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加護の儀式と少女の願い
潜む悪意
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♯???
王都の外れ──
商人風の男が人通りの多い路地を外れ、昼間でも薄暗い人気の少ない通りへと入り込む。
何を警戒しているのか時折後ろを窺いながら身を隠すように暗い路地の更に奥へ奥へと進み、とある建物の扉の中へと消えていった──
「──まだ、ルードヴィング卿からの連絡はないのか?既に決行の期日は過ぎているというのに・・・」
「何か問題が生じたのだろうか・・・。まさか、計画が奴等に嗅ぎ付けられたのか?!」
陽の光が届かない暗闇の中に、テーブルの上に置かれた魔道具の灯に照らされた幾人かの男達の姿があった。
ここは王都の外れにある一軒の家屋。誰かが暮らしていたような痕跡の残るその部屋には、少し不釣り合いなほど大きな絨毯が敷かれている。その下に繋がる地下への暗闇を隠すようにして──
「そんなはずはない。ルードヴィング卿の計画は完璧だった。現にこの隠れ家はまだ無事ではないか。奴等に感づかれたのならここも無事ではすまないはずだ」
「しかし・・・、連絡が途絶えてすでにもう四日も過ぎている。何かが起こったことは明白だろう」
男達の間に沈黙が流れる。
この場所に身を隠してからもう十日以上の時間が経過している。志を共にする同志によって立てられた計画に賛同し、どうやったかは分からないが魔物のスタンピードを故意に誘導し、その隙に紛れ王都へと侵入し商人を装った仲間が事前に用意しておいたこの建物の地下で息を殺し悲願とも言える計画が実行されるその時を力を蓄えじっと待っていた。
しかし、急に連絡は途絶えてしまった。
彼等からすれば、まだ何も起こしてはいないのだがここは紛れもなく敵地の真っ只中。計画の失敗は自らの生命に関わってくる大問題だ。
ここにいるほとんどの人間は、ここに来た時点で既に己の生命など捨てる覚悟を持ったものばかりなのだがそれは宿願を果たすための生命。目的を果たさぬまま散らす生命など誰も持ってはいないのだ。
「・・・そんなことはないと信じたいのが本音だが、現実は期日も過ぎ連絡もない。さて・・・皆はどうしたい?」
「我等だけでも打って出るしかあるまい!このまま何も成さぬまま死ぬなどありえん。ひとりでも多く奴等を道連れにしてやらねば、偉大なる我等が王に報告すら出来ぬ!」
一際大柄な男がテーブルに拳を叩き付ける。大きな音を立ててテーブルが揺れ、その上に乗っていた灯の魔道具がガシャガシャと光を揺らした。
「・・・落ち着け。気持ちは分かるが馬鹿正直に正面から飛び込んでも我等の人数で城を守る大勢の騎士達に敵うはずもないことぐらい分かるだろう」
「ではっ、どうすると言うのだっ!まさかこの期に及んでまだルードヴィングを待つなどと言うまいなっ!」
男は商人風の男の襟を掴み上げる。軽々とその身体が持ち上がり足が床を離れる。
「・・・落ち着けと言っているだろう。やるからには確実な成果を得るための作戦が必要だという意味で言ったんだ」
「ぬっ!?作戦だとぉ?」
浮かんでいた足が床に降ろされる。乱れた襟元を整えると商人風の男は不敵な微笑を浮かべた。
「・・・ああ。先程大勢の騎士が街の外へと飛び出していくのを見た。探ってみたところどうにも王女が何者かに拐われたらしい」
「なんだとっ!?一体誰が・・・ま、まさか、ルードヴィング卿がっ?!」
「まぁ、最後まで聞け。王女が誰に拐われたかまでは分からん。しかし確実なのは城の守りが普段より確実に薄くなっているということと・・・」
「待て。いくら薄くなっているといってもまったくいなくなったわけでもあるまい。その程度でこちらの不利は変わらないと思うが・・・」
事前に彼らが調べあげた情報では、城の内部には第1から第3までの騎士団が常駐しておりその総数は6百を越える。それだけでなく王都内にはあの盾騎士が率いる守護隊までもが徘徊しており、武器を手にした見馴れぬ男達の集団が街を出歩こうものならすぐに目をつけられてしまうだろう。
「クククッ・・・。何も特攻する必要などないさ。我等の第一の目的は偽りの王への粛清。馬鹿正直に騎士全員を相手取る必要などあるまい」
「ど、どういうことだ・・・」
商人風の男はテーブルの上の灯の魔道具を掴み顔の高さまで持ち上げると、その場に居る全員の顔を照らした。
「騎士達は王都の外で王女の捜索を行っているらしくてな?我等もその仲間に入れてもらおうというわけさ──
♯とある騎士
我等第2騎士団の面々は、現在王命を受けジュリエット王女殿下の捜索を行っている。
二百人の団員を十人ずつの班に分け、王都を中心に全方位を鼠一匹逃がさぬほどの決意を持って必死の捜索を続けている──のだが、未だにどの班からも有力な手懸かりも情報も集まってはいないらしい。
先程報告から戻った同僚から憔悴された陛下の様子を聞かされたことで、事態の深刻さが更に大きく感じられた。
「捜索を再開するっ!次はこの街道の先にある農村を調べる。無論道中の捜索も怠るな。少しでも怪しい場所やすれ違う不審者が居れば徹底的に調べろ!
ただし、何度も言うが単独での行動はするな。必ず二人以上で動くこと。もし敵に遭遇した場合はたとえひとりになっても死んでも報告に戻れ!以上だ」
「「「はっ!」」」
我等の班長からもう何度も聞いた指示が飛ぶ。班長は今年で四十二になる経験豊富な騎士だ。
班長はクラーゼル王国の騎士家系の出でその父君は帝国との大戦にも出陣していたらしい。班長自身はまだ戦場に出る年齢ではなかったため実際の戦争というものの経験はないそうだが、人一倍陛下やヴェロスクード卿、自身の父君への憧れが強く率先して危険な場所に足を踏入れようとするきらいがある。
今回も第2騎士団総出の任務ではあるが、五分の一ほどは補給や連絡といった裏方の業務に回されたのだが班長は探索任務に自ら立候補していた。
「班長!前方から行商らしき馬車が来ます。いかがしますか?」
「決まっている。止めて荷を改める。だが荷を傷つけてりましては人を傷つけることは間違ってもないよう、十分に注意しろ。疑わしきがあれば報告はいらん。捕らえよ」
「「「はっ!」」」
班長の指示通りに馬車の進路を塞ぎ停車させる。御者台にひとり、その後ろ幌の中にもうひとり。その奥は布が張られており外からは確認出来なかった。
「止まれ!身分証と荷を改めさせてもらう」
「これはこれは騎士様方。何か事件でもありましたのでしょうか」
「事情は教えられない。拒否は許されないが、大人しくしていれば荷を荒らしはしない」
「ほほっ何やら物騒でございますな。ええどうぞ。何も妖しいものなど積んでおりませんので」
三名の班員が馬車の裏手に回る。班長は少し離れた場所で全体の様子を窺っている。自分は御者台の後ろにいるこの行商の主らしき男に質問を続けた。
「荷はなんだ?」
「ええ。私共は雑貨商でして、生活必需品から薬、多少の食料、あとは武器なども少々──
そのとき男の後ろに張られた布から光る何かが飛びだし自分の頭上を通り過ぎた。
「ぐわあっ!!」
すぐに後ろから悲鳴が聴こえ振り向くと班長が倒れる姿が目に写った。甲冑の隙間、喉元には矢が突き刺さっていた。
「なっ?!き、貴様──
場所に視線を戻した瞬間御者台に座っていた小柄な男が自分へと飛び掛かってきていた。その手には二本のナイフ。
何も出来ぬまま首もとを掻き斬られ不様に地面へと倒れてしまった。
