。

「・・・罠トシテハ、アリキタリダナ」

 トラップさんが何かを読み上げるように告げた内容を、おじさんは然もつまらなそうに聞いていた。

 それもそのはず。おじさんはハンターとして、普段からそういった罠を使ってさっきまで僕が食べていたような獲物を捕らえて来ているからだ。

 お気に入りのトラバサミを触媒に作られたトラップさんの能力が、自分が普段している仕事と変わらなければ面白くなくて当然だろう。
 ホブおじさんもヒーラー様も何も言いはしないが、同じ考えのようだった。

 でも──

 僕は何かを感じていた。

「──それだけ?他にも出来ることある気がするんだけど・・・?」

 ふと、そんな言葉が口から勝手にこぼれた・・・。

 もちろん、そう思った根拠なんてない。そう思うことが当たり前かのように、自然と言葉が声になった。

「・・・ン?。他ニモ?オマエハ何ヲ言ッテ──」

 ピタ──と、言葉を途中で句切ると、トラップさんは腕を組んで何やら考え始める。

「・・・ドウシタ?」

 おじさんの問いかけも聞こえていないのか、しばらくそのまま何かを考えていたトラップさんだったが、今度は急に何かに驚いたように眼を見開いた。

「ッ!?・・・イヤ。出来ル・・・。今ノ俺ノレベルナラ、『条件ifトラップ』トイウモノガ使エル・・・」
「ハ・・・?"イフトラップ"・・・?」


 初めて聞く言葉に僕ら4人は揃って首をかしげる。おじさんが「オ前ハ知ッテタンジャナイノカ?」的な顔で僕を見てきたが、そんなの知ってるはずないじゃないか。

 その『条件ifトラップ』なるものは、トラップさんの説明によるとこうだ──

 それはかなり特殊な罠らしく、扉や箱やそれこそ地面とか色々な場所にによって発動する罠を仕掛ける能力らしい。
 例えば、罠を仕掛けた扉を開けた人がゴブリンじゃなかった場合だけ罠が発動したりとか、地面を踏んだときにその人が一定以上の重さだったりしたときに罠が発動したりとかを決めることが出来るというもの。

「──発動スル罠ハ、俺ガ使エルモノヲ組ミ合ワセラレルミタイダナ」

 何もなかった地面に急に落とし穴があらわれたり、扉を開けた瞬間に矢が飛んで来たり来なかったり。みたいなことが可能らしい。複雑だけどなかなか便利で面白い能力のようだ。

「な、なんだか、すごいね。工夫しだいで色んなことが出来そうじゃない?」

 上手く仕掛ければ、数の不利を覆せるかもしれない。

 でも待てよ・・・。実際どれくらいのことが出来るんだろう?落とし穴を仕掛けるとしても、実際に穴を掘るわけではない・・・のかな?矢が飛んでくるような罠も、直接仕掛けた場合と違いはあるんだろうか?
 そんなに変わらなければ意味はないかも・・・。実はあんまり大したことない?

「ウ~ン・・・、ヨクワカランナ。実際ニヤッテミテクレンカ?」

 ホブおじさんは説明がいまひとつ分からなかったみたいで、腕を組んで小首を傾げている。可愛いメスゴブリンならまだしも、強面のホブおじさんがそんな仕草をしてもただ恐いだけだ。

「アア。俺自身モドレクライナノカ分カラナイカラナ。チョット試シテミルカ・・・」

 そう言ってトラップさんは立ち上がり少し離れた場所まで歩くと、足下の地面に手を触れた。

「──サア、出来タゾ。ホブ・・・、チョットココニ立ッテミテクレ」
「ン?オ、オオ・・・?」

 トラップさんが地面に触れていた時間はほんの数秒。え?もう仕掛けたの?何かしていたようには見えなかったけど・・・。

 ホブおじさんは半信半疑、恐る恐るトラップさんが立っていた場所にゆっくりと足を進める。さっきまでトラップさんが立っていたその地面にホブおじさんの足が乗った途端──!?ホブおじさんの姿が一瞬で消えてしまった・・・。

「──ホブサンッ?!」

 慌てて皆で駆け寄る。するとそこには──地面にポッカリと大柄なホブおじさんの身体がすっぽり納まるくらいのが出来ていた。

 おじさんとトラップさん2人がかりでホブおじさんをひっぱり上げる。とくに怪我はないみたいだ。

「・・・イッタイ、イツノマニ穴ヲ掘ッタンダ?ソレトモ、元カラココニ穴ガアッタノカ?」

 ホブおじさんは自身が落ちた穴を不思議そうに眺める。だから~、首を傾げるのは止めてって。

 でも・・・、本当に不思議だな・・・。

 ホブおじさんが疑問に思うのも仕方ない。ここには元からし、トラップさんは穴を
 トラップさんは地面に数秒触れただけ・・・。しかも、ホブおじさんの足が乗る直前まで、トラップさんはその場所に

「・・・何カシラノ条件デ発動スル、落トシ穴ヲ作ッタトイウノデスカ・・・?」
「ソウダ。俺ヨリ重イモノガ乗ッタラ発動スル落トシ穴ヲ仕掛ケタ。案外簡単ナモンダナ」

 ヒーラー様の質問にあっさりとした風に応える。どうやったかなんて全然分からないのに、さも当然のように。

「マア、俺ニモ原理ハサッパリ分カラナイケドナ。落トシ穴ヲ作ル──ト念ジナガラ条件ifトラップヲ発動シタラ、勝手ニ出来上ガッタ。ハハッ!コレジャマトモニ罠ヲ仕掛ケルノガバカミタイダナ」

すごい──

これは、想像以上にとんでもない能力だ・・・。これなら、本当にどうにかなるかもしれない・・・。

「トラップさん。あとはどんなことが出来るの・・・?思いつくかぎり試してみようよ──
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