25 / 91
再び手にした決意
魔人戦決着
しおりを挟む儂は出来るだけ丁寧に可能な限り早口で説明をする。
本来、新しい魔法の術式を覚えるときは発動時に頭の中でイメージしやすいように、実際に描いてみせてそれを覚えさせる。
術式とは、魔法文字という図形を二重円の中に規則に従って配置したものである。魔法のレベルや威力に比例してより細かくより精密になっていく。
初級の魔法は、二重円の中の魔法文字はたった2~3文字で構築出来るため、初級の魔法使いは魔法文字を覚えるのではなく、その魔法を発動するための図形として覚えるのが基本だ。
全ての魔法文字を覚えそれを元に術式を構築出来る魔法使いなど、数えるほどしかいないはずである。ミリアーナは感覚派であるので、その辺りが出来るかどうかは分からない。
きっと、本能でどうにかしてしまうのだろう。
儂はユリアが使ったことのある、習ったことのある術式から、必要な魔法文字を抽出し、ユリアの頭の中に術式を構築させていく。
きっとこういう行為がミリアーナに『無駄知識』と言われる所以なのだろう。
今現在、こんなに役立っているではないか!絶対に『無駄知識』などではない!
「どうだ、ユリア?術式は構築出来たか?」
視線を魔人に向けながら確認をする。あの禍禍しいものが魔王と同じものであるならば、放たれるまでもう少し時間がかかるだろう。途中で発動自体を邪魔することも考えたが、あの荒れ狂う凶暴な魔力の渦に下手に手を出すと暴発する可能性がある。対策が出来ている発動後を待つほうがまだ安全だろう。ただ油断は出来ない。
儂の言葉にユリアからの返答がこない。説明が難しかっただろうか?心配になり少しだけ視線を向ける。
「・・・・・・はぁ」
ユリアはどこか微熱でもあるかのようなうっとりした表情をしている。
「ユ、ユリア?大丈夫か?」
「す、すごい・・・」
「ん?!」
「・・・おじいちゃんの言葉が、頭の中で形になって。魔法が出来上がっていく──」
魔法を使えない儂には分からない感覚なのだろう。術式を図として覚え魔法を行使するのと、術式をいちから構築して魔法を造り上げるのとでは、算術の答えを書き写すのと難解な式を解いて答えを自ら導き出す悦びの様な違いがあるのだろうか。
羨ましい限りだ。
「・・・ユリア」
ユリアはゆっくりと目を閉じ何かを確認するかのように一度深く首肯くと、ゆっくりと力強く目を開いた。
「・・・うん。おじいちゃん、大丈夫!」
よし!上手く術式を描けたようだ。
あとは儂が奴の攻撃を受け止め反撃を行う間の防御面をどうするか……。魔王の様に反撃をしてこないという保証は無い。二度と同じ過ちは繰り返さない!魔人を倒して、そして全てを守ってみせる!
(我が持ち手よ その問題は 既に解決している)
唐突にアイギスが思考に言葉を挟んでくる。
「解決・・・している?」
(ここには 我が眷属たる 盾がひとつ在る 我が権能を用いて 僅かな時間であれば 防げるであろう)
眷属──そうか!
フリオニールの持つ聖剣レーヴァテインが周囲のあらゆる剣に影響を与えその能力を上げることが出来るように、神盾アイギスにも周囲の盾の能力を上げる効果がある。
あの旅のパーティでは盾を持っているのが儂一人だった。まったく使うことのなかった能力なのですっかり忘れていた。
儂が辿り着く前に魔人が放った魔法をユリアが食い止められたのは、アイギスが自らの意思でユリアの持つ盾を強化したからだろう。奴の使う魔法は氷属性だったため、ブルーリザードの皮革で作られた盾の耐性とも相性が良かったのも効果があったようだ。
余り長い時間は持たなそうだが心強い。一気に仕留めてしまえば問題はない。これで攻撃に集中出来る。
「──っ!?」
魔人から放たれる波動が一段と強くなる。くるか?!
儂の後ろにいるとはいえ、この邪悪な波動にユリアはもう立っているのも限界のようだ。
「ユリア!くるぞ!もう少しだけ耐えてくれ。儂が奴の放つ魔法を受け止めたら儂に魔法をかけろ。その後はその盾でジュディとハリルを守っていてくれ!」
「──っ!う、うん。・・・任せて!」
魔人の手元のエネルギー塊は意思を持って暴れ狂うかのように蠢く。魔王のそれよりはやはり幾分も小さいがここを消し飛ばすだけの威力は十分あるだろう。
「クッ!ククク。・・・こ、こんなに制御が難しいとはなぁ。ちょっとでも気を抜いたら爆発しちまいそうだぜぇ!」
流石の魔人もあの暴威に余裕はなさそうだ。奴も攻撃に全てをかけてくるだろう。
「ク、ククク。さぁて。準備は出来たぜぇ?・・・てめぇらは覚悟は出来たかぁ?さぁ、消しとべええええええぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!」
狂ったかのように何かに陶酔するかのようにこれまでで一番凶悪で恍惚とした笑みを張り付けた魔人の手元から、凶暴な波動が放たれる!それは壊せなかった悔しさか執念か、轟音を伴い儂の持つ神盾を目掛け真っ直ぐ襲いくる。
さぁ、全力で止める!
