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ここから始まる僕らの物語
コボルトのビーグル
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僕は今・・・、行軍中だ。
目的地はミドリ──ゴブリン達の集落に近い身体の資源が採れる鉱脈。
手には、木の棒の先に石を削って尖らせた穂先を取り付けた槍と、厚い木の皮を3重にして作った胸当てを付けている。
人数は全部で50人ほど。ゴブリンは数の多い種族だっていうけどこれだけの人数で大丈夫なのかな?と思ったが、どうやらゴブリン達はちょっと前に人間達に襲われて数が減ってしまったみたいだ・・・って、誰かが言っていた。
50人の内訳は、生粋の戦士族であるドーベル族の隊長を筆頭に、僕らビーグル族にダックス族、パグ族なんかの新人含めたごく普通の兵隊達。
「ね、ねぇ・・・。本当にこんな人数で大丈夫なのかな?」
「うん?ははっ。お前って本当に臆病だな。相手は弱ったミドリだぜ?それにこっちにはドーベルの隊長だっているんだ!これだけいればトカゲとだって戦えるぜ!」
隣を歩く顔見知りのダックスに不安をこぼしてみたんだけど、軽く笑われてしまった。こいつには普段から「お前は臆病だ」って言われるけど、僕だって一応狩猟を生業にしてる戦士の一族なんだぞ。
・・・まぁ、慎重派であるとは思ってるけど・・・。
「でも・・・、向こうにだって身体の大きい人もいるだろうし、こっちは半分くらい経験の少ない新人だよ?ケンカしたら怪我する子がたくさん出ちゃうんじゃ」
「ケンカって言ったって鉱脈を占領したら終わりだろ?新人達にだってちょうどいい経験になるさ」
こいつはもう勝った気でいるのかな。僕は父さんから「手負いの獲物が一番危険だ。有利と思っても仕留めるまでは油断するな」と、狩猟の心意気を教わった。
ゴブリン達だってそんな状況じゃ、必死で何をしてくるか分かったもんじゃない。
「おい、お前ら!何を弱気なことを言ってるか!栄えあるコボルト族の戦士が戦いを前にしてふざけたことを。夜営地に着いたら罰を与えるからな。お前ら覚えておけ!」
「ええっ?!・・・は、はいぃ」
前を歩いていた僕達の班のパグ班長に聞こえてしまったみたいで、振り返ったと思ったらヨダレを飛ばしながら怒られてしまった。
(・・・おい!俺まで怒られたじゃねぇかよ!あぁ~~、罰っていつものアレかな~・・・マジ最悪・・・)
(・・・ごめん・・・)
僕らの班恒例の罰といえば、地獄の腕立て百回。・・・地味だけどきついんだよなぁ・・・。
はぁ・・・。皆、ケンカなんてしないで仲良くしたら良いのに。どうして僕らは争うんだろう──
身体の資源が採れる鉱脈までの道のりのちょうど中間ほどにある川のほとりで今日は夜営をするみたいだ。鉱脈へはゴブリン達の棲みかのほうが近いみたいで、先に取られちゃうんじゃないかと思ったんだけど、十分取り返せるだけの戦力はあるから問題ないんだってさ。
今は、班ごとに寝ぐらの設営と食事の準備。僕は顔見知りのダックスと一緒に焚き火に使う木材と何か食べれそうなものを探しに川沿いを歩いていた。
「お~い。なんか旨そうなものあったか~?」
ちゃんと探す気があるのかないのか、ダックスは平たい小石を拾っては川に投げてばかりいる。最初はすぐに沈んでいたがだんだんと水の上を走るように跳ねだしていた。こいつって変なとこ器用なんだよな。
「・・・君もちゃんと探してよ。食事抜きにされても知らないよ?」
腕立てをやらされたおかげで、少しの木材がやたらと重く感じる。なるべく早く終わらせて、早く食事を食べて、野宿は嫌いだけど早く疲れた足を休めたいのに・・・。
「大丈夫だって。俺ら以外にも拾ってるんだからさ。探したけどあまりなかったです~、とか言っとけば分かりゃしないって」
「そんなの嘘だってすぐバレちゃうよ?ちょっとでもいいからほら、拾いなって」
言いながら足下の枝をまた1本拾う。この辺りはよく燃えそうな枝が点々と落ちてるな。こいつの分も拾うしかないか・・・はぁ。
重くなった枝がズキンと腕を刺激する。思わずダックスに恨みの視線を向けると──あれ?姿が見えない。さっきまでそこにいたのに・・・。
「お~い?どこ行ったの~?」
返事はない。まったくどこに行ったんだ?こっちの気も知らないでいい気なもんだよ。サボってたこと班長にこっそり告げ口しちゃおうかな。
彼のことは諦めて自分の食事をしっかりと確保するためにもう少し拾っていこうとまた川沿いを歩く。この辺りまで来たのは今回が初めて。集落の近くにも川は流れているけど、ここの川は流れも穏やかで眼を凝らすと川底の岩陰に魚の姿も見れる。
こんな状況じゃなきゃ、竿と何か食べれるものを持ってゆっくり釣りを楽しみたいくらいだ。
「・・・無事帰れたら、チワワちゃんでも誘ってみようかな・・・うわっ──?!」
そんな妄想にうつつを抜かしていたら、まんまと足下の岩につまずき転んでしまった。抱えていた枝木がカランカランと大きな音を立てる。
「───ヒッ?!!」
ん?今の悲鳴は・・・自分の声でないのは確かだ。聴こえてきたのは川の向こう岸──
そこにいたのは、小柄な身体で一生懸命に僕と同じく枝木を拾うミドリ色の肌をした2足歩行の生き物がふたつ・・・。
「え?え?ゴ・・・ゴブ・・・リン?」
思いがけない遭遇に身体が固まる。あれ?えっと・・・、どうしたらいいのかな?
向こうの2人もまさか僕がここにいると思っていなかったのか、お互いに逃げも隠れもせずしばらく見つめあってしまった。な、何か言ったほうがいいかな・・・。
「・・・こ、こんにち、は?」
ちょっと顔がひきつっていたかもしれないけど、頑張って笑顔を作って手を振ってみる。
「───ッ!!?」
──のだが、1人は怯え、もう1人はそれなりの太さと長さのある枝を両手で握り、僕に向け構えてしまった。
「あっ!いやっ、僕は何もしないよっ?!ほら──」
慌てて両手を上げて敵意がないことを訴える。本当は明日にでも戦うかもしれない相手だから、こんなことしてるのが班長にバレでもしたら、腕立てを何回やらされるか分かったもんじゃないけど・・・。
あんな小さな子供(なのかな?)にまで、僕は何かをしたくない。
2人はまだ警戒を解いてはくれないけど、敵意がないことだけはどうやら伝わったみたいだ。少し戸惑った顔でこちらを見ている。
「おーい!どこいったんだー?こっちに旨そうな実がなってるからお前も来いよー!」
「うわっ?!」「──ッ!?」
森の中から急に、どこかにいなくなっていたダックスの大声が響いた。
びっくりしたなぁ・・・。せっかく少し警戒を弛めてくれていたゴブリン達も声のした方へまた警戒を強めてしまった。
「だ、大丈夫だよ!僕の知ってるやつの声だから。何もしないからっ・・・」
とは言ってみたものの、ダックスがここに来てしまったら何もしないとは言い切れない・・・。もしかしたら2人を傷つけて班長につき出してしまうかもしれない──
「き、君たちっ!ここは危ないかもしれないから、もう離れたほうがいいよっ!今なら誰にも気づかれてないから・・・ほらっ。早くっ!」
そうさせないために、身ぶり手振りを交えて2人に必死に訴える。僕の動きでも驚かせてしまったみたいでゴメンよ。でも、それでいい。
2人は少し困惑をしていたが、そろそろと静かに森の中に消えていった──
「──おい!何やってるんだよ?」
「っ?!えっ?な、何もしてないよっ」
2人が消えたと同時に誰かに肩を叩かれた。驚いて尻もちをついてしまい、また木枝が乾いた音を立てて転がる。
「ははっ!お前ってほんと臆病だな。ほら、早く行こうぜ。この実マジで旨いからさ。これ採って帰ったら班長から褒められるぜ、きっと」
旨いというその実に囓りつきながら、また森の中に消えていく。ほっ・・・気づかれてはなかったみたいだ。
