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水の竜の王の憧憬
憧れた英雄
しおりを挟む宿に入るとつい先程来たときよりかなり人が増えていた。
これから泊まるもの、出発するもの様々なのだろう。
話の内容があまり誰かに聞かせられるものでもないので、話は部屋ですることにしたは。また珈琲を飲みたい気もするが既に腹は液体で満たされている。
夕食後にでも飲みにくるとしよう。
部屋は、儂がひとり部屋、従者と使者用として大部屋がひとつ、ミリアーナとルーテで一部屋の計三部屋用意してもらっている。
皆で話すには大部屋のほうがいいだろうと、ルークにミリアーナを呼んでくるよう頼む。
大部屋に入ると落ち着かないのか、カインとドーガは立派なソファーや椅子もあるのだが部屋の真ん中に立っていた。
「何だ、ずっとそうしていたのか?」
「あ、総隊長、お疲れ様です。・・・いや、どうにも居心地が悪くてですね。汚してでもしてしまったらと思うと、なかなか座り辛くて」
「自分は触れたら壊してしまいそうで、水すら飲めませんよ」
ドーガはそう言って造りの細かな脚付きのグラスを眺めている。
「ハハ、そうだな。何日か滞在することになるかもしれないから、折角これほど良い部屋を用意してもらったが普通の宿に変えたほうがいいかもしれないな」
そう言いながら儂は遠慮なしにソファーに腰を降ろす。
こういった部屋の調度品などは汚れたり多少壊れたりしても大丈夫なよう部屋代がその分高くなっているはずだからな。
まぁ、儂が払うわけではないのだが。
「そう言われるということは、竜人族には会えなかったのですか?」
儂が座ったのを見てカインも恐る恐る腰を降ろす。ドーガは変わらず座らないようだ。
「いや、会えはしたのだが追い払われてしまってな。ルーテが今もう一度話をしに行っている。だがそれ以外にも色々と厄介ごとが多くてな・・・」
「そうなのですか。厄介ごととは?」
「話はミリアーナが来てからにしよう。今ルークに呼びに行ってもらっている」
そう言うと同時に扉が開きルークが入ってきた。
だが、ルークひとりしかいない。
「ルーク?ミリアーナはどうした?」
ルークはこの短時間で何があったのか凄く疲れた表情をしていた。何か嫌な予感がする。
「・・・それが、何があったのかと聞かれたので簡単に話したんですが、話を聞くなり・・・面倒なのはキライ。フェンス殿に任せておけばいい」と言われ部屋に戻ってしまって。もう一度呼んだんですが扉に鍵をかけたみたいで・・・」
ああ。あいつはそういう奴だったな。
まぁ、あいつに話したところで調査も何もせずにゴルドバの屋敷ごと吹き飛ばしそうだから居ないほうがいいのかもしれない。
「・・・はぁ。仕方ない。抜きでやるとしよう」
「ハハ・・・そうですね」
カインとドーガに街長ゴルドバと話したところからここに戻るまでの一連の話を聞かせる。
見聞きしたことを頭の中でまとめながら話していると、どう考えてもゴルドバが悪としか思えない。深く考えずに屋敷ごと吹き飛ばしたほうが結果的に良いのかもしれないな。
「──と、いうわけだ。二人はどう思う?」
カインは腕を組みじっと考えている?ドーガは流石に立ち疲れたか床に胡座をかいていた。
「断定は出来ませんが、街長が何かしら不正をしている確率が高いと思いますね。正当に払うべき立ち退き金を横領して私腹を肥やしているのか、何か良からぬことに使っているのか」
やはり、誰でもそう思うだろう。
「ドーガはどうだ?」
「自分は総隊長の決定に従うだけですが、ただ総隊長が出られて暫くしてからどうにも我々を見張っている輩がいるようでして」
見張られている。ゴルドバの手のものだろうか。
