盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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水の竜の王の憧憬

秘密の工場

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 ちょっとでもずれていたら儂までこうなっていたな・・・。

  相変わらずとんでもない破壊力だ。

「おいっ!俺まで巻き込むつもりか!?」
「・・・ちゃんと狙った。それに当たってないじゃない」

   一応ミリアーナに苦情を言ってはみたが何となくそう言われるとは思っていた。この辺りも相変わらずか。

「総隊長・・・ご、ご無事ですか?」

  カインは確りと儂の無事を確認してくれる。その武技もさることながら、隊長としての責任感やこういった人柄も非常に好感が持てる。

  儂が引退しても王都の守護は安泰だろうな。

  今度、旨い酒を飲みに連れていってやろう。

「ああ。なんとかな・・・それよりどうしてここに?」
「ええと、それはですね──




 #カイン


  宿で黒ずくめ達の襲撃にあった後、総隊長の指示でミリアーナ様の無事を確認するために部屋まで来ると、その扉は開かれていた。

  中から物々しい気配を感じたため確認もせずに飛び込んだのが良くなかった。

「ミリアーナ様っ、ご無事です・・・か?」

  部屋の中は静寂に包まれており、目の前には二体の氷付けの彫像とその間に頭を垂れ静かに佇むミリアーナ様が居た。

「ミ、ミリアーナ・・・様?」

  無事──?のようだが、どこかお怪我でもされたのだろうか。
  確認しようと一歩踏み出そうとすると、ミリアーナ様がゆっくりと顔を上げた。

「・・・新手?また私の眠りを邪魔する気?」
「──っ!?」

  背後の窓から射し込む星明りで表情は見えなかったのだが、暗闇に不気味に光る猫の様な瞳に凄まじい怖気を感じ本能的に横に飛び退いた瞬間──

  一瞬でそれまで自分の居た場所が空間ごと氷付けになった。

「ミ、ミリアーナ様っ!!わ、私は敵ではありません!フェンス総隊長の守護隊に所属しているカ、カインですっ!王都からご一緒させてもらった者ですっ!!」
「・・・む」

  さ、流石魔王討伐の勇者のおひとり。

  先のスタンピードの時もおひとりで魔人を倒されたというから、その魔法の威力やそれを操る精度も人並外れている。

  そんな人物に怪しむような視線を向けられると、生きた心地がまるでしない。

  総隊長が気を付けろと言ったのはこれのことだったか。

「・・・いた、かも?」



  なんとか分かって頂けたようなので、現在の状況を簡単に説明しようと思ったが、ミリアーナ様は宿に着くなり部屋に籠られてしまっていたので、街長のゴルドバのことから再開発計画の不正疑惑、謎の工場の噂から現在の襲撃まで事細かに話すことになってしまった。