僕は首を回し向こう岸に目を向ける。ゴブリン達もすでに姿は見えなくなっている。
明日、どうなるかはまだ分からないけれど・・・、あの子達がどうか無事でありますように──
目的地はミドリ──ゴブリン達の集落に近い身体の資源が採れる鉱脈。
手には、木の棒の先に石を削って尖らせた穂先を取り付けた槍と、厚い木の皮を3重にして作った胸当てを付けている。
人数は全部で50人ほど。ゴブリンは数の多い種族だっていうけどこれだけの人数で大丈夫なのかな?と思ったが、どうやらゴブリン達はちょっと前に人間達に襲われて数が減ってしまったみたいだ・・・って、誰かが言っていた。
50人の内訳は、生粋の戦士族であるドーベル族の隊長を筆頭に、僕らビーグル族にダックス族、パグ族なんかの新人含めたごく普通の兵隊達。
「ね、ねぇ・・・。本当にこんな人数で大丈夫なのかな?」
「うん?ははっ。お前って本当に臆病だな。相手は弱ったミドリだぜ?それにこっちにはドーベルの隊長だっているんだ!これだけいればトカゲとだって戦えるぜ!」
隣を歩く顔見知りのダックスに不安をこぼしてみたんだけど、軽く笑われてしまった。こいつには普段から「お前は臆病だ」って言われるけど、僕だって一応狩猟を生業にしてる戦士の一族なんだぞ。
・・・まぁ、慎重派であるとは思ってるけど・・・。
「でも・・・、向こうにだって身体の大きい人もいるだろうし、こっちは半分くらい経験の少ない新人だよ?ケンカしたら怪我する子がたくさん出ちゃうんじゃ」
「ケンカって言ったって鉱脈を占領したら終わりだろ?新人達にだってちょうどいい経験になるさ」
こいつはもう勝った気でいるのかな。僕は父さんから「手負いの獲物が一番危険だ。有利と思っても仕留めるまでは油断するな」と、狩猟の心意気を教わった。
ゴブリン達だってそんな状況じゃ、必死で何をしてくるか分かったもんじゃない。
「おい、お前ら!何を弱気なことを言ってるか!栄えあるコボルト族の戦士が戦いを前にしてふざけたことを。夜営地に着いたら罰を与えるからな。お前ら覚えておけ!」
「ええっ?!・・・は、はいぃ」
前を歩いていた僕達の班のパグ班長に聞こえてしまったみたいで、振り返ったと思ったらヨダレを飛ばしながら怒られてしまった。
(・・・おい!俺まで怒られたじゃねぇかよ!あぁ~~、罰っていつものアレかな~・・・マジ最悪・・・)
(・・・ごめん・・・)
僕らの班恒例の罰といえば、地獄の腕立て百回。・・・地味だけどきついんだよなぁ・・・。
はぁ・・・。皆、ケンカなんてしないで仲良くしたら良いのに。どうして僕らは争うんだろう──
身体の資源が採れる鉱脈までの道のりのちょうど中間ほどにある川のほとりで今日は夜営をするみたいだ。鉱脈へはゴブリン達の棲みかのほうが近いみたいで、先に取られちゃうんじゃないかと思ったんだけど、十分取り返せるだけの戦力はあるから問題ないんだってさ。
今は、班ごとに寝ぐらの設営と食事の準備。僕は顔見知りのダックスと一緒に焚き火に使う木材と何か食べれそうなものを探しに川沿いを歩いていた。
「お~い。なんか旨そうなものあったか~?」
ちゃんと探す気があるのかないのか、ダックスは平たい小石を拾っては川に投げてばかりいる。最初はすぐに沈んでいたがだんだんと水の上を走るように跳ねだしていた。こいつって変なとこ器用なんだよな。
「・・・君もちゃんと探してよ。食事抜きにされても知らないよ?」
腕立てをやらされたおかげで、少しの木材がやたらと重く感じる。なるべく早く終わらせて、早く食事を食べて、野宿は嫌いだけど早く疲れた足を休めたいのに・・・。
「大丈夫だって。俺ら以外にも拾ってるんだからさ。探したけどあまりなかったです~、とか言っとけば分かりゃしないって」
「そんなの嘘だってすぐバレちゃうよ?ちょっとでもいいからほら、拾いなって」
言いながら足下の枝をまた1本拾う。この辺りはよく燃えそうな枝が点々と落ちてるな。こいつの分も拾うしかないか・・・はぁ。
重くなった枝がズキンと腕を刺激する。思わずダックスに恨みの視線を向けると──あれ?姿が見えない。さっきまでそこにいたのに・・・。
「お~い?どこ行ったの~?」
返事はない。まったくどこに行ったんだ?こっちの気も知らないでいい気なもんだよ。サボってたこと班長にこっそり告げ口しちゃおうかな。
彼のことは諦めて自分の食事をしっかりと確保するためにもう少し拾っていこうとまた川沿いを歩く。この辺りまで来たのは今回が初めて。集落の近くにも川は流れているけど、ここの川は流れも穏やかで眼を凝らすと川底の岩陰に魚の姿も見れる。
こんな状況じゃなきゃ、竿と何か食べれるものを持ってゆっくり釣りを楽しみたいくらいだ。
「・・・無事帰れたら、チワワちゃんでも誘ってみようかな・・・うわっ──?!」
そんな妄想にうつつを抜かしていたら、まんまと足下の岩につまずき転んでしまった。抱えていた枝木がカランカランと大きな音を立てる。
「───ヒッ?!!」
ん?今の悲鳴は・・・自分の声でないのは確かだ。聴こえてきたのは川の向こう岸──
そこにいたのは、小柄な身体で一生懸命に僕と同じく枝木を拾うミドリ色の肌をした2足歩行の生き物がふたつ・・・。
「え?え?ゴ・・・ゴブ・・・リン?」
思いがけない遭遇に身体が固まる。あれ?えっと・・・、どうしたらいいのかな?
向こうの2人もまさか僕がここにいると思っていなかったのか、お互いに逃げも隠れもせずしばらく見つめあってしまった。な、何か言ったほうがいいかな・・・。
「・・・こ、こんにち、は?」
ちょっと顔がひきつっていたかもしれないけど、頑張って笑顔を作って手を振ってみる。
「───ッ!!?」
──のだが、1人は怯え、もう1人はそれなりの太さと長さのある枝を両手で握り、僕に向け構えてしまった。
「あっ!いやっ、僕は何もしないよっ?!ほら──」
慌てて両手を上げて敵意がないことを訴える。本当は明日にでも戦うかもしれない相手だから、こんなことしてるのが班長にバレでもしたら、腕立てを何回やらされるか分かったもんじゃないけど・・・。
あんな小さな子供(なのかな?)にまで、僕は何かをしたくない。
2人はまだ警戒を解いてはくれないけど、敵意がないことだけはどうやら伝わったみたいだ。少し戸惑った顔でこちらを見ている。
「おーい!どこいったんだー?こっちに旨そうな実がなってるからお前も来いよー!」
「うわっ?!」「──ッ!?」
森の中から急に、どこかにいなくなっていたダックスの大声が響いた。
びっくりしたなぁ・・・。せっかく少し警戒を弛めてくれていたゴブリン達も声のした方へまた警戒を強めてしまった。
「だ、大丈夫だよ!僕の知ってるやつの声だから。何もしないからっ・・・」
とは言ってみたものの、ダックスがここに来てしまったら何もしないとは言い切れない・・・。もしかしたら2人を傷つけて班長につき出してしまうかもしれない──
「き、君たちっ!ここは危ないかもしれないから、もう離れたほうがいいよっ!今なら誰にも気づかれてないから・・・ほらっ。早くっ!」
そうさせないために、身ぶり手振りを交えて2人に必死に訴える。僕の動きでも驚かせてしまったみたいでゴメンよ。でも、それでいい。
2人は少し困惑をしていたが、そろそろと静かに森の中に消えていった──
「──おい!何やってるんだよ?」
「っ?!えっ?な、何もしてないよっ」
2人が消えたと同時に誰かに肩を叩かれた。驚いて尻もちをついてしまい、また木枝が乾いた音を立てて転がる。
「ははっ!お前ってほんと臆病だな。ほら、早く行こうぜ。この実マジで旨いからさ。これ採って帰ったら班長から褒められるぜ、きっと」
旨いというその実に囓りつきながら、また森の中に消えていく。ほっ・・・気づかれてはなかったみたいだ。
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