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火の竜の王との邂逅
知らなかった神々
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「えっ?!わわっ!?」
大事に抱えていた竜結晶の中に火竜がいることに気付いたアベルは驚き結晶を地面に落としてしまった。
『いたっ!大事に扱わぬか!』
「も、申し訳ありませんっ!」
慌ててアベルが拾い上げる。いや、そもそも痛いのか?
「ほ、本当に火竜の王なのか?・・・そもそも魔石を抜かれていたから死んでしまったのではないのか?」
詳しい仕組みは解っていないが魔石とは魔物の魂の様なものであるらしい。小型の魔物も大型の魔物も例外なく体内のどこかにある魔石を破壊すれば倒すことが出来ることからもそれは確認されている。
見た目は空気中の魔素が凝縮して生成されているという魔結晶に似ているのだが、違いと言えば魔結晶が無色透明なのに対し魔石はその魔物の属性や強さに比例して中心部が色づいている点なのだが、それも詳しくは解明されていない。
『・・・邪悪なる者に魔石を抜かれた瞬間に、意識を手に持っていた竜結晶に移したのだ。まだ熟しきれていない結晶なので肉体の構築は出来ぬがな』
・・・意識を移した?熟す?肉体の構築?わけがわからないが、これは魔物という存在の根幹にかかわる秘密ではないのか?
『マジン』のことを聞きたいだけだったのだが、これまでに解明されていない様々な問題を明らかに出来る好機なのかもしれない。
「フェンス。私も気になることは非常に多いのだが、ここに滞在するのは危険だ。安全な場所に戻ってからにしないか?」
「ん?ああ・・・、そうだな」
流石にもうあの魔人は襲ってこないだろうが、ここにはまだ火竜をはじめ魔物も多い。皆疲れているようだし、一度宿に戻って休むとしよう。
話しは落ち着いてからでも遅くない。
「そうするとしよう」
◇◆◇◆
大空洞を脱出した儂らは近くに築いた拠点を壊してから下山した。そのままにしておくと魔物の棲みかに利用されてしまうからだ。
聖大結界に使えるくらいの魔結晶はそう簡単に見つかるとは思っていなかったのだが、想定外の出来事があり思いのほか早く達成出来てしまったので無駄になってしまった。
中に火竜王が入っている?のに触媒にして良いのかとは思ったが大丈夫らしい。肉体の構築が出来るまでならと言われはしたが、そうすぐの話でもないようなのでその際にまた魔結晶を探しに来ればいいだろう。
麓の村には宿泊施設がなかったため、既に日が暮れ始めていたが炭鉱街まで戻ることにした。馬車の御者もあまりに早い戻りに驚いていた。
炭鉱街に着いた儂らは宿をとり食事を済ませたあとはそれぞれ部屋で休んだ。かなり汗をかいたので身体を拭きたいところではあるが翌朝でいいだろう。食事時の麦酒が効いたのかすぐに眠気が襲ってきた。
王都へと戻る馬車の中で火竜王に色々と話を聞いた。
内容は衝撃の話ばかりであった。
『マジン』とは魔の神と書いて『魔神』
まだ人という存在が文明を築く以前の遥かな過去。
神々の戦いがあった。
神々は2つに別れ、世界と大地に生きる生命をも巻き込み戦いを広げていった。
魔神と呼ばれている神々は自らの力を分け与えた分身として魔物と魔人を生み出した。魔なるものたちの力は凄まじく、生命は蹂躙され大地は瘴気に蝕まれていった。
対する善神と呼ばれている神々は、魔の存在に苦しめられる人族に知恵を与え、新たに11柱の神を創造し加護と力を与えた。
人族はその知恵を用いて文明を築き、武器と魔法を造り出した。
戦う力を得た人族は徐々に魔を押し返し、11柱の神々とともに遂には魔神をも打ち倒した。
そして、善神は強大な魔物の魂の核と自然界の力を融合して竜を創造し、世界の守護と魔神の封印の要としての役目を与えたという。
「・・・・・・」
人数が増えたため少し手狭になった馬車の中、話を聞いた全員ともに何も言えず押し黙っていた。
『・・・皆黙っているが理解は出来たか。魔神とはそのように邪悪で強大な存在である』
小さくなった火竜の王が何故か尊大な態度で話す。
「・・・俄には信じがたい内容ではあるが、竜の起源やその竜を魔人が狙ったことを考えると嘘ではないんだろう」
『・・・嘘ではない。全て真実である』
疑っているわけではないが、真実だとすると問題が多すぎる。
「善神と呼ばれる神々が現在人族が信奉する神々を創造したと言うのか。それは11柱と言うが12柱ではないのか?」
儂の正面に座るフリオニールが尋ねる。
確かに人族が知っている神は12柱いる。善神が創造したのが11柱と言うのならあとの1柱は──
『・・・それは魔神の1柱であった『無の神』が寝返ったからだな。魔神を封印したあと、大地に残った魔物の管理神として11柱の神々に加えられたからである』
「無の神が魔神・・・。それが理由で人間は『無の神の加護』を得られないのか」
『・・・詳しくは分からぬがそうなのであろう。亜人は魔に近しいところがあるため別なのであろうがな』
「善神と呼ばれる神々は戦いが終わりその後どうなったんだ?」
この話を聞くまで儂ら人族は善神の存在を知らなかった。知らないだけなのか、既にもう存在していないのか。
『・・・善神は魔神の封印を施したあと、その身と蝕まれた大地を癒すため傷付いた世界と融合し眠りについたらしい』
「・・・らしい?確かではないのか?」
魔人達が『魔神』の復活を目論み何を成そうとしているのかは分からないが、善神の存在は切り札になる。その所在を確認する必要があるだろう。
『・・・それは分からぬ。大地や大気中に漂う魔素に善神の気配は微かに感じられるが所在は勿論、存在しているかも定かではない。だが・・・』
「だが?」
『……そこの娘は善神の1柱『付与の神』の加護を得ているのだろう?なればどこかに存在している証しなのかもしれんな。』
「!・・・やはりユリアの加護はそうだったか。」
ユリアに加護を授けた『付与の神』が善神の1柱。
12柱の神々の中には存在しない神であるため、この話を聞きながら予感はしていたが本当にそうだとは。
「えっ?!あたしの加護が何?!ゼンシン?」
結晶の中で話に合わせてちょこまかと動く火竜王を惚けた表情で見つめていたユリアは、話を聞いていなかったのだろう。急に名前を呼ばれたからかひどく慌てていた。
その後、魔人が竜の魔石を用いてどうやって魔神の復活を行おうというのか。王都を襲撃した魔人達が何故『神器』を狙っていたのかを話したが、それは火竜王にも分からないようだ。
魔石と魔結晶の違いについてや竜の存在についてなど、色々な話を聞いた。そのどれもがこれまで知り得なかった知識で、王都に戻ったら改めてマリアやミリアーナとも話さなければならないだろう。
そうして時間は過ぎ、馬車の進路の先に王都の南門が見えた。
南門をくぐりひとりずつ馬車を降りる。
まずは大神殿に居るであろうマリアに竜結晶を届けねばならん。大結界の構築の準備を行いながら、今後の対策も含め火竜王から情報を得なければならない。
魔人に狙われるであろう他の竜王の安否も確かめねばならない。
しばらくは忙しくなりそうだ。
「あああっっ!!?」
最後にジョルジュが馬車を降りたときにルーテが突然大声を上げた。何だ!?魔人の襲撃か?
「私の鞄っ!!」
ジョルジュが矢筒にくくりつけていた鞄をルーテが毟り取る。
拾ったと言っていたルーテのであろう鞄をまだ返していなかったようだ。大事な調査資料なども入っていたようだがあのような状況になり本人も忘れてしまっていたのだろう。
「拾ってやったというのに随分な態度だな・・・」
ジョルジュは呆れ顔で文句を言うが、ルーテは鞄の中身を取り出し確認に必死でまったく聞いてないようだ。
「・・・良かったぁ。全部あるぅ~~」
そんなに大事な資料だったのだろうか。目から鼻から水を流して喜んでいるようだ。そういえば王立魔道院の魔法使いがどんな調査をしているのか興味が沸いて、帰りの馬車で聞こうと思っていたことを思い出した。
「?!ああっ!!」
その時、急に強い風が吹き資料の何枚かが宙に舞う。
そのうちの1枚が儂の足元に落ちた。
?!!こ、これはっ!!?
拾い上げ何気なく書いてある文章を見て
儂は驚愕した──
大事に抱えていた竜結晶の中に火竜がいることに気付いたアベルは驚き結晶を地面に落としてしまった。
『いたっ!大事に扱わぬか!』
「も、申し訳ありませんっ!」
慌ててアベルが拾い上げる。いや、そもそも痛いのか?
「ほ、本当に火竜の王なのか?・・・そもそも魔石を抜かれていたから死んでしまったのではないのか?」
詳しい仕組みは解っていないが魔石とは魔物の魂の様なものであるらしい。小型の魔物も大型の魔物も例外なく体内のどこかにある魔石を破壊すれば倒すことが出来ることからもそれは確認されている。
見た目は空気中の魔素が凝縮して生成されているという魔結晶に似ているのだが、違いと言えば魔結晶が無色透明なのに対し魔石はその魔物の属性や強さに比例して中心部が色づいている点なのだが、それも詳しくは解明されていない。
『・・・邪悪なる者に魔石を抜かれた瞬間に、意識を手に持っていた竜結晶に移したのだ。まだ熟しきれていない結晶なので肉体の構築は出来ぬがな』
・・・意識を移した?熟す?肉体の構築?わけがわからないが、これは魔物という存在の根幹にかかわる秘密ではないのか?
『マジン』のことを聞きたいだけだったのだが、これまでに解明されていない様々な問題を明らかに出来る好機なのかもしれない。
「フェンス。私も気になることは非常に多いのだが、ここに滞在するのは危険だ。安全な場所に戻ってからにしないか?」
「ん?ああ・・・、そうだな」
流石にもうあの魔人は襲ってこないだろうが、ここにはまだ火竜をはじめ魔物も多い。皆疲れているようだし、一度宿に戻って休むとしよう。
話しは落ち着いてからでも遅くない。
「そうするとしよう」
◇◆◇◆
大空洞を脱出した儂らは近くに築いた拠点を壊してから下山した。そのままにしておくと魔物の棲みかに利用されてしまうからだ。
聖大結界に使えるくらいの魔結晶はそう簡単に見つかるとは思っていなかったのだが、想定外の出来事があり思いのほか早く達成出来てしまったので無駄になってしまった。
中に火竜王が入っている?のに触媒にして良いのかとは思ったが大丈夫らしい。肉体の構築が出来るまでならと言われはしたが、そうすぐの話でもないようなのでその際にまた魔結晶を探しに来ればいいだろう。
麓の村には宿泊施設がなかったため、既に日が暮れ始めていたが炭鉱街まで戻ることにした。馬車の御者もあまりに早い戻りに驚いていた。
炭鉱街に着いた儂らは宿をとり食事を済ませたあとはそれぞれ部屋で休んだ。かなり汗をかいたので身体を拭きたいところではあるが翌朝でいいだろう。食事時の麦酒が効いたのかすぐに眠気が襲ってきた。
王都へと戻る馬車の中で火竜王に色々と話を聞いた。
内容は衝撃の話ばかりであった。
『マジン』とは魔の神と書いて『魔神』
まだ人という存在が文明を築く以前の遥かな過去。
神々の戦いがあった。
神々は2つに別れ、世界と大地に生きる生命をも巻き込み戦いを広げていった。
魔神と呼ばれている神々は自らの力を分け与えた分身として魔物と魔人を生み出した。魔なるものたちの力は凄まじく、生命は蹂躙され大地は瘴気に蝕まれていった。
対する善神と呼ばれている神々は、魔の存在に苦しめられる人族に知恵を与え、新たに11柱の神を創造し加護と力を与えた。
人族はその知恵を用いて文明を築き、武器と魔法を造り出した。
戦う力を得た人族は徐々に魔を押し返し、11柱の神々とともに遂には魔神をも打ち倒した。
そして、善神は強大な魔物の魂の核と自然界の力を融合して竜を創造し、世界の守護と魔神の封印の要としての役目を与えたという。
「・・・・・・」
人数が増えたため少し手狭になった馬車の中、話を聞いた全員ともに何も言えず押し黙っていた。
『・・・皆黙っているが理解は出来たか。魔神とはそのように邪悪で強大な存在である』
小さくなった火竜の王が何故か尊大な態度で話す。
「・・・俄には信じがたい内容ではあるが、竜の起源やその竜を魔人が狙ったことを考えると嘘ではないんだろう」
『・・・嘘ではない。全て真実である』
疑っているわけではないが、真実だとすると問題が多すぎる。
「善神と呼ばれる神々が現在人族が信奉する神々を創造したと言うのか。それは11柱と言うが12柱ではないのか?」
儂の正面に座るフリオニールが尋ねる。
確かに人族が知っている神は12柱いる。善神が創造したのが11柱と言うのならあとの1柱は──
『・・・それは魔神の1柱であった『無の神』が寝返ったからだな。魔神を封印したあと、大地に残った魔物の管理神として11柱の神々に加えられたからである』
「無の神が魔神・・・。それが理由で人間は『無の神の加護』を得られないのか」
『・・・詳しくは分からぬがそうなのであろう。亜人は魔に近しいところがあるため別なのであろうがな』
「善神と呼ばれる神々は戦いが終わりその後どうなったんだ?」
この話を聞くまで儂ら人族は善神の存在を知らなかった。知らないだけなのか、既にもう存在していないのか。
『・・・善神は魔神の封印を施したあと、その身と蝕まれた大地を癒すため傷付いた世界と融合し眠りについたらしい』
「・・・らしい?確かではないのか?」
魔人達が『魔神』の復活を目論み何を成そうとしているのかは分からないが、善神の存在は切り札になる。その所在を確認する必要があるだろう。
『・・・それは分からぬ。大地や大気中に漂う魔素に善神の気配は微かに感じられるが所在は勿論、存在しているかも定かではない。だが・・・』
「だが?」
『……そこの娘は善神の1柱『付与の神』の加護を得ているのだろう?なればどこかに存在している証しなのかもしれんな。』
「!・・・やはりユリアの加護はそうだったか。」
ユリアに加護を授けた『付与の神』が善神の1柱。
12柱の神々の中には存在しない神であるため、この話を聞きながら予感はしていたが本当にそうだとは。
「えっ?!あたしの加護が何?!ゼンシン?」
結晶の中で話に合わせてちょこまかと動く火竜王を惚けた表情で見つめていたユリアは、話を聞いていなかったのだろう。急に名前を呼ばれたからかひどく慌てていた。
その後、魔人が竜の魔石を用いてどうやって魔神の復活を行おうというのか。王都を襲撃した魔人達が何故『神器』を狙っていたのかを話したが、それは火竜王にも分からないようだ。
魔石と魔結晶の違いについてや竜の存在についてなど、色々な話を聞いた。そのどれもがこれまで知り得なかった知識で、王都に戻ったら改めてマリアやミリアーナとも話さなければならないだろう。
そうして時間は過ぎ、馬車の進路の先に王都の南門が見えた。
南門をくぐりひとりずつ馬車を降りる。
まずは大神殿に居るであろうマリアに竜結晶を届けねばならん。大結界の構築の準備を行いながら、今後の対策も含め火竜王から情報を得なければならない。
魔人に狙われるであろう他の竜王の安否も確かめねばならない。
しばらくは忙しくなりそうだ。
「あああっっ!!?」
最後にジョルジュが馬車を降りたときにルーテが突然大声を上げた。何だ!?魔人の襲撃か?
「私の鞄っ!!」
ジョルジュが矢筒にくくりつけていた鞄をルーテが毟り取る。
拾ったと言っていたルーテのであろう鞄をまだ返していなかったようだ。大事な調査資料なども入っていたようだがあのような状況になり本人も忘れてしまっていたのだろう。
「拾ってやったというのに随分な態度だな・・・」
ジョルジュは呆れ顔で文句を言うが、ルーテは鞄の中身を取り出し確認に必死でまったく聞いてないようだ。
「・・・良かったぁ。全部あるぅ~~」
そんなに大事な資料だったのだろうか。目から鼻から水を流して喜んでいるようだ。そういえば王立魔道院の魔法使いがどんな調査をしているのか興味が沸いて、帰りの馬車で聞こうと思っていたことを思い出した。
「?!ああっ!!」
その時、急に強い風が吹き資料の何枚かが宙に舞う。
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