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両想いになった私たち②
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しかし彼と暮らし始めて数か月もすると、いつの間にか寂しいとか悲しいといったマイナスな感情に支配されることは少なくなっていた。
それにまさか、元の世界に戻ることが出来るようになるとは思っていなかったから、この世界で逞しく生きて行くと決意していただけに、自分でもどうしたいのかが分からない。
元の世界の物は、こちらに来た時に着ていたパーティードレスとアクセサリーがあるから、それを使えば私がいた世界に繋がる道を作ることは出来るのだろうけれど、彼との生活を心地よく感じている私にはすぐに答えを出すことは出来なかった。
そう提案してくれた彼は、私の返事を待ってくれている。
捨てられた犬のような、悲しい感情を彼の僅かな表情の変化から感じ取り、離れたくないと思ってくれているのが分かる。それでも私の幸せを想って、元の世界への帰還方法を研究してくれていたのだと思うと、胸が締め付けられる思いだった。
「直ぐに結論を出す必要はない。帰る決意が固まったら教えてくれ」
短い言葉の中にも彼の優しさを感じて、愛しい思いが益々強くなった。
私が元の世界に帰れば、この優しい彼はまた独りぼっちになってしまう。
そう思ったら、もう自分の思いを秘めておくことが出来なくなった。
テーブルを挟んで座っていた私は、徐に立ち上がると彼の前に立った。
こちらの世界に来てもう貴族ではなくなった私は、淑女のように淑やかにする必要も、はしたないことだとされていた女から愛を告げることを気にする必要もない。
突然立ち上がって目の前に立つ私にケビンは驚いていたけれど、私は構わず彼の頭を抱き込んだ。すると彼が短く息を飲んだのが分かった。
私の心臓は早鐘のように激しく鳴り響いているけれど、言うなら今だと自分を奮い立てる。私に抱きしめられた彼の僅かな震えが伝わってきて、彼の深い愛情を感じることが出来た。
彼は私のために身を引く選択をしたのだから、私は彼に自分の気持ちを真っすぐに伝えて向き合わなければならない。
「お願いだからこのまま私の話を聞いて欲しいの」
私がそう言うと、抱き込まれたままのケビンは小さく頷いてくれた。
「私はケビンが好き。あなたと一緒に暮らしたこの一年、とても穏やかな気持ちで過ごすことが出来た。この世界にたった一人で放り出された私に優しく手を差し伸べてくれて、住む場所と仕事を与えてくれて私がどれほどあなたに救われたか――」
好きな人に自分の気持ちを伝えるのはとても勇気がいることだ。少なくともケビンからも好意を感じる瞬間はあったけれど、私の勘違いということもあるかもしれない。拒絶されたらと思うと途端に怖くなった。でも言わなきゃ……。言葉に詰まった私を急かすことなく待ってくれているケビンの優しさに報いるためにも。少しだけ抱き締める腕に力を籠め、意を決して言葉を紡ぐ。
「このまま私をあなたの側に置いてもらえないかな? 私はケビンと一緒に生きて行きたい」
言葉にすると上手く伝えることが出来なくて、もどかしくてたまらず、抱きしめている彼の頭を抱える手が震える。そんな私の胴に彼は優しく腕を回して背中を撫でてくれた。おぞおずと彼の頭から腕を離し、彼の感情を読み取るために顔を覗き込むと、彼は椅子から立ち上がり私を強く抱きしめてくれた。
「アンジェリカ、俺も君とずっと一緒にいたい! 君が好きなんだ!」
ケビンの温もりと香りに包まれた幸せな状況で聞こえてきた言葉は私の一番欲しかった言葉だった。
「君が元の世界に残してきた大切な者たちを想って涙していたことを知っているのに、君をこの世界に引き留めたいと思ってしまう自分が情けなかった。気持ちを伝えてしまえばもう手放すことが出来なくなると、想いに蓋をして気付かないフリをしてきた。本当に良いのか? 俺は結論は急がないと言った。ここに残ると言えば、もう帰りたいと言われても帰してあげられない。――もう一度よく考えるんだ」
抱きしめていた腕を解いた彼の表情は寂しそうで、私も抱きしめたい気持ちに駆られるけれど、その前にしっかりと伝えなければならない。
もし帰ることが出来たらなんてこれまでに何度も何度も考えてきたんだから。
ただ帰還方法がないと思っていたから、その考えは現実的ではなかったけれど、ケビンと過ごすうちにいつしか帰りたいと思うことはなくなっていた。
この人はこんなに辛い顔をしているのに、私の幸せを望んでくれているのだ。
それから私が一人で涙を流していたことに気が付いていたのね……。それでも気付いていないフリをしてそっとしておいてくれた。
口数はそれほど多くないけれど、ただ側に居てくれることがどれだけ私の救いになったことか――。
やっぱり私はここで彼と一緒に生きて行きたい!
