盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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再び手にした決意

魔人戦決着

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 儂は出来るだけ丁寧に可能な限り早口で説明をする。
  本来、新しい魔法の術式を覚えるときは発動時に頭の中でイメージしやすいように、実際に描いてみせてそれを覚えさせる。
  術式とは、魔法文字という図形を二重円の中に規則に従って配置したものである。魔法のレベルや威力に比例してより細かくより精密になっていく。
  初級の魔法は、二重円の中の魔法文字はたった2~3文字で構築出来るため、初級の魔法使いは魔法文字を覚えるのではなく、その魔法を発動するための図形として覚えるのが基本だ。

  全ての魔法文字を覚えそれを元に術式を構築出来る魔法使いなど、数えるほどしかいないはずである。ミリアーナは感覚派であるので、その辺りが出来るかどうかは分からない。

  きっと、本能でどうにかしてしまうのだろう。

  儂はユリアが使ったことのある、習ったことのある術式から、必要な魔法文字を抽出し、ユリアの頭の中に術式を構築させていく。

  きっとこういう行為がミリアーナに『無駄知識』と言われる所以なのだろう。
  今現在、こんなに役立っているではないか!絶対に『無駄知識』などではない! 

「どうだ、ユリア?術式は構築出来たか?」

  視線を魔人に向けながら確認をする。あの禍禍しいものが魔王と同じものであるならば、放たれるまでもう少し時間がかかるだろう。途中で発動自体を邪魔することも考えたが、あの荒れ狂う凶暴な魔力の渦に下手に手を出すと暴発する可能性がある。対策が出来ている発動後を待つほうがまだ安全だろう。ただ油断は出来ない。

  儂の言葉にユリアからの返答がこない。説明が難しかっただろうか?心配になり少しだけ視線を向ける。

「・・・・・・はぁ」

  ユリアはどこか微熱でもあるかのようなうっとりした表情をしている。

「ユ、ユリア?大丈夫か?」

「す、すごい・・・」
「ん?!」

「・・・おじいちゃんの言葉が、頭の中で形になって。魔法が出来上がっていく──」

  魔法を使えない儂には分からない感覚なのだろう。術式を図として覚え魔法を行使するのと、術式をいちから構築して魔法を造り上げるのとでは、算術の答えを書き写すのと難解な式を解いて答えを自ら導き出す悦びの様な違いがあるのだろうか。

  羨ましい限りだ。

「・・・ユリア」

  ユリアはゆっくりと目を閉じ何かを確認するかのように一度深く首肯くと、ゆっくりと力強く目を開いた。

「・・・うん。おじいちゃん、大丈夫!」

  よし!上手く術式を描けたようだ。

  あとは儂が奴の攻撃を受け止め反撃を行う間の防御面をどうするか……。魔王の様に反撃をしてこないという保証は無い。二度と同じ過ちは繰り返さない!魔人を倒して、そして全てを守ってみせる!

(我が持ち手よ その問題は 既に解決している)

  唐突にアイギスが思考に言葉を挟んでくる。

「解決・・・している?」

(ここには 我が眷属たる 盾がひとつ在る 我が権能を用いて 僅かな時間であれば 防げるであろう)

  眷属──そうか!
  フリオニールの持つ聖剣レーヴァテインが周囲のあらゆる剣に影響を与えその能力を上げることが出来るように、神盾アイギスにも周囲の盾の能力を上げる効果がある。
  あの旅のパーティでは盾を持っているのが儂一人だった。まったく使うことのなかった能力なのですっかり忘れていた。

  儂が辿り着く前に魔人が放った魔法をユリアが食い止められたのは、アイギスが自らの意思でユリアの持つ盾を強化したからだろう。奴の使う魔法は氷属性だったため、ブルーリザードの皮革で作られた盾の耐性とも相性が良かったのも効果があったようだ。

  余り長い時間は持たなそうだが心強い。一気に仕留めてしまえば問題はない。これで攻撃に集中出来る。

「──っ!?」

  魔人から放たれる波動が一段と強くなる。くるか?!
  儂の後ろにいるとはいえ、この邪悪な波動にユリアはもう立っているのも限界のようだ。

「ユリア!くるぞ!もう少しだけ耐えてくれ。儂が奴の放つ魔法を受け止めたら儂に魔法をかけろ。その後はその盾でジュディとハリルを守っていてくれ!」
「──っ!う、うん。・・・任せて!」

  魔人の手元のエネルギー塊は意思を持って暴れ狂うかのように蠢く。魔王のそれよりはやはり幾分も小さいがここを消し飛ばすだけの威力は十分あるだろう。

「クッ!ククク。・・・こ、こんなに制御が難しいとはなぁ。ちょっとでも気を抜いたら爆発しちまいそうだぜぇ!」

  流石の魔人もあの暴威に余裕はなさそうだ。奴も攻撃に全てをかけてくるだろう。

「ク、ククク。さぁて。準備は出来たぜぇ?・・・てめぇらは覚悟は出来たかぁ?さぁ、消しとべええええええぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!」

  狂ったかのように何かに陶酔するかのようにこれまでで一番凶悪で恍惚とした笑みを張り付けた魔人の手元から、凶暴な波動が放たれる!それは壊せなかった悔しさか執念か、轟音を伴い儂の持つ神盾を目掛け真っ直ぐ襲いくる。

  さぁ、全力で止める!

『オーラシールドっ!』『フォートレスっ!』『ガーディアンフォースっ!』『イージスシールドっ!』『ファランクスっ!』

  広範囲防御、身体強化、気力盾、魔法耐性強化、ダメージ軽減、あらゆる防御スキルを発動する。全てのスキルが発動した瞬間、盾に強烈な衝撃がぶつかる。

  歳のせいで衰えている分キツくはあるが、魔王のものより随分と軽い。何事も経験だな。

「ユリアっ!頼む!!」
「う、うんっ!『エンチャントマナ!!』」

  直接儂の背中に添えられたユリアの手から、儂の身体にユリアの魔力が流れ込んでくる。古魔術の本当の『付与魔法』を用いてユリアの持つ魔力を儂に付与したのだ。

  ・・・こ、これが魔力か。暖かい、優しいものなのだな──

  ユリアの持つ加護の効果もあるのか、ユリアの総量を越えた魔力がどんどんと流れ込んでくる。これなら絶対に上手くいく。この歳まで、何度も憧れて、何度も挫折して、それでも諦めず追い続けた夢を、友の夢を、今実現するっ!!

  頭の中に術式を描く。術式に魔力が浸透していく。術式が淡い輝きを放つ。これが魔法──

  魔人の魔法と儂の盾の力が拮抗する。止まった!!

「術式多重展開!『フィフス・ホーリーランスっ!!』」

  重なった五つの術式から五つの聖なる魔法の槍が顕れる。それはひとつになりより強力な波動を放つ。あまりにもの感動に涙が出そうになるが、ぐっと堪える。

「いけええぇぇぇぇっっっ!!!」

  儂の手から放たれた聖槍は邪悪な波動に衝突し、突き破る!

『リフレクトウェーブっ!!』

  その穿たれた穴にすかさず魔人の魔力を溜めた盾騎士唯一の攻撃技を全力で放つ。守りへの憂いはない。後ろにはユリアが居てくれる。

  自らの放った魔法の制御で手一杯だったか魔人に反撃の兆候はない。このまま押しきる。エネルギーの波動は逆流を始め魔人に突き刺さる。

「ぐ、ぐぞおぉど、どうして、こんな。この、お、俺様が・・・ガグギ、エラ様・・・が。に、人間ごと、きにぃっ!!!?」

  逆流した波動は魔人を包み光となって消えていく。


  や、やったか──?

  光が消えたあと、そこに魔人の姿は無かった。

  無事、成功したようだ。『ホーリーランス』の威力と貫通力を上げるため想像でしかなかった術式の多重展開も上手くいった。ユリアも言葉の説明だけでよくやってくれた。

「ユリア──?!」

  無事を確かめようと後ろを振り向く。
  そこには倒れているユリア──?ユリアっ?!

「旦那様。ご安心下さいませ。ユリアお嬢様はお休みになっているだけのようです」

  飛び付こうとした儂を落ち着けようとしたのか、既に介抱を始めていたジュディが冷静な口調で言う。口元に耳を寄せると確かに静かな寝息が聴こえた。
  安心してその場に座り込む。


「なるほど。魔王を倒した人間達はまだ健在なのですね?」

  その瞬間。気を緩めた儂の背後からおぞましい寒気を孕んだ冷徹な声が聴こえる。身体を思い切りひねり構える。しまった!盾を放してしまっている。

  そこにはボロボロになった、先程まで戦っていた魔人ガグギエラをまるでボロ雑巾かのように持ち立つひとりの男──いや、女か?
  明らかに人間ではない禍禍しいオーラを放っている。

  魔人か・・・。クソッ、まだ、居たのか・・・。

「……下位の者とは言え魔人をここまでにするとは・・・。実にですね?」

  背中を冷たいものが走る。

  マズイな・・・。この魔人は格が違う。今この状況では勝てる気がしない。

「こんな疲れ果てたジジイに面白味などないぞ。・・・機会を改めたらどうだ?」
「フフフ。それも良いかもしれませんね?出来れば万全な貴方と戦ってみたい気もしますし・・・」

  新たな魔人は妖艶な微笑みを浮かべる。先程まで戦っていた魔人より明らかに強者だろう。なんとしても、戦闘は回避しなければ・・・。

  やり過ごすための次の言葉を探していると、それまでずっと愉快そうに儂らを眺めていた魔人が、急にその表情を無くすと自身の後方──門の方へ視線を向けた。

「フフ。残念ですが邪魔者が現れたようです。貴方との戦いはまた今度にしましょう・・・」

  魔人の背後。門の辺りに誰かの気配を感じる。援軍か?ミリアーナだろうか・・・。何にせよ助かった。
  その誰かが魔法を使ったのだろうか、儂と魔人の周囲を聖なる魔力が覆っていく──

  んん?!この魔法は、まさか──

「では、また会いましょう。盾の『神器』を持つ人間よ」

  魔人はそう言って音もなく消え去る。後には何も残らない。

「逃げられてしまったわね」

  門の前に居た人影がゆっくりとこちらに近付いてくる。暗くてまだ顔は見えないがこの声は間違いない。

「随分とやられたのね。ジュディ、ユリアは大丈夫なのかしら?」
「は、はいっ!ご無事です。奥様!」
「そう。良かったわ。・・・アナタも大丈夫?」

「あ、ああ・・・。大丈夫だ。マリア──
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