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水の竜の王の憧憬
夜襲2
しおりを挟む「な、なんだテメェは?!邪魔する気か!?」
あっという間に二人を倒した騎士に男達は明らかな警戒を向けて隙だらけになっていた。今なら魔法で火を消せると思ったけど、すぐに炎弾が飛んできて障壁に弾かれた。
「おおっとぉ!そうはいかねぇって言ってるだろ。おいっ!お前らでその男をどうにかしろっ!」
盾と剣を持った二人の男は完全に私達を標的にしていた。これじゃあまだ火を消すことが出来ない。
「指図するんじゃね──ぐぎゃあっ!」
またひとり倒される。
あまり印象に残ってないけど、それなりに強いのね。
名前はまったく思い出せないけど。
「どけ、俺がやる」
今度は一番体格の良い男が騎士に剣を構えた。
かなり強そうだけど大丈夫かな。あの人が負けてしまったらもう打つ手はない。何とか掩護出来ればいいんだけど。
「テ、ティアマト。ど、どうしたらいいかな?私じゃどうにも出来そうにない」
ティアマトはいつ炎弾が飛んできてもいいように、剣を持った男に注意を向けている。
結局私は守られてしまっている。本当に自分が情けない。
「・・・そうですね。あの人が二人以外の気を引いてくれている内に、一気に攻めてみるのが良いかもしれませんね」
私もそれが良いとは思うけどあの盾がある限り魔法は効かない。それをどうにかしないと。
「・・・盾をどうにか出来るの?いくら魔法を打っても効かないんじゃ意味がないでしょ?」
「確かにあの盾は脅威ですが、あくまでも脅威なのは盾であってそれをもつ人間ではありません。あの男の能力では盾の力を十二分に扱えないでしょう」
そう言うと彼女はいたずら気に微笑む。
ティアマトがこの表情をするときは何か良い案を思い付いたときだ。私が小さいときに父の誕生日の贈り物に悩んでいたときや、近所の子供にいじめられて泣いてたときも、この表情をして私では思いもつかない方法で皆を驚かせていた。
「何か良い案があるの?」
「ええ。でもその前にひとつ確かめたいことがあります。ルーテ、あの盾に低威力のミストボムを使ってみて下さい」
「え?・・・ミストボムを?」
ミストボムとは水属性の初級魔法のひとつで、空気中の水分を霧に変えてその塊を相手にぶつける魔法のこと。攻撃魔法としては威力はまったくと言っていいほどない。
「はい。お願いします」
ミストボムなら詠唱も短いので邪魔されずに唱えられる。何をするのかは分からないけど。ええい!物は試しだ!
「・・・分かった。いくよ
『ミストボム!』
杖の先から小さな雲のような白い塊が飛び出す。その雲は盾にぶつかると一瞬だけ男を霧に包んですぐに消えてしまった。
「な、なんだ?この痛くもなんともないモヤは。目眩ましか?」
盾の男も何をされたのか分からないといった表情で困惑している。私だって分からないんだから当然だ。
「・・・ティアマト?これに何の意味が」
騎士は大柄の男と他にも六人の男達に囲まれ苦戦しているみたいだ。早く掩護しないとやられてしまう!
「フフ。大丈夫。私に任せてください。いいですか──
そう言うとティアマトは小声で作戦を伝える。内容はかなり単純でそれで上手くいくのかと少し不安になるが、他に手はないからやるしかないっ!
「・・・分かった。い、いつでもいけるよ」
両手で強く杖を握りしめる。唱える魔法の術式を頭に想い浮かべる。
「では・・・いきます!」
ティアマトは張っていた魔法障壁を解き詠唱を始める。
使うのはさっき私が使った『ミストボム』。それをより魔力を込めて大きく膨らませる。
「な、何する気かしらねぇが易々とやらせるかよっ!!」
剣の男が炎弾を発射する。私は唱えていた魔法を展開する。
『アクアウォールッ!』
唱えたのは逆にさっきまでティアマトが使っていた水の障壁魔法。
炎弾は障壁にぶつかり弾ける。
「ルーテ!いきますよ!
『ミストボムッ!』
ティアマトの手から放たれた白い雲は私が唱えた魔法の何倍も大きく、盾にぶつかると大きな音を立てて男達を真っ白な霧で包み込んだ。その霧はすぐに消えずに辺りにたちこめる。
「ルーテ!今です!」
「うんっ!
