盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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水の竜の王の憧憬

魔道ゴーレム

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 ・・・これが、ゴーレムだと──?

  ゴーレムには身体が樹で出来たウッドゴーレムや、泥のマッドゴーレム、鉄鉱石で出来たアイアンゴーレムなど様々な種類が存在している。

  その成り立ちは不明な点が多く魔物学者などが研究を続けているが、まだそのほとんどが解明していないと言われている。

  その体内には魔石が存在しているため魔物の一種と考えられているが、一般的な魔物とは異なり魔人などが様々な物質に魔石と魔力を込め造り出したのでは──というのが現在で最も有力な説となっている。

  今、目の前にいる巨大なそれは、ミスリルが身体を構成するための主体となっているようだがところどころに黒鉄なども混じっているようだ。

  ここまで巨大で複数の鉱石が混じったゴーレムなどこれまでに見たことも聞いたこともない。

  それに、まるで同化してしまったかのようなゴルドバはいったい・・・。

  ゴーレムは体高に比べて異様に長いその右手を頭上高く持ち上げる。

「いかんっ!カイン、横に跳べっ!!」

  強く地面を蹴り飛び退く。瞬間、恐ろしいほどの速さで振り下ろされたゴーレムの手が下にあった小屋を粉々に吹き飛ばした。

  転がりつつも体勢を立て直し少し距離を取る。

  反対側へ跳んだカインも同様に逃げてくる。

「そ、総隊長・・・こいつは倒せルン、ですかね?」

  カインは声を裏返しながらその巨体を見上げる。

「・・・ううむ」

  ゴーレムは身体を構成する物質によってそれぞれ弱点が異なる。

  ウッドゴーレムなら燃やせばいいし、マッドゴーレムなら熱風で乾燥させてしまえばいい。アイアンゴーレムなどの鉱石系であればそれより硬い鉱石で造られた武器で斬ってしまえばいいのだが。

  しかし、このゴーレムはおそらくミスリル──

  ミスリルより硬い鉱石など伝説の武具の素材と言われているオリハルコン・・・、それこそフリオニールが持つ聖剣くらいのものだろう。

  魔法でも破壊出来ないことはないが、ただでさえミスリルは魔法抵抗値が高い。生半可な魔法では効果はない。

「ううむ。こういうときだけはフリオニールを連れてくれば良かったと心底思うな・・・」

  有効な攻撃手段が思い浮かばない。

  儂の剣ではミスリルを貫けはしないだろうし、勿論魔法も使えない。ユリアが居ればどうにかなったかもしれんが・・・。

  いかんいかん!

  ユリアには基礎からしっかりと教えると決めたばかりではないか。こんな通常ではありえない相手と戦わせてばかりいたらユリアのためにならない。

  今ここに居ないものばかり考えても仕方がない。なんとか時間を稼いで手を考えなければ。

  ところでミリアーナは何処に消えたんだ?

  あいつがいれば少しはやりようがあるんだが。


 「ククク・・・ヒャーハッハッハッハッ!!
  あの魔王をも討伐した英雄ヴェロスクードが、私の造った魔道ゴーレムに手も足も出ないとはなぁ!実に愉快だ!」

  いつの間にかゴーレムの手から地上へと降りていた執事は狂ったかのような嗤い声を上げている。昼間見たときとはまるで違う人物のようだ。

「お前がこれを造っただと?!」

「ああ!そうだ!これで完成というわけではないがな。だが、老いぼれた元英雄ごときにはこのくらいで十分過ぎる程だなぁ!!ヒャーハッハッハッハッ!!」

  人間の手でゴーレムを造り出すなど、魔道具に関して門外漢な儂でも今の技術では絶対に不可能だろうことは分かる。

  そんなことが可能なのはそれこそ魔人だけだろう。

  この男の性質はまさに邪悪ではあるがまさか魔人とは言うまい。魔人が持つ特有の禍々しさは感じない。

「・・・魔人の手を借りたとでも言うのか?」

  かつての戦争の際、帝国軍が使い連合軍に壊滅的な損害をもたらした魔道剣も魔人から齎されたと言われている。

  ここ最近活発になっている魔人の動向もある。この件にも何かしらの関与をしているのだろうか。
 
「魔人・・・だとぉ?」

  そう言った男の表情は先程までの狂喜は消え、強い怒りの感情を顕にする。

「偉大なる我が王よりその叡智を賜り造り上げた我が騎士を・・・あの卑しく浅ましい魔人からなどと、戯れ言をほざくなぁっ!!」

  男が放つ強烈な怒気に思わず気圧される。ただの人間がこれ程までの威圧を放てるものなのか。まるで魔人並だ。

「奴等にこれ程のものを造れる感性などあるはずがないっ!見よ!この美しく力強い姿を!これぞまさに芸術っ!」

  確かに星明りに照らされ白銀の輝きを放つその体躯は他のゴーレムの簡素な造形とは異なり、その姿と意匠はまるで帝国重装騎士インペリアルナイトかの様な強靭さと美しさを兼ね備えている。

  それだけに頭頂部のゴルドバがより異質に見える。

「あぁ・・・ですが、『核』としてちょうど良かったとはいえ、あのような醜い豚を使ったことだけは美しくないですね」

  男の表情は強い苛立ちを見せたかと思えば、陶酔しきった表情でゴーレムを見つめ、その次は心から残念そうにその頭部を見上げる。

  まるで劇役者でも観ているようだ。

「お前はいったい、何者なんだ・・・」

  気になることはあまりにも多い。

  ゴーレムに魔道剣、『偉大なる王』といった存在や、多分ゴルドバのことだろう『核』というもの。

  これだけのことをただの人間が出来る筈がない。 


「・・・私が誰かだと?確かに貴様は私を知らないだろう。私から魔道剣を奪い、私の輝かしい未来を奪い、父の命をも奪った貴様を、貴様等をっ!クラーゼルをっ!私がどれだけ怨み憎んでいるかもなぁ!!」

  父──?魔道剣を奪った──?

