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加護の儀式と少女の願い
第三回対策会議2
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皆無言で、倒れてしまっていた椅子を起こしさも何事もなかったかのように元の位置に座り直す。ルーテは残念ながら目を覚まさなかったので、教会の一室を借り休ませた。
「ええと・・・、何を話していたんだったか・・・」
「あなた。しっかりして頂けますか?ティアマト様がイグナーツ様と地竜王の元へと同行してくださると仰っていたのですよ」
マリアがニコリと微笑みを向ける。
「あ、ああ・・・。そ、そうだったな・・・。すまんな、マリア」
「どういたしまして」
衝撃が余りにも強すぎたために、話していた内容が何処かへ飛んでしまったようだ。
「それで、ティアマトよ。竜結晶の中で実体を持たないイグナーツをどうやって連れて行くというんだ?まさかこのまま担いで運んで行くわけではあるまい?」
「ええ。それは簡単です。私と同じ様に現し身を造ってしまえば良いのです」
「おお。それもそうか。ティアマトに出来てイグナーツに出来ないというわけでもないだろうしな」
イグナーツもこう見えて竜王。人間とは比べ物にならない力も知恵も持っている。・・・少し忘れかけていたが。
『・・・・・・』
「ん?イグナーツ、どうした?」
『・・・いや。どうもしておらん』
イグナーツの様子が何処かおかしい。何か問題があるのか?現し身を造ると何か不都合があるのだろうか──
「はっ!?そうか!イグナーツはティアマトと違って、今ここにある竜結晶しか自身の魔石を持たないのか!」
『・・・ぬおっ?!』
そうだった・・・。イグナーツの本体の魔石は火竜の峰の大空洞内での魔人との戦闘において奪われてしまっているのだ。今は、竜結晶の中に魔力と意識を移しているだけに過ぎない。
ティアマトは自身の竜結晶に魔力を溜めることによって現し身を造り出していた。それは、核となる魔石が二つあるということ。
『・・・そ、そうなのだ。現し身を造りたくとも、核となる竜結晶が今手元にないのだ。その上我はこの王都を護る結界の要。動きたくとも動くわけにはいかぬ」
確かにその問題もある。聖大結界の魔力源でもあるイグナーツの竜結晶を動かすわけにはいかない。地竜王がどうにかなっても、その間に魔人共に攻められ王都が陥落でもしてしまったら元も子もない。
「それに関しては解決策があります」
「『えっ?!』」
かなりの問題だと思うのだが、ティアマトの表情はとても自信に溢れていた。
『・・・テ、ティアマトよ。今の我では自らの竜結晶をもうひとつ造り出せるだけのマナは足りぬぞ・・・。どう考えても不可能であろう』
「いえ?そんなことはありませんよ?」
ティアマトの自信は揺るがない。
「竜結晶をもうひとつ用意する必要はありません。今ここにあるもので事足ります」
「水竜の王よ。それでは結界はどうするのだ?そう簡単に替わりの魔結晶を用意することは出来ぬぞ」
フリオニールの言う通り結界の要になる程の魔結晶がそうそうあるはずもない。また火竜の大空洞に行ったとして必ず見つかるという保証もない。
「いえ。魔結晶は必要ありません。結界の構築には別のマナを使います。私ひとりでは流石に難しいのですが、幸いここには魔道に長けた方がお二人もいらっしゃいますので」
そう言ってティアマトは、ミリアーナとマリアに視線を向ける。
「・・・ん?」
「私もですか・・・。何をなされるつもりなのですか?」
確かにこの三人ならばどんなことでも出来そうだが、一体何をするつもりなんだ?
「この街の地下の龍脈を探し、その真上に穴を開けそこに流れる多量のマナを利用して、結界を半永久的に再構築するのです」
「な、なんだとっ?!」
龍脈に繋がる穴を開けるということは、そこから大量の魔素が溢れだしてくるということ──
「・・・そんなことして大丈夫なの?ここが高濃度魔素危険地帯になるんじゃ・・・」
「いえ。それは問題ありません。溢れだすマナは全て結界を構築する魔力へと変換され、その場に蓄積することはありません。言ってしまえば魔神の封印の地に張られた結界の簡易版─といったところでしょうか」
そ、そんなことが可能なのか・・・?
「封印の地の結界の簡易版・・・。は、はは・・・ハッハッハッ!それは良いなっ!その上、半永久的だと?この王都の守護は安泰だな!フェンスよ。お前の仕事も無くなってしまいそうだなっ」
儂の仕事というのは、王都周辺の治安を守る『王都守護隊』の総隊長。まぁ儂は仕事が無くなっても困りはしないのだが、何人もいる隊員達が無職になってしまうな・・・。それは困る。
「えっ?!あ、そのっ、わ、私は決してそうしたかったわけでは・・・。フェンス様の御仕事を奪おうだなんて、決してそんなことは・・・」
「ああ。分かっているさ。結界が強化されて王都の守りが強固になることに儂も隊員達も不満はないさ。皆の働き先は、まぁフリオニールがどうにかしてくれるだろう。なあ、王様?」
「ん?ああ、そうだな。ちょうど新設の部隊を創設しようとジェイガンと話をしていてな。それを任せるのはどうだ?」
当て付けのつもりで言ったのだが、まさかそんな部隊が検討されていたとは驚いた。そこに入れてもらえるならば、きっと今よりも給金も上がるだろうし隊員達も文句は言わないだろう。
新設の部隊というのが何を目的とした部隊なのか気にはなるが・・・。
「それはすぐにでも出来るものなのですか?」
「龍脈を探知するところから始めますので、三日から五日くらいはかかってしまうとは思います」
時間は惜しいが背に腹は代えられんか。多少時間は掛かっても確実な方法を選ぶことが、結果時間の短縮に繋がるだろう。
「フェンスも構わんな。では水竜の王よ。結界の構築を宜しくお願い致す。マリアとミリアーナも協力頼んだぞ」
「畏まりました、陛下」
「・・・ん。面白そう」
儂も協力──は出来ないとは思うが、出来れば見学くらいさせてほしいものだ。
「さて、問題は無くなったな。これでイグナーツも晴れて結界から解放されて自由に動けるな」
『・・・・・・』
「ん?どうした?イグナーツ。腹でも痛いのか?」
ティアマトのお陰でイグナーツが現し身を造る上での問題は解決したというのに、当の本人は難しい顔をしている。
『・・・・・・出来ぬ』
「ん?何か言ったか?」
『・・・何度も言わせるな。出来ぬと言ったのだ!』
「は・・・?どうして出来ないんだ?まだ何か問題があるのか?」
『それはだな・・・、マ、マナが足りぬのだ。咄嗟のことだった故、充分な量のマナをこの結晶に移せておらんのだ。それに、只でさえ結界の構築にマナを回していたのでな、現し身を造るだけの量が足らんのだ』
なるほど。言われてみればその通り。
「それについては私に考えがあります」
『──なっ、なんだと!?』
おお。流石ティアマト。抜かりがない。
「足りないのならばマナを足してあげれば良いのです」
「・・・マナを足す?」
ふふんと、ティアマトは得意気に鼻を鳴らす。
「ええ。ユリアちゃんの『付与魔法』を使うのです」
「なっ・・・なるほどっ!その手があったか!」
正に晴天の霹靂。灯台もと暗しとはこの事か。
身を持って体験したから分かるが、ユリアの魔力量であれば充分に足りるだろう。持つべきものは出来た妻と出来た孫だな。
『・・・・・・』
「早速ユリアを連れてこよう!イグナーツ、少し待っていてくれ」
『──なっ!?』
今の時間ならもう特訓も終えて屋敷に居るはずだ。流石にまだ寝てはいないだろう。
『~~っ、ま、待ていっ!!』
席を立ち身体を扉へと向けた途端、イグナーツの大声が部屋に響いた。
『・・・出来ぬのだ・・・。やり方を忘れてしまったのだ・・・』
「えっ──?
