盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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水の竜の王の憧憬

再開発計画

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「た、助けて頂いてありがとうございます」

  女性はしきりに頭を下げる。よくよく見るとその衣服は汚れ綻びも多々ある。頬はこけ、顔色もあまりよくないようだ。

  栄養のある食事を摂れていないのだろう。

「いや、儂は何もしてないよ。貴女達を助けたのはこのルーテだ。まぁ少しやり過ぎではあるがな」

  ルーテは儂が出てきたことで冷静さを取り戻したのか、自らが行った行為を反省し俯いている。

  魔法で吹き飛ばした男達に大した怪我もなく、気を失っているだけだったことに胸を撫でおろしていた。

「す、すみません、私・・・」
「ん?いや、間違ったことはしてない。相手が剣を抜いたことは事実だしな」

  魔法の威力は感情に任せて加減が出来なかったのかもしれないが、歴とした正当防衛であるだろう。

  きっとあそこでルーテがやらなくても儂がやっていたと思うしな。

  すると、母の陰に隠れていた男の子が俯いたままのルーテに近寄りローブの袖を少し摘まんだ。

「・・・お姉ちゃん、ありがとう」
「──っ!」

  ルーテはその言葉に一瞬ビクッと身体を震わせたが、その場でしゃがみこみ子供に視線を合わせその頭を優しく撫でた。

「・・どこか痛いとこはない?」

  男の子はニカッと歯を見せ明るい笑顔を浮かべる。

「うん!どこも痛くないよ。お姉ちゃんが助けてくれたから!お姉ちゃんの魔法ドバーッ!て、カッコイイね!!」
「っ!?」

  いつのまにか泣き止んでいたルーテの目にまた涙が溢れてきた。彼女のことはまだよく知らないが、王都の魔道院でひとり働いている苦労などもあるのだろう。

「・・・うん、ありがとう」

  今度屋敷に招いて食事でも振る舞ってそこでゆっくり話でもするとしよう。もう仲間のひとりだからな。




  そのあと、遠慮はしたのだが是非にと言われ母子の家に招かれ茶を飲んでいる。茶はティアマトのところで飲んだもの同様にかなり薄いが、出されたものは頂くのが礼儀だ。

  しかし、今日は茶を飲み過ぎているな。

「菓子のひとつも出せずにすみません。今は何もなくて・・・」
「いえ、お構いなく」

  家のなかは必要最低限のものしかないようで、かなりガランとしている。どれほど苦しい生活をしているというのだろうか。

  儂の視線に気付いた母親は困ったような微笑を浮かべていた。

「家賃の支払いのために売れそうなものは全て売ってしまいまして、もう何も残っていなくて・・・」

  そこまでしなければいけないほど家賃が高いというのだろうか。相場がいくらなのかは知らないが普通の生活がおくれなくなるほどの金額というのはどう考えてもおかしい。

「五年前に以前の街長が病でなくなりまして、今の街長に代わったんですが、そのあと街議会で街の再開発の計画が決まったらしく、協力金として住民への税や家賃が上がったんです」

  北西区をはじめこの街の多くの建物はそのほとんどが街長、つまりゴルドバの持ち物であるらしい。

  再開発はまず街を十字に走る大通りから始まり、通り沿いの宿や商店が整備され、それによって隣国からの貿易が盛んになり街は潤ったのだが、それは一部の宿の主や商会の主のみで一般の住民への恩恵は少なかったという。

「主人は前街長の補佐を行っていたのですが今の街長に代わった際に解任されまして、街を囲う石壁の工事などで日銭を稼いでいたのですが慣れない力仕事で身体を壊しまして、昨年・・・亡くなりました」

  そういった経緯もあってさらに生活が困窮してしまったようだ。

  再開発はその後北西区へと移り、古く崩れた街並みを一新して商業施設や娯楽施設などを作る計画らしい。

  それに合わせて現住民へ立ち退き要請が出たのだが、その立ち退き費用は十分な金額ではなく移住先の北東区は更に家賃が高くなり、建て替え後に再入居を申し出ても家賃は倍以上と更に高くなる。

「街を出ることも考えたのですが、見知らぬ土地でこの子を連れて生活する不安もありますし、この街には主人が眠っていますので・・・」

  色々な事情で立ち退きに応じれない住民達がティアマトを頼り待遇や金銭面の改善を街議会へ訴えているらしい。

  ゴルドバが言っていた住民の反対活動のことだろう。

  実際に正当な金額が支払われていないのか、その管理は誰が行っているのか調べる必要があるな。何か不正があるならば然るべきところへ報告をしなければならない。



  女性に礼を述べ家を出た儂らは当初の予定通り宿に戻ることにする。

  第一の目的はティアマトのことなのだが、街の問題も気になるところだ。ティアマトも関与していることを考えると話を拒否したことに何か関係があるのかもしれない。

  そのまま答えの出ない問題をひとり悶々と考えながら、大通りを渡り南西区の宿前に戻る。

 「・・・フェンス様」

  宿に入ろうとしたところで急にルーテに名前を呼ばれた。そのルーテの顔はどこか思い詰めた表情をしていた。

「ん?どうした、ルーテ。」

「・・・勝手ですみません。私・・・もう一度ティアマトと話してきますっ!」

  そう言ったと思ったらそのまま走り出し、来た道を戻っていってしまった。

「・・・ロディ。悪いが頼む」
「は、はい。了解しました」

  自分が生まれ育った街で何か問題が起きていて、それに自分の大切だろう人が係わっている。気が気でないだろうし、今のところティアマトとまともに話が出来るのはルーテだけだ。彼女に任せてみても良いかもしれない。

  まぁ、先程のような無茶をしなければいいが──
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