盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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加護の儀式と少女の願い

第三回対策会議3

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 思いもしていなかった言葉にしばし呆然──

「わ、忘れた・・・?本当にか・・・」
『・・・し、仕方ないであろう。ここ数百年はあの火山で暮らしていたが、我はティアマトとは違いそれなりに自由に動けたのでな。現し身を造る必要などこれまでに一度もなかったのだ。わ、忘れて当然であろう』
「・・・いや。そんな自信満々に言われてもな・・・」

 あれだけ叡智だなんだと騒いでいたのは何だったのか。

『・・・む。今、無礼なことを思ったな?』
「・・・心の声を読むなよ・・・」

 心の声を読むことは忘れていないんだな。数百年もの間、大空洞で暮らしていてそれは必要だったのか?

「ふふ・・・ふふふ・・・おーっほっほっほっ!!そんなことも忘れてしまうなんて、ふふ。やっぱり貴方の脳ミソは並のようですね?」
『なっ?!き、貴様っ!またしても言いおったな。この──


「おほんっ!」


『──へぶっ?!』「──ひっ?!」

 また始まりそうだった二人の罵り合いを、マリアが咳払いひとつで止めてみせる。ティアマトに至ってはもう完全に怯えているな・・・。

「お二方とも、雑談はお控え頂きますよう。時間は有限なものですから、ぜひとも有意義な話し合いを致しましょう」

 そう言ったマリアの微笑みには、身震いするほどの圧を感じる。

『・・・う、うむ。その通りだな』
「・・・な、何故でしょう・・・。身体の震えが止まりません・・・」

 マリアの恐ろしさは竜王二人をも黙らせてしまうようだ。ティアマトに至ってはトラウマになっているんじゃないだろうか。

「あなた・・・、?」
「いっ?!いや、な、何でもないぞ・・・」

 これは絶対にマリアも儂の心を読んでいるな。余計なことは考えないでおこう。

「・・・ええと、まぁ忘れてしまったことは仕方ない。ティアマト。イグナーツに教えることは出来るか?」
「えっ・・・は、はいっ。問題ありません」
「では、宜しく頼む。結界の再構築の件もあるだろうから、マリアとミリアーナも手助けしてやってくれるか」
「ええ。やらせて頂きます」
「・・・ん。面白そう」

 ティアマトとイグナーツを二人にしておくと、また何を騒ぎだすか分からんからな。マリアを着けておけば問題ないだろう。

「イグナーツもそれで構わないな?」
『・・・う、うむ。致し方あるまい。気は乗らんがな・・・」
「イグナーツ様?」
『ぐ・・・。わ、分かった。わ、我からもよ、宜しく・・・願う』

 納得いかない顔のイグナーツだったが、マリアの一睨みでしぶしぶティアマトに対して頭を下げた。

「し、仕方ありませんね。この私が、責任を持って思い出させてあげましょう。これもフェンス様、四英雄の皆様のためと信じて」

 ふぅ。ひとまずこの件はこれで落ち着いたようだ。それほど長い時間というわけでもなかったと思うが、身体にはどっと疲れが溜まったようだ。椅子の背もたれに体重を預け、緊張で固まった背中を伸ばす。
 視界に入った明かり取りの窓の外はもうすっかり暗くなっていた。

「さて、あとは何を話すんだったかな・・・」

 話すことや決めることはまだまだあると思うが、今日はもうこれで終わりにして早いところ屋敷の風呂にでも浸かり、麦酒エールで喉を潤したい気分だ──ったが、マリアに睨まれた気がしたのでもう少しだけ頑張るとしよう。

「フェンスよ。竜王についてはひとまず置いて、今回のルードヴィングによる事件の顛末を先に聞かせてくれぬか」
「ん?お、おお。そうだな」

 ティアマトの紹介からそのまま竜王の話に流れたが、それも大きな問題のひとつ。先に王都に戻ったロディとルークからある程度の話は聞いていると思うが、改めて説明をする──



「──ふむ。"魔道剣"に"人造の魔道ゴーレム"。奴の狙いはやはりと考えるべきか・・・」
「そうだとは思うが、魔道ゴーレムや奴の背後の存在を考えるとそれだけだとは俺には思えん。魔人どもが同時期に動き出してることも無関係ではなさそうだしな」

 先の大戦時も、帝国の背後には魔人─"魔王"が存在していた。ルードヴィングの言う『王』という存在が何なのかは分からんが、油断は出来ないだろう。早く奴の行方を掴めると良いが・・・。

「魔人か・・・。そういえば、その後『神器』について何か分かったりしたのか?」

 魔人の狙いは竜王だけではない。何故神器を狙うのかは分からんが、みすみす渡すわけにもいかないだろう。儂らが所有する以外の神器の存在と所在も明らかにしておかなければいけない。

「うむ・・・。残念だがまだこれといった情報は届いていない」

 フリオニールに届く情報とは、王立情報調査局─通称『王調』が世界各地から調べあげ届けられる。それでも見つからないとなると、そもそも存在しているのか・・・。

「そうか。ティアマトは神器については何か知らないか?」
「・・・申し訳ありません。神器に関しては余り詳しくないのです」

 色々なことに詳しいティアマトであれば、神器のことも何か知っているかと思ったのだが・・・。

「私が知り得るのは、善神の眷属─11柱の神々が人族に授けた神器はあるということだけです」

 11個──

「なんと・・・。神器はそんなにも存在しているのか・・・」

 神盾『アイギス』、フリオニールの聖剣『レーヴァテイン』、ミリアーナが持つ火水風土の四元属性神の宝珠。儂らの手元には現在六つ。

「ということは、あと五つもあるというのか・・・」

 11柱の神々の数だけあると言うならば、槍、槌、拳闘、弓、杖の各神器が存在しているはず。それらすべての所在が不明とは・・・、なかなか頭が痛くなる話だ。

「グストフ。冒険者達の噂などで関係ありそうな話とかは聞かないか?」
「はっ!馬鹿を言うな。"王調"が調べても分からないのに、冒険者が知ってるはずないだろう」

 冒険者達はその性質上、噂話や小さな村落でしか伝わらないおとぎ話なんかに詳しかったりする。以外とそこから何かが分かったりすることも多いんだが、グストフには鼻で笑われてしまう。
 ティアマトがグストフを睨んでいるのは何故だろうか。

「い、いやっ・・・、馬鹿と言ったのは竜王様達でも分からないことを冒険者なんぞが知ってるなんてそんな馬鹿な話はあるかってことについてでして・・・」

 自分を貶されたとでも感じたのだろうか。グストフには冒険者の代表として参加してもらっているが、ただでさえ国王であるフリオニールや聖杖教会の枢機卿であるマリアなどに囲まれて肩身が狭いなか、竜王であるティアマトにまで睨まれては居心地が悪いだろう。
 それとなく助け船を出すとしようか。

「あ~、ティアマト。こいつは儂がまだ若かった頃からの冒険者仲間でな。口が悪いのは産まれつきで、決してティアマトを馬鹿にしたわけではないから気を悪くせんでくれんか」
「えっ?!い、いえっ、私はそ、そういうつもりでは・・・」

 これでまぁ大丈夫だろう。

「神器については引き続き調べていくしかないな。直接神器に関係することだけでなく、色々な情報を集めるべきだろう。フリオニール、グストフも引き続き宜しく頼む」
「うむ。分かった」
「あ、ああ・・・。ギルドにも通達を出しておく」
「ルードヴィングについても、ひとまずはカルタスからの情報待ちだな。待つだけというのはなんとも歯痒いが仕方あるまい」

 長く放置しておけば、また何処かでゴーレムや魔道剣の製造を再開する危険も高まる。すでにもう始まっているかもしれんが、居場所が分からなければ対処も出来ない。
 すぐに動けるよう準備は怠らないようにしておくとしよう。

「さあ、これで全部話したか?喉がもうカラカラだ」

 もう頭の半分は麦酒エールのことで一杯だ。数日後にはまた忙しくなる。その間は出来ればゆっくりしたいもんだ。

「・・・あなた。まだ話すことはひとつ残っていますよ」
「え・・・」

 そんな儚い願いをマリアが打ち砕く。鬼か・・・。

「・・・お?!おほんっ。風竜王の話は良いのですか?」

 ・・・お?今何か言おうとしなかったか?
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