「ええと・・・、何を話していたんだったか・・・」
「あなた。しっかりして頂けますか?ティアマト様がイグナーツ様と地竜王の元へと同行してくださると仰っていたのですよ」
マリアがニコリと微笑みを向ける。
「あ、ああ・・・。そ、そうだったな・・・。すまんな、マリア」
「どういたしまして」
衝撃が余りにも強すぎたために、話していた内容が何処かへ飛んでしまったようだ。
「それで、ティアマトよ。竜結晶の中で実体を持たないイグナーツをどうやって連れて行くというんだ?まさかこのまま担いで運んで行くわけではあるまい?」
「ええ。それは簡単です。私と同じ様に現し身を造ってしまえば良いのです」
「おお。それもそうか。ティアマトに出来てイグナーツに出来ないというわけでもないだろうしな」
イグナーツもこう見えて竜王。人間とは比べ物にならない力も知恵も持っている。・・・少し忘れかけていたが。
『・・・・・・』
「ん?イグナーツ、どうした?」
『・・・いや。どうもしておらん』
イグナーツの様子が何処かおかしい。何か問題があるのか?現し身を造ると何か不都合があるのだろうか──
「はっ!?そうか!イグナーツはティアマトと違って、今ここにある竜結晶しか自身の魔石を持たないのか!」
『・・・ぬおっ?!』
そうだった・・・。イグナーツの本体の魔石は火竜の峰の大空洞内での魔人との戦闘において奪われてしまっているのだ。今は、竜結晶の中に魔力と意識を移しているだけに過ぎない。
ティアマトは自身の竜結晶に魔力を溜めることによって現し身を造り出していた。それは、核となる魔石が二つあるということ。
『・・・そ、そうなのだ。現し身を造りたくとも、核となる竜結晶が今手元にないのだ。その上我はこの王都を護る結界の要。動きたくとも動くわけにはいかぬ」
確かにその問題もある。聖大結界の魔力源でもあるイグナーツの竜結晶を動かすわけにはいかない。地竜王がどうにかなっても、その間に魔人共に攻められ王都が陥落でもしてしまったら元も子もない。
「それに関しては解決策があります」
「『えっ?!』」
かなりの問題だと思うのだが、ティアマトの表情はとても自信に溢れていた。
『・・・テ、ティアマトよ。今の我では自らの竜結晶をもうひとつ造り出せるだけのマナは足りぬぞ・・・。どう考えても不可能であろう』
「いえ?そんなことはありませんよ?」
ティアマトの自信は揺るがない。
「竜結晶をもうひとつ用意する必要はありません。今ここにあるもので事足ります」
「水竜の王よ。それでは結界はどうするのだ?そう簡単に替わりの魔結晶を用意することは出来ぬぞ」
フリオニールの言う通り結界の要になる程の魔結晶がそうそうあるはずもない。また火竜の大空洞に行ったとして必ず見つかるという保証もない。
「いえ。魔結晶は必要ありません。結界の構築には別のマナを使います。私ひとりでは流石に難しいのですが、幸いここには魔道に長けた方がお二人もいらっしゃいますので」
そう言ってティアマトは、ミリアーナとマリアに視線を向ける。
「・・・ん?」
「私もですか・・・。何をなされるつもりなのですか?」
確かにこの三人ならばどんなことでも出来そうだが、一体何をするつもりなんだ?
「この街の地下の龍脈を探し、その真上に穴を開けそこに流れる多量のマナを利用して、結界を半永久的に再構築するのです」
「な、なんだとっ?!」
龍脈に繋がる穴を開けるということは、そこから大量の魔素が溢れだしてくるということ──
「・・・そんなことして大丈夫なの?ここが高濃度魔素危険地帯になるんじゃ・・・」
「いえ。それは問題ありません。溢れだすマナは全て結界を構築する魔力へと変換され、その場に蓄積することはありません。言ってしまえば魔神の封印の地に張られた結界の簡易版─といったところでしょうか」
そ、そんなことが可能なのか・・・?
「封印の地の結界の簡易版・・・。は、はは・・・ハッハッハッ!それは良いなっ!その上、半永久的だと?この王都の守護は安泰だな!フェンスよ。お前の仕事も無くなってしまいそうだなっ」
儂の仕事というのは、王都周辺の治安を守る『王都守護隊』の総隊長。まぁ儂は仕事が無くなっても困りはしないのだが、何人もいる隊員達が無職になってしまうな・・・。それは困る。
「えっ?!あ、そのっ、わ、私は決してそうしたかったわけでは・・・。フェンス様の御仕事を奪おうだなんて、決してそんなことは・・・」
「ああ。分かっているさ。結界が強化されて王都の守りが強固になることに儂も隊員達も不満はないさ。皆の働き先は、まぁフリオニールがどうにかしてくれるだろう。なあ、王様?」
「ん?ああ、そうだな。ちょうど新設の部隊を創設しようとジェイガンと話をしていてな。それを任せるのはどうだ?」
当て付けのつもりで言ったのだが、まさかそんな部隊が検討されていたとは驚いた。そこに入れてもらえるならば、きっと今よりも給金も上がるだろうし隊員達も文句は言わないだろう。
新設の部隊というのが何を目的とした部隊なのか気にはなるが・・・。
「それはすぐにでも出来るものなのですか?」
「龍脈を探知するところから始めますので、三日から五日くらいはかかってしまうとは思います」
時間は惜しいが背に腹は代えられんか。多少時間は掛かっても確実な方法を選ぶことが、結果時間の短縮に繋がるだろう。
「フェンスも構わんな。では水竜の王よ。結界の構築を宜しくお願い致す。マリアとミリアーナも協力頼んだぞ」
「畏まりました、陛下」
「・・・ん。面白そう」
儂も協力──は出来ないとは思うが、出来れば見学くらいさせてほしいものだ。
「さて、問題は無くなったな。これでイグナーツも晴れて結界から解放されて自由に動けるな」
『・・・・・・』
「ん?どうした?イグナーツ。腹でも痛いのか?」
ティアマトのお陰でイグナーツが現し身を造る上での問題は解決したというのに、当の本人は難しい顔をしている。
『・・・・・・出来ぬ』
「ん?何か言ったか?」
『・・・何度も言わせるな。出来ぬと言ったのだ!』
「は・・・?どうして出来ないんだ?まだ何か問題があるのか?」
『それはだな・・・、マ、マナが足りぬのだ。咄嗟のことだった故、充分な量のマナをこの結晶に移せておらんのだ。それに、只でさえ結界の構築にマナを回していたのでな、現し身を造るだけの量が足らんのだ』
なるほど。言われてみればその通り。
「それについては私に考えがあります」
『──なっ、なんだと!?』
おお。流石ティアマト。抜かりがない。
「足りないのならばマナを足してあげれば良いのです」
「・・・マナを足す?」
ふふんと、ティアマトは得意気に鼻を鳴らす。
「ええ。ユリアちゃんの『付与魔法』を使うのです」
「なっ・・・なるほどっ!その手があったか!」
正に晴天の霹靂。灯台もと暗しとはこの事か。
身を持って体験したから分かるが、ユリアの魔力量であれば充分に足りるだろう。持つべきものは出来た妻と出来た孫だな。
『・・・・・・』
「早速ユリアを連れてこよう!イグナーツ、少し待っていてくれ」
『──なっ!?』
今の時間ならもう特訓も終えて屋敷に居るはずだ。流石にまだ寝てはいないだろう。
『~~っ、ま、待ていっ!!』
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『・・・出来ぬのだ・・・。やり方を忘れてしまったのだ・・・』
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