  そういえば先程ゴルドバが将軍という言葉を口にしていた。まさかこの男は──

「・・・ルードヴィング」

「ほぉ!分かったか。そうだ、私の名はルーファス・フォン・ルードヴィング。我が父、栄光あるシャルマート帝国魔道将軍オードウィン・フォン・ルードヴィング、その遺志を継ぎ、その無念を晴らすものだっ!!」


  やはりか・・・。

  三十数年前──魔王を討伐したあとも帝国軍残党は各地で抵抗を続け、それを率いていた将の中にルードヴィング家の者がいたことは知っていたが、その反乱は夜襲奇襲と手段を問わず乱戦を極め、誰が何処で捕縛されどのように死亡したかなど確めようもない状況だった。

  名だたる貴族や将の何人かは未だにその消息が分からないものも少なくないという。

  ルードヴィングもそのひとりであったが、まさかこれ程王都の近くに潜伏していたとは。

「ククク・・・しかし、計画とは大分ずれてしまったが、まさかこんなところでこうも簡単に怨敵のひとりを殺せるチャンスが巡ってくるとは想わなかったなぁ」

  自らが造り出したゴーレムによっぽどの自信があるのだろう。執事・・・いや。ルードヴィングは、既に勝ったつもりのようだ。

「可笑しなことを言うな?儂等はまだ生きているぞ。それにまだこちらは攻撃すらしてもいないのにもう勝ったつもりか?」

  言ってはみたもののまだ起死回生の手は浮かんでいない。

  会話を引き延ばしつつ頭の中であらゆる手で試行錯誤を行ってはみたものの、どうしても火力不足だ。確実な勝筋は見えてこない。

  魔法耐性の高いミスリルとはいえ金属には変わらない。大空洞でも使った『焼入れ』が一番効果的かと思うが、あの時とは状況が違うからな。

「可笑しなことぉ??それは、貴様だろぉ!!ヴェロスクードぉ!!かつてのお仲間が一緒でない貴様など、攻撃を防ぐしか能がないただの老いぼれじゃないか。あぁ?!!
  それに、自慢の盾の神器も持ってないようだしなぁ。どう考えても貴様の死は明確だろうが!!」

「・・・やってみなけりゃ分からんよ」

  切り札を使ったアイギスはまだ小さいまま。翌日まで元には戻らない。

「ヒヒ・・・ヒャーハッハッハッハッ!!
  やれるものならやってみろよぉっ!!!」
「ウォォォオオオオオォォォォ!!!」

  ルードヴィングの声に呼応しゴーレムと頭上のゴルドバが、強風が深い谷間を吹き抜けるかの様に低く唸るような叫びを響かせ、その両腕を高々と振り上げる。

  普通に考えれば、ここは一度退き体勢を立て直して挑むべきだが、それではゴーレムによって街に大きな被害が出てしまうだろう。

  なんとか耐え忍び、癪だがミリアーナが来るのを待つしかあるまい。

「カイン!お前は逃げろっ!今の儂では守りきれんっ!」
「そ、総隊長をひとりには出来ませんっ!及ばずながら囮にでもなる覚悟はあります!」
「バ、バカを言うなっ!!さっさと逃げろ──


  先程の様な力任せな攻撃ではなく、固く握られた巨大な拳が確実に儂らを狙い放たれる。

「チッ!『シールドバッシュッ!』
「──なっ?!グハッ!!」

  咄嗟に横に居たカインを下から掬い上げるように盾の突進技で吹き飛ばす。カインはものの見事に吹き飛ぶ。

  そのまま身体を捻り身体を回転させゴーレムに向け盾を構える。

  真っ黒な猛威はもう眼前に迫っていた。

  これ程の巨大な質量相手に成功するかは分からないが、『パリング』で受け流すしかあるまい。

  頼むぞ!アイギスッ!!


『・・・クリムゾンブラスト』


  盾と拳がぶつかろうとさした瞬間──

  少し眠たそうで、それでいて何処か怒気の籠った聞き慣れた声が静かに響く。

  ゴーレムの目の前で凝縮された濃密な魔力が猛烈な炎と爆風を弾けさせる。これは、火と風の複合魔法。

  鼻の先まで迫っていた暴威は力の法則を無視するかの様に真後ろへと吹き飛ばされた。

「おいおい・・・また儂を巻き込むつもりか?」
「・・・さっきも言ったけど当たってないでしょ?」

  後ろを振り向くとそこには、猫耳大魔道士ミリアーナ。

  隣にはロディに支えられたルーテが居た。

  その胸には静かに蒼い輝きを放つ、大きな竜結晶が抱えられていた──
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