「ケビン、私はここにいる。あなたのいない元の世界に戻るつもりはないわ。だから私をここに置いて?」
涙を堪えてにっこりと微笑んでそう口にすると、俯いていたケビンが顔を上げて再び私のことを強く抱きしめてくれた。
私も彼の背中に腕を回して逞しい胸に額を擦り付ける。ドクンドクンと脈打つ心臓の音が彼の緊張を物語っている。そんな私も同じなのだけど。こうやって抱き締められるのって温かくて気持ちが良くて幸せな気持ちになるのね。
「愛してる。アンジェリカ、もう君を離してあげられない。俺には君が必要なんだ――」
ゆっくりと彼の顔を見上げると涙で潤んだ紫色の瞳が、キラキラと光っていてとても美しかった。思わず見惚れていて、柔らかく温かい感触が唇に触れるまで彼の顔が近付いていたことには気が付かなかった。触れるだけの優しいキスは直ぐに離れてしまい、それが何だか寂しくて、もっとして欲しいと思った私ははしたないけれど、ケビンの首に腕を巻き付けて自分から彼の唇に口付けた。そんな私の行動にケビンは驚いていたけれど、すぐに嬉しそうに目を細めて私の口付けに応えてくれた。
何度も角度を変えて唇を合わせているうちに、湿り気を帯びてしっとりしてきてとても気持ちが良い。キスって、こんなに気持ちが良くて幸せになれるものだったのね――。
二人で愛を語り合った日は、夜遅くまで色々なことを話し合った。
今まで言うことが出来なかった愛の言葉を飽きることなく、お互いが安心できるまで何度も何度も――。
それにまさか、元の世界に戻ることが出来るようになるとは思っていなかったから、この世界で逞しく生きて行くと決意していただけに、自分でもどうしたいのかが分からない。
元の世界の物は、こちらに来た時に着ていたパーティードレスとアクセサリーがあるから、それを使えば私がいた世界に繋がる道を作ることは出来るのだろうけれど、彼との生活を心地よく感じている私にはすぐに答えを出すことは出来なかった。
そう提案してくれた彼は、私の返事を待ってくれている。
捨てられた犬のような、悲しい感情を彼の僅かな表情の変化から感じ取り、離れたくないと思ってくれているのが分かる。それでも私の幸せを想って、元の世界への帰還方法を研究してくれていたのだと思うと、胸が締め付けられる思いだった。
「直ぐに結論を出す必要はない。帰る決意が固まったら教えてくれ」
短い言葉の中にも彼の優しさを感じて、愛しい思いが益々強くなった。
私が元の世界に帰れば、この優しい彼はまた独りぼっちになってしまう。
そう思ったら、もう自分の思いを秘めておくことが出来なくなった。
テーブルを挟んで座っていた私は、徐に立ち上がると彼の前に立った。
こちらの世界に来てもう貴族ではなくなった私は、淑女のように淑やかにする必要も、はしたないことだとされていた女から愛を告げることを気にする必要もない。
突然立ち上がって目の前に立つ私にケビンは驚いていたけれど、私は構わず彼の頭を抱き込んだ。すると彼が短く息を飲んだのが分かった。
私の心臓は早鐘のように激しく鳴り響いているけれど、言うなら今だと自分を奮い立てる。私に抱きしめられた彼の僅かな震えが伝わってきて、彼の深い愛情を感じることが出来た。
彼は私のために身を引く選択をしたのだから、私は彼に自分の気持ちを真っすぐに伝えて向き合わなければならない。
「お願いだからこのまま私の話を聞いて欲しいの」
私がそう言うと、抱き込まれたままのケビンは小さく頷いてくれた。
「私はケビンが好き。あなたと一緒に暮らしたこの一年、とても穏やかな気持ちで過ごすことが出来た。この世界にたった一人で放り出された私に優しく手を差し伸べてくれて、住む場所と仕事を与えてくれて私がどれほどあなたに救われたか――」
好きな人に自分の気持ちを伝えるのはとても勇気がいることだ。少なくともケビンからも好意を感じる瞬間はあったけれど、私の勘違いということもあるかもしれない。拒絶されたらと思うと途端に怖くなった。でも言わなきゃ……。言葉に詰まった私を急かすことなく待ってくれているケビンの優しさに報いるためにも。少しだけ抱き締める腕に力を籠め、意を決して言葉を紡ぐ。
「このまま私をあなたの側に置いてもらえないかな? 私はケビンと一緒に生きて行きたい」
言葉にすると上手く伝えることが出来なくて、もどかしくてたまらず、抱きしめている彼の頭を抱える手が震える。そんな私の胴に彼は優しく腕を回して背中を撫でてくれた。おぞおずと彼の頭から腕を離し、彼の感情を読み取るために顔を覗き込むと、彼は椅子から立ち上がり私を強く抱きしめてくれた。
「アンジェリカ、俺も君とずっと一緒にいたい! 君が好きなんだ!」
ケビンの温もりと香りに包まれた幸せな状況で聞こえてきた言葉は私の一番欲しかった言葉だった。
「君が元の世界に残してきた大切な者たちを想って涙していたことを知っているのに、君をこの世界に引き留めたいと思ってしまう自分が情けなかった。気持ちを伝えてしまえばもう手放すことが出来なくなると、想いに蓋をして気付かないフリをしてきた。本当に良いのか? 俺は結論は急がないと言った。ここに残ると言えば、もう帰りたいと言われても帰してあげられない。――もう一度よく考えるんだ」
抱きしめていた腕を解いた彼の表情は寂しそうで、私も抱きしめたい気持ちに駆られるけれど、その前にしっかりと伝えなければならない。
もし帰ることが出来たらなんてこれまでに何度も何度も考えてきたんだから。
ただ帰還方法がないと思っていたから、その考えは現実的ではなかったけれど、ケビンと過ごすうちにいつしか帰りたいと思うことはなくなっていた。
この人はこんