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加護の儀式と少女の願い
竜王と竜王
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♯イグナーツ
『・・・貴様、今何と申した…我が偉大なる火竜の王イグナーツと知っていての言葉か?』
「あら?小さくなって耳の穴が塞がってしまったのですか?仕方ありませんね。もう一度言ってあげます。こんなに『小さく縮んでトカゲかと思いました』と、言ったのですよ」
『き、貴様ぁっ!!消し炭にしてやるっ!!」
「その結晶の中から出来るのなら、どうぞお好きなように」
『ぬぬっ?!』
この無礼者はなんだ!?
竜のなり損ないの分際で、この偉大で聡明なこの竜王たる我をあろうことかトカゲだとっ──
『ええいっ!待っていろ。貴様のお望み通り消し炭にしてくれるわっ!!』
まだ完全体に戻れるまでの魔力は溜まっていないが、もう我慢ならん!こやつを捻り潰せるだけの力は十分にある。
「イ、イグナーツ、待てって。この人はなぁ──
『フェンスよ。止めても無駄だ。こやつの末路はもう消し炭と決まっておる!』
身体の再構築には確か…魔力を結晶に纏わせて…むむぅ、上手くいかぬな・・・。
「火竜王様?まさか肉体の構築も出来ないのですか?火竜の王ともあろうお方が聞いて呆れますね」
『うむむむ~っ!!馬鹿にしおってぇっ!!』
「おほほほほほほっ!」
「・・・お二方とも。お戯れはそのくらいに」
『──っ!!?』
な、なんだ・・・、この寒気を覚えるほどの圧は・・・。
この我が恐怖を感じている─だと?
フェンスと無礼ななり損ないも、その強者が放つ圧に気圧されているようだ。
「今、イグナーツ様に動かれると王都に張られた結界が解かれてしまいます。大変なご不便をお願いしていることは心苦しいことではありますが、御自身のお役目の重大さをご理解下さいませ」
『う、うむ・・・』
「アナタ。ちゃんとお二人に説明をしたのかしら?アナタがちゃんとしないからこんな状況になっているんじゃないんですか?」
「い、いや・・・説明をしようとはしたんだがな・・・」
この強者はそう──フェンスの伴侶、マリアである。
「言い分けは後で聞きます」
「ぐっ」
フェンスはどうやらマリアには頭が上がらなぬようだ。何処の世でも女というものは強いものであるのだな。
「お二人がいがみ合う原因は分かりかねますが、今はどうかお気持ちを沈めご協力頂けますと私共としてはありがたいのですが」
「は、はい・・・申し訳ありません。このトカゲの顔を見たらつい」
『貴様っ!?またトカゲと申したなっ!!』
「オホンっ!!」
「『・・・・・・」』
「ティアマト様。重ねてお願い致します」
「は、はい・・・」
フッ、フハハハハハっ!!
この無礼ななり損ないも、どうやらマリアには弱いらしい。
ティアマトなどという何処かで聴いたような大層な名をしているが、やはり小物か!
ん?ティアマト──
『テ、ティアマトだとっ!!?』
♯フリオニール
「・・・フェンス。これは・・・何があったんだ?」
「ああ。え~~と、どこから話したもんか・・・」
今朝がた、フェンス達より先行して件の街へと向かわせていた騎士二人が早馬にて戻った。報告はその街で起こった事件について、その内容と結果、現在の対応について。
そして昼過ぎにフェンス達が戻ったという知らせが入った。
すぐにでもフェンスの元へ向かおうと思ったのだが──
「──陛下。どちらへ?」
「フェンスが戻ったのだろう?騎士の報告の真否を確認せねばならん。ウェンデル、急ぎ馬車の用意を」
政務大臣のウェンデルが私の行くてを阻む。
「なりません」
「なっ?!時は一刻を争うのだぞ!もたもたしていて魔神が復活でもしたらどうするつもりだ!」
今や問題は魔人だけではない。宿場街で起こった事件の首謀者ルードヴィングの捜索の対応もしなければならない。
私も何時までも城で安穏としているわけにはいかない!
「魔神など、私の知ったことではありません」
「なっ!?奴等を放っておけばこの国だけではなく、世界の危機を招くかもしれんのだぞ?!」
ウェンデルは何も言わず先程まで私が座っていた執務机の前まで歩くと、その上に乗った書類の束を勢いよく叩いた。
「世界の危機も大事ですが、私にとってはこれらの書類をいち早く確認して頂くことのほうが一大事です!そして、それを出来るのは・・・陛下っ!貴方だけなのですよっ!!
