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水の竜の王の憧憬
ひとたびの別れ
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#フェンス
人混みを抜け北西区への道を駆ける。
奥に進むにつれ、炎の熱と息苦しい焦げた臭いが濃くなっていく。
いったい何が起こった?
いや、宿への襲撃を考えるにこちらも黒ずくめの奴等が関与してるのは間違いないだろう。
黒幕はゴルドバなのだろうか。それにしては、これは些かやり過ぎな気もするが、そうだとすると北西区を狙った理由は目の敵にしていたティアマトと住民の排除。
ルーテは無事だろうか。
ルークがついているはずだが、先程の爆発は尋常ではない。カイン達の大部屋から剣だけを手に飛び出して来たため、盾も鎧も身につけていないのが少々不安でもあるが、その分速く走れるというのは勿怪の幸いだろうか。
しかし、火の回りがかなり早い。
南西区などは石造りやレンガ造りの建物がほとんどだったが、北西区は木造の建物が多かったせいもあるが、微かに油の匂いもする。最初から焼き払うつもりだったのだろう。
このままでは崩れた建物の残骸で脱出路を塞がれかねない。
前方に何人か炎に照らされた人影が見えた。
左側にはルークとルーテ・・・あとひとり足元に誰かいるようだ。
右側は闇に紛れて確認しづらいが先程見たばかりの黒ずくめの男達だろう。その手には光を放つ剣が握られている。
!?四色・・・四属性だとっ!?
奴等、何を考えているんだ!?
魔力量によってはこの街ごと消し飛ぶぞ!
「ドーガッ!ロディッ!一端離れていろ!巻き添えを食うぞ!!」
儂の後ろを走る二人に待機するよう指示を出し、地面を蹴る足に込めれるだけの力を注ぐ。
黒ずくめ達の剣から魔法が放たれたと同時に二人の前に飛び込む。
なんとか間に合ったかっ!!
炎、水、風、地・・・それぞれ上級クラスの魔法が迫り来る。
出し惜しみはなしだ!
最初から全開でいくっ!!
「来いっ!アイギスッ!!」
(・・・我が持ち手よ 我が力を求めるか)
「ああっ!全力でやってくれっ!!」
(・・・承知)
盾から翡翠色のオーラが溢れ出し、通常の大盾より大きいアイギスより更に大きな盾を形成する。
盾の神器『神盾アイギス』の切り札──
『絶対守護』
ただし、これで後ろの三人は守れるがこのまま受けてしまえばこの一帯が文字通り消し飛んでしまう。
上手くいくかは分からんが、やってみるしかあるまい。
儂は盾を斜めに傾け構える。
狙いは盾騎士の技術のひとつ『パリング』。これを応用する。
本来はバックラーなどの丸盾で相手の剣や槍の攻撃を滑らせ受け流すための技で、魔法に対して使う技術ではないし勿論使ったこともない。
幸いにも襲い来る魔法はどれも真っ直ぐ飛んでくる放出系の魔法であるため、同じ原理で出来るだろう。いや、成功させるっ!
四色の魔法は盾へと至る手前で絡み合うように渦を巻き混じり合う。その内部では様々な反応が起こり周囲に凶悪な暴威を撒き散らす。
衝撃がぶつかると同時に盾を頭上へとかち上げる。
混じり合った暴威はその方向を変え、空高くへと昇る。
直後、強烈な閃光が迸る──
続けざまに耳を劈く轟音と共に上級風魔法並の衝撃波が襲いかかる。
「クッ・・・『オ、オーラシールドッ!!』
アイギスは既に切り札を使った反動でバックラー程の大きさに縮んでしまっているため防御力は心許ないが、少しでも軽減出来るよう盾技の広範囲防御スキルを発動させる。
多少ではあるが吹き付ける暴風の勢いが弱まったようだ。
周囲では焼けて脆くなった建物が次々と崩れ落ちる音が響き、風に煽られた豪火が猛々しさを増し次々と燃え広がっている。
危惧していた通り脱出路は塞がってしまったようだ。
「なっ・・・わ、我等の最大最強の攻撃を弾いただと!?」
黒ずくめ達も無事だったようだ。そう何度も連発出来るとも思えんが、もうアイギスの切り札も使えない。奴等が唖然としているこの隙に一気に仕留めるっ!
