盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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水の竜の王の憧憬

魔法を扱えぬ者

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「フェンス様が魔法を使えた理由・・・ですか?」

  私のことについて聞かれるのかと思いきや、その質問の意図が最初はまったく分からなかった。

「・・・そう。あなたも気づいているでしょ?」
「っ!?」

  そう言うと、ミリアーナ様はその手に持つ杖の先端を私に向ける。

  思わず身体が硬直してしまう。

「・・・普通の人間は、魔法を使うとき体内に蓄積された魔力を消費する。消費された魔力は大気中の魔素を勝手に吸収して、個々の許容量まで回復する。
 魔物もそれは一緒で、体内の魔石に蓄えられた魔素を消費して火を吹いたり中には魔法を使うのもいる。
  魔物の魔素許容量は魔石の大きさに比例していて、大きなものほど魔素量も多く魔物自体も強くなる。それはあなたも一緒…でしょ?」

「ええ。確かにそうです」

  加えて言うならば、魔石には純度の違いもある。小さな魔石でも純度が高ければより多くのマナを溜める事が出来る。
  魔人の魔石などがそれに当たる。

「・・・でも、人間には魔石がない。まぁ、中身を見たことはないから断言は出来ないけどね。・・・私は人間の身体には魔石の替わりに魔素を溜める何か袋のようなものがあると考えてる。
  それは人によって大きさが違い、魔力量に影響する。ひとつ、魔物と違うのは周りの魔素濃度や鍛練によってその袋を大きくすることが出来るってとこ」

  ミリアーナ様の仰る通り。

  魔物は基本的に蓄えられる魔素量を増やすことが出来ない。例外として格が上り、上位の種族に進化する場合もあるけれど。
  それはかなり稀なこと。

「・・・さっきも言ってたけど、人間は体内のその袋に溜めた魔素を魔力と呼んで、頭の中で描いた術式に魔力を流し魔法を使う。魔物や竜も同じ?」

「え、ええ大体は・・・」

  ミリアーナ様は何を言いたいのだろう。

  魔法を行使するための説明をされているが、元はフェンス様が魔法を使ったことについて──

「っ!!?」

「・・・気付いた?」

  フェンス様の身体に私の魔力が流れたとき。

  確かに感じた違和感。

  ルーテに魔力を渡したときには、ミリアーナ様の言う袋に私の魔力がルーテの体内に溜められていた。

  フェンス様は──

「・・・そう。フェンスには魔力を溜める袋がないと私は思ってる。
  あれだけ魔法の知識と鍛練バカのフェンスがどれたけやっても魔法が使えないのは、何か理由があるのか、そもそも袋を持ってないだけなのかは分からないけど。
  ・・・そう仮定すれば、どんなに頑張っても元から持ってないなら袋が大きくなることはないし、体内に魔力を溜められなければ魔法を使えないのは当たり前」

  フェンス様の身体を流れた私の魔力は何処かに溜まることはなく、直接描かれた術式へと注がれていた覚えがある。

「・・・それなのにフェンスは魔法を使った。しかもあるかないか分からないくらいの袋では絶体入りきらないくらいの魔力を必要とする魔法を。あなたは何か心当たりある?」

  違和感の正体が何かは分からない。

  ただその違和感は一瞬だけの感覚だったため、私の勘違いだったのかもしれないし、そもそも気のせいだったかもしれない。

  何処か懐かしい匂いと暖かな気配を感じた気がした。


「おい。何してるんだ?早く戻るぞ」

  上手く言葉に出来ないそれを何とか伝えようと言葉を探していたのだが、霧の中から顔を覗かせたフェンス様の言葉で掻き消えてしまった。

「はっ!?はい!すぐに」
「・・・チッ。仕方ない。続きはまた今度ね」

  そう言うとミリアーナ様はスタスタと霧へ向かっていく。

「・・・そうそう。あなたのもとの姿は知らないけど、誰に似せたかは本人に黙っておいてあげる」
「──っ!!?」

  き、気付かれてる?

  流石は四英雄のおひとり、大魔道士ミリアーナ様。

  この姿にしたのは、失敗だったでしょうか。


「・・・フェンス。ノド乾いた」
「ああ?湖の水でも飲んでおけ」




 ♯???



  大地の楔に 混沌に魅せられし者の手が近付いている


  もはや 戒めの崩れは免れぬか


  既に芽吹いた種は 実を成したか


  あれは未だ蕾 花開き 実を成すには 拙速に過ぎる


  もうひとつの苗は 間もなく殻を割り 目覚める


  蕾と共に 下神の加護のもと 健やかに育つと良いが


  朽ちた苗の 再誕には あと何れ程の時を要する


  マナはもう満ちている あとは目覚めを待つのみ


  もう 失態は許されぬ それ即ち 破滅へと繋がる


  気掛かりは 風の流れの乱れ
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