「ぐわあっ!」「お、おのれぇっ!」
「ぎゃああぁっ!」
遠退く意識の向こうで班員達の悲鳴と男達の悪辣な笑い声が響いていた──
王都の外れ──
商人風の男が人通りの多い路地を外れ、昼間でも薄暗い人気の少ない通りへと入り込む。
何を警戒しているのか時折後ろを窺いながら身を隠すように暗い路地の更に奥へ奥へと進み、とある建物の扉の中へと消えていった──
「──まだ、ルードヴィング卿からの連絡はないのか?既に決行の期日は過ぎているというのに・・・」
「何か問題が生じたのだろうか・・・。まさか、計画が奴等に嗅ぎ付けられたのか?!」
陽の光が届かない暗闇の中に、テーブルの上に置かれた魔道具の灯に照らされた幾人かの男達の姿があった。
ここは王都の外れにある一軒の家屋。誰かが暮らしていたような痕跡の残るその部屋には、少し不釣り合いなほど大きな絨毯が敷かれている。その下に繋がる地下への暗闇を隠すようにして──
「そんなはずはない。ルードヴィング卿の計画は完璧だった。現にこの隠れ家はまだ無事ではないか。奴等に感づかれたのならここも無事ではすまないはずだ」
「しかし・・・、連絡が途絶えてすでにもう四日も過ぎている。何かが起こったことは明白だろう」
男達の間に沈黙が流れる。
この場所に身を隠してからもう十日以上の時間が経過している。志を共にする同志によって立てられた計画に賛同し、どうやったかは分からないが魔物のスタンピードを故意に誘導し、その隙に紛れ王都へと侵入し商人を装った仲間が事前に用意しておいたこの建物の地下で息を殺し悲願とも言える計画が実行されるその時を力を蓄えじっと待っていた。
しかし、急に連絡は途絶えてしまった。
彼等からすれば、まだ何も起こしてはいないのだがここは紛れもなく敵地の真っ只中。計画の失敗は自らの生命に関わってくる大問題だ。
ここにいるほとんどの人間は、ここに来た時点で既に己の生命など捨てる覚悟を持ったものばかりなのだがそれは宿願を果たすための生命。目的を果たさぬまま散らす生命など誰も持ってはいないのだ。
「・・・そんなことはないと信じたいのが本音だが、現実は期日も過ぎ連絡もない。さて・・・皆はどうしたい?」
「我等だけでも打って出るしかあるまい!このまま何も成さぬまま死ぬなどありえん。ひとりでも多く奴等を道連れにしてやらねば、偉大なる我等が王に報告すら出来ぬ!」
一際大柄な男がテーブルに拳を叩き付ける。大きな音を立ててテーブルが揺れ、その上に乗っていた灯の魔道具がガシャガシャと光を揺らした。
「・・・落ち着け。気持ちは分かるが馬鹿正直に正面から飛び込んでも我等の人数で城を守る大勢の騎士達に敵うはずもないことぐらい分かるだろう」
「ではっ、どうすると言うのだっ!まさかこの期に及んでまだルードヴィングを待つなどと言うまいなっ!」
男は商人風の男の襟を掴み上げる。軽々とその身体が持ち上がり足が床を離れる。
「・・・落ち着けと言っているだろう。やるからには確実な成果を得るための作戦が必要だという意味で言ったんだ」
「ぬっ!?作戦だとぉ?」
浮かんでいた足が床に降ろされる。乱れた襟元を整えると商人風の男は不敵な微笑を浮かべた。
「・・・ああ。先程大勢の騎士が街の外へと飛び出していくのを見た。探ってみたところどうにも王女が何者かに拐われたらしい」
「なんだとっ!?一体誰が・・・ま、まさか、ルードヴィング卿がっ?!」
「まぁ、最後まで聞け。王女が誰に拐われたかまでは分からん。しかし確実なのは城の守りが普段より確実に薄くなっているということと・・・」
「待て。いくら薄くなっているといってもまったくいなくなったわけでもあるまい。その程度でこちらの不利は変わらないと思うが・・・」
