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火の竜の王との邂逅
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考えられる限りの最大級の攻撃ではあったが違和感は感じていた。
あれだけの力を持った魔人があの一撃だけで欠片も残さず消え去るものなのかと。気配すら感じなかったことで油断したつもりはなかったが、どこかで気を弛めてしまったようだ。
魔人は衣服はボロボロになり片腕は消し飛び身体のいたるところから出血している。満身創痍ではあるようだが、残ったもう一方の手には大きな魔石を掴んでいた。
「・・・儂らの勝ちなら逃がしてくれるのではなかったか?」
火竜王の背から跳び降りた魔人は相当にダメージが深いのか勢いを支えきれず膝をつくが、身体からは湯気が吹き出している。既に再生が始まっているようだ。今ならまだ一斉攻撃で倒せるか・・・。
そう思いフリオニールに横目で視線を送る。フリオニールは微かに首を横に振るう。先程の攻撃に耐えられなかったのか、手に持つ剣は砕け折れていた。
「う~ん。確かに逃がすとは言ったけど、全員逃がしてあげるとは言ってないよ?そもそも僕はこれを取りに来たんだから」
そう言って魔石を儂に見せつけるように掲げる。
「・・・"マジン"の復活と言っていたようだが『マジン』とは何だ?お前たち魔人とは違うのか・・・?」
「フフ。盗み聞きはいけないんだよ?・・・でも、それは教えてあげれないなぁ。」
魔人の再生力は魔力総量に比例するらしいが、この魔人はかなりの魔力を持っているようだ。既に消え失せた腕はほとんど再生してしまっている。その分魔力は消費するようだが。
攻撃をしようにもフリオニール抜きでは厳しいだろう。誰かの剣を渡すのを見逃してくれるはずもない。儂も唯一の攻撃技は使ってしまっている。
「さて。君ともう少し遊びたいところだけど、これを持って帰らないといけないから今日はここまでにしておくよ」
周囲を覆っていた禍禍しいオーラが急に消える。帰る?願ってもないがあっさり見逃してくれるのか?
「でも、追加でひとつやらなきゃいけないことが出来たからそれだけ済ませていくね?」
そう言うと魔人は儂に向けていた視線をすっと横に逸らした。その視線の先には──
ユリアっ?!
「そこの君。君はちょっと厄介だからここで死んでくれるかな?」
少年の様な魔人の表情が邪悪な悪魔へと変貌する。いつのまに持っていたのか、手には大きな宝石──
マズイ!!?
「全員儂の後ろに!!急げっ!!」
魔人はその宝石を大口を開けて飲み込むと、両手を上へと掲げる。頭上に漆黒の球体が生じ瞬く間に火竜の王をも飲み込むほどの大きさに膨れ上がる。それは確実に魔王を凌駕している。
儂は全員が後ろに廻ったのを確認し盾を構える。
「アイギスっ!頼むぞ!!」
(盾の神器たる 我の力を見せるとき 必ずや防いでみせよう)
「ハハッ!力を入れすぎちゃったかな?これじゃ逃がしてあげるって約束した君まで消えちゃうかな?出来たら頑張って生き延びてね」
ゆっくりと魔人の手元を離れた黒球は周囲のあらゆるものを飲み込みながら迫ってくる。
「じゃあね、バイバイ──」
漆黒の暴威が盾に衝突する。
音も光も全て消え失せた──
◇◆◇◆
段々と光が戻ってくる。
周囲からは何の音も聴こえないが自分の息遣いだけやけに耳に響く。
ゆっくりと目を開き正面を見据える。魔人の姿はない。気配も感じない。本当に帰ったのか?
首だけをひねり後ろを確認する。
ちゃんと守れたようだ。全員が顔を上げ同じように周囲を見回している。
「・・・魔人は去ったのか?」
「・・・ああ。今度こそいなくなったようだ」
儂は警戒を解きユリアの元へ向かう。近衛騎士のひとりが覆い被さるように守ってくれていたようだ。
「ユリアを守ってくれていたようだな。感謝する。ええと名はなんと・・・」
騎士はユリアを気遣うようにそっと立ち上がると胸に手をあて軽く頭を下げる。
「エダと申します。お見知りおき下さい」
「フリオニールは良い近衛を身近に置いているようだな。近衛の盾魔法も見事だった。助かったよ」
すっと手を差し出すと少し気恥ずかしそうに俯く。
「い、いえっ、あれはワタシだけの力ではありませんので。兄がいるからこそでしてっ!」
もうひとりの近衛騎士はこの娘の兄なのか。そちらに目をやる。
「フフフ、フ、フェンス様っ!デ、ディーンと申します!ご一緒に戦えたこと光栄でありますっ!!」
兄の方はガチガチに固まっている。
「楽にしてくれて構わんよ。一緒に戦った友だろう?」
兄のディーンにも手を差し出す。二人は遠慮がちに握り返してくる。妹は戦いの実力以外もかなりやり手のようだが、兄のほうは少し不器用そうだな。しかし、どこかで見たような顔立ちをしている──
「家名はなんと言うんだ?」
「「!?」」
思い当たる節があり何気なく尋ねてみたが二人とも少し言い辛そうにしていた。
「・・・無理には聞かんが。」
「い、いえっ!我ら兄妹は騎士をしておりますが爵位等は持っておりません。ですが、祖父の家名を継いでおりまして。『ベルドナッテ』と、申します」
「!」
ベルドナッテ。なるほど。どうりで見覚えのある顔立ちをしているわけだ。これ以上聞くのは悪いだろう。あとでフリオニールに尋ねてみるとしよう。
「そうか。良い名だな」
「?!あ、ありがとうございますっ!」
ディーンは深々と頭を下げる。エダも同様に頭を下げた。
「・・・お、おじいちゃん?」
「ん?おお、ユリア。怪我はないか?」
二人が急に儂に頭を下げたからだろう困惑した顔のユリアが恐る恐る顔を覗く。ユリアには聞かせる必要のない話だな。
「う、うん・・・。おじいちゃんも大丈夫?あ、あれ??」
腑に落ちない顔のユリアだったが儂の手元を見て驚きを隠せないようだ。
「お、おじいちゃん?それ、盾。小さくなってる?」
そう。儂の盾、神盾アイギスはユリアの盾より少し大きいくらいのサイズに縮んでいるのだ。
「ああ。切り札を使ったからな。あれをやると『神器』の力を使い果たしてしまうみたいでな、縮んでしまうんだ。儂はこのほうが持ち運びしやすくて楽だがな。変か?」
勿論その分防御力もかなり落ちるが。
「ううんっ。あたしの盾と似てるなって思って」
「・・・そうだな」
ユリアの頭をまたワシワシと撫でてから、立ち上り周囲の様子を確認する。
魔人の攻撃は相当な威力だったようだ。儂らのいる足場を残し周囲はかなり吹き飛んでしまっている。火竜王の姿も見えないが、魔石を抜かれてしまっていた。生きてはいないだろう。
『マジン』のことなど聞きたいことは色々あったのだが。
『・・・魔神のことを知りたいのか?』
ん?!
何だ?!ど、どこかから声が──
と言うか、儂は声に出していたか?
『・・・我くらいの存在になれば心の声を聴くなど容易いことだ』
声質は先程よりも高くなっているように感じるが、この声は間違いなく火竜王の声だ。
死んだのではないのか?!
『・・・我らも魔人の様に滅びぬ存在だ。肉体の滅びは消滅ではない』
「火竜王!どこにいる?」
『・・・ここだ、我はここにいる』
声が聴こえただろう方向を見る。他の皆にも聴こえていたのか全員の視線が一点に注がれる。
「えっ?えっ?!」
アベルは注目を浴び狼狽しているが、お前ではない。お前の手元だ。
そこには火竜王から渡された竜結晶。
その中に小さな炎の様な小さな竜の姿があった──
あれだけの力を持った魔人があの一撃だけで欠片も残さず消え去るものなのかと。気配すら感じなかったことで油断したつもりはなかったが、どこかで気を弛めてしまったようだ。
魔人は衣服はボロボロになり片腕は消し飛び身体のいたるところから出血している。満身創痍ではあるようだが、残ったもう一方の手には大きな魔石を掴んでいた。
「・・・儂らの勝ちなら逃がしてくれるのではなかったか?」
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そう思いフリオニールに横目で視線を送る。フリオニールは微かに首を横に振るう。先程の攻撃に耐えられなかったのか、手に持つ剣は砕け折れていた。
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そう言って魔石を儂に見せつけるように掲げる。
「・・・"マジン"の復活と言っていたようだが『マジン』とは何だ?お前たち魔人とは違うのか・・・?」
「フフ。盗み聞きはいけないんだよ?・・・でも、それは教えてあげれないなぁ。」
魔人の再生力は魔力総量に比例するらしいが、この魔人はかなりの魔力を持っているようだ。既に消え失せた腕はほとんど再生してしまっている。その分魔力は消費するようだが。
攻撃をしようにもフリオニール抜きでは厳しいだろう。誰かの剣を渡すのを見逃してくれるはずもない。儂も唯一の攻撃技は使ってしまっている。
「さて。君ともう少し遊びたいところだけど、これを持って帰らないといけないから今日はここまでにしておくよ」
周囲を覆っていた禍禍しいオーラが急に消える。帰る?願ってもないがあっさり見逃してくれるのか?
「でも、追加でひとつやらなきゃいけないことが出来たからそれだけ済ませていくね?」
そう言うと魔人は儂に向けていた視線をすっと横に逸らした。その視線の先には──
ユリアっ?!
「そこの君。君はちょっと厄介だからここで死んでくれるかな?」
少年の様な魔人の表情が邪悪な悪魔へと変貌する。いつのまに持っていたのか、手には大きな宝石──
マズイ!!?
