魔物による魔物のためのストラテジー

めぐ

文字の大きさ
4 / 16
ここから始まる僕らの物語

コボルトのビーグル

しおりを挟む
 僕は今・・・、行軍中だ。

 目的地はミドリ──ゴブリン達の集落に近い身体の資源が採れる鉱脈。

 手には、木の棒の先に石を削って尖らせた穂先を取り付けた槍と、厚い木の皮を3重にして作った胸当てを付けている。

 人数は全部で50人ほど。ゴブリンは数の多い種族だっていうけどこれだけの人数で大丈夫なのかな?と思ったが、どうやらゴブリン達はちょっと前に人間達に襲われて数が減ってしまったみたいだ・・・って、誰かが言っていた。

 50人の内訳は、生粋の戦士族であるドーベル族の隊長を筆頭に、僕らビーグル族にダックス族、パグ族なんかの新人含めたごく普通の兵隊達。

「ね、ねぇ・・・。本当にこんな人数で大丈夫なのかな?」
「うん?ははっ。お前って本当に臆病だな。相手は弱ったミドリだぜ?それにこっちにはドーベルの隊長だっているんだ!これだけいればトカゲとだって戦えるぜ!」

 隣を歩く顔見知りのダックスに不安をこぼしてみたんだけど、軽く笑われてしまった。こいつには普段から「お前は臆病だ」って言われるけど、僕だって一応狩猟を生業にしてる戦士の一族なんだぞ。
 ・・・まぁ、慎重派であるとは思ってるけど・・・。

「でも・・・、向こうにだって身体の大きい人もいるだろうし、こっちは半分くらい経験の少ない新人だよ?ケンカしたら怪我する子がたくさん出ちゃうんじゃ」
「ケンカって言ったって鉱脈を占領したら終わりだろ?新人達にだってちょうどいい経験になるさ」

 こいつはもう勝った気でいるのかな。僕は父さんから「手負いの獲物が一番危険だ。有利と思っても仕留めるまでは油断するな」と、狩猟の心意気を教わった。
 ゴブリン達だってそんな状況じゃ、必死で何をしてくるか分かったもんじゃない。

「おい、お前ら!何を弱気なことを言ってるか!栄えあるコボルト族の戦士が戦いを前にしてふざけたことを。夜営地に着いたら罰を与えるからな。お前ら覚えておけ!」
「ええっ?!・・・は、はいぃ」

 前を歩いていた僕達の班のパグ班長に聞こえてしまったみたいで、振り返ったと思ったらヨダレを飛ばしながら怒られてしまった。

(・・・おい!俺まで怒られたじゃねぇかよ!あぁ~~、罰っていつものアレかな~・・・マジ最悪・・・)
(・・・ごめん・・・)

 僕らの班恒例の罰といえば、地獄の腕立て百回。・・・地味だけどきついんだよなぁ・・・。

 はぁ・・・。皆、ケンカなんてしないで仲良くしたら良いのに。どうして僕らは争うんだろう──



 身体の資源が採れる鉱脈までの道のりのちょうど中間ほどにある川のほとりで今日は夜営をするみたいだ。鉱脈へはゴブリン達の棲みかのほうが近いみたいで、先に取られちゃうんじゃないかと思ったんだけど、十分取り返せるだけの戦力はあるから問題ないんだってさ。

 今は、班ごとに寝ぐらの設営と食事の準備。僕は顔見知りのダックスと一緒に焚き火に使う木材と何か食べれそうなものを探しに川沿いを歩いていた。

「お~い。なんか旨そうなものあったか~?」

 ちゃんと探す気があるのかないのか、ダックスは平たい小石を拾っては川に投げてばかりいる。最初はすぐに沈んでいたがだんだんと水の上を走るように跳ねだしていた。こいつって変なとこ器用なんだよな。

「・・・君もちゃんと探してよ。食事抜きにされても知らないよ?」

 腕立てをやらされたおかげで、少しの木材がやたらと重く感じる。なるべく早く終わらせて、早く食事を食べて、野宿は嫌いだけど早く疲れた足を休めたいのに・・・。

「大丈夫だって。俺ら以外にも拾ってるんだからさ。探したけどあまりなかったです~、とか言っとけば分かりゃしないって」
「そんなの嘘だってすぐバレちゃうよ?ちょっとでもいいからほら、拾いなって」