行かれるならばこれらを終えてからにして頂けますか!」
その余りの迫力に思わずたじろいでしまった。
「・・・そ、そうだな。ま、まずはそちらの危機から解決するとしよう。フ、フェンスの所には使いを出しておいてくれるか・・・?」
ウェンデルに監視されながら溜まった書類を片付け、大聖堂に到着したのはもう夕刻に入った頃だった──
大聖堂の中には前回の会議に参加した面々は既に全員揃っているようだったが、その面々の様子は何故かバラバラ──
冒険者ギルドのマスターであるグストフは何かに怯えるかのようにその大きな身体を椅子の上で縮こませている。ミリアーナは呆れ顔・・・いや、眠いだけか?魔道院所属の魔法使いであるルーテは、隣の初見の女性の腕を不安そうに掴んでいる。その女性──竜人族のようであるが、その者はまるで叱られでもしているかの様に頭を垂れ肩を竦めている。
聖大結界の要となっている竜結晶の中の火竜王も同様だ。
それらの中心に居たのは、聖杖教会の枢機卿という立場ながら町村にある教会にも頻繁に足を運び信徒からは"聖母"と慕われ、その聖なる御力を持って魔物の討伐や教会独自の戦力である聖杖祓兵団の訓練までも行う"神の使徒"の異名をも持っているとは思えない程、微笑みが消え静かな怒気を放つ──マリア。
「・・・フェンス。これは・・・何があったんだ?」
「ああ。え~~と、どこから話したもんか・・・」
困り顔で立ち尽くしていたフェンスに近づき状況の説明を求める。何となく想像はついていたが、火竜王とあの─フェンス曰く水竜王だという女性が、マリアに叱られた後らしかった。
(ハハ・・・。流石マリアだな。あの様な姿とはいえ、竜王二人を叱り黙らせてしまうとは・・・)
(・・・我が妻ながら、本当に末恐ろしいよ・・・)
決してマリアの悪口を言っているわけではないのだが、なんとなく二人共小声になる。触らぬ神に祟りなし─だ。
(マリアは竜王よりも遥かに強い存在のようだな。流石フェンスの妻だけはある)
(・・・勧めたのはどこのどいつだったかな・・・)
「あら?陛下。遅い御到着ですね。二人でそこで下らない話をしてる時間があるのでしたら、早く話し合いを始めませんか?時間は有限です。・・・ねえ、ア・ナ・タ?」
「「は、はいぃっ!!」」
もう、魔人も魔神もマリアひとりでどうにか出来るのでは─と内心思った矢先、マリアに睨まれた気がした。
『・・・貴様、今何と申した…我が偉大なる火竜の王イグナーツと知っていての言葉か?』
「あら?小さくなって耳の穴が塞がってしまったのですか?仕方ありませんね。もう一度言ってあげます。こんなに『小さく縮んでトカゲかと思いました』と、言ったのですよ」
『き、貴様ぁっ!!消し炭にしてやるっ!!」
「その結晶の中から出来るのなら、どうぞお好きなように」
『ぬぬっ?!』
この無礼者はなんだ!?
竜のなり損ないの分際で、この偉大で聡明なこの竜王たる我をあろうことかトカゲだとっ──
『ええいっ!待っていろ。貴様のお望み通り消し炭にしてくれるわっ!!』
まだ完全体に戻れるまでの魔力は溜まっていないが、もう我慢ならん!こやつを捻り潰せるだけの力は十分にある。
「イ、イグナーツ、待てって。この人はなぁ──
『フェンスよ。止めても無駄だ。こやつの末路はもう消し炭と決まっておる!』
身体の再構築には確か…魔力を結晶に纏わせて…むむぅ、上手くいかぬな・・・。
「火竜王様?まさか肉体の構築も出来ないのですか?火竜の王ともあろうお方が聞いて呆れますね」
『うむむむ~っ!!馬鹿にしおってぇっ!!』
「おほほほほほほっ!」
「・・・お二方とも。お戯れはそのくらいに」
『──っ!!?』
な、なんだ・・・、この寒気を覚えるほどの圧は・・・。
この我が恐怖を感じている─だと?
フェンスと無礼ななり損ないも、その強者が放つ圧に気圧されているようだ。
「今、イグナーツ様に動かれると王都に張られた結界が解かれてしまいます。大変なご不便をお願いしていることは心苦しいことではありますが、御自身のお役目の重大さをご理解下さいませ」
『う、うむ・・・』
「アナタ。ちゃんとお二人に説明をしたのかしら?アナタがちゃんとしないからこんな状況になっているんじゃないんですか?」
「い、いや・・・説明をしようとはしたんだがな・・・」
この強者はそう──フェンスの伴侶、マリアである。
「言い分けは後で聞きます」
「ぐっ」
フェンスはどうやらマリアには頭が上がらなぬようだ。何処の世でも女というものは強いものであるのだな。
「お二人がいがみ合う原因は分かりかねますが、今はどうかお気持ちを沈めご協力頂けますと私共としてはありがたいのですが」
「は、はい・・・申し訳ありません。このトカゲの顔を見たらつい」
『貴様っ!?またトカゲと申したなっ!!』
「オホンっ!!」
「『・・・・・・」』
「ティアマト様。重ねてお願い致します」
「は、はい・・・」
フッ、フハハハハハっ!!
この無礼ななり損ないも、どうやらマリアには弱いらしい。
ティアマトなどという何処かで聴いたような大層な名をしているが、やはり小物か!
ん?ティアマト──
『テ、ティアマトだとっ!!?』
♯フリオニール
「・・・フェンス。これは・・・何があったんだ?」
「ああ。え~~と、どこから話したもんか・・・」
今朝がた、フェンス達より先行して件の街へと向かわせていた騎士二人が早馬にて戻った。報告はその街で起こった事件について、その内容と結果、現在の対応について。
そして昼過ぎにフェンス達が戻ったという知らせが入った。
すぐにでもフェンスの元へ向かおうと思ったのだが──
「──陛下。どちらへ?」
「フェンスが戻ったのだろう?騎士の報告の真否を確認せねばならん。ウェンデル、急ぎ馬車の用意を」
政務大臣のウェンデルが私の行くてを阻む。
「なりません」
「なっ?!時は一刻を争うのだぞ!もたもたしていて魔神が復活でもしたらどうするつもりだ!」
今や問題は魔人だけではない。宿場街で起こった事件の首謀者ルードヴィングの捜索の対応もしなければならない。
私も何時までも城で安穏としているわけにはいかない!
「魔神など、私の知ったことではありません」
「なっ!?奴等を放っておけばこの国だけではなく、世界の危機を招くかもしれんのだぞ?!」
ウェンデルは何も言わず先程まで私が座っていた執務机の前まで歩くと、その上に乗った書類の束を勢いよく叩いた。
「世界の危機も大事ですが、私にとってはこれらの書類をいち早く確認して頂くことのほうが一大事です!そして、それを出来るのは・・・陛下っ!貴方だけなのですよっ!!
行かれるならばこれらを終えてからにして頂けますか!」
その余りの迫力に思わずたじろいでしまった。
「・・・そ、そうだな。ま、まずはそちらの危機から解決するとしよう。フ、フェンスの所には使いを出しておいてくれるか・・・?」
ウェンデルに監視されながら溜まった書類を片付け、大聖堂に到着したのはもう夕刻に入った頃だった──
大聖堂の中には前回の会議に参加した面々は既に全員揃っているようだったが、その面々の様子は何故かバラバラ──
冒険者ギルドのマスターであるグストフは何かに怯えるかのようにその大きな身体を椅子の上で縮こませている。ミリアーナは呆れ顔・・・いや、眠いだけか?魔道院所属の魔法使いであるルーテは、隣の初見の女性の腕を不安そうに掴んでいる。その女性──竜人族のようであるが、その者はまるで叱られでもしているかの様に頭を垂れ肩を竦めている。
聖大結界の要となっている竜結晶の中の火竜王も同様だ。
それらの中心に居たのは、聖杖教会の枢機卿という立場ながら町村にある教会にも頻繁に足を運び信徒からは"聖母"と慕われ、その聖なる御力を持って魔物の討伐や教会独自の戦力である聖杖祓兵団の訓練までも行う"神の使徒"の異名をも持っているとは思えない程、微笑みが消え静かな怒気を放つ──マリア。
「・・・フェンス。これは・・・何があったんだ?」
「ああ。え~~と、どこから話したもんか・・・」
困り顔で立ち尽くしていたフェンスに近づき状況の説明を求める。何となく想像はついていたが、火竜王とあの─フェンス曰く水竜王だという女性が、マリアに叱られた後らしかった。
(ハハ・・・。流石マリアだな。あの様な姿とはいえ、竜王二人を叱り黙らせてしまうとは・・・)
(・・・我が妻ながら、本当に末恐ろしいよ・・・)
決してマリアの悪口を言っているわけではないのだが、なんとなく二人共小声になる。触らぬ神に祟りなし─だ。
(マリアは竜王よりも遥かに強い存在のようだな。流石フェンスの妻だけはある)
(・・・勧めたのはどこのどいつだったかな・・・)
「あら?陛下。遅い御到着ですね。二人でそこで下らない話をしてる時間があるのでしたら、早く話し合いを始めませんか?時間は有限です。・・・ねえ、ア・ナ・タ?」
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