『オーラシールドっ!』『フォートレスっ!』『ガーディアンフォースっ!』『イージスシールドっ!』『ファランクスっ!』
広範囲防御、身体強化、気力盾、魔法耐性強化、ダメージ軽減、あらゆる防御スキルを発動する。全てのスキルが発動した瞬間、盾に強烈な衝撃がぶつかる。
歳のせいで衰えている分キツくはあるが、魔王のものより随分と軽い。何事も経験だな。
「ユリアっ!頼む!!」
「う、うんっ!『エンチャントマナ!!』」
直接儂の背中に添えられたユリアの手から、儂の身体にユリアの魔力が流れ込んでくる。古魔術の本当の『付与魔法』を用いてユリアの持つ魔力を儂に付与したのだ。
・・・こ、これが魔力か。暖かい、優しいものなのだな──
ユリアの持つ加護の効果もあるのか、ユリアの総量を越えた魔力がどんどんと流れ込んでくる。これなら絶対に上手くいく。この歳まで、何度も憧れて、何度も挫折して、それでも諦めず追い続けた夢を、友の夢を、今実現するっ!!
頭の中に術式を描く。術式に魔力が浸透していく。術式が淡い輝きを放つ。これが魔法──
魔人の魔法と儂の盾の力が拮抗する。止まった!!
「術式多重展開!『フィフス・ホーリーランスっ!!』」
重なった五つの術式から五つの聖なる魔法の槍が顕れる。それはひとつになりより強力な波動を放つ。あまりにもの感動に涙が出そうになるが、ぐっと堪える。
「いけええぇぇぇぇっっっ!!!」
儂の手から放たれた聖槍は邪悪な波動に衝突し、突き破る!
『リフレクトウェーブっ!!』
その穿たれた穴にすかさず魔人の魔力を溜めた盾騎士唯一の攻撃技を全力で放つ。守りへの憂いはない。後ろにはユリアが居てくれる。
自らの放った魔法の制御で手一杯だったか魔人に反撃の兆候はない。このまま押しきる。エネルギーの波動は逆流を始め魔人に突き刺さる。
「ぐ、ぐぞおぉど、どうして、こんな。この、お、俺様が・・・ガグギ、エラ様・・・が。に、人間ごと、きにぃっ!!!?」
逆流した波動は魔人を包み光となって消えていく。
や、やったか──?
光が消えたあと、そこに魔人の姿は無かった。
無事、成功したようだ。『ホーリーランス』の威力と貫通力を上げるため想像でしかなかった術式の多重展開も上手くいった。ユリアも言葉の説明だけでよくやってくれた。
「ユリア──?!」
無事を確かめようと後ろを振り向く。
そこには倒れているユリア──?ユリアっ?!
「旦那様。ご安心下さいませ。ユリアお嬢様はお休みになっているだけのようです」
飛び付こうとした儂を落ち着けようとしたのか、既に介抱を始めていたジュディが冷静な口調で言う。口元に耳を寄せると確かに静かな寝息が聴こえた。
安心してその場に座り込む。
「なるほど。魔王を倒した人間達はまだ健在なのですね?」
その瞬間。気を緩めた儂の背後からおぞましい寒気を孕んだ冷徹な声が聴こえる。身体を思い切りひねり構える。しまった!盾を放してしまっている。
そこにはボロボロになった、先程まで戦っていた魔人ガグギエラをまるでボロ雑巾かのように持ち立つひとりの男──いや、女か?
明らかに人間ではない禍禍しいオーラを放っている。
魔人か・・・。クソッ、まだ、居たのか・・・。
「……下位の者とは言え魔人をここまでにするとは・・・。実にオモシロイですね?」
背中を冷たいものが走る。
マズイな・・・。この魔人は格が違う。今この状況では勝てる気がしない。
「こんな疲れ果てたジジイに面白味などないぞ。・・・機会を改めたらどうだ?」
「フフフ。それも良いかもしれませんね?出来れば万全な貴方と戦ってみたい気もしますし・・・」
新たな魔人は妖艶な微笑みを浮かべる。先程まで戦っていた魔人より明らかに強者だろう。なんとしても、戦闘は回避しなければ・・・。
やり過ごすための次の言葉を探していると、それまでずっと愉快そうに儂らを眺めていた魔人が、急にその表情を無くすと自身の後方──門の方へ視線を向けた。
「フフ。残念ですが邪魔者が現れたようです。貴方との戦いはまた今度にしましょう・・・」
魔人の背後。門の辺りに誰かの気配を感じる。援軍か?ミリアーナだろうか・・・。何にせよ助かった。
その誰かが魔法を使ったのだろうか、儂と魔人の周囲を聖なる魔力が覆っていく──
んん?!この魔法は、まさか──
「では、また会いましょう。盾の『神器』を持つ人間よ」
魔人はそう言って音もなく消え去る。後には何も残らない。
「逃げられてしまったわね」
門の前に居た人影がゆっくりとこちらに近付いてくる。暗くてまだ顔は見えないがこの声は間違いない。
「随分とやられたのね。ジュディ、ユリアは大丈夫なのかしら?」
「は、はいっ!ご無事です。奥様!」
「そう。良かったわ。・・・アナタも大丈夫?」
「あ、ああ・・・。大丈夫だ。マリア──
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる