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再び手にした決意
東の森の異変
しおりを挟むひとまず、水を飲ませて落ち着かせようとする。
ヒルダは喉を鳴らして水を一気に飲み干すが、尚治まらない勢いで詰め寄ってくる。
話しはこうだ。
東の森で増加しているらしいゴブリンの調査を行うため、数日間の予定で森に入っていた冒険者パーティにヒルダの弟ルシオスが同行していたのは聞いている。
昨日、儂がそのことについて冒険者ギルドマスターのグストフに話した後すぐに、グストフは追加の冒険者パーティを派遣してくれたらしい。
そのパーティが今朝がた森の中で傷付き倒れていたルシオスを連れ帰ったというのだ。
詳しくは、グストフとその冒険者パーティに聞くべきだろう。
「おじいちゃん・・・」
何事かと心配になり庭に出てきていたユリアも、話を聞き青ざめた顔をしている。
「ヒルダ。ルシオスは今・・・」
「ル、ルシオスは、今は療養所に、いますっ!」
ヒルダの肩に、努めて優しく手を乗せる。
「ユリア。ヒルダと一緒に療養所にルシオスの様子を見に行ってほしい。治癒士のメラリアさんは知っているだろう?彼女に、ルシオスの状態を確認してきてくれ。問題なければ、屋敷に戻り待機だ」
「うん・・・。おじいちゃんは?」
「儂は、ひとまず冒険者ギルドに行き、グストフとルシオスを連れ帰った冒険者に話を聞く。その後は守護隊の仕事だな。東門に行く」
「おじいちゃん!あ、あたしも──っ!」
「ダメだ。ユリアは屋敷で待機だ。」
「──っ!!」
少し強めに言う。
ユリアは肩をビクッと揺らし驚くが、まだ一緒に行くと言わんばかりに、儂の目を見つめている。
儂は、ユリアの両肩に手を乗せ、ユリアの目線に合うよう腰を屈め目を合わせる。ゆっくりと言い聞かせるように。
「ユリア・・・。状況を確認しないとどうなっているかは確かではないが、儂の予想では魔物のスタンピードの可能性があると見ている」
スタンピード・・・魔物の大量暴走。
「街への流入は、儂と守護隊の面々が絶対に止める。だが万が一があるとも限らない。ユリアはハリルと一緒にここで、戦う力を持たないカーラとジュディを守ってもらいたい。街の者にも声をかけ、不安な者はこの屋敷に避難するようにも伝える。多くの人がここに来るかもしれない。
ユリアにはその守りをお願いしたい。・・・出来るな?」
「う、うんっ!!」
ユリアは力強く頷く。
さて、急いで準備をしなければ。
守護隊の訓練の際に使う、動きやすい軽鎧と、ダンダルに打ってもらったランスに近い形状をした愛用の剣を装備し、まずは冒険者ギルドに向かう。
「おや?フェンスさん、こんな時間からそんな格好でどうしたんですか?」
「フェンスさん。何か物騒事かい・・・?」
近所の商店の主や売り子に、何事かと声をかけられる。
「まだ詳しくはわからんが、少し荒事になるかもしれない。隣近所の老人や女子供達に、不安なようなら儂の屋敷に行くよう伝えておいてくれないか?」
「っ!!は、はいっ!わ、わかりました!」
商店の主は、儂の言葉にかなり動揺したようだ。
何事も無いのが一番だが、備え過ぎて無駄なことはない。
「頼むよ」
辿り着いた冒険者ギルドはいつもと違い冒険者で溢れかえっていた。どうやら緊急の事態に備え不要不急の依頼を休止しているようだ。
そのため、出発出来ない冒険者が集まっているようだ。
そこに、守護隊1・2番隊の隊長と隊員の面々も顔を揃えている。
「「フェンス総隊長!おはようございます!」」
「「「「っ!お、おはようございます!!」」」」
いち早く隊長の、カインとアベルが儂に気付いて挨拶をする。それに続いて、隊員達も慌てて挨拶をしてくる。
「おはよう。カイン、何か情報は?」
「はいっ!今朝がた東の森から戻った冒険者の報告を受けて、ギルド側は大規模な編隊を組んでいるようです。
守護隊の詰所にも知らせが来まして、非番の3番隊以外の面々はここに集合しております!」
「そうか。ありがとう」
カインは隊長としての努めをしっかりとこなしてくれている。
儂がいつ引退しても大丈夫だろう。
「悪いが、非番の皆にも声をかけてくれ。集合次第、1・3番隊は東門の守備に付け。アベル、2番隊は3番隊に声をかけ次第、街人に避難喚起と誘導を。
避難場所は王城内で構わん。城の衛兵には儂の名を出して対応してくれ。済んだら有事に備えて、城門前で待機」
「「はっ!了解しました!」」
儂の指示を受けて、隊員達は迅速に動き出す。守護隊に収まっているのは勿体ない面々だ。
儂は、冒険者の間を抜けてギルド内に入る。すぐに慌ただしく動き回っていたギルド職員のエナが儂を見付けて近付いて来る。
「フェンスさん!」
「やあ、エナ。グストフは奥にいるかい?」
「は、はいっ!上級冒険者パーティのリーダーの皆さん達と、打ち合わせをしています!」
「そうか、ありがとう。大変だろうが、エナも頑張ってくれ」
「あ、はい。ありがとうございます!」
エナに手を振りつつその場をあとにし奥の部屋に向かう。
部屋の中からは複数人の話し声が響いている。
「グストフ。邪魔するぞ」
いつものように部屋に入る。全員の視線が一斉に儂に向く。
「・・・フェンス。お前ってやつはどんなときでもブレないやつだな」
グストフは呆れ顔で応える。
「俺らしくていいだろ?それより、状況と今後の動きを教えてくれ!」
儂は、空いている椅子を引き、腰を下ろした。
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