盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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加護の儀式と少女の願い

閑話~団らん

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 ♯フェンス


  ティアマトが護る封印の地から宿場街へと戻った儂らは、カルタスに用意してもらった馬車で王都へ戻った。帰りは、来たときのように転移魔法は使わず1日かけて戻ることにした。

  早く戻るに越したことはないのだが、結果魔力切れでミリアーナが寝てしまっては肝心の話し合いが進まなくなってしまう。
  こんな奴でも、こと魔法に関してはその知識も技術も誰よりも高いことは事実。ティアマトと話していた内容も考えると不在という訳にはいかんだろうしな。

  道中では、ティアマトから善神の話やユリアの『付与の加護』についてなど様々な話を聞くことが出来た。
  王都に着いたらフリオニール達同席でまた同じ内容を話すことにはなるだろうが、折角の時間を無駄には出来ないし…それに、聞きたい好奇心を抑えることは無理だったからな。


 
  王都には翌日の昼過ぎに到着した。

「カイン。すまんが城に到着の知らせを頼む。ドーガは詰所に不在の間の活動確認をしておいてくれ」
「はっ!了解しました。総隊長はどうされますか?」
「儂は一度屋敷に戻る。荷物と装備も置きたいからな。二人はそれが済んだら休んでくれ」
「はっ。ありがとうございます」

  すぐにでもこれからのことを話し決めたいところだが、フリオニールもすぐに時間が作れるとは限らんからな。
  その間に昼食も済ませておこう。

「ミリアーナはどうする?」
「・・・私はちょっと調べたいことがあるから、ギルドに戻る」

  そう言いながらもうスタスタと歩き出している。

「おい。夕刻前には大聖堂に来ておいてくれ。寝るなよ?」

  一応忠告はするが、まぁ返事が無いのは分かっていた。

「あ、あの、フェンス様?わ、私は今回はどうしたら・・・」
「ん?おお。ティアマトも参加してもらうからな。ルーテも是非出席してくれ」
「ぅええっ?!は、はいぃ」

  今回はティアマトを中心に進行するだろう。幾ら竜の王とはいえ、初見の人間に囲まれては緊張させてしまうかもしれんしな。
  見知ったルーテが近くに居たほうが気を張らずにすむだろう。

「さて。二人も腹が空いてるだろう。一緒にどうだ?」
「えっ・・・、フェンス様とご一緒にですか?」

「ん?それ以外ないだろう?家のメイドの作る飯は旨いぞ」
 



 ♯マリア


  普段、聖杖教会の枢機卿を仰せつかっている私は、ほとんどを教会本部か各地の教会の視察などをしていることが多く、自らの家に居ることは月多くて四・五日ほど。

  数日前から王都を覆う聖大結界の要となっている火竜王イグナーツ様のお世話係り兼話し相手として、教会から暫くの滞在を指示されている。
  しかしそのイグナーツ様は、現状魔結晶の中の魔力体であるため食事の世話は必要なく、強いてやることと言えば日に何度か御伺いして一二時間ほど話をするくらいでしかない。

  今は午前のお世話を終え昼食を済ませたあと、庭の見える居間でお茶を頂いている。

  これほどのんびりと過ごすのは何時ぶりだろうか。

「・・・たまにはこんな時間も必要ですね」
「奥さまは働きすぎです。旦那様はほとんど毎日そうされてましたよ?」
「ふふ。そうね。幾つか仕事を任せようかしら?」
「それが宜しいかと。お茶のお代わりはお入れしますか?」
「ええ。お願いするわ」

  メイドのカーラとは、歳が近いこともあるがこの屋敷でもう何十年も勤めてくれていることもあって非常に仲は良い。
  教会でのお勤めは、利権争いや腹の探りあいなどが日常茶飯事であり、全員が全員そうとは言わないがかなり精神的に疲れが溜まる。

  そんな愚痴を溢せる相手もカーラくらいだ。


「あ!旦那様。お帰りなさいませ」
「ああ。ただいま──


  庭の菜園の手入れをしていたもうひとりのメイド、ジュディの明朗な声が、開けた窓から流れてくる。

「あら。噂をすれば旦那様がお帰りになったようですね」
「そのようね。思っていたよりも早いわ」

  本当はもう二三日ゆっくりとしていたかったけれど。

  さあ。休養は終わりですね。また忙しくなりそうです。




 ♯ユリア


  午前の特訓が終わり二時間の休憩。

  お昼ご飯を食べにお家へ帰る。お腹も空いたけど、食べて早くベッドで横になりたい。そうでもしないと、午後の特訓は身体が持たない。

  横には、あたしと同じくフラフラになったハリルが歩いている。ハリルもかなり厳しめの特訓を受けているからなぁ。

  特訓を始めて今日で三日目。

  初日は走り込みと素振りだけだったけど、回を追うごとに内容がひとつずつ追加されていく。
  二日目は午前の部で俊敏性を高めるためにアベルさんの掛け声に合わせて左へ右へと跳んで跳ねて。午後の部では更に木製の盾を構えて攻撃の受け方逸らし方、受け身の取り方の特訓が増えた。

  今日は全部の回数が二割増し…きっと午後はもう二割増えそう・・・。

  身体は毎回ボロボロになるけど、お家で休んでいる間におばあ様が治癒魔法で治してくれているみたい。おばあ様が言うには、おじいちゃんやフリオおじさんもこうやって休む暇なく身体を鍛えられたらしい。

  おじいちゃん達がおばあ様を怖がる理由が少しだけ分かった気がする。


「ただいまー」

  お家に着くと中から話し声が聴こえてきた。この声って──!
 
  急いで居間に飛び込むと三日ぶりの姿が。

「おじいちゃん!帰ってたの?」
「おお。お帰りユリア。先程戻ったばかりだよ」

  居間にはおじいちゃん。それとルーテさん?ともうひとり見知らぬ女の人がご飯を食べていた。おばあ様も一緒だ。

「ユリア。装備を置いて手を洗ってらっしゃい」
「はい。おばあ様」



  自分の部屋に胸当てと短剣を置き、手と顔を洗い居間に戻る。

「あ~~っ、お腹空いたぁ」

  いつもの席に飛び込むように座るとすぐカーラさんがご飯を運んでくれる。今日のお昼は庭の菜園でジュディさんが育てている新鮮な野菜のサラダに、お魚のフライを挟んだカーラさん特製のフワフワパン。それと野菜たっぷりのミルクシチューだ。

「ん~っ!美味しそう。いただきま─・・・
「ユリア。食事の前にご挨拶なさい」

  パンを手に取りかぶりつこうとした瞬間、おばあ様に止められる。

  っとと。確かにお客様の前ではしたなかったかな?あたしももう成人女性!お母様の教えに倣ってお淑やかにならないと。

「えっと・・・し、失礼を致しました。ワタクシ、こちらにおりますおじい様とおばあ様の孫に当たるユリアと申します。以降、お見知りおきを下さい?」

  椅子を引いて立ちあがりその場で礼をする。

「こ、こちらこそ失礼致しました。ティアマトと申します。お気になさらずどうぞ。お腹お空きでしょう?」

  見知らぬ女の人も慌てて立ち上がると同じように頭を下げ、そう優しく微笑んでくれた。
  ティアマトさんというと確か──今回おじいちゃん達が会いに行った人…だったよね?

「はい。宜しい。どうぞ、お召し上がりなさい」
「はい!ありがとうございます。・・・頂きます」

  ちゃんと手を合わせ、改めてパンにかぶりつく。

  ん~~~っ!美味しいっ!!

  さすがカーラさん。もうお淑やかなんてことは忘れて夢中で食べてしまった。え?そりゃモチロンしましたよ。お代わりを。

  ティアマトさん?は、あたしが食べてるとこをずっとニコニコと見ていた。その笑顔はどことなく誰かに似てるような・・・?

「──ごちそうさまでした」

  食べ終えた食器をカーラさんが片付けてくれる。

「カーラさん。今日もすっごく美味しかった」
「ふふ。ありがとうございます。そう言って頂けると作り手冥利につきます」

「ユリア。特訓は順調か?」

  先に食べ終わっていたおじいちゃんは、不思議な香りのする黒いお茶?を飲んでいる。なんでも、今回行った街で飲んだ『コーヒー』という飲み物らしい。
  帰りに買えるだけ買ってきたそうだ。

「もう毎日へとへと・・・。アベルさんってすごく優しそうな顔してるなって最初は思ったけど、優しい笑顔の仮面を被った鬼(オーガ)だったってことは分かったかな」
「鬼(オーガ)か!はは。どんな特訓をつけて貰ってるんだ?」

「 まずは身体を作るための基礎だって、街の外壁を何周も走らされて、その後は素振り。最初は百回だったけど今日は二百五十回もやらされた。午後はきっと三百ね・・・。
  その後は回避と防御の基礎練。これから回数が何回まで増えるかが恐怖でしかないかな・・・」
「は、はは、そうか・・・。ア、アベルも容赦ないな。(儂が考えた訓練内容そのままだとは言えんな)」
「ん?おじいちゃん何か言った?」
「えっ?!い、いや。何も言っとらんよ?」

  なんだかおじいちゃんの態度が怪しい。急に手元のカップに残ったコーヒーを飲み干してカーラさんにお代わりをお願いしている。

「そ、そうだ。午後も特訓の予定だろう?儂らは夕刻からまた今後の対策で留守にするからな。明日にでも様子を見に行くとするよ」
「今回あたしはいいの?」

  特訓を休むわけにはいかないけど、前回参加した分どうなってるかはすごく気になる。けど、特訓の後で話を聴いてられるかは…自信ない。

「ああ。長くなるかもしれんからな。特訓の後では流石に大変だろう?ユリアにも後で内容は教えてやろう」

「分かった。ところでおじいちゃん?」
「ん?なんだ?」

  お互い挨拶はしたけれどティアマトさんはどうしてここにいるんだろう?話し合いにも参加するのかな?

「ティアマトさんって・・・」
「ん?ああ、名前だけじゃなんだな。儂から改めて紹介しよう」

  目の前のティアマトさんはあたしの顔を見て優しく微笑んでいる。やっぱり誰かに似てるんだよなぁ。

「このかたが『水竜王』のティアマトだ。色々と話を窺う為に同行してもらった」

  えっ?!ええっ?!!

「す、水竜の王様って・・・人間だったの?!
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