『ハイドロハンマーッ!!』
私は障壁を展開したあとすぐに次の魔法を唱え始めていた。
ハイドロハンマーは魔力で圧縮した水の塊を、相手を押し潰すように頭上から高速で落とす魔法だ。
霧で何も見えないが、男の居た辺りから大きな衝撃音が響く。
成功・・・したかな?
次第に霧が晴れると、そこには不格好に地面に這いつくばる男の姿があった。
「なっ?!テメェらな、何をした?!なんで盾を持ってるこいつに魔法が効いてるんだ!?」
剣の男は絶対の防御を持っていた相棒がやられかなり動揺しているみたいだ。
「フフ。簡単なことです。どんなにその盾が凄くても、フェンス様のように最高で最強の盾騎士でもないただの素人では扱いきれなかったというだけですよ」
ティアマトの言った通り仕組みは単純。ティアマトが放ったミストボムで盾を使わせ、濃い霧で視界を奪う。そしたら私がすぐに次の魔法を放つ。ハイドロハンマーは威力は高いが水弾みたいに相手に目掛けて放つ魔法ではなくて、狙った位置に落とす魔法なので動く相手にはなかなか当てづらい。
そのため好んで使う人は少なく、専門の魔法使いでもないと知らないことがほとんどで、相手は視界が奪われた中で盾を構え直す体勢をとれず、さらにどこからどんな魔法が来るのかも分からないのでは躱せるはずがない。
フェンス様なら私が使った最初のミストボムで狙いに気付いて確実に対処されるはず。
フェンス様の盾ももちろん素晴らしい盾だけれど、フェンス様はフェンス様自身が最高で最強だから強いのだ。
良い盾を持ってるだけで強くなれるわけがない。
こんな作戦をすぐに思い付けるなんて、やっぱりティアマトは凄い!私なんかじゃまだまだ敵わないな。
「テ、テメェらふざけやがって!!もう容赦しねぇ!!」
男は剣を振りかぶり魔石に魔力を込め始める。
でも、そうはさせない!
もう盾はないから魔法で攻撃できる。早いとここいつを倒して火を消さなきゃ。
杖に魔力を込める。唱えるのは発動の早い水弾の魔法。
ティアマトも同時に詠唱を始めていた。確実に決める!
そのとき何かが割れたような音が辺りに響いた。
「なっ?!ギャアッ──
次の瞬間、男の持つ剣の柄に飾られた魔石が爆発し、荒れ狂う炎が溢れ出した。
炎の勢いは凄まじく、一瞬で視界が真っ赤に染まる。
障壁──ダメ!間に合わないっ!!
閉じた瞼の奥まで赤く染まり、迫る炎の熱で息苦しくなる。
もう絶対にダメだって思ったのに、急に感じる熱が弱くなり瞼の裏の炎も小さくなった。
ティアマトが障壁を張ってくれたんだろうか。
あの状況で障壁を間に合わせるなんて、ティアマトはやっぱり凄い。
目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「テ、ティア・・・マト?」
「・・・ル、ルーテ・・・くっ!や、火傷とかしてません、か・・・?」
私も守ってくれていたのは、障壁ではなくティアマト自身だった。
膝から崩れ落ちた彼女を慌てて抱き抱える。
「──っ!?」
その背中はひどく焼け焦げていた。
「ティアマト!?ど、どうして、こんなこと・・・」
ああ・・・どうしよう。私は治癒魔法が使えない誰か──
そ、そうだ!確か、あの騎士の人が治癒魔法を使えたはず。
周囲を見渡すと、周りの建物という建物は全て燃え盛り、残りの男達も全員倒れている。騎士の姿も見当たらない。
「・・・ど、どうしてって・・・ルーテをま、守りたかっ・・・からに、決まっているじゃ・・・あ、ありません、か・・・」
「だ、だからって…これじゃティアマトが!!」
段々とティアマトの身体の力が弱くなっていくのが分かる。声も次第に掠れていく。
「ダメ!やだっ!ティアマトっ、しっかりして!」
誰か・・・誰か誰か!!ティアマトを助けてっ!!
どこかから靴音が聴こえた──
「クックク。やはり失敗作の魔道剣では耐久性に問題がありましたね。質の悪いミスリルでは火竜の魔石に耐えられませんね」
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この男は確かどこかで──
「おや?貴女は確かヴェロスクードと一緒に屋敷に来ていましたよね。何故こちらにいるんでしょうか。我が騎士達から逃げ出せるとも思えませんからね」
思い出した・・・この男は
あの、成金デブオヤジの屋敷に居た執事──
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