 言いながら足下の枝をまた1本拾う。この辺りはよく燃えそうな枝が点々と落ちてるな。こいつの分も拾うしかないか・・・はぁ。

 重くなった枝がズキンと腕を刺激する。思わずダックスに恨みの視線を向けると──あれ?姿が見えない。さっきまでそこにいたのに・・・。

「お~い?どこ行ったの~?」

 返事はない。まったくどこに行ったんだ?こっちの気も知らないでいい気なもんだよ。サボってたこと班長にこっそり告げ口しちゃおうかな。

 彼のことは諦めて自分の食事をしっかりと確保するためにもう少し拾っていこうとまた川沿いを歩く。この辺りまで来たのは今回が初めて。集落の近くにも川は流れているけど、ここの川は流れも穏やかで眼を凝らすと川底の岩陰に魚の姿も見れる。
 こんな状況じゃなきゃ、竿と何か食べれるものを持ってゆっくり釣りを楽しみたいくらいだ。

「・・・無事帰れたら、チワワちゃんでも誘ってみようかな・・・うわっ──?!」

 そんな妄想にうつつを抜かしていたら、まんまと足下の岩につまずき転んでしまった。抱えていた枝木がカランカランと大きな音を立てる。

「───ヒッ?!!」

 ん?今の悲鳴は・・・自分の声でないのは確かだ。聴こえてきたのは川の向こう岸──


 そこにいたのは、小柄な身体で一生懸命に僕と同じく枝木を拾う色の肌をした2足歩行の生き物がふたつ・・・。

「え?え?ゴ・・・ゴブ・・・リン?」

 思いがけない遭遇に身体が固まる。あれ?えっと・・・、どうしたらいいのかな?

 向こうの2人もまさか僕がここにいると思っていなかったのか、お互いに逃げも隠れもせずしばらく見つめあってしまった。な、何か言ったほうがいいかな・・・。

「・・・こ、こんにち、は?」

 ちょっと顔がひきつっていたかもしれないけど、頑張って笑顔を作って手を振ってみる。

「───ッ!!?」

 ──のだが、1人は怯え、もう1人はそれなりの太さと長さのある枝を両手で握り、僕に向け構えてしまった。

「あっ!いやっ、僕は何もしないよっ?!ほら──」

 慌てて両手を上げて敵意がないことを訴える。本当は明日にでも戦うかもしれない相手だから、こんなことしてるのが班長にバレでもしたら、腕立てを何回やらされるか分かったもんじゃないけど・・・。
 あんな小さな子供(なのかな?)にまで、僕は何かをしたくない。

 2人はまだ警戒を解いてはくれないけど、敵意がないことだけはどうやら伝わったみたいだ。少し戸惑った顔でこちらを見ている。

「おーい!どこいったんだー?こっちに旨そうな実がなってるからお前も来いよー!」
「うわっ?!」「──ッ!?」

 森の中から急に、どこかにいなくなっていたダックスの大声が響いた。

 びっくりしたなぁ・・・。せっかく少し警戒を弛めてくれていたゴブリン達も声のした方へまた警戒を強めてしまった。

「だ、大丈夫だよ!僕の知ってるやつの声だから。何もしないからっ・・・」

 とは言ってみたものの、ダックスがここに来てしまったら何もしないとは言い切れない・・・。もしかしたら2人を傷つけて班長につき出してしまうかもしれない──

「き、君たちっ!ここは危ないかもしれないから、もう離れたほうがいいよっ!今なら誰にも気づかれてないから・・・ほらっ。早くっ!」

 そうさせないために、身ぶり手振りを交えて2人に必死に訴える。僕の動きでも驚かせてしまったみたいでゴメンよ。でも、それでいい。

 2人は少し困惑をしていたが、そろそろと静かに森の中に消えていった──

「──おい!何やってるんだよ?」
「っ?!えっ?な、何もしてないよっ」

 2人が消えたと同時に誰かに肩を叩かれた。驚いて尻もちをついてしまい、また木枝が乾いた音を立てて転がる。

「ははっ!お前ってほんと臆病だな。ほら、早く行こうぜ。この実マジで旨いからさ。これ採って帰ったら班長から褒められるぜ、きっと」

 旨いというその実に囓りつきながら、また森の中に消えていく。ほっ・・・気づかれてはなかったみたいだ。

 僕は首を回し向こう岸に目を向ける。ゴブリン達もすでに姿は見えなくなっている。

 明日、どうなるかはまだ分からないけれど・・・、あの子達がどうか無事でありますように──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...