盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

文字の大きさ
58 / 91
水の竜の王の憧憬

夜襲2

しおりを挟む


「な、なんだテメェは?!邪魔する気か!?」

 あっという間に二人を倒した騎士に男達は明らかな警戒を向けて隙だらけになっていた。今なら魔法で火を消せると思ったけど、すぐに炎弾が飛んできて障壁に弾かれた。

「おおっとぉ!そうはいかねぇって言ってるだろ。おいっ!お前らでその男をどうにかしろっ!」

 盾と剣を持った二人の男は完全に私達を標的にしていた。これじゃあまだ火を消すことが出来ない。

「指図するんじゃね──ぐぎゃあっ!」

 またひとり倒される。

 あまり印象に残ってないけど、それなりに強いのね。
 名前はまったく思い出せないけど。

「どけ、俺がやる」

 今度は一番体格の良い男が騎士に剣を構えた。

 かなり強そうだけど大丈夫かな。あの人が負けてしまったらもう打つ手はない。何とか掩護出来ればいいんだけど。

「テ、ティアマト。ど、どうしたらいいかな?私じゃどうにも出来そうにない」

 ティアマトはいつ炎弾が飛んできてもいいように、剣を持った男に注意を向けている。

 結局私は守られてしまっている。本当に自分が情けない。

「・・・そうですね。あの人が二人以外の気を引いてくれている内に、一気に攻めてみるのが良いかもしれませんね」

 私もそれが良いとは思うけどあの盾がある限り魔法は効かない。それをどうにかしないと。

「・・・盾をどうにか出来るの?いくら魔法を打っても効かないんじゃ意味がないでしょ?」
「確かにあの盾は脅威ですが、あくまでも脅威なのは盾であってそれをもつ人間ではありません。あの男の能力では盾の力を十二分に扱えないでしょう」

 そう言うと彼女はいたずら気に微笑む。

 ティアマトがこの表情をするときは何か良い案を思い付いたときだ。私が小さいときに父の誕生日の贈り物に悩んでいたときや、近所の子供にいじめられて泣いてたときも、この表情をして私では思いもつかない方法で皆を驚かせていた。

「何か良い案があるの?」

「ええ。でもその前にひとつ確かめたいことがあります。ルーテ、あの盾に低威力のミストボムを使ってみて下さい」
「え?・・・ミストボムを?」

 ミストボムとは水属性の初級魔法のひとつで、空気中の水分を霧に変えてその塊を相手にぶつける魔法のこと。攻撃魔法としては威力はまったくと言っていいほどない。

「はい。お願いします」

 ミストボムなら詠唱も短いので邪魔されずに唱えられる。何をするのかは分からないけど。ええい!物は試しだ!

「・・・分かった。いくよ
                              『ミストボム!』

 杖の先から小さな雲のような白い塊が飛び出す。その雲は盾にぶつかると一瞬だけ男を霧に包んですぐに消えてしまった。

「な、なんだ?この痛くもなんともないモヤは。目眩ましか?」

 盾の男も何をされたのか分からないといった表情で困惑している。私だって分からないんだから当然だ。

「・・・ティアマト?これに何の意味が」

 騎士は大柄の男と他にも六人の男達に囲まれ苦戦しているみたいだ。早く掩護しないとやられてしまう!

「フフ。大丈夫。私に任せてください。いいですか──

 そう言うとティアマトは小声で作戦を伝える。内容はかなり単純でそれで上手くいくのかと少し不安になるが、他に手はないからやるしかないっ!

「・・・分かった。い、いつでもいけるよ」

 両手で強く杖を握りしめる。唱える魔法の術式を頭に想い浮かべる。

「では・・・いきます!」

 ティアマトは張っていた魔法障壁を解き詠唱を始める。
 使うのはさっき私が使った『ミストボム』。それをより魔力を込めて大きく膨らませる。

「な、何する気かしらねぇが易々とやらせるかよっ!!」

 剣の男が炎弾を発射する。私は唱えていた魔法を展開する。

『アクアウォールッ!』

 唱えたのは逆にさっきまでティアマトが使っていた水の障壁魔法。

 炎弾は障壁にぶつかり弾ける。

「ルーテ!いきますよ!
                      『ミストボムッ!』

 ティアマトの手から放たれた白い雲は私が唱えた魔法の何倍も大きく、盾にぶつかると大きな音を立てて男達を真っ白な霧で包み込んだ。その霧はすぐに消えずに辺りにたちこめる。

「ルーテ!今です!」
「うんっ!
             『ハイドロハンマーッ!!』

 私は障壁を展開したあとすぐに次の魔法を唱え始めていた。

 ハイドロハンマーは魔力で圧縮した水の塊を、相手を押し潰すように頭上から高速で落とす魔法だ。

 霧で何も見えないが、男の居た辺りから大きな衝撃音が響く。

 成功・・・したかな?

 次第に霧が晴れると、そこには不格好に地面に這いつくばる男の姿があった。

「なっ?!テメェらな、何をした?!なんで盾を持ってるこいつに魔法が効いてるんだ!?」

 剣の男は絶対の防御を持っていた相棒がやられかなり動揺しているみたいだ。

「フフ。簡単なことです。どんなにその盾が凄くても、フェンス様のように最高で最強の盾騎士でもないただの素人では扱いきれなかったというだけですよ」
 
 ティアマトの言った通り仕組みは単純。ティアマトが放ったミストボムで盾を使わせ、濃い霧で視界を奪う。そしたら私がすぐに次の魔法を放つ。ハイドロハンマーは威力は高いが水弾みたいに相手に目掛けて放つ魔法ではなくて、狙った位置に落とす魔法なので動く相手にはなかなか当てづらい。

 そのため好んで使う人は少なく、専門の魔法使いでもないと知らないことがほとんどで、相手は視界が奪われた中で盾を構え直す体勢をとれず、さらにどこからどんな魔法が来るのかも分からないのでは躱せるはずがない。

 フェンス様なら私が使った最初のミストボムで狙いに気付いて確実に対処されるはず。
  フェンス様の盾ももちろん素晴らしい盾だけれど、フェンス様はフェンス様自身が最高で最強だから強いのだ。

 良い盾を持ってるだけで強くなれるわけがない。

 こんな作戦をすぐに思い付けるなんて、やっぱりティアマトは凄い!私なんかじゃまだまだ敵わないな。

「テ、テメェらふざけやがって!!もう容赦しねぇ!!」

 男は剣を振りかぶり魔石に魔力を込め始める。

 でも、そうはさせない!

 もう盾はないから魔法で攻撃できる。早いとここいつを倒して火を消さなきゃ。

 杖に魔力を込める。唱えるのは発動の早い水弾の魔法。
 ティアマトも同時に詠唱を始めていた。確実に決める!


 そのとき何かが割れたような音が辺りに響いた。

「なっ?!ギャアッ──

 次の瞬間、男の持つ剣の柄に飾られた魔石が爆発し、荒れ狂う炎が溢れ出した。

  炎の勢いは凄まじく、一瞬で視界が真っ赤に染まる。

  障壁──ダメ!間に合わないっ!!

 閉じた瞼の奥まで赤く染まり、迫る炎の熱で息苦しくなる。

 もう絶対にダメだって思ったのに、急に感じる熱が弱くなり瞼の裏の炎も小さくなった。

 ティアマトが障壁を張ってくれたんだろうか。
 
 あの状況で障壁を間に合わせるなんて、ティアマトはやっぱり凄い。

 目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

「テ、ティア・・・マト?」
「・・・ル、ルーテ・・・くっ!や、火傷とかしてません、か・・・?」 

 私も守ってくれていたのは、障壁ではなくティアマト自身だった。

 膝から崩れ落ちた彼女を慌てて抱き抱える。

「──っ!?」

  その背中はひどく焼け焦げていた。

「ティアマト!?ど、どうして、こんなこと・・・」

  ああ・・・どうしよう。私は治癒魔法が使えない誰か──

  そ、そうだ!確か、あの騎士の人が治癒魔法を使えたはず。

  周囲を見渡すと、周りの建物という建物は全て燃え盛り、残りの男達も全員倒れている。騎士の姿も見当たらない。

「・・・ど、どうしてって・・・ルーテをま、守りたかっ・・・からに、決まっているじゃ・・・あ、ありません、か・・・」
「だ、だからって…これじゃティアマトが!!」

  段々とティアマトの身体の力が弱くなっていくのが分かる。声も次第に掠れていく。

「ダメ!やだっ!ティアマトっ、しっかりして!」

  誰か・・・誰か誰か!!ティアマトを助けてっ!!


  どこかから靴音が聴こえた──

「クックク。やはり失敗作の魔道剣では耐久性に問題がありましたね。質の悪いミスリルでは火竜の魔石に耐えられませんね」

  暗闇から現れたのは、まるで暗闇から溶け出てきたかのような黒い服を着た白髪の男だった。

  この男は確かどこかで──

「おや?貴女は確かヴェロスクードと一緒に屋敷に来ていましたよね。何故こちらにいるんでしょうか。我が騎士達から逃げ出せるとも思えませんからね」

  思い出した・・・この男は

  あの、成金デブオヤジの屋敷に居た執事──
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...