53 / 91
水の竜の王の憧憬
再開発計画
しおりを挟む「た、助けて頂いてありがとうございます」
女性はしきりに頭を下げる。よくよく見るとその衣服は汚れ綻びも多々ある。頬はこけ、顔色もあまりよくないようだ。
栄養のある食事を摂れていないのだろう。
「いや、儂は何もしてないよ。貴女達を助けたのはこのルーテだ。まぁ少しやり過ぎではあるがな」
ルーテは儂が出てきたことで冷静さを取り戻したのか、自らが行った行為を反省し俯いている。
魔法で吹き飛ばした男達に大した怪我もなく、気を失っているだけだったことに胸を撫でおろしていた。
「す、すみません、私・・・」
「ん?いや、間違ったことはしてない。相手が剣を抜いたことは事実だしな」
魔法の威力は感情に任せて加減が出来なかったのかもしれないが、歴とした正当防衛であるだろう。
きっとあそこでルーテがやらなくても儂がやっていたと思うしな。
すると、母の陰に隠れていた男の子が俯いたままのルーテに近寄りローブの袖を少し摘まんだ。
「・・・お姉ちゃん、ありがとう」
「──っ!」
ルーテはその言葉に一瞬ビクッと身体を震わせたが、その場でしゃがみこみ子供に視線を合わせその頭を優しく撫でた。
「・・どこか痛いとこはない?」
男の子はニカッと歯を見せ明るい笑顔を浮かべる。
「うん!どこも痛くないよ。お姉ちゃんが助けてくれたから!お姉ちゃんの魔法ドバーッ!て、カッコイイね!!」
「っ!?」
いつのまにか泣き止んでいたルーテの目にまた涙が溢れてきた。彼女のことはまだよく知らないが、王都の魔道院でひとり働いている苦労などもあるのだろう。
「・・・うん、ありがとう」
今度屋敷に招いて食事でも振る舞ってそこでゆっくり話でもするとしよう。もう仲間のひとりだからな。
そのあと、遠慮はしたのだが是非にと言われ母子の家に招かれ茶を飲んでいる。茶はティアマトのところで飲んだもの同様にかなり薄いが、出されたものは頂くのが礼儀だ。
しかし、今日は茶を飲み過ぎているな。
「菓子のひとつも出せずにすみません。今は何もなくて・・・」
「いえ、お構いなく」
家のなかは必要最低限のものしかないようで、かなりガランとしている。どれほど苦しい生活をしているというのだろうか。
儂の視線に気付いた母親は困ったような微笑を浮かべていた。
「家賃の支払いのために売れそうなものは全て売ってしまいまして、もう何も残っていなくて・・・」
そこまでしなければいけないほど家賃が高いというのだろうか。相場がいくらなのかは知らないが普通の生活がおくれなくなるほどの金額というのはどう考えてもおかしい。
「五年前に以前の街長が病でなくなりまして、今の街長に代わったんですが、そのあと街議会で街の再開発の計画が決まったらしく、協力金として住民への税や家賃が上がったんです」
北西区をはじめこの街の多くの建物はそのほとんどが街長、つまりゴルドバの持ち物であるらしい。
再開発はまず街を十字に走る大通りから始まり、通り沿いの宿や商店が整備され、それによって隣国からの貿易が盛んになり街は潤ったのだが、それは一部の宿の主や商会の主のみで一般の住民への恩恵は少なかったという。
「主人は前街長の補佐を行っていたのですが今の街長に代わった際に解任されまして、街を囲う石壁の工事などで日銭を稼いでいたのですが慣れない力仕事で身体を壊しまして、昨年・・・亡くなりました」
そういった経緯もあってさらに生活が困窮してしまったようだ。
再開発はその後北西区へと移り、古く崩れた街並みを一新して商業施設や娯楽施設などを作る計画らしい。
それに合わせて現住民へ立ち退き要請が出たのだが、その立ち退き費用は十分な金額ではなく移住先の北東区は更に家賃が高くなり、建て替え後に再入居を申し出ても家賃は倍以上と更に高くなる。
「街を出ることも考えたのですが、見知らぬ土地でこの子を連れて生活する不安もありますし、この街には主人が眠っていますので・・・」
色々な事情で立ち退きに応じれない住民達がティアマトを頼り待遇や金銭面の改善を街議会へ訴えているらしい。
ゴルドバが言っていた住民の反対活動のことだろう。
実際に正当な金額が支払われていないのか、その管理は誰が行っているのか調べる必要があるな。何か不正があるならば然るべきところへ報告をしなければならない。
女性に礼を述べ家を出た儂らは当初の予定通り宿に戻ることにする。
第一の目的はティアマトのことなのだが、街の問題も気になるところだ。ティアマトも関与していることを考えると話を拒否したことに何か関係があるのかもしれない。
そのまま答えの出ない問題をひとり悶々と考えながら、大通りを渡り南西区の宿前に戻る。
「・・・フェンス様」
宿に入ろうとしたところで急にルーテに名前を呼ばれた。そのルーテの顔はどこか思い詰めた表情をしていた。
「ん?どうした、ルーテ。」
「・・・勝手ですみません。私・・・もう一度ティアマトと話してきますっ!」
そう言ったと思ったらそのまま走り出し、来た道を戻っていってしまった。
「・・・ロディ。悪いが頼む」
「は、はい。了解しました」
自分が生まれ育った街で何か問題が起きていて、それに自分の大切だろう人が係わっている。気が気でないだろうし、今のところティアマトとまともに話が出来るのはルーテだけだ。彼女に任せてみても良いかもしれない。
まぁ、先程のような無茶をしなければいいが──
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる