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水の竜の王の憧憬
ゴルドバの企み
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#フリオニール
私は今、自室の執務机に添えられた椅子に座り、二枚の書類を見つめ頭を抱えている。
城には日々この書類のような報告書や申請書が山のように届くのだが内容は様々で、建築・工事に関する進捗報告書や、各領地を治める貴族からの嘆願書、軍備拡充の依頼書に、魔物や自然災害などによる被害の調査報告書などなど。
これらは、政務大臣のウェンデルと軍務大臣のジェイガンの二人がそれぞれが管理する部門ごとに確認処理をするのだが、中には私の確認許可が必要な国政に関わる問題などもありそういった書類が私のもとに回ってくるのだが。
今日は大臣が直接書類を届に来たのだ。
しかも二人仲良く顔を揃えて。
「この報告書はどちらもモンテフェルト伯からのものなのだな?」
書類の下部には西方領地を任せているモンテフェルト伯爵の署名と印章が捺されている。
「ええ。それぞれ別の商団の荷検めの報告書ですが、その数量と取引先が同じということが少々難ありかと。物品自体はしっかりと検品も届け出もされているようです」
「モンテフェルトは目敏い男ですからな。この二件を不審に感じ報告をしてきたようですな」
現モンテフェルト伯爵は五年前に父親である前伯爵が亡くなりその跡を継いでいる。それまではジェイガンの副官を務めており、騎士団の効率的な改編や、魔物の棲息地に隣接した地域の防衛計画などを見直し、多大な成果をもたらした傑物である。
出来れば次期軍務大臣にとは思っていたのだがな。
「・・・大量の魔石と、百本ものミスリル製の剣か」
「魔石は中級の魔物のものがほとんどで、中には竜クラスの大型のものも含まれていたそうです」
「ミスリルの剣は炭鉱街からの荷だったようですな。あそこのミスリルは魔力の伝導率が高い上質なものが多く採れますからな」
魔石は魔道具の燃料として使われるほか、色形によっては観賞用にも取り引きされている。竜の魔石ともなればオークションが行われかなりの値がつくだろう。
ミスリルの剣は属性剣魔法との相性が良く、魔法を使える冒険者が愛用していることが多いのだが。
この二つを用いて造られるものに問題があるのだ。
「まさか魔道剣でも造る気ではあるまいな」
魔道剣とは魔石と剣で造られる魔道具のことで、帝国との戦争の際に帝国軍が用いていた兵器のひとつだ。
その製法は魔人から伝えられたと言われており、魔法を使えない者でも属性剣魔法や放出系の魔法が使えるようになるという代物で、連合軍側に大きな被害をもたらした。
戦争終了後にはその全てを没収し一部を除いて解体、その製法もそれを知る者も消され、新たに造ることを禁忌としこれを破った者には厳しい罰が与えられることとなっている。
「荷の運び先はどこなのだ?」
「運び先はロレーヌ国との国境沿いにある宿場街・・・ちょうどヴェロスクード卿が行かれている街です。更にその街で元帝国貴族で魔道剣製造の責任者でもあったルードヴィング家の子息に似た人物が目撃されたとの情報も入っています」
なんだと?!こうしてはおられん。このことを急いでフェンスに伝えねば!
「ジェイガン卿!すぐに出る!馬の準備を──
「陛下!その必要はありませんな」
「なっ!?もし危惧した事態にでもなれば大変なことになるぞ!フェンスがいるのなら早くこのことを伝えねば!!」
「もう既に第二騎士団の一小隊が準備済みですし、モンテフェルトも領兵を向かわせているようですからな」
「ですので陛下は安心して公務に励んで下さい。まだまだ書類はございますので」
ウェンデルが指を鳴らすと前が見えないほどの書類を抱えた補佐官が部屋に入ってきた。
「は、はは・・・」
フェンス。宜しく頼む──
#フェンス
カインとドーガが戻ったのはもうすっかり日が暮れてからだった。
本当は宿を変えるつもりだったが今からでは部屋を取れない恐れがあるため、今晩はこのままここに泊まることになった。
きっとドーガはベッドも使えないだろうが。
ルーテはティアマトのところへ行ったまままだ出てきていないらしく、今はロディに代わりルークが様子を見ている。
ルーテは何かしら話を聞けただろうか。
ミリアーナは相変わらず部屋から出てこないためもう放っておこう。こうなると何のために付いてきたのか分からんな。
「街議会は主にゴルドバの息のかかった商会関係者で構成されていました。再開発計画の工事や物資の取引などは議会に所属する商会ばかりが優先され、ゴルドバが思うように操っているようです。
隣国の貴族や商会とも繋がりがあるようでして、あくまで噂ですが貿易が禁止されている品を扱う闇オークションなども行われているという話もあるようです」
主に街議会と商会を調べていたカインの報告によると、立ち退き金の不正だけでなく様々な方法で悪稼ぎをしているようだ。それはただ私腹を肥やすためだけに行っているのか、それとも何か目的があるのか。
「冒険者ギルドの話だと、ゴルドバはギルド評価の低い冒険者を数多く雇っているようです。それ以外にも魔道具職人や鍛治技術を持った者も厚待遇を謳い囲っているようです。
冒険者の話では、なんでもゴルドバの屋敷の裏に秘密の工場があり、先日大量の魔石が運び込まれたとの噂があるらしく、それを酒場で話していた男は翌日から姿が見えなくなったと・・・」
雇われた冒険者というのは屋敷の前に居た男達だろうか。取り立ての要員にしては多過ぎる気もする。
秘密の工場というのも怪しい。大量の魔石を使って何をしようというのか。
魔石、魔道具職人、鍛治技術を持った者。
いや、まさかな。
「・・・ううむ。噂ばかりで確かな証拠にはならないか。気になることは多いが、その工場の存在を確かめる必要があるな」
ゴルドバが何を企んでいるのか。
ティアマトが何を隠しているのか。
どうにも嫌な予感しかしないな──
私は今、自室の執務机に添えられた椅子に座り、二枚の書類を見つめ頭を抱えている。
城には日々この書類のような報告書や申請書が山のように届くのだが内容は様々で、建築・工事に関する進捗報告書や、各領地を治める貴族からの嘆願書、軍備拡充の依頼書に、魔物や自然災害などによる被害の調査報告書などなど。
これらは、政務大臣のウェンデルと軍務大臣のジェイガンの二人がそれぞれが管理する部門ごとに確認処理をするのだが、中には私の確認許可が必要な国政に関わる問題などもありそういった書類が私のもとに回ってくるのだが。
今日は大臣が直接書類を届に来たのだ。
しかも二人仲良く顔を揃えて。
「この報告書はどちらもモンテフェルト伯からのものなのだな?」
書類の下部には西方領地を任せているモンテフェルト伯爵の署名と印章が捺されている。
「ええ。それぞれ別の商団の荷検めの報告書ですが、その数量と取引先が同じということが少々難ありかと。物品自体はしっかりと検品も届け出もされているようです」
「モンテフェルトは目敏い男ですからな。この二件を不審に感じ報告をしてきたようですな」
現モンテフェルト伯爵は五年前に父親である前伯爵が亡くなりその跡を継いでいる。それまではジェイガンの副官を務めており、騎士団の効率的な改編や、魔物の棲息地に隣接した地域の防衛計画などを見直し、多大な成果をもたらした傑物である。
出来れば次期軍務大臣にとは思っていたのだがな。
「・・・大量の魔石と、百本ものミスリル製の剣か」
「魔石は中級の魔物のものがほとんどで、中には竜クラスの大型のものも含まれていたそうです」
「ミスリルの剣は炭鉱街からの荷だったようですな。あそこのミスリルは魔力の伝導率が高い上質なものが多く採れますからな」
魔石は魔道具の燃料として使われるほか、色形によっては観賞用にも取り引きされている。竜の魔石ともなればオークションが行われかなりの値がつくだろう。
ミスリルの剣は属性剣魔法との相性が良く、魔法を使える冒険者が愛用していることが多いのだが。
この二つを用いて造られるものに問題があるのだ。
「まさか魔道剣でも造る気ではあるまいな」
魔道剣とは魔石と剣で造られる魔道具のことで、帝国との戦争の際に帝国軍が用いていた兵器のひとつだ。
その製法は魔人から伝えられたと言われており、魔法を使えない者でも属性剣魔法や放出系の魔法が使えるようになるという代物で、連合軍側に大きな被害をもたらした。
戦争終了後にはその全てを没収し一部を除いて解体、その製法もそれを知る者も消され、新たに造ることを禁忌としこれを破った者には厳しい罰が与えられることとなっている。
「荷の運び先はどこなのだ?」
「運び先はロレーヌ国との国境沿いにある宿場街・・・ちょうどヴェロスクード卿が行かれている街です。更にその街で元帝国貴族で魔道剣製造の責任者でもあったルードヴィング家の子息に似た人物が目撃されたとの情報も入っています」
なんだと?!こうしてはおられん。このことを急いでフェンスに伝えねば!
「ジェイガン卿!すぐに出る!馬の準備を──
「陛下!その必要はありませんな」
「なっ!?もし危惧した事態にでもなれば大変なことになるぞ!フェンスがいるのなら早くこのことを伝えねば!!」
「もう既に第二騎士団の一小隊が準備済みですし、モンテフェルトも領兵を向かわせているようですからな」
「ですので陛下は安心して公務に励んで下さい。まだまだ書類はございますので」
ウェンデルが指を鳴らすと前が見えないほどの書類を抱えた補佐官が部屋に入ってきた。
「は、はは・・・」
フェンス。宜しく頼む──
#フェンス
カインとドーガが戻ったのはもうすっかり日が暮れてからだった。
本当は宿を変えるつもりだったが今からでは部屋を取れない恐れがあるため、今晩はこのままここに泊まることになった。
きっとドーガはベッドも使えないだろうが。
ルーテはティアマトのところへ行ったまままだ出てきていないらしく、今はロディに代わりルークが様子を見ている。
ルーテは何かしら話を聞けただろうか。
ミリアーナは相変わらず部屋から出てこないためもう放っておこう。こうなると何のために付いてきたのか分からんな。
「街議会は主にゴルドバの息のかかった商会関係者で構成されていました。再開発計画の工事や物資の取引などは議会に所属する商会ばかりが優先され、ゴルドバが思うように操っているようです。
隣国の貴族や商会とも繋がりがあるようでして、あくまで噂ですが貿易が禁止されている品を扱う闇オークションなども行われているという話もあるようです」
主に街議会と商会を調べていたカインの報告によると、立ち退き金の不正だけでなく様々な方法で悪稼ぎをしているようだ。それはただ私腹を肥やすためだけに行っているのか、それとも何か目的があるのか。
「冒険者ギルドの話だと、ゴルドバはギルド評価の低い冒険者を数多く雇っているようです。それ以外にも魔道具職人や鍛治技術を持った者も厚待遇を謳い囲っているようです。
冒険者の話では、なんでもゴルドバの屋敷の裏に秘密の工場があり、先日大量の魔石が運び込まれたとの噂があるらしく、それを酒場で話していた男は翌日から姿が見えなくなったと・・・」
雇われた冒険者というのは屋敷の前に居た男達だろうか。取り立ての要員にしては多過ぎる気もする。
秘密の工場というのも怪しい。大量の魔石を使って何をしようというのか。
魔石、魔道具職人、鍛治技術を持った者。
いや、まさかな。
「・・・ううむ。噂ばかりで確かな証拠にはならないか。気になることは多いが、その工場の存在を確かめる必要があるな」
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