盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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水の竜の王の憧憬

宿場街

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 #フェンス


  光に包まれると身体が宙に浮くような感覚を覚えた。

  目は開けていると思うのだが、眩しくて何も見えない。いや、暗闇に閉ざされて何も見えないのか?

  そうやってどれくらいの時間が経ったのかも経ってないのかも分からないでいると、不意に足が地面を掴んだ感触がした。

  次第に光と闇が閉ざされ視界が戻ってくる。

  先程まで王都の西門前に居たのだが、今は何もない草原の直中にいる。遠くに王都よりは劣るが十分に立派な石壁に囲われた街が見える。

  空を見上げると澄んだ青空にまだ昇りきっていない陽が見えた。時間はほとんど過ぎていないようだ。
 周りには一緒に転移してきた面々が草原に腰を降ろしている。どうやら全員無事なようだ。

「・・・ん。ちょっと街から離れたけど上手くいった」

  正面に腰を降ろしていたミリアーナは立ち上がると手で服に付いた草土を払う。その横でルーテは何かが抜け落ちた様な表情をしている。

  儂の横にいるカインとドーガも同じ顔をしている。きっと儂もそうなのだろう。

「・・・ミリアーナ。ここはどこだ?まさかあそこに見えるのが宿場街か?」

  そこを目的地に転移したのだからそうなのだろうが、まだ実感が湧いてこない。白昼夢でも見ている気分だ。

「・・・そこに行くんだからそうに決まってる。バカなの?」

  ああ。これは夢じゃないな。

「・・・はぁ。しかし、これは本当に凄いな。帰りもこれを使うのか?」
「・・・一回の魔力消費量がすごいから連続しては無理。しっかり休んで回復するか、別に魔力量の多い人がいないとダメ。それに魔道具自体も冷却が必要になる」

  まあ、それは仕方ない。これだけのことが出来る魔道具が連続して使えたら運送業は衰退だ。いずれはそうなっていくのだろうが。

「この箱の魔道具は北門で見つかったやつだよな?」
「・・・ん。そう」

  だとすると、これは魔人が用意したもので、これでゴブリンらを北門に転移させたのだろう。
 魔人がこの魔道具を大量に持っているとするとそうとうな脅威となる。対策は立てられるのだろうか。

「・・・ねぇフェンス。」
「ん?どうかしたのか?」

  そんなことを思っているとミリアーナに名前を呼ばれる。
  何か問題でもあったのだろうか。

「・・・いつまでボケッとしてるの?魔物に食べられたいの?」

  ああ。こいつはいつだってこういう奴だな。



  宿場街に向けて歩き出す。

  近付くにつれ遠目で見たよりもしっかりと耐久力もある石壁であることが見てとれた。

  きっと石壁の中も立派な街並みが築かれているのだろう。

  ルーテに聞いていた話ではここまで大きな街の印象はなかったが、何年かでこんなにも発展したのだろうか。

「・・・ふえぇぇ」

  ルーテも同様に思っているようで正面に見えているこれまた強固で立派な造りの門を見上げ、感嘆の息を漏らしている。

「止まれ!」

  二人の衛兵が道を塞ぐ。

  二人が身に付けている装備も鋼鉄製のプレートメイルに同じく鋼鉄製の槍と、一介の街の衛兵の装備とは思えない高価さだ。

「何用で参られた。理由と身分の分かるものを見せて頂こう」

  衛兵のひとりが職務に忠実に来訪理由を尋ねてくる。

  既にフリオニールが早馬で使者を送ってくれているはずだ。それを伝えれば済むだろう。

「ああ。シャルマート王国から参った。使者が来ていると思うが確認して頂けるか」

  それを聞いた衛兵は訝しげに眉を潜め、ひとりひとりを舐めるように見回す。

「・・・確かに早朝にシャルマート王国より使者が参られ、貴族が来られると上より聞いてはいるがそれも明日のはずだ。そのうえ徒歩で現れる貴族など聞いたこともない。徒歩で来るのは冒険者と相場が決まっている」

  なるほど。

  確かに貴族ならそれなりの馬車で来るだろうし、まさか使者も転移魔法で来るとは伝えないし思いもしないだろう。

  それに、確かに儂は貴族としての地位を持ってはいるが、儂も周りの皆も誰ひとり貴族然とした格好の者はいない。どちらかと言えば冒険者に見えてもおかしくないだろう。

  仕方ない。儂の代で貴族は辞めるつもりであるからあまり使いたくはないのだが。儂は懐に入れておいたものを取り出す。
 普段は身に付けていないが、今朝方マリアに持っていけと渡された貴族としての証明でもある王国印の刻まれた勲章だ。