『シールドバッシュッ!』
盾スキルの突進技を使い急加速をつけ駆け出す。狙いは中央に居るひとりだけ身につけた鎧の装飾が異なるリーダーらしき男。黒ずくめ達はまだ体勢を整えられておらず、無防備に立ち竦んでいる。
突進した勢いのまま剣を突き出す。やぶれかぶれで剣を振り上げたがもう遅い!構わず胸を貫く。
同時に離れた場所で待機していたドーガとロディがいつの間にか飛び出し、奴等の後ろから一撃を加える。
回転の力を乗せたドーガのハルバードが二人まとめて背中から真っ二つに両断する。守護隊の中でも一二を争う力を持つその破壊力は相変わらず絶大だ。
ロディは兜と鎧の隙間を狙い剣を突き刺し確実にひとりを仕留めていた。
残るひとりは──
「我が祖国にっ栄光あれっ!!」
止める間もなく自らの手で首を斬りその場に崩れた。
その行為に怖気を覚える。
何かよからぬことが起こる前触れを感じるが・・・まずは安全な場所に移動するのが先決だ。
ゴルドバが更に何かを行う可能性もある。そちらも放っておくわけにはいくまい。
ここまで来た道は既に荒々しく炎を上げる瓦礫によって塞がれている。それ以外も同様に普通に通ることは出来そうにない。
無理矢理にでも通ることは出来るだろうが、魔力切れを起こしたのか地面に座り込むルーテとその隣に横たわるティアマトを連れては厳しいだろう。
既にかなりの黒煙が充満してきており息も苦しい。ここに放置していくわけにはいかない。
なんとかして火を消さねば。
「ルーテ。もう、一ヵ所だけでも火を消せるだけの魔力は残っていないか?」
見るからに満身創痍ではあるが、ルーテ以外のものは魔法は使えない。ティアマトが無事であればなんとかなったかもしれないが、ロディとルークが二人がかりで治癒魔法をかけてはいるが状態は芳しくないようだ。
「・・・も、申し訳ありません。使えても初級魔法を一度くらいの魔力しか、残っていません・・・」
ルーテは泣き出しそうに頭を下げる。詳しいことは分からないが、この状況から見るにかなり無理をしたのだろう。
労うことはあっても攻めることはない。
「いや。良く頑張った」
危険もあるし時間もかかってしまうだろうが、物理的に瓦礫をどけて道を作るしかないようだ。
「テ、ティアマト!?な、何をする気っ?!」
ルーテの声に視線を向けると重い傷を負っているとは思えないとても穏やかな表情をしたティアマトが上体を起こしていた。
「・・・ルーテ。貴女が火を消しなさい・・・」
「えっ?!で、でももう魔力が・・・」
ティアマトは優しく微笑むとルーテの手を両手で握り、自分の胸元へと導く。いったい何をしようというのだろうか。
「・・・ルーテ。私のこの身体はもう限界のようです。間もなく消えてなくなるでしょう・・・」
「!!?」
ロディとルークは静かに首を横に振る。
「えっ、やだ・・・ダメ!す、すぐ診療所に連れてって診てもらうから、もう少しだけ、が、頑張って・・・」
ティアマトはルーテのその言葉に、静かに目を閉じると微かに首を横に振った。
「・・・この身体が消えたとしても私という存在が消えるわけではありません。今は、ルーテを・・・ここに暮らす人々を・・・この街を守ることが大事です。それをやれるのはルーテ・・・貴女だけです」
「──っ」
ルーテは俯き大粒の涙を流しそれ以上何も言おうとはしない。
ティアマトはそれを見て満足そうに微笑むと、儂に視線を移した。
「・・・盾の神器に選ばれし勇者・・・フェンス様。全てはルーテに話してあります。ここを無事乗り切り、全てが落ち着いたらルーテから話を聞いてください。・・・昼時は無礼を申しまして大変失礼致しました・・・」
無言で首肯くとまた満足そうに微笑んだ。
「さあルーテ・・・私の魔力を使って火を消すのです。フフ。また直ぐに会えますからそんな顔をしないでください」
そう言ったティアマトの身体から光と共に何かが顕れる。それをルーテの両手にそっと握らせる。
「それまでこれを大事に守ってください。これを持っていれば私の元へ辿り着けますから」
ルーテはそれを強く握り締め何度も何度も強く首を振った。
最後に聖母の様な柔らかな微笑を浮かべると、ティアマトは光の粒となり消えていった。
ルーテの手には彼女が遺した結晶。
蒼い輝きを湛えた竜結晶が握られていた──
人混みを抜け北西区への道を駆ける。
奥に進むにつれ、炎の熱と息苦しい焦げた臭いが濃くなっていく。
いったい何が起こった?
いや、宿への襲撃を考えるにこちらも黒ずくめの奴等が関与してるのは間違いないだろう。
黒幕はゴルドバなのだろうか。それにしては、これは些かやり過ぎな気もするが、そうだとすると北西区を狙った理由は目の敵にしていたティアマトと住民の排除。
ルーテは無事だろうか。
ルークがついているはずだが、先程の爆発は尋常ではない。カイン達の大部屋から剣だけを手に飛び出して来たため、盾も鎧も身につけていないのが少々不安でもあるが、その分速く走れるというのは勿怪の幸いだろうか。
しかし、火の回りがかなり早い。
南西区などは石造りやレンガ造りの建物がほとんどだったが、北西区は木造の建物が多かったせいもあるが、微かに油の匂いもする。最初から焼き払うつもりだったのだろう。
このままでは崩れた建物の残骸で脱出路を塞がれかねない。
前方に何人か炎に照らされた人影が見えた。
左側にはルークとルーテ・・・あとひとり足元に誰かいるようだ。
右側は闇に紛れて確認しづらいが先程見たばかりの黒ずくめの男達だろう。その手には光を放つ剣が握られている。
!?四色・・・四属性だとっ!?
奴等、何を考えているんだ!?
魔力量によってはこの街ごと消し飛ぶぞ!
「ドーガッ!ロディッ!一端離れていろ!巻き添えを食うぞ!!」
儂の後ろを走る二人に待機するよう指示を出し、地面を蹴る足に込めれるだけの力を注ぐ。
黒ずくめ達の剣から魔法が放たれたと同時に二人の前に飛び込む。
なんとか間に合ったかっ!!
炎、水、風、地・・・それぞれ上級クラスの魔法が迫り来る。
出し惜しみはなしだ!
最初から全開でいくっ!!
「来いっ!アイギスッ!!」
(・・・我が持ち手よ 我が力を求めるか)
「ああっ!全力でやってくれっ!!」
(・・・承知)
盾から翡翠色のオーラが溢れ出し、通常の大盾より大きいアイギスより更に大きな盾を形成する。
盾の神器『神盾アイギス』の切り札──
『絶対守護』
ただし、これで後ろの三人は守れるがこのまま受けてしまえばこの一帯が文字通り消し飛んでしまう。
上手くいくかは分からんが、やってみるしかあるまい。
儂は盾を斜めに傾け構える。
狙いは盾騎士の技術のひとつ『パリング』。これを応用する。
本来はバックラーなどの丸盾で相手の剣や槍の攻撃を滑らせ受け流すための技で、魔法に対して使う技術ではないし勿論使ったこともない。
幸いにも襲い来る魔法はどれも真っ直ぐ飛んでくる放出系の魔法であるため、同じ原理で出来るだろう。いや、成功させるっ!
四色の魔法は盾へと至る手前で絡み合うように渦を巻き混じり合う。その内部では様々な反応が起こり周囲に凶悪な暴威を撒き散らす。
衝撃がぶつかると同時に盾を頭上へとかち上げる。
混じり合った暴威はその方向を変え、空高くへと昇る。
直後、強烈な閃光が迸る──
続けざまに耳を劈く轟音と共に上級風魔法並の衝撃波が襲いかかる。
「クッ・・・『オ、オーラシールドッ!!』
アイギスは既に切り札を使った反動でバックラー程の大きさに縮んでしまっているため防御力は心許ないが、少しでも軽減出来るよう盾技の広範囲防御スキルを発動させる。
多少ではあるが吹き付ける暴風の勢いが弱まったようだ。
周囲では焼けて脆くなった建物が次々と崩れ落ちる音が響き、風に煽られた豪火が猛々しさを増し次々と燃え広がっている。
危惧していた通り脱出路は塞がってしまったようだ。
「なっ・・・わ、我等の最大最強の攻撃を弾いただと!?」
黒ずくめ達も無事だったようだ。そう何度も連発出来るとも思えんが、もうアイギスの切り札も使えない。奴等が唖然としているこの隙に一気に仕留めるっ!
