盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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火の竜の王との邂逅

叱って褒めて

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 会議が終わり外に出ると辺りはすっかりと暗くなっていたが、空はよく晴れ月明かりが明るく夜道を照らしていた。

  夏も近付き日も大分長くなったようだが、流石に炭鉱街から戻ったその足で神殿へ向かい結界の儀式を行ない、そのまま今後の方針を決める会議になったためかなり遅くなってしまったようだ。

  隣を歩くユリアとハリルは先程から欠伸ばかりしている。

  今日のうちに話をしようと思っていたが、やめておくとしよう。

  明日出かける前にでもすればいいだろう。

「すっかり遅くなってしまいましたね。カーラさんに食事をお願いしてありますがアナタは召し上がります?」

  ユリアを挟んで並び歩くマリマが儂に尋ねる。

「そうだな。朝も早かったし、昼食も途中で簡単に済ませただけだからな。少し忘れていたが急に腹が空いてきたな」
「あたしもお腹空いた~」
「ワゥン・・・」

  ユリアとハリルも儂に続く。

「フフ。そうだと思って多目に作ってもらっているから沢山お食べなさい。今日は確か・・・ハンバーグだって言っていたかしら?」

「ハンバーグっ!!」「ワゥワーンっ!!」

  メニューを聞いたユリアは途端に目を輝かせる。
  ハリルも今ハンバーグと言ったのか?

  儂も好物である。カーラのハンバーグは絶品だ。

「おじいちゃん、おばあさま。先に帰ってますわね」

  先程まで眠そうにしていたというのにユリアとハリルは元気に屋敷へと駆け出していった。

「やれやれ。加護の儀式も済んだというのにまだまだ子供だな」
「フフ。初めて出会ったころのアナタも似たようなものでしたよ」

  マリマは二人の背中を微笑ましく見つめている。

「そうか?あのころはもう冒険者として活動していたからもっとしっかりしていたと自分では思うが・・・」
「内面的な話ですよ」

  自分ではちゃんと自立出来ていたと思っていたがマリマから見た儂はそうでもなかったのだろうか。

「・・・それでアナタ。帰ってからずっとゆっくり話をする時間もありませんでしたが、どうですか?」
「ん?何がだ?」

  儂の左を歩くマリマがコツンと盾を叩く。

  アイギスは王都に着いたころにはすっかり元の大きさに戻っている。切り札を使うと盾に込められた加護の力……もとい神の力を解放し全てを防ぐ最強の盾となることが出来る。しかし、その反動で何故かバックラーサイズに縮んでしまう。
  神の金属といわれる神鉄で造られた武具だからではないかと、自称一流の鍛冶士に言われたことがあるが、結局仕組みはまったくもって分からない。

  まる1日くらいかなり弱体化してしまうため本当の切り札としてしか使えないが、これまでに何度も生命を救われている。

「久しぶりに手にした相棒の感想ですよ」

  相棒──

  そうだな。

  今こうして違和感もなく手にしているが、儂はこの盾を30年以上持つことも、見ようともしていなかったんだな。

  数日前、街が魔物に襲われ屋敷が魔神に襲撃された。

  盾を持たない儂の力では魔神を倒すことは出来ず、ユリアやジュディや街の人々を守れないと想ってしまった。

  だが、ユリアの言葉に気付かされ儂はまた守りたいと想った。

  儂の想いを。儂を守ってくれていた全ての人達の想いを。

  そして儂は盾の名を呼んだ──



  今、盾は儂の手にある。

  相棒はまた儂を、儂が守りたいものを守ってくれた。

「・・・ああ。悪くない。儂の目にとまる場所にあって助かったよ」

「フフ。アナタの言うように倉庫にしまわずあそこに置いておいて正解だったでしょう?」

  そう言ってマリマはクスッと笑う。

  月明かりに照らされたマリマのその表情は、出会った当時と同じ様に輝いていた。

  どうして今はこんなに恐くなったしまったのか。

  不思議でならない──



 ◇◆◇◆



  翌朝、いつもの様に食事を終え庭でたまった報告書を読む。

  留守の間はとくに問題もなく平穏無事のようだ。守護隊の面々も警邏の合間に東門と北門の修復作業を手伝っていたようだ。

  月一発行の情報紙は勿論まだ出ていない。

  来月号が今からもう楽しみだ。

  ああっ!?