「全員儂の後ろに!!急げっ!!」
魔人はその宝石を大口を開けて飲み込むと、両手を上へと掲げる。頭上に漆黒の球体が生じ瞬く間に火竜の王をも飲み込むほどの大きさに膨れ上がる。それは確実に魔王を凌駕している。
儂は全員が後ろに廻ったのを確認し盾を構える。
「アイギスっ!頼むぞ!!」
(盾の神器たる 我の力を見せるとき 必ずや防いでみせよう)
「ハハッ!力を入れすぎちゃったかな?これじゃ逃がしてあげるって約束した君まで消えちゃうかな?出来たら頑張って生き延びてね」
ゆっくりと魔人の手元を離れた黒球は周囲のあらゆるものを飲み込みながら迫ってくる。
「じゃあね、バイバイ──」
漆黒の暴威が盾に衝突する。
音も光も全て消え失せた──
◇◆◇◆
段々と光が戻ってくる。
周囲からは何の音も聴こえないが自分の息遣いだけやけに耳に響く。
ゆっくりと目を開き正面を見据える。魔人の姿はない。気配も感じない。本当に帰ったのか?
首だけをひねり後ろを確認する。
ちゃんと守れたようだ。全員が顔を上げ同じように周囲を見回している。
「・・・魔人は去ったのか?」
「・・・ああ。今度こそいなくなったようだ」
儂は警戒を解きユリアの元へ向かう。近衛騎士のひとりが覆い被さるように守ってくれていたようだ。
「ユリアを守ってくれていたようだな。感謝する。ええと名はなんと・・・」
騎士はユリアを気遣うようにそっと立ち上がると胸に手をあて軽く頭を下げる。
「エダと申します。お見知りおき下さい」
「フリオニールは良い近衛を身近に置いているようだな。近衛の盾魔法も見事だった。助かったよ」
すっと手を差し出すと少し気恥ずかしそうに俯く。
「い、いえっ、あれはワタシだけの力ではありませんので。兄がいるからこそでしてっ!」
もうひとりの近衛騎士はこの娘の兄なのか。そちらに目をやる。
「フフフ、フ、フェンス様っ!デ、ディーンと申します!ご一緒に戦えたこと光栄でありますっ!!」
兄の方はガチガチに固まっている。
「楽にしてくれて構わんよ。一緒に戦った友だろう?」
兄のディーンにも手を差し出す。二人は遠慮がちに握り返してくる。妹は戦いの実力以外もかなりやり手のようだが、兄のほうは少し不器用そうだな。しかし、どこかで見たような顔立ちをしている──
「家名はなんと言うんだ?」
「「!?」」
思い当たる節があり何気なく尋ねてみたが二人とも少し言い辛そうにしていた。
「・・・無理には聞かんが。」
「い、いえっ!我ら兄妹は騎士をしておりますが爵位等は持っておりません。ですが、祖父の家名を継いでおりまして。『ベルドナッテ』と、申します」
「!」
ベルドナッテ。なるほど。どうりで見覚えのある顔立ちをしているわけだ。これ以上聞くのは悪いだろう。あとでフリオニールに尋ねてみるとしよう。
「そうか。良い名だな」
「?!あ、ありがとうございますっ!」
ディーンは深々と頭を下げる。エダも同様に頭を下げた。
「・・・お、おじいちゃん?」
「ん?おお、ユリア。怪我はないか?」
二人が急に儂に頭を下げたからだろう困惑した顔のユリアが恐る恐る顔を覗く。ユリアには聞かせる必要のない話だな。
「う、うん・・・。おじいちゃんも大丈夫?あ、あれ??」
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「お、おじいちゃん?それ、盾。小さくなってる?」
そう。儂の盾、神盾アイギスはユリアの盾より少し大きいくらいのサイズに縮んでいるのだ。
「ああ。切り札を使ったからな。あれをやると『神器』の力を使い果たしてしまうみたいでな、縮んでしまうんだ。儂はこのほうが持ち運びしやすくて楽だがな。変か?」
勿論その分防御力もかなり落ちるが。
「ううんっ。あたしの盾と似てるなって思って」
「・・・そうだな」
ユリアの頭をまたワシワシと撫でてから、立ち上り周囲の様子を確認する。
魔人の攻撃は相当な威力だったようだ。儂らのいる足場を残し周囲はかなり吹き飛んでしまっている。火竜王の姿も見えないが、魔石を抜かれてしまっていた。生きてはいないだろう。
『マジン』のことなど聞きたいことは色々あったのだが。
『・・・魔神のことを知りたいのか?』
ん?!
何だ?!ど、どこかから声が──
と言うか、儂は声に出していたか?
『・・・我くらいの存在になれば心の声を聴くなど容易いことだ』
声質は先程よりも高くなっているように感じるが、この声は間違いなく火竜王の声だ。
死んだのではないのか?!
『・・・我らも魔人の様に滅びぬ存在だ。肉体の滅びは消滅ではない』
「火竜王!どこにいる?」
『・・・ここだ、我はここにいる』
声が聴こえただろう方向を見る。他の皆にも聴こえていたのか全員の視線が一点に注がれる。
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