「ごほんっ!え~、シャルマート王国法衣男爵フェンス・フォン・ヴェロスクードである。王命を受け馳せ参じた」

  勲章をかざし王都にいるときでも滅多に使わない貴族名を名乗る。恥ずかしくて言いたくはないのだが、ここで無駄に時間を消費しても仕方ないからな。

  家名となっている『ヴェロスクード』は勿論本名ではない。爵位を授かる際にそれらしい名前は必要だろうと、フリオニールが考えた名だ。
 あとから知ったが、古の言葉で『真の盾』を意味するらしい。当時の儂は恥ずかしさ以上に忌々しさを感じ、フリオニールに変えろと詰め寄ったが「もう変更は出来ぬから諦めろ」と、躱されて終わってしまった。

「・・・ヴ、ヴェロス・・・クード??」

  衛兵は勲章をじっと見つめたまま動かなくなってしまった。
  可哀想なことをしてしまったか?

「・・・ヴェロスクードって・・・──はっ!?」

  それまで特に動かず様子を見ていたもうひとりの衛兵が、唐突にもの凄い勢いで動かなくなっていた衛兵の頭を掴み強引に膝ま付かせ、自らも横に並ぶ。

「た、たたた、大変、し、失礼致しましたっ!まさか、あの真の盾騎士、ヴェロスクード卿とは知らず、と、とんだ御無礼をっ!!何卒っ、御許しをっ!!」

  まぁ、こうなるだろう。

  彼らは真っ当に職務を遂行していただけだ。勿論罰など与えるつもりなどない。分かってくれればそれでいい。

「ああ。気にしなくて良い。このような格好では冒険者と間違えても仕方ない。街へ入れてくれればそれで構わない。先に来ている使者は今どこにいる?」

  儂は努めて明るく装い振る舞う。

「~~っ!か、寛大な御慈悲、ありがとうございますっ!!」
「し、使者殿は南西区の宿に居られますっ!どうぞ、ご案内致しますっ!」

  儂らは案内人従って街へと入る。

「・・・こんなふうに貴族ぶるのって、最低」
「ふわぁぁ~フェンス様、素敵です・・・」

  2名ほど何か言っているが気にしないでおこう。


  宿場街の中は外から見た印象の通り内部もかなり発展しているようだ。真っ直ぐ伸びる大通りの両端は宿場街の名の通りに、宿や旅の必需品や食料を売っている商店、武具屋などが軒を連ねている。

  大通りは東西南北、街を十字に切るように伸びていて、商店以外の住居などは大きく4つの区画に別れている。

  区画は南西に街長の屋敷や商会主の屋敷、南東が上流街人、北東が武具などの生産業のもの、北西が一般街人の住居となっているそうだ。

  街の作り自体はルーテが暮らしていた頃と変わっていないようで、目的の場所は北西の区画にあるらしい。
 
「こ、こちらの宿で使者殿は、お、お待ちになっておりますっ!」
「ああ。ここまでで構わない。案内ありがとう」

  衛兵は見えなくなるまで何度も頭を下げながら戻っていった。
 
  もし今後こういったことがあったときは貴族と名乗るのはやめておこう。彼等のような者のためにも、儂のためにも。

「やはりフェンス殿でしたか。明日かと思っておりましたがかなりお早い到着ですね」

  去っていく後ろ姿を何気無く見送っていたら後ろから名前を呼ばれる。振り返ると見知った顔が二つ。

「おお。ロディにルーク。もしや使者とはお前たちのことか?」
「はい。またご一緒出来て光栄です」

  火竜の峰から帰ったばかりで遠出の仕事とは、フリオニールも人使いが荒いなと思ったが、どうやら本人達が希望したらしい。

  儂としても見知った者のほうが助かる。

「立ち話も何ですから中で話しませんか?皆さんも長旅お疲れでしょう?皆さんの部屋も取ってありますので」
「ん?おお、そうだな。疲れてはないがな・・・」

「?」

  不思議そうな顔の二人を促して宿へと入る。

  さて、何か分かっただろうか。
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