盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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加護の儀式と少女の願い

得意とする魔法

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 ♯ジュリエット

「──"付与の神の加護"に次いで、"慈愛の神の加護"までも授かる者が現れたのですね・・・」

 私の顔をじっと見つめているのはユリアちゃんのお婆様、マリアおばさまの面影を感じとれる青く長い髪が特徴的な女性。私達と同じ人の姿をしているのだけれど、実は水竜の王様なのだとフェンスおじさまからそう紹介されました。
 魔法の力で人の身体を造ったのだそうです。

「・・・普通ではありえない"善神"の加護を授かった者が二人も。これは何を示唆しているのでしょうか・・・。世界と共に眠りについた善なる神々が何かを伝えようとしているのでしょうか。それは果たして吉兆か、それとも凶兆か・・・」

 どうして今このような状況になっているかというと──


 ◆◇◆◇


「──ま、魔法をですか?」
「そうだよ。魔法をだ」

 ヨルニールさんは私の目を真っ直ぐ見つめてそう言われました。冗談を言っている感じはひとつもなく、優しい笑顔ではありましたが確かな意志を感じさせるものでした。

「で、ですが私は魔法のことも何一つ教わったことも触れたこともありません・・・」
「ん?なーに簡単簡単。なにも難しい大魔法を覚えろってわけでもないからね」
「ジュリちゃん!あたしでも覚えられたんだから、ジュリちゃんなら絶対大丈夫だよ」
「・・・うん。ありがとうユリアちゃん」

 私が魔法──

 ヨルニールさんがどのような理由でそう仰ったのかは分かりませんが、フェンスおじさまの魔法の先生だというヨルニールさんが教えてくださる魔法。
 胸が初めてユリアちゃんのお話を聴いたときのように強く速く動き出しました。

「──っはい。是非お願い致しますっ!」
「うん。良い返事だね。じゃあ覚える魔法だけど──

 ドキドキ。

 いったいどんな魔法を教えてくださるのでしょう。

 攻撃魔法──は、格好が良くて憧れますが、少し恐い気もします。誰かを傷付けるようなものは苦手です。

 治癒魔法──は、私に合っていると思いますが、覚えたての治癒魔法で治せる傷は微々たるものでしょう。マリアおばさまもいらっしゃいますし、必要とされなければそれはそれで悲しいですし。

 補助魔法──は、ユリアちゃんが授かったという付与の神様の加護のほうがきっとすごいのでしょうし、なんだか難しそうですし。

 ああ──何が良いのでしょう。そもそも本当に私に魔法が使えるのでしょうか。

「──ジュリエットが適性のある魔法は何だろうね?フェンス、何か思い当たるかい?」

 えっ──

「先生・・・。肝心なところを人に振るのはやめてください。何か考えがあったから言ったのでしょう?」
「ん?ま、まぁそうなんだけども、最初に覚える魔法は授かった神の加護の系統のものが覚えやすいって言うでしょ?そう考えるとジュリエットの加護だと何が良いんだろうと・・・ね?」
「ね?じゃないですよ」

 えっ?えっ?ど、どういうことですか?

 私の授かった慈愛の神様の加護には適した魔法がないのでしょうか。

「おじいちゃん。とりあえず簡単な火魔法とかじゃダメなの?あたしのときはそうだったでしょ?」
「ううむ。ユリアは加護の儀式を行う前から魔法に触れさせていたからな。多属性の魔法を使えるようにするには小さい頃から魔法に触れさせるのが良いんだよ」
「そうなの?」

 私はもう加護の儀式を済ませてしまっています。使える魔法は限られるということなのでしょうか・・・。

「加護の儀式を済ませると授かった神の力に方向性が縛られてしまうみたいでね。例えば火の神の加護を授かると火属性は得意になるけど水属性は苦手になるみたいな感じかな?」
「・・・そうなんだ。じ、じゃあ、ジュリちゃんが得意な魔法はなんなの?」

 慈愛の神様ですから、『慈愛魔法』──そんな魔法、あるのでしょうか?

「・・・う~ん。慈愛の神というのがどういった神なのか分からないことには判断のしようがないねぇ。それともひととおり試してみるかい?」
「ヨルニール。無責任過ぎるぞ」
「返す言葉もないけど、フェンスは何か思い付かないかい?ユリアちゃんのときみたいにさ」

 神様は何も応えてはくれません。ずっと握りしめている神杖ガンバンテインも儀式以降何も話してはくれません。
 慈愛の神様は私に何を成せというのでしょうか。

「・・・はあ。ついさっきあれほど任せろと大見得切っていたのはどこの誰ですかね。まったく」
「フェンス。俺からも頼む。こういった状況で何かしら良い案を思い付くのは得意だろう」
「・・・ギリアムまで無茶を言わないでくれ。まあそれに関しては既に考えてはあるがな。分からないのなら者に聞けば良いだけだ。もともとここに来る前に会えれば声をかけるつもりでいたからな」

 教会の神父様もお父様もフェンスおじさまも、ここにいるどなたも知らなかった神様を知っている人がいる?

「おじいちゃん、それって・・・」
「ああ。ティアマトだ。彼女なら間違いなく知っているだろう。向こうも忙しいとは思うが空いた時間にでも来てくれるよう頼むつもりだ。まあまずは何処にいるか捜さないといけないがな」

 ティアマト──さん?どのようなかたなのでしょうか。誰もが知り得ないことを知る女性。とても永い刻を生きてきた大魔女のようなかたなのでしょうか。

「イグちゃんじゃダメなの?」
「イグちゃん?・・・あ、ああイグナーツか。それも考えたんだがな、今この状況でジュリエットを連れて外を出歩くわけにもいかんだろうし、イグナーツを動かすことも出来んしな。それに・・・」
「それに?」
「いや、詳しいことなんかはティアマトのほうが知っていそうだと思ってな」

 イグ・・・ナーツさん?というかたも知っているのですか?ユリアちゃんはどちらのかたも知っているようですが、親しみやすい方々なのでしょうか。

「まあ、とりあえず捜してくる。しばらくここで待っていてくれ。念のため言っておくがジュリエットとギリアムは絶対にここから外に出るなよ」
「は、はいっ!」
「ああ。分かっている」


 ◆◇◆◇


 フェンスおじさまが部屋を出ていかれて戻られる間、ヨルニールさんから魔法の基礎的なことを教わりました。
 魔法を使うためにはまず体内の魔力を感じることから始めるそうです。
 さすがフェンスおじさまの魔法の先生というだけあって説明は非常に解りやすく、ユリアちゃんにも手伝って頂きお腹の真ん中辺りに温かな塊のようなものをすぐに感じとることが出来ました。

「ジュリちゃんすごい!あたしなんか三日くらいかかったのに」
「わ、私ではなくてヨルニールさんの教え方が、じ、上手だからだと思いますよ」
「王女様にお褒め頂き光栄ですね。まぁこれに関してはどれだけやっても全然魔法を使えなかったフェンスをどうにかしたくて、色々とあれこれ模索したからね」

 フェンスおじさまが魔法を使うことが出来ないということは知っていましたが、きっと言葉だけでは表しきれない大変なご苦労があったのだと、ヨルニールさんの表情から伝わってきました。

「ま、そのおかげで魔法を教えることに関して僕に敵う人はまずいないだろうね」

 そのあとは魔法の系統による特性ですとか、術式を展開するための流れなどを教えて頂きました。
 解らないことが多くてまだ全てを理解出来たわけではありませんが、魔法というものがとても面白くそれでいて扱いを間違えればとても危険なものだということを深く理解することは出来ました。
 ユリアちゃんも興味深げに一緒に聞いていましたが、後半は何故だかとても面白い顔になっていました。

 ふふ。変な顔。

 二時間ほどしてヨルニールさんの話も一段落ついた頃、フェンスおじさまはひとりの若くて綺麗な女性を連れて戻ってこられました。
 このお方が慈愛の神様について知っているティアマトさんなのでしょうか。とても色々なことを知っている大魔女のようなお歳には見えません。

 お互いに自己紹介を済ませフェンスおじさまが簡単に状況の説明をされている間、私は何気なくティアマトさんの顔をじっと見つめていたようです。
 ふと目が合い優しく微笑みかけてくれたその表情がとても綺麗でくらくらしてしまいました。

 ああ。私もこんな風に綺麗で知的で何をせずとも品性を感じるような素敵な女性になりたいと、心からそう想いました。


「──と、いうわけなんだが、ティアマトは"慈愛の神"が得意とした魔法を知っているか?」
「・・・そうですね」

 一度フェンスおじさまに視線を移したティアマトさんは、また私の目をじっと見つめてきました。

「・・・結論から言いますと、善なる神々はを使いません」

 えっ──?

 私に加護を授けて頂いた神様は、魔法を使えない──?


 
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みんなの感想(1件)

花雨
2021.07.30 花雨

お気に入り登録させてもらいました。陰ながら応援してます(^^)

2021.07.30 めぐ

お気に入り登録ありがとうございます。更新不定期でなかなか進みませんが、今後とも応援宜しくお願いします(*´∀`)

解除

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