『シールドバッシュッ!』
盾スキルの突進技を使い急加速をつけ駆け出す。狙いは中央に居るひとりだけ身につけた鎧の装飾が異なるリーダーらしき男。黒ずくめ達はまだ体勢を整えられておらず、無防備に立ち竦んでいる。
突進した勢いのまま剣を突き出す。やぶれかぶれで剣を振り上げたがもう遅い!構わず胸を貫く。
同時に離れた場所で待機していたドーガとロディがいつの間にか飛び出し、奴等の後ろから一撃を加える。
回転の力を乗せたドーガのハルバードが二人まとめて背中から真っ二つに両断する。守護隊の中でも一二を争う力を持つその破壊力は相変わらず絶大だ。
ロディは兜と鎧の隙間を狙い剣を突き刺し確実にひとりを仕留めていた。
残るひとりは──
「我が祖国にっ栄光あれっ!!」
止める間もなく自らの手で首を斬りその場に崩れた。
その行為に怖気を覚える。
何かよからぬことが起こる前触れを感じるが・・・まずは安全な場所に移動するのが先決だ。
ゴルドバが更に何かを行う可能性もある。そちらも放っておくわけにはいくまい。
ここまで来た道は既に荒々しく炎を上げる瓦礫によって塞がれている。それ以外も同様に普通に通ることは出来そうにない。
無理矢理にでも通ることは出来るだろうが、魔力切れを起こしたのか地面に座り込むルーテとその隣に横たわるティアマトを連れては厳しいだろう。
既にかなりの黒煙が充満してきており息も苦しい。ここに放置していくわけにはいかない。
なんとかして火を消さねば。
「ルーテ。もう、一ヵ所だけでも火を消せるだけの魔力は残っていないか?」
見るからに満身創痍ではあるが、ルーテ以外のものは魔法は使えない。ティアマトが無事であればなんとかなったかもしれないが、ロディとルークが二人がかりで治癒魔法をかけてはいるが状態は芳しくないようだ。
「・・・も、申し訳ありません。使えても初級魔法を一度くらいの魔力しか、残っていません・・・」
ルーテは泣き出しそうに頭を下げる。詳しいことは分からないが、この状況から見るにかなり無理をしたのだろう。
労うことはあっても攻めることはない。
「いや。良く頑張った」
危険もあるし時間もかかってしまうだろうが、物理的に瓦礫をどけて道を作るしかないようだ。
「テ、ティアマト!?な、何をする気っ?!」
ルーテの声に視線を向けると重い傷を負っているとは思えないとても穏やかな表情をしたティアマトが上体を起こしていた。
「・・・ルーテ。貴女が火を消しなさい・・・」
「えっ?!で、でももう魔力が・・・」
ティアマトは優しく微笑むとルーテの手を両手で握り、自分の胸元へと導く。いったい何をしようというのだろうか。
「・・・ルーテ。私のこの身体はもう限界のようです。間もなく消えてなくなるでしょう・・・」
「!!?」
ロディとルークは静かに首を横に振る。
「えっ、やだ・・・ダメ!す、すぐ診療所に連れてって診てもらうから、もう少しだけ、が、頑張って・・・」
ティアマトはルーテのその言葉に、静かに目を閉じると微かに首を横に振った。
「・・・この身体が消えたとしても私という存在が消えるわけではありません。今は、ルーテを・・・ここに暮らす人々を・・・この街を守ることが大事です。それをやれるのはルーテ・・・貴女だけです」
「──っ」
ルーテは俯き大粒の涙を流しそれ以上何も言おうとはしない。
ティアマトはそれを見て満足そうに微笑むと、儂に視線を移した。
「・・・盾の神器に選ばれし勇者・・・フェンス様。全てはルーテに話してあります。ここを無事乗り切り、全てが落ち着いたらルーテから話を聞いてください。・・・昼時は無礼を申しまして大変失礼致しました・・・」
無言で首肯くとまた満足そうに微笑んだ。
「さあルーテ・・・私の魔力を使って火を消すのです。フフ。また直ぐに会えますからそんな顔をしないでください」
そう言ったティアマトの身体から光と共に何かが顕れる。それをルーテの両手にそっと握らせる。
「それまでこれを大事に守ってください。これを持っていれば私の元へ辿り着けますから」
ルーテはそれを強く握り締め何度も何度も強く首を振った。
最後に聖母の様な柔らかな微笑を浮かべると、ティアマトは光の粒となり消えていった。
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蒼い輝きを湛えた竜結晶が握られていた──
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