事前に彼らが調べあげた情報では、城の内部には第1から第3までの騎士団が常駐しておりその総数は6百を越える。それだけでなく王都内にはあの盾騎士が率いる守護隊までもが徘徊しており、武器を手にした見馴れぬ男達の集団が街を出歩こうものならすぐに目をつけられてしまうだろう。
「クククッ・・・。何も特攻する必要などないさ。我等の第一の目的は偽りの王への粛清。馬鹿正直に騎士全員を相手取る必要などあるまい」
「ど、どういうことだ・・・」
商人風の男はテーブルの上の灯の魔道具を掴み顔の高さまで持ち上げると、その場に居る全員の顔を照らした。
「騎士達は王都の外で王女の捜索を行っているらしくてな?我等もその仲間に入れてもらおうというわけさ──
♯とある騎士
我等第2騎士団の面々は、現在王命を受けジュリエット王女殿下の捜索を行っている。
二百人の団員を十人ずつの班に分け、王都を中心に全方位を鼠一匹逃がさぬほどの決意を持って必死の捜索を続けている──のだが、未だにどの班からも有力な手懸かりも情報も集まってはいないらしい。
先程報告から戻った同僚から憔悴された陛下の様子を聞かされたことで、事態の深刻さが更に大きく感じられた。
「捜索を再開するっ!次はこの街道の先にある農村を調べる。無論道中の捜索も怠るな。少しでも怪しい場所やすれ違う不審者が居れば徹底的に調べろ!
ただし、何度も言うが単独での行動はするな。必ず二人以上で動くこと。もし敵に遭遇した場合はたとえひとりになっても死んでも報告に戻れ!以上だ」
「「「はっ!」」」
我等の班長からもう何度も聞いた指示が飛ぶ。班長は今年で四十二になる経験豊富な騎士だ。
班長はクラーゼル王国の騎士家系の出でその父君は帝国との大戦にも出陣していたらしい。班長自身はまだ戦場に出る年齢ではなかったため実際の戦争というものの経験はないそうだが、人一倍陛下やヴェロスクード卿、自身の父君への憧れが強く率先して危険な場所に足を踏入れようとするきらいがある。
今回も第2騎士団総出の任務ではあるが、五分の一ほどは補給や連絡といった裏方の業務に回されたのだが班長は探索任務に自ら立候補していた。
「班長!前方から行商らしき馬車が来ます。いかがしますか?」
「決まっている。止めて荷を改める。だが荷を傷つけてりましては人を傷つけることは間違ってもないよう、十分に注意しろ。疑わしきがあれば報告はいらん。捕らえよ」
「「「はっ!」」」
班長の指示通りに馬車の進路を塞ぎ停車させる。御者台にひとり、その後ろ幌の中にもうひとり。その奥は布が張られており外からは確認出来なかった。
「止まれ!身分証と荷を改めさせてもらう」
「これはこれは騎士様方。何か事件でもありましたのでしょうか」
「事情は教えられない。拒否は許されないが、大人しくしていれば荷を荒らしはしない」
「ほほっ何やら物騒でございますな。ええどうぞ。何も妖しいものなど積んでおりませんので」
三名の班員が馬車の裏手に回る。班長は少し離れた場所で全体の様子を窺っている。自分は御者台の後ろにいるこの行商の主らしき男に質問を続けた。
「荷はなんだ?」
「ええ。私共は雑貨商でして、生活必需品から薬、多少の食料、あとは武器なども少々──
そのとき男の後ろに張られた布から光る何かが飛びだし自分の頭上を通り過ぎた。
「ぐわあっ!!」
すぐに後ろから悲鳴が聴こえ振り向くと班長が倒れる姿が目に写った。甲冑の隙間、喉元には矢が突き刺さっていた。
「なっ?!き、貴様──
場所に視線を戻した瞬間御者台に座っていた小柄な男が自分へと飛び掛かってきていた。その手には二本のナイフ。
何も出来ぬまま首もとを掻き斬られ不様に地面へと倒れてしまった。
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