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加護の儀式と少女の願い
閑話~大聖堂へ
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火竜の王様だっていうイグちゃんは、最初はすごい大きくて迫力あって、でも今はあんなに小さく可愛くなっちゃったけど、一応竜だって分かる姿はしてる。
それなのにティアマトさんは完全に人間にしか見えない。
「ふふ。これは私の本当の身体ではないんですよ。本当の私はちゃんと竜の姿をしてますから、安心してください」
「そ、そうなんですか・・・それならひと安心?てのもなんだかおかしい気がするけど」
でも、竜の姿のティアマトさんにも会いたかった気もする…ちょっと残念。いつかは会えるかな?
「ふふ。気楽に話して頂いて大丈夫ですよ。ここにいるルーテみたいに、私の正体を知っても変わらないでいてくれたほうが私も気が楽ですから」
「ち、ちょっ、ティアマト?!それじゃ私が礼儀知らずみたいじゃない!私は・・・」
それまでずっと緊張していたのか、カラクリ人形みたいに固まってたルーテさんが、バンっとテーブルを叩いて立ち上がる。
ガチャンとカップやグラスが大きな音を立てる。
「わわっ?!す、すすす、すみませんっ!」
今度は大きい音を立てたことにビックリしたのか勢い良く椅子に戻ると、また人形の様に動かなくなった。
ふふ。やっぱりルーテさんは面白い人だな。
「ね。ユリアさんもこんな感じでお願いしますね」
そんなルーテさんを優しい目で見ていたティアマトさんが改めてそう言ってきた。二人は本当に仲が良いんだろうな。
「うん。分かりました。でも、あたしもお願いします。ちょっと『さん』はなんだかくすぐったいので」
「ふふ。分かったわ・・・ユリアちゃん?」
竜の王様って名前だけ聞くと恐い印象があるけど、イグちゃんもティアマトさんも全然そんなことなくて、優しくて、楽しくて、良い人達なんだなって改めて感じた。
もう二人いるってこないだおじいちゃん達が話していたけど、いつか会ってみたいな。
「ユリアに姉が出来たみたいだな。いや、既にヒルダがいるか。そうすると・・・叔母か?」
「えっ?!お、叔母──」
あたしは一人っ子だから何人姉が出来ても嬉しいんだけど、おじいちゃん…叔母って。も~!女心が分かってない。
「アナタ。女性・・・いえ、竜王様に『叔母』呼ばわりは失礼が過ぎます。訂正なさい」
「えっ?!あ、ああ。し、失礼した・・・」
「誠意が足りていません」
「ひっ!?」
ぷっ。
「あはっ。あはははははっ!おじいちゃんって、ほんとおばあ様に弱いんだね」
おじいちゃんの今の顔ったら。あたしの笑い声に釣られてか、ティアマトさんとルーテさんも、おばあ様まで堪えきれず声を上げた。
あっ──
「誰かに似てる思ってたら、ティアマトさんの笑った顔っておばあ様と似てるね?」
「──っ!!?」
あれ?あたし変なこと言ったかな?
今度はティアマトさんが人形みたいになっちゃった。
♯フェンス
屋敷で昼食を取ったあと、特訓から戻ったユリアを交えて暫く他愛のない話をして時間を過ごした。
しかし、マリアはもう五十。ルーテは確か二十そこそこ、ユリアはつい先日成人になったばかり。ティアマトに関してはもう数万年歳?だというのに──
女性が四人─いや、カーラとジュディも途中から参加していたから六人か。それだけ寄ると姦しいというのは本当だな。
なんだか無性に早くフリオニールやグストフあたりと会いたくなった。
ユリアが午後の特訓に行く時間になり、ようやくお開きとなった。時間があるようなら少しユリアの特訓を見学しようかと思っていたが、ちょうどそれと同時に城からの使者が訪ねてきた。
「では、ユリア。特訓しっかりな」
「・・・は~~い。行ってきま~~す」
「クゥウ~~ン・・・」
庭で食事を終えた後、呑気に昼寝をしていたハリルを無理矢理に起こして二人?は、とぼとぼと門を出ていった。
ユリアが愚痴をこぼしていた特訓の内容は、儂が守護隊の面々向けにやらせている内容のままで、基礎練でもあるのだがどちらかというと根性を鍛えるための訓練で・・・。
ユリア位の年頃の、しかも女性にやらせるような内容ではないことは儂でも分かる。
アベルもカインと同様、良い意味でも悪い意味でも真面目すぎるきらいがある。そこが長所でもあるのだが・・・ううむ。
明日にでも時間が取れたらそれとなく言うことにしよう。
「さて。儂らも行くとするか」
屋敷に来たときの面子にマリアを加えた四人で、大聖堂に向かう。ルーテはマリアの前で緊張しているのか、相変わらず動きが固い。それと何故か昼食後の話の途中からティアマトまで固まってしまった。人でも竜でも、女というものは解らんものだ。