  しまった──

  会議が長引いたせいで、ルーテ先生にサインを貰おうと思っていたのを忘れてしまっていた。
 まぁ明日にはまた一緒に馬車旅だ。機会はいくらでもある。


  朝食を食べ終えたユリアを庭に呼び、話をする。

  駄目だと言ったことを守らず危険に身を晒したことを叱るつもりではあったが、時間も経ちもう気持ちは落ち着いている。むしろまだ何も解っていない自らの力を、考え工夫し守ろうとした想いを褒めてやりたい。

  しかし、それでは示しがつかないだろうし、また同じことを繰り返しては意味がない。
 戦いに身を置く先達として、ちゃんと戦うことの怖さと覚悟、戦いにおける大事なこと心構えを諭してやるべきだろう。

「ごほんっ!え~、ユリア。着いてくることを駄目だと言った儂の言葉の真意は理解出来ているか?」
「・・・はい。ごめんなさい・・・」

  正面に座るユリアは俯き膝の上に乗せた両の手をギュッと握る。

  叱られると思っているのだろう。
  隣に座るハリルもどことなく気落ち気味だ。

「ユリア。顔を上げなさい。これから大事な話をするから」

  努めて優しく語りかける。

  ユリアは上目がちに顔を上げて儂の顔を見つめる。それ目はまだどこか不安気だ。

「火竜の峰へ行って、魔物や魔人との戦いに参加して何を感じた?」
「・・・え?えと、それは──


  ユリアはゆっくりと語り出した。


  屋敷での戦いで儂の力になれたことを嬉しく思ったこと。

  何故か盾が強くなって自分も強くなったと勘違いしたこと。

  初めての冒険に心踊ったこと。

  初めて魔物との戦いを間近に見て怖かったこと。

  守られてばかりで情けなかったこと。

  火の魔物に襲われて皆がどんどん傷付いていったこと。

  必死に考えた付与魔法が成功して嬉しかったこと。

  火竜の大きさに驚いたこと。

  再び遭遇した魔人の恐怖に足が竦んでしまったこと。

  戦いの本当の怖さを知ったこと──


「──そうだ。戦いとは怖いものだ。それを知らず覚悟が出来ていない者ひとりの失敗で全滅する場合もある。」

  実際にそれで全滅や取り返しのつかない怪我を負った冒険者を多く目にしている。

  ユリアはまた下を俯いてしまったが、そのまま話を続けた。

「パーティとはひとりひとりが役割を持って、強大で恐ろしい魔物に全員で挑むものだ。それは信頼で成り立っている。
 十分に戦えない者を連れていくというのはそれだけでリスクになる。儂がユリアを連れて行かなかったのはそういった理由だ」

  コクンとユリアは首肯く。

「・・・しかし、ユリアはその中で自分の力を、出来ることを精一杯考えそれを実行し、フリオニールも、一緒に居た者も、そして儂も助けられた。それはユリアがパーティのひとりとして皆を守りたい、助けになりたいと想った証拠だろう?」

「──う、うんっ!」

  カバッと上げたユリアの顔は涙でグシャグシャになっていた。

「・・・強くなりたいか?パーティの一員として皆を助け守れる強さが欲しいか?」
「?!っ、うんっ!!」

  ユリアは力強く首肯く。
  袖で涙を拭うと精一杯力強く眼差しを向けた。

「よし。では特訓をしてやろう。分かっているとは思うが、これまでのように優しくはないからな?」

  大空洞で会った魔人は最後明確にユリアにその悪意を向けていた。

  何故そうしたかは分からんが、奴らにとってユリアの存在が脅威になるのか。『付与の神の加護』が関係あるのか。

  確かなのは、ユリアは儂らの力としても、魔人に関しても、間違いなく戦いに巻き込まれていくだろう。

  絶対に守り抜いてみせるが、最低限身を守れる力はあったほうがいい。そのためには今までのようにはいかない。

「は、はいっ!!宜しくお願いしますっ!!」
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