盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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水の竜の王の憧憬

最後の覚悟

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 #ルーテ


  気付いたら魔法を唱えていた──


  もうダメだと思ったとき、本当はフェンス様だったら最高だったんだけど、ルークさん?が来てくれて、あのイカれた執事から私達を助けてくれた。

  治癒魔法が使えるはずのルークさんが、ティアマトを早く治療したほうがいいと言ったのもあるし、これ以上私が居ても出来ることなんてないからティアマトを連れて逃げようって思ったのに。

  魔力の使い過ぎのせいか、足に全然力が入らなかった。

  ルークさんがやられそうになって今度こそダメだと思ったら、急に真っ黒な人達が現れて代わりにイカれた執事はいなくなった。

  今度は五人もの敵に囲まれて本当の本当にダメだと覚悟を決めていたら、全員がルークさんに剣を向けていた。

  ルークさんが口で何かを言ったみたいだけど「逃げろ」って言ったのかな?そうとしか思えず、動かない足を必死に動かして引きずってでもティアマトを早く安全なところにっ!


  って、それしか考えられなかったはずなんだけど──


  男達に囲まれながらも懸命に戦うルークさんの姿を見ていたら、もう立つ気力もないと思っていたのに、ほとんど無意識で立ち上り杖を握り締めて、魔法を唱えていた。


「バカヤロウッ!!何故逃げてないんだっ!」

  近寄ってきたルークさんに凄い剣幕で怒られるまで少し呆っとしてしまっていた。

  む~~なによっ!助けてあげたのにっ!

「わ、私だって分かんないわよっ!文句の前に、お、お礼でも言ったらどうなのよっ!!」

  途端に立ててたのが不思議なくらいに足の力が抜けてその場に崩れてしまったが、ルークさんが慌てて支えてくれた。

「おっと!だ、大丈夫か?・・・まぁ、その、助かったよ」

  少し気恥ずかしそうにそう言い、視線を男達が吹き飛んでいった方向に向ける。ぶつかった衝撃で崩れた燃えた建物の残骸が燻った煙を上げていた。

「・・・や、やったのか?」

  どうだろう。

  正直ほとんど魔力が残ってない状態で水属性の上級魔法を使ったようだから、十分な魔力量を込めれていたとは思えない。

  むしろ、よく発動出来たと自分でも不思議に思ってしまう。

「わ、分からないけど・・・無理だったみたい」

  ガラガラと音がして崩れた建物から黒い人影が立ち上がる。

  ひとり、またひとり。
 
  結局、ひとりも倒せてなかった。

「お、おい。さっきのもう一発打てるか?」
「・・・無理。もう初級魔法1回使えるか使えないかくらいしか、魔力が残ってないと思う・・・」

  多少、腕を押さえたり足を引きずったりしてる人もいる。傷を負わせることは出来たみたいだけど、最悪な状況には変わらない。

  今度こそダメ・・・かな?

「・・・やってくれたな。もう、油断はしない・・・」

  男は唾を吐き捨てると剣を頭上高く振り上げた。

「我等の最大最強の一撃で終わりにしてやる。勿論そこの女共もまとめてなぁっ!!」

  その声を合図に全員が剣を掲げる。

  柄の魔石は赤、青、緑、茶褐色に輝く──

  よ、四属性を同時にっ!?

「あ、あなたたちっ!よ、四属性の魔法を同時に使ったりでもしたらどうなるか、わ、分かってるのっ!!?」

  魔法は人が使えるものでは基本、火水風地の四属性がある。

  それぞれの上位属性や複合魔法などもあるが、扱えるものも少なく複合に関しては制御自体が難しいため二属性までというのが魔法使いの常識である。

  そもそも、「水と火」や「風と地」といった反属性だと互いに打ち消しあったり反発したりすることもあって複合は出来ない。

  過去にとある国で大規模な四属性複合魔法の実験が行われ、魔力の反発により暴走が起き周囲一帯塵も残らず消し飛んだという事故の記録が、魔法に携わる者の戒めともなっている。
 
「フンッ!魔力の反発が起こると言うのだろう?そんなことは勿論分かっている。ルードヴィング卿からはこの辺り一帯は一度壊して新たな街を造ると聞いているから、消し飛んだとて何の問題もないだろう?それに我等に害が及ぶことはないからな」

  ど、どういうこと・・・?

  生半可な障壁では防ぐなんて絶対に無理・・・それこそ四属性の魔法障壁を全力で張ってギリギリなんとかなる程度だとは思うけど、障壁を張ってはいないみたいだし。

  そういえば1本だけ光を放っていない剣があるけど、あれに何か意味があるのか・・・目を凝らして見ると、魔石の周りが歪んで見える気がする。

  いや、歪んでるんじゃない。黒いオーラが渦巻いているんだ。

「我等にはこの『無属性』の魔道剣があるからなっ!この剣の力で反発によって生じた破壊を消し去ることが出来るのでなっ!!」

  む、無属性!?

  人間では扱うことが出来ないはずの属性を、あの剣があれば使えるというの!?そんなメチャクチャな。

「な、なあ・・・逃げたほうがいいんじゃないか?あれはどう見てもヤバイよな・・・」
「そうはしたいんだけど・・・もう魔力が残ってなくて足が動かないのよ。それに、今からじゃ間に合わなそうだしね・・・」

  4つの光は今にも溢れださんとばかりに煌々と光を放っている。

「ル、ルークさんがティアマトを連れて逃げてくれない?」
「冗談言うな・・・ひとり置いてけるかよ」

  ああ・・・覚悟を決めるのはこれで何回目だろう。

  火竜の峰から今日まででこれだけ濃い体験をしたから、今なら凄く臨場感のある素晴らしい文章が書けそうなのに──

「さあっ!我等を愚弄したことを悔いて死ねぇぇぇっっ!!」


  閉じた瞼の裏に様々色の光が写る。

  轟音はいつの間にか静寂に変わり音は何も聴こえない。


  ああ・・・連載、書き終えたかったな──


  そのとき──


  一番聞きたかった、一番助けに来て欲しかった人の声が静寂を切り裂いた──


「来いっ!!アイギスッ!!!
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