「ティアマト様は勿論、火竜王イグナーツ様とは見知った間柄、ということで宜しかったでしょうか」
マリアの問い掛けにティアマトがビクリと跳ねる。
「え、ええ。私たち四竜王は善神によって同時に創られましたので。各々の役目を仰せつかってからは、もう何万年もの永い間顔を合わすことはこれまで一度もありませんでしたが・・・」
「そうでしたか。兄弟の様なものなのですね」
「そ、そうですねっ。私たちに余りそのような感情はありませんが、人族のように兄弟とするならば、イグナーツは弟…ということになりますでしょうか」
「竜王の兄弟か。桁が違いすぎて想像出来んな」
儂には兄弟というものはいなかったが、幼い頃共に過ごした親友がその存在に近かった。少し、羨ましく思う。
「と言っても、単純に創られた順番ですから。そう想っているものはいないと思いますが・・・いえ。風竜王だけは違っていたかもしれませんね」
そう言ったティアマトの横顔はいつかの遠い記憶を懐かしんでいるようだった。
「ふふ。ユリアが言うように、本当に私に似ていますね。こうして並んで歩いていると畏れ多くも私も竜王の姉妹になった気がします」
「ええっ?!そ、そんな・・・私などがマリア様に、に、似ているなどと、こ、こちらこそ畏れ多いっ」
ティアマトは手を慌ただしく振って否定する。
だが、そう言われて気付いたが、確かにどことなく若かった頃のマリアに似ている気もする。
容姿だけでなくどこか雰囲気も。まぁ怖さは圧倒的にマリアのほうが上だと思うが・・・。
「アナタ。何か言ったかしら?」
「っ!?い、いえっ・・・な、何も?」
思わず応えた声が裏返ってしまう。視線が痛い。
ああ・・・。出会った頃のマリアはあんなにも優しかったんだがなぁ。おっと!
更にマリアからの刺すような視線が強くなった気がするから、この辺で止めておこう。イグナーツは心の声を読んでいたが、マリアも世話をする内に読めるようにでもなったのだろうか。
それこそ本当に竜王の兄妹だな・・・はは。
より一層、マリアの視線が現実にも痛みを伴い出したときに、大聖堂の門扉が視界に入ってきた──
それなのにティアマトさんは完全に人間にしか見えない。
「ふふ。これは私の本当の身体ではないんですよ。本当の私はちゃんと竜の姿をしてますから、安心してください」
「そ、そうなんですか・・・それならひと安心?てのもなんだかおかしい気がするけど」
でも、竜の姿のティアマトさんにも会いたかった気もする…ちょっと残念。いつかは会えるかな?
「ふふ。気楽に話して頂いて大丈夫ですよ。ここにいるルーテみたいに、私の正体を知っても変わらないでいてくれたほうが私も気が楽ですから」
「ち、ちょっ、ティアマト?!それじゃ私が礼儀知らずみたいじゃない!私は・・・」
それまでずっと緊張していたのか、カラクリ人形みたいに固まってたルーテさんが、バンっとテーブルを叩いて立ち上がる。
ガチャンとカップやグラスが大きな音を立てる。
「わわっ?!す、すすす、すみませんっ!」
今度は大きい音を立てたことにビックリしたのか勢い良く椅子に戻ると、また人形の様に動かなくなった。
ふふ。やっぱりルーテさんは面白い人だな。
「ね。ユリアさんもこんな感じでお願いしますね」
そんなルーテさんを優しい目で見ていたティアマトさんが改めてそう言ってきた。二人は本当に仲が良いんだろうな。
「うん。分かりました。でも、あたしもお願いします。ちょっと『さん』はなんだかくすぐったいので」
「ふふ。分かったわ・・・ユリアちゃん?」
竜の王様って名前だけ聞くと恐い印象があるけど、イグちゃんもティアマトさんも全然そんなことなくて、優しくて、楽しくて、良い人達なんだなって改めて感じた。
もう二人いるってこないだおじいちゃん達が話していたけど、いつか会ってみたいな。
「ユリアに姉が出来たみたいだな。いや、既にヒルダがいるか。そうすると・・・叔母か?」
「えっ?!お、叔母──」
あたしは一人っ子だから何人姉が出来ても嬉しいんだけど、おじいちゃん…叔母って。も~!女心が分かってない。
「アナタ。女性・・・いえ、竜王様に『叔母』呼ばわりは失礼が過ぎます。訂正なさい」
「えっ?!あ、ああ。し、失礼した・・・」
「誠意が足りていません」
「ひっ!?」
ぷっ。
「あはっ。あはははははっ!おじいちゃんって、ほんとおばあ様に弱いんだね」
おじいちゃんの今の顔ったら。あたしの笑い声に釣られてか、ティアマトさんとルーテさんも、おばあ様まで堪えきれず声を上げた。
あっ──
「誰かに似てる思ってたら、ティアマトさんの笑った顔っておばあ様と似てるね?」
「──っ!!?」
あれ?あたし変なこと言ったかな?
今度はティアマトさんが人形みたいになっちゃった。
♯フェンス
屋敷で昼食を取ったあと、特訓から戻ったユリアを交えて暫く他愛のない話をして時間を過ごした。
しかし、マリアはもう五十。ルーテは確か二十そこそこ、ユリアはつい先日成人になったばかり。ティアマトに関してはもう数万年歳?だというのに──
女性が四人─いや、カーラとジュディも途中から参加していたから六人か。それだけ寄ると姦しいというのは本当だな。
なんだか無性に早くフリオニールやグストフあたりと会いたくなった。
ユリアが午後の特訓に行く時間になり、ようやくお開きとなった。時間があるようなら少しユリアの特訓を見学しようかと思っていたが、ちょうどそれと同時に城からの使者が訪ねてきた。
「では、ユリア。特訓しっかりな」
「・・・は~~い。行ってきま~~す」
「クゥウ~~ン・・・」
庭で食事を終えた後、呑気に昼寝をしていたハリルを無理矢理に起こして二人?は、とぼとぼと門を出ていった。
ユリアが愚痴をこぼしていた特訓の内容は、儂が守護隊の面々向けにやらせている内容のままで、基礎練でもあるのだがどちらかというと根性を鍛えるための訓練で・・・。
ユリア位の年頃の、しかも女性にやらせるような内容ではないことは儂でも分かる。
アベルもカインと同様、良い意味でも悪い意味でも真面目すぎるきらいがある。そこが長所でもあるのだが・・・ううむ。
明日にでも時間が取れたらそれとなく言うことにしよう。
「さて。儂らも行くとするか」
屋敷に来たときの面子にマリアを加えた四人で、大聖堂に向かう。ルーテはマリアの前で緊張しているのか、相変わらず動きが固い。それと何故か昼食後の話の途中からティアマトまで固まってしまった。人でも竜でも、女というものは解らんものだ。
「ティアマト様は勿論、火竜王イグナーツ様とは見知った間柄、ということで宜しかったでしょうか」
マリアの問い掛けにティアマトがビクリと跳ねる。
「え、ええ。私たち四竜王は善神によって同時に創られましたので。各々の役目を仰せつかってからは、もう何万年もの永い間顔を合わすことはこれまで一度もありませんでしたが・・・」
「そうでしたか。兄弟の様なものなのですね」
「そ、そうですねっ。私たちに余りそのような感情はありませんが、人族のように兄弟とするならば、イグナーツは弟…ということになりますでしょうか」
「竜王の兄弟か。桁が違いすぎて想像出来んな」
儂には兄弟というものはいなかったが、幼い頃共に過ごした親友がその存在に近かった。少し、羨ましく思う。
「と言っても、単純に創られた順番ですから。そう想っているものはいないと思いますが・・・いえ。風竜王だけは違っていたかもしれませんね」
そう言ったティアマトの横顔はいつかの遠い記憶を懐かしんでいるようだった。
「ふふ。ユリアが言うように、本当に私に似ていますね。こうして並んで歩いていると畏れ多くも私も竜王の姉妹になった気がします」
「ええっ?!そ、そんな・・・私などがマリア様に、に、似ているなどと、こ、こちらこそ畏れ多いっ」
ティアマトは手を慌ただしく振って否定する。
だが、そう言われて気付いたが、確かにどことなく若かった頃のマリアに似ている気もする。
容姿だけでなくどこか雰囲気も。まぁ怖さは圧倒的にマリアのほうが上だと思うが・・・。
「アナタ。何か言ったかしら?」
「っ!?い、いえっ・・・な、何も?」
思わず応えた声が裏返ってしまう。視線が痛い。
ああ・・・。出会った頃のマリアはあんなにも優しかったんだがなぁ。おっと!
更にマリアからの刺すような視線が強くなった気がするから、この辺で止めておこう。イグナーツは心の声を読んでいたが、マリアも世話をする内に読めるようにでもなったのだろうか。
それこそ本当に竜王の兄妹だな・・・はは。
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