「・・・少し探りを入れてみるか。では、カインとドーガは街議会と北西区の住民らに再開発計画と立ち退き要請の件について話を聞いてまとめておいてくれ。ルークはロディ達が戻るかもしれないから、ここで待機。ティアマトとの話に進展があったならば聞いてまとめておいてくれ。もし何かあるようならミリアーナを叩き起こして構わんからな」
「総隊長はどうされます?」
「儂はそうだな。『虎穴に入らずんば虎児を得ず』、直接ゴルドバに話を聞いてみるとしようかな」
#ルーテ
ティアマトの店前に戻ると、彼女は自分で壊した扉の修理をしていた。近付く私に気が付くと柔らかな微笑みを浮かべた。
「ルーテ、先程は申し訳ありませんでした。フェンス様は戻られたのですか?」
もう彼女から冷たい印象は感じない。
さっき水竜王の名前を出したときの反応は何だったのだろう。それほど秘密にしなければならないものなのか。
「・・・うん。宿に戻られたわ。ねぇ・・・実はさっきティアマトが吹き飛ばしていた人達が小さな男の子を連れた女性を脅しているのを見かけてね」
「!また・・・それで、どうなりましたか・・・」
ティアマトは一瞬驚いた顔をしたがすぐに心配そうな表情に変わった。あの母子が無事か気になるのだろう。優しいティアマトらしい。
「うん。今度は私が魔法で吹っ飛ばしちゃった。二人にケガはなかったよ」
「・・・そうですか。良かった。ルーテもなかなかやりますね?」
ティアマトは胸を撫で下ろすといたずらっぽく微笑む。
「フフ。フェンス様にはやり過ぎだって言われちゃったけどね」
確かにやり過ぎだったなと冷静になると思う。
憧れだけで何も出来ない自分にイライラしてたところ、あの場面に出くわして、助けなきゃって気持ちだけが先走ってしまって、加減もなくイライラした気持ちをぶつけてしまった。
あの二人も無事で良かった・・・かな?
「そう、それです!何故ルーテがあの英雄のフェンス様と一緒にいたのですか!?なんて羨ましいっ!!」
そうひとりで反省をしていたら、急にティアマトは声を荒げ怒り出した。彼女は私と同じ、いや私以上に四英雄の皆様のファンだから今の彼女の気持ちは手に取るように分かる。
「ああでも、私ったらフェンス様になんて態度をしてしまったのかしら・・・ねぇルーテ。私、嫌われてしまったでしょうか?!」
今度は泣き出してしまった。
フフ。でもティアマトらしい。
でも!だからこそ、水竜王とティアマトに本当に関係があるのかをハッキリさせないといけない。
こんなにもフェンス様を大好きなティアマトがどうしてあんな態度を取ったのか。さっきの親子のことと、あの成金デブオヤジとの係わりのことも。
さっき男の子に言われて気付いた。
私はどうやったって英雄にはなれないけど、少し魔法が得意な魔法使いでしかないけど、そんな私でも誰かを助けることは出来る。
そのためにも、これは私にしか出来ないことだから。
「・・・ティアマト」
「?どうしました?そんな恐い顔をして」
「・・・さっきのこと。水竜王のこと、この街で起きてること、私に教えて!ううん、教えてください!!」
「・・・ルーテ」
「私はどう頑張っても英雄には、フェンス様みたいにはなれないけど、何か出来ることがあるなら力になりたい!英雄に憧れた私自身を裏切りたくないから。・・・ティアマトもそうでしょ!?」
あ~あ。こんなに感情さらけ出してカッコ悪い。
大空洞で魔人と戦っていたフェンス様とは全然違う。
本当に、すごく自分が情けない。
「・・・フフ。ルーテに隠し事は出来ませんね」
ティアマトは優しい微笑みを浮かべていた。
初めて話しかけてくれたときのように優しい微笑みを。
「分かりました。すべてお話ししましょう。
私のことも──
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