盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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水の竜の王の憧憬

魔道兵器

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 #ルーテ


  どうして執事をしてる人がこんなところにいるんだろう。

  いえ、それよりも今なんて。

  ヴェロスクード?というのは確かフェンス様の名前だったはず。騎士?逃げる?どういうこと?

  あっ!?そういえばさっき盾の男が奴等がどうこう言っていたような。まさか、フェンス様もあの剣を持った男達に襲われているんだろうか。

  フェンス様ならきっとこんな奴等簡単に倒してしまうとは思うけど、もし眠っているところを襲われでもしたら。

  ううん。フェンス様を信じよう。

  なんたって魔王倒した英雄なんだから!

  今はここを乗り切ることを一番に考えなきゃ!

「・・・まぁいいでしょう。貴女がここに居たとして大した問題ではありません。一番邪魔だったその女はもう虫の息──いえ、ここはトカゲの息といったほうが正しいですかね?」

  執事はティアマトを嫌なものでも見るかのように目見下している。何て冷徹な目なんだろう。

「し、執事が、な、何でこんなところにいるの?魔道・・・剣?とか騎士とか何のこと?貴方はいったい何者・・・」

  さっきのティアマトを見ていた目。絶対にこの人は敵。あの男達の仲間だろう。狙いも目的も分からないけど、このままではきっとティアマトも私もやられてしまう。

「ああ。実は私は執事ではないんですよ。そうしておいたほうが何かと都合が良かったのでそうしていたまで。誰が好き好んであんな狸の執事などやりますか。あの男はあくまでも私の計画の協力者。言ってしまえばただの金蔓ですね。クヒャヒャヒャヒャ!!」

  男はそれまでのすました顔を崩し下卑た嗤い声をあげた。

「そうですね。死にゆく貴女達への手向けとして特別に私の正体を教えてあげましょう。そう!私は、栄光なるシャルマート帝国軍魔道将軍オードウィン・フォン・ルードヴィングの遺志を継ぐもの!
  我が父に代わり帝国の悲願を果たす者だっ!!」

  まるで劇役者の様に大げさな仕草で高らかに名前を名乗った。

「・・・て、帝国?将軍・・・?」
 
  言ったことが唐突すぎて半分以上理解が出来ない。でも敵なのは間違いないし、私達を逃がすつもりもないことだけは理解出来た。

  私の力じゃティアマトを守りながら戦うなんて出来ない。なんとか時間を稼げばきっとフェンス様が助けに来てくれる!


  本当にそう?


  ワガママを言って飛び出した私なんかを、フェンス様が助けに来てくれるんだろうか・・・いえ、来るはずがない。

  でも!フェンス様の目的にとってティアマトは必要。きっと彼女のことは助けてくれる。

  だから、絶対に来てくれるはず!

  わ、私はどうなってもいい!ティアマトを助けてくれさえすれば。だから、今、私がやるべきことは、ティアマトのためにも、フェンス様のためにも・・・私のためにも、守り抜くこと!!

  ティアマトを背中のケガに触れないように慎重に地面に寝かせる。もう少しの辛抱だから頑張ってね。
  ティアマトの盾になるよう二人の間に立ち、精一杯の威圧を込めて男を睨み付け、両手で杖を握り締める。

  さあ、来るならこい!!

「おや?私の正体を教えてあげたというのに・・・」

  男は片眉を吊り上げ忌々しげな表情を浮かべると、腰に下げていた剣を静かに抜いた。その剣の柄にはさっきの男が持っていた剣に付いていたよりも更に大きな石が禍禍しい装飾に飾られ取り付けられている。

  その切っ先を私へと向けた。

「いつまで不躾にしているっ!!下賎なものがおこがましいっ!さっさと地にひれ伏せぇぃっ!!」

  振り上げた剣の柄に緑色の光が灯る。
 
  さっきの剣は赤だったけど・・・ううん、そんなこと気にしてもしょうがない。どうせ私に出来ることなんて限られてる!

  すでに準備していた水障壁の魔法を唱える。

「シャアアアァァァッッ!!」

  男が奇声とともに剣を振り下ろすと、私の頭上で立ち込めた煙が渦を巻く。想像していたよりも強力そうで、慌てて障壁に込める魔力を強める。

  轟音とともに真っ黒な風の塊が障壁を打ち付ける。

「くうっ・・・こ、これはデ、ディバイン・・・ブレス?!」

  魔法を唱えたわけではないみたいだから正確には違うだろうけど、これは風属性魔法上級相当の威力がある。

  水の障壁は火属性には強いけど風魔法を完全に防ぐことは出来ない。障壁をすり抜けた風が身体を打つ。これではティアマトにも当たってしまうっ!
  障壁に込める魔力を更に強めると、魔力が拮抗したようで風と障壁は同時に弾けた。

「はぁ、はぁ。や、やった・・・」

  なんとか防ぎきることが出来たけど・・・ティアマトは?!

  横目で確認すると変わらずケガの痛みに苦しんでいるが、風からは守れたみたいだ。
  ただ、魔法の風圧で周りの建物の火が更に強まってしまったようで、早く消さないと全て燃えてしまう──

「チッ!しぶといですね。手間かけさせるんじゃねぇよ!」

  男はまた剣を振り上げる。今度は柄の石は茶褐色に輝いている。

  赤は火。緑は風の魔法だった・・・じゃあ、茶褐色は──

  ?!マ、マズイっ!?本当にそうだとしたら、私の水の障壁じゃ防げないっ!!

  杖を握り可能な限り詠唱を早めて魔法を放つ。攻撃させるわけにはいかないっ!!

『ア、アクアバレットッ!!』

  速さを重視したので威力は弱いが体勢を崩せればいい。すぐにもう一発放つために魔力を練り上げる。

  水弾は真っ直ぐ男を目掛けて飛んでいくが男は避ける素振りすらみせず、左腕を上げると不敵に微笑む。その腕には籠手のような小さな盾のようなものが光を反射していた。

  男は水弾をその腕で受ける。水弾は大きな音を立てて弾けた。

「・・・う、うそ。そんな・・・」

「ククク・・・ヒャーッハッハッハッ!!
  残念だったなぁ。この魔道盾があればお前の魔法なんて効かねぇよ!ククク。この美しい輝き!魔道剣はまだまだ改良が必要ですが、魔道盾は完璧に近い仕上がりですね」

  自らの左腕を恍惚とした表情で見つめている。

  あの小さな盾が、さっき倒した男が持っていたものと同じ?それじゃあ、私ひとりではどうにもならないじゃない。

「さて、こうしてはいられません。早いところ工房に戻って魔道剣の改良に励まねば」

  そう言って下げていた剣を再び頭上に掲げると、魔力を込め始めた。石はさっきと同じく茶褐色。それと赤色の二色に輝いている。

  二色ってまさか、複合魔法!?

「ククク。この剣は私の父が使っていた剣でしてね。クラーゼルに奪われる前に一度分解して隠しておいたのをなんとか復元したものなんですが、竜王にも匹敵する力を持つというキメラドレイクの魔石を使った特別製なんですよ!」

  キメラドレイク──

  その名前を小さい頃ティアマトから聞いた覚えがある。

  確か、4つの竜の首から四種のブレスを吐き、四本の尾は岩山をも砕き、虹色に輝く鱗はどんな魔法をも跳ね返すという、伝説上の魔物。

  そ、そんなの・・・勝てるわけないじゃない。

「また抵抗されても面倒ですからね。この一撃で終わりにしてあげますよっ!!」

  ティアマトごめん・・・やっぱり私じゃダメだったみたい。

  フェンス様、申し訳ありません・・・ティアマトを守れませんでした。

「ル、ルーテ・・・に、逃げなさいっ!」

  その言葉に静かに首を横に振る。

  私の障壁じゃ張ったところで意味はない。それなら──

  私はティアマトを隠すように両手を広げる。身体を使ってでも最後まで抵抗してやるっ!

「!?ル、ルーテッ!!ダメ─逃げなさいっ!!」

「覚悟は出来たかぁ?!仲良くあの世へ行くんだなぁ!!」

  ギュッと目を閉じ覚悟を決める。

  ああ、連載、書き終えたかったな・・・


  そのとき──

  甲高い、金属と金属がぶつかる音が響いた。

  魔法の衝撃は来ない。

  恐る恐る目を開けると、男は誰かと剣を合わせていた。

  それは、やられてしまったと思ってた騎士の人だった──
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