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加護の儀式と少女の願い
新たなる善神の加護2
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♯ジュリエット
余計な音など一切ない、静寂に包まれた空間にたったふたつの音だけが静かに響いている。
ひとつは、私に11柱の神々の加護を授けるため祝詞を唱えてくださっている司祭のオックルト様の詩うような声。
もうひとつは、私の身体の奥底から響いてくるいつもより早く、いつもより大きな心臓の鼓動──
私が望む神の加護は──正直に言うとどの神様でも構いません。私はお父様のひとり娘として、これまでとても大事に育てて頂いていました。
そのことには何も不満も無理も感じていませんし、お父様もお母様もとてと優しくて温かくて、お城に住まう皆様も同じように優しい人ばかりでした。
そんな私を取り囲む世界に不満なんて持ちようものなら、それこそ罰でも当たってしまいます。私はお父様とお母様の娘として、この国の王女として生まれることが出来たことを心からとても誇らしく想います。
ただひとつだけ願うのならば──
私には物心ついたときから、とても大切で大好きな同い年の女の子の友達がいました。お父様とその女の子のお爺様はとても仲良しで、一緒に色々な冒険をした仲だと聞きました。
その女の子とは毎日とはいきませんでしたがよく遊んでいて、色々なお話も聞かせて頂きました。彼女が好んで私も一番好きだったお話は、お父様達の大冒険のお話でした。
魔物の群れと戦ったお話や、お城みたいに大きなドラゴンと戦ったお話。"神器"と呼ばれる大きな盾を神様から授けられたお話はとくに熱が籠っていました。
私は王女として、礼儀や作法、歌や踊りのお稽古をたくさんしていました。もちろんどれも楽しくて充実していました。その女の子にも声をかけて一緒に習ったこともありましたが、彼女はとてもぎこちなくて思わず笑ってしまったことは良い思いでです。
そんな彼女は「ユリアは、お歌や踊りよりも早く剣と盾のトックンがしたいな」と、よく言っていました。私はそれまで──今もですが、剣といったものに一度も触れたことはありません。これから先もきっと触れることも触れたいと想うこともないでしょう。
彼女がとても楽しそうに話す冒険のお話は、本当に胸が弾み心が踊りました。いつか彼女とそんなことが出来たら─とも願いました。
でも、私に出来るのは彼女を応援することぐらい。剣を振ることも持つことも出来ない私では、彼女の隣に立つことはきっと出来ないでしょう。それでも、私は彼女の側に、ほんの些細なことでも彼女の力になりたいと想った。
11柱の神々よ──
私の願いを聞き届けてくれるのであれば、どうか彼女──ユリアちゃんの夢が叶うよう、私の小さな力が彼女の願いの一助になるよう・・・。
そんな加護を私にお授けください──
強くそう祈ると、瞼の裏の世界が黒から白へと変わった。目を閉じたままでも分かるほど、強く暖かでそれでいて優しく包み込むような光が私の隅々を照らしている。どこか遠く・・・、距離さえも分からないほど遠くから誰かの声が聴こえた気がした。
え──今、何と仰ったのですか。私に何かを授ける・・・そう仰ったのでしょうか。
そう尋ねてみたのだけれど、光と共に声はどんどんと遠ざかっていく──私はその声に手を伸ばすことも「待って」と引き留めることも出来なかった──
「──驚きましたな・・・。これは神々の定めし運命・・・。そうなるべく定められた宿命なのでしょうな・・・」
「・・・オックルト司祭よ、それはどういう意味だ・・・?加護は・・・、ジュリエットの加護はどの神の加護を授かったのだ・・・」
ゆっくり目を開け後ろを振り向くと、何かを悟ったかのような面持ちのオックルト様と、とても不安気な表情のお父様が見えた。その奥には心配と期待と興味・・・。色々な感情が入り交じったユリアちゃんの顔が目に入った。
「陛下・・・。ジュリエット王女は──『慈愛の神の加護』を授かりました・・・」
オックルト様がそう私が授かった神の名を告げた瞬間──ついさきほど瞼の裏を照らしていた光と同じくらいに眩い光が、部屋一面を照らし影さえもかき消した。
光を放ったそれは、無形からだんだんとその輪郭をあらわにし、周囲に放っていた光をその身に吸収し自らの輝きに変えると、私の手の中に収まった。
それは、神々しいほどに綺麗な翡翠色の輝きをその身に宿した聖女の姿を象った一振りの杖に姿を変えた。
「・・・ジ、ジュリエット・・・?そ、その杖はどうしたんだ・・・。それではまるで、神器──」
お父様が珍しく、とても狼狽した顔をしていた。お父様のそんな表情を見るのは初めて。それはユリアちゃんのお爺様も同様だった。ただ、ユリアちゃんだけはとてもキラキラした、あの盾の話をしていたときと同じ瞳をしていた。
(・・・わたしは、『ガンバンテイン』。聖杖の神の力を司る聖具・・・。貴女はわたしの持ち手として選ばれ、その力を行使する資格を有しました・・・)
頭の中に誰かの──さきほど、遠くから聴こえた誰かの声に似た誰かの声が響く。杖は不思議と手に馴染み、長さの割には非力な私でもさほど重くも感じず、まるで身体の一部のように感じられた。
「・・・『ガンバンテイン』・・・。それが貴女の名前なのですね?」
これが、私の冒険の幕開けでした──
余計な音など一切ない、静寂に包まれた空間にたったふたつの音だけが静かに響いている。
ひとつは、私に11柱の神々の加護を授けるため祝詞を唱えてくださっている司祭のオックルト様の詩うような声。
もうひとつは、私の身体の奥底から響いてくるいつもより早く、いつもより大きな心臓の鼓動──
私が望む神の加護は──正直に言うとどの神様でも構いません。私はお父様のひとり娘として、これまでとても大事に育てて頂いていました。
そのことには何も不満も無理も感じていませんし、お父様もお母様もとてと優しくて温かくて、お城に住まう皆様も同じように優しい人ばかりでした。
そんな私を取り囲む世界に不満なんて持ちようものなら、それこそ罰でも当たってしまいます。私はお父様とお母様の娘として、この国の王女として生まれることが出来たことを心からとても誇らしく想います。
ただひとつだけ願うのならば──
私には物心ついたときから、とても大切で大好きな同い年の女の子の友達がいました。お父様とその女の子のお爺様はとても仲良しで、一緒に色々な冒険をした仲だと聞きました。
その女の子とは毎日とはいきませんでしたがよく遊んでいて、色々なお話も聞かせて頂きました。彼女が好んで私も一番好きだったお話は、お父様達の大冒険のお話でした。
魔物の群れと戦ったお話や、お城みたいに大きなドラゴンと戦ったお話。"神器"と呼ばれる大きな盾を神様から授けられたお話はとくに熱が籠っていました。
私は王女として、礼儀や作法、歌や踊りのお稽古をたくさんしていました。もちろんどれも楽しくて充実していました。その女の子にも声をかけて一緒に習ったこともありましたが、彼女はとてもぎこちなくて思わず笑ってしまったことは良い思いでです。
そんな彼女は「ユリアは、お歌や踊りよりも早く剣と盾のトックンがしたいな」と、よく言っていました。私はそれまで──今もですが、剣といったものに一度も触れたことはありません。これから先もきっと触れることも触れたいと想うこともないでしょう。
彼女がとても楽しそうに話す冒険のお話は、本当に胸が弾み心が踊りました。いつか彼女とそんなことが出来たら─とも願いました。
でも、私に出来るのは彼女を応援することぐらい。剣を振ることも持つことも出来ない私では、彼女の隣に立つことはきっと出来ないでしょう。それでも、私は彼女の側に、ほんの些細なことでも彼女の力になりたいと想った。
11柱の神々よ──
私の願いを聞き届けてくれるのであれば、どうか彼女──ユリアちゃんの夢が叶うよう、私の小さな力が彼女の願いの一助になるよう・・・。
そんな加護を私にお授けください──
強くそう祈ると、瞼の裏の世界が黒から白へと変わった。目を閉じたままでも分かるほど、強く暖かでそれでいて優しく包み込むような光が私の隅々を照らしている。どこか遠く・・・、距離さえも分からないほど遠くから誰かの声が聴こえた気がした。
え──今、何と仰ったのですか。私に何かを授ける・・・そう仰ったのでしょうか。
そう尋ねてみたのだけれど、光と共に声はどんどんと遠ざかっていく──私はその声に手を伸ばすことも「待って」と引き留めることも出来なかった──
「──驚きましたな・・・。これは神々の定めし運命・・・。そうなるべく定められた宿命なのでしょうな・・・」
「・・・オックルト司祭よ、それはどういう意味だ・・・?加護は・・・、ジュリエットの加護はどの神の加護を授かったのだ・・・」
ゆっくり目を開け後ろを振り向くと、何かを悟ったかのような面持ちのオックルト様と、とても不安気な表情のお父様が見えた。その奥には心配と期待と興味・・・。色々な感情が入り交じったユリアちゃんの顔が目に入った。
「陛下・・・。ジュリエット王女は──『慈愛の神の加護』を授かりました・・・」
オックルト様がそう私が授かった神の名を告げた瞬間──ついさきほど瞼の裏を照らしていた光と同じくらいに眩い光が、部屋一面を照らし影さえもかき消した。
光を放ったそれは、無形からだんだんとその輪郭をあらわにし、周囲に放っていた光をその身に吸収し自らの輝きに変えると、私の手の中に収まった。
それは、神々しいほどに綺麗な翡翠色の輝きをその身に宿した聖女の姿を象った一振りの杖に姿を変えた。
「・・・ジ、ジュリエット・・・?そ、その杖はどうしたんだ・・・。それではまるで、神器──」
お父様が珍しく、とても狼狽した顔をしていた。お父様のそんな表情を見るのは初めて。それはユリアちゃんのお爺様も同様だった。ただ、ユリアちゃんだけはとてもキラキラした、あの盾の話をしていたときと同じ瞳をしていた。
(・・・わたしは、『ガンバンテイン』。聖杖の神の力を司る聖具・・・。貴女はわたしの持ち手として選ばれ、その力を行使する資格を有しました・・・)
頭の中に誰かの──さきほど、遠くから聴こえた誰かの声に似た誰かの声が響く。杖は不思議と手に馴染み、長さの割には非力な私でもさほど重くも感じず、まるで身体の一部のように感じられた。
「・・・『ガンバンテイン』・・・。それが貴女の名前なのですね?」
これが、私の冒険の幕開けでした──
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