盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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火の竜の王との邂逅

聖大結界

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 #ルーテ


  あぁぁぁ・・・。私は今、何故ここにいるのだろう。

  火竜の峰から王都へと戻り、フェンス様達は魔結晶を届けるために神殿へ。その他は興味なし。盗人金髪キザ野郎は衛兵の詰所──チッ!行かねぇのかよ。

  そして私は王立魔道院へ。

  それなのに何故か今、持ち帰ったトカゲ入りの魔結晶を中心に、伝説の四英雄の皆々様と、フェンス様の孫だとかいうガキンチョ、フリオニール様の金魚のフン共と、あとゴツいジジイと一緒に神殿の大広間にいる。

  同行した唯一の魔法使いだからというのが一番の理由らしいけど、フェンス様が是非にとフリオニール様に申し出て頂いたらしい。

  そのフェンス様は今、私の目の前に座っている。渋くて素敵な御尊顔は満面の笑みに溢れていた。

  ああぁもうっ!!恥ずかしくてお顔を直視出来ないぃぃっっ!!!

  まさか、 まさか、よりよってフェンス様にぃぃっ!

  原稿を見られてしまうなんとぅぇぇぇ!!!

  四英雄の皆様が変な赤いトカゲと何やらお話しされてるけどまったく耳に入ってこない。

  はぁ・・・、私は何故ここにいるのだろう──



 #フェンス


  なんとか無事に聖大結界構築の触媒となる竜結晶を持ち帰った儂らは、その足でマリアのいる大神殿へと向かった。

  もう既に聖大結界構築のための司祭団は到着しており、確認と準備が済み次第すぐに取りかかれるらしい。

  確認の結果、火竜王の魂が入った竜結晶でも結界の構築に問題はなく、むしろより強固な結界になるとのことだった。
  竜結晶の中の火竜王が小さな身体で精一杯胸を反らしていた。



  それから1時間もせずにマリア指揮の元、聖大結界構築の儀式は始められた。

  マリアと司祭達が声を揃え祝詞を唄い上げる。

  その唄は神殿の大広間に響き渡りまるで聖歌隊の讃美歌を聴いている様な感覚を覚えた。

  竜結晶を中心に、魔法文字が刻まれた淡い光を放つ二重円が顕れる。そこに10人の司祭がひとりずつ二重円を重ねていく。

  重なりあう11の術式の相乗効果で結界の効力が何倍にも高まる。それはやがて半円の光の膜を形成しゆっくりと膨らみ辺りを包み込んでいく。

  半円は壁をすり抜け街へと広がり城壁をも越えて王都をドーム状に包み込んだ。

  いつのまにか唄は終わり大広間は静寂に包まれる。

「・・・無事、聖大結界の構築は完了しました」

  マリアがゆっくりと瞳を開けると司祭達も掲げていた杖を静かに降ろした。

  結界の構築は無事成功した。



  そのまま火竜の峰で起こった出来事の報告と今後の対策会議を行うこととなり関係者を召集することになった。

  参加は今ここにるフリオニールとマリアにユリア、ミリアーナに前回儂の屋敷での会議にも参加したグストフくらいだろうか。

  他に誰か──

  お!そうだ!

  魔法に係わる者の意見も必要だろうから、火竜の峰に同行して頂いたルーテ先生にもお越しいただこう!

  近衛騎士のエダが王立魔道院に行くらしいので呼んで来てもらうようフリオニールに頼んでおくとしよう。

  しかし、儂が愛読している月一回発行の情報紙に連載をしている『元村人の勇者が村を救うついでに世界を救う』の作家がまさかルーテ、いやルーテ先生だとは思いもしなかった。

  原稿を見てしまったあのときの衝撃は魔人の攻撃以上だった。

  あれは次号の内容だったのだろうか・・・。いや!フェンスよ!忘れるんだ。一読者としてあってはならない行為。忘れて純粋に次号を待つんだ!

  あのときは周りに急かされてお話しが出来なかった。会議が終わったら是非たっぷりとお話しをしたいものだ。

  そうだ!盾にサインを書いて貰おう!

(・・・・・・)



  聖大結界の要となった竜結晶を囲み対策会議は行われた。

  まず火竜の峰で起こった事を儂から報告をする。

  魔石を抜かれた火竜、魔人の出現とその狙い、火竜王との共闘、撃退までの流れ、火竜王から聞いた話の内容を報告する。

  勿論フリオニールとユリアの協力があったことも。

「・・・姿が消えたとの報告は受けていましたが、王城にいるべき陛下が何故そんなところにいたのかはあとでたっぷりとお話しを聞くとしましょう。勿論、ユリアもね」

  フリオニールとユリアの肩がビクッと跳ね上がる。マリアの静かな威圧に曝されては誰しもがああなってしまうだろう。

  まぁ自業自得ではあるのだが二人がいてくれたから魔人を撃退出来たのも事実。あとでフォローをしておいてやろう。

「・・・しかし、魔神の復活ですか。俄には信じ難い話ですが、ユリアの加護を考えると真実なのでしょう」
『・・・我は嘘などつかぬぞ』

  結界の要になった火竜王であったが以前と変わらず結晶の中で跳び跳ねている。何か影響とかはないものなのだろうか?

「これは失礼いたしました。魔人撃退においての火竜王のご助力、真に感謝に堪えません」
『・・・うむ。我もこの者等に助けられた。そこは対等な間柄であろう』

  頭を下げたマリアに火竜王は相変わらず尊大な態度だ。ここにいる者の中でそれが出来るのはきっと火竜王、お前だけだろう。

『・・・共に魔人を打ち払った、謂わば戦友であろう。堅苦しいのは我も疲れる、遠慮はいらぬぞ』

  いつのまにかかなり心を開いてくれたようだ。
  人の子から戦友にランクアップとは光栄である。

「それは、ありがとうございます。では火竜の王と呼ぶのは余所余所しいですね。何か御名前などはあるのでしょうか?」
『・・・ん?我だということが分かればどう呼ぼうと構わんが、統一した呼名があったほうが良いかもしれんな』

  結晶の中で火竜の王は腕を組み何やら考え始める。

『・・・そうだな。では、今後我のことは『イグナーツ』、そう呼ぶがよい』
「は?イ、イグナーツ?」

  名前があったのか?それとも今、考えたのだろうか。
  また儂の心を呼んだのか、火竜王ことイグナーツが腕を組んだまま自慢気な顔を向ける。

『・・・うむ。永き刻の中で呼ぶものは誰もいなくなったが、我を生み出した善神が我をそう呼んでいたのだ』

  そう答えたイグナーツの顔はどこか嬉しそうだった。
  善神に名付けられたが誰にも呼ばれなくなった名前。……それを呼ばれることが嬉しくもあり、誇らしくもあるんだろう。

  竜という強大な存在であっても心というものは人も竜も変わらないのだな。

「・・・そうか。善神は火竜の王──イグナーツにとって親でもあるんだな」
『・・・厳密には違うが似たようなものではあるな』

  周りの皆も同じ気持ちなのだろう。マリアに威圧されて俯いていたフリオニールとユリアも優しげにイグナーツを見つめていた。

「・・・さて、火竜の峰での出来事は確認しました。早速、魔人の狙いについてと今後のことについて話し合いを始めましょうか」

  マリアも優しくイグナーツを見つめると、静かにそう言った──
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