  うんうんと頷いていらっしゃったがご理解頂けただろうか。

「・・・で?そのゴル・・・」
「ゴルドバです」
「・・・そう。そのドバをやっつけたらいいの?」
「えっ!?」

  あくまでも疑惑や噂があるため調査を行うと伝えたつもりだったが、何故その結論に至ったのだろうか。

  な、何かしら魔法の力で全てお見通しなのだろうか。

  凡人の自分などでは想像もつかない。


  その時、開いたままの扉の外から何人かの話し声が聴こえた。

「──火事だって!?こっちまで回ってこないだろうな」
「分からんが爆発音も聴こえたらしいぞ」

  火事?爆発?何かが起こったのだろうか。

「・・・何かあった?」
「分かりませんが、とりあえず総隊長のところに行きましょう」

  部屋を出て自分達の部屋に戻ることにする。ここでの襲撃以外にも何かが起こっているのは確か。総隊長に指示を仰ぐべきだ。

  廊下には騒ぎで目を覚ました宿泊客が何人か出てきており、剣を持った私の姿をギョッとした目で見ると慌ててまた部屋に逃げ込んでいく。

  総隊長の部屋の前に差し掛かったとき、突然──


  部屋の中から眩い閃光が溢れ、遅れて凄まじい爆音と建物を揺らすほどの衝撃が起こった。

「なっ、何だ!?」

  続けて部屋から真っ黒な何か──黒ずくめの男が飛び出てきた。

「ミリアーナ様っ!下がってくださいっ!」

  慌てて剣を構えたが、男はこちらを一瞬見ただけで、背を向け足をふらつかせながらも廊下に出ていた宿泊客をなぎ倒しつつ走り去っていった。

「・・・逃げた。どこに?」
「奴等が街長のゴルドバの差金であるならば、この宿の裏手にあるという屋敷でしょうか?」

  ミリアーナ様は返事もせずスタスタと歩き出す。

「!ミ、ミリアーナ様、どちらへ?」
「・・・後を追う」

  まさか本当にゴルドバを倒してしまうつもりなのだろうか。そもそも追うとはいっても、もう男の姿は見えないが場所を知っているのだろうか。

「や、屋敷の場所はご存知で・・・?」
「・・・・・・」

  ミリアーナ様はピタリと立ち止まるとくるりと首だけをこちらに向けた。

「・・・案内、して?」




 #フェンス


  そのようなことをカインが早口で簡単に説明する。

「それで、私も正確な場所は分からなかったので屋敷を探していたところ総隊長の姿を見かけたので後を追いかけたのですが、大勢に囲まれていたのを見るなりミリアーナ様が・・・」
 
「・・・なるほどな」

  まぁ、そのお陰で助かったがそれを言うとミリアーナが調子に乗りそうなのでやめておくことにする。

  しかし、あれほどの威力だ。ゴルドバも巻き込まれてしまっただろうか。
 
  ゴルドバが居た辺りに目をやるがその姿は見えない。吹き飛ばされたりもしていないようだ。

「チッ!逃げられたか」

  どさくさに紛れて逃げられてしまったようだ。行き先は裏手の工場だろう。

「カイン!ゴルドバを追いかけるぞ。付いてこいっ!」
「ハ、ハッ!」

  工場で何をするかは分からんが執事の姿が見えないのも気になる。

  魔道剣だけではない何かがあるのだろうか。

  相変わらず嫌な予感しかしない。


  屋敷の裏手は整備の行き届いた広大な庭になっており、中央には大きな池、その手前に小さな小屋があった。

  小屋の扉は開いていて中には魔道具のランプに照らされた地下へと続く階段が見えていた。奥からは何かが唸るような低く腹に響く音が聴こえてくる。

「階段ですね。工場というのは地下にあるんでしょうか」

  階段はかなり深く、池の方へと伸びている。

  よくこれだけのものを作ったものだ。

「・・・行くぞ」

  階段を降りようと一歩踏み出したその時──


  地鳴りと共に地面が揺れ階段下から聴こえた唸るような低音が大きく響いた。

「じ、地震っ!?」

  池の水がやたらと大きな音を立てて揺れているのを不思議に思った途端、池の水が真っ二つに割れ大きな穴が開いた。

  つい先程も似たような光景を見た覚えがあるな。

「そ、総隊長っ!な、何か巨大なものが出てきますっ!!」

「なっ、なんだこれは!?」


  池の底からせり上がってきたそれは、魔法によって生み出された雨曇もいつの間にか綺麗に晴れ満天に輝く星明りを反射し、白銀に煌めく三階建ての建物程の大きさの鋼鉄の巨人だった──

「ククク・・・ヴェロスクード・・・。貴様のせいでかなり計画が狂ってしまったがまあいい。ここでの最低限の研究は出来たからもう用はない。街もろとも貴様も潰してやる」

  鋼鉄の巨人の手のひらには黒服の執事が乗っていた。

  よく見ると頭部にはゴルドバが居る。乗っているというよりはその頭部から生えているかのようで意識もないように見える。

「ククク・・・この汚ならしいブタも案外金以外でも役に立ったな。さあ!ゴルドバ──いや、魔道ゴーレムよっ!全てを破壊するがいいっ!!」

「ウォォォオオオオォォォ!!!」

  唸るような低音がより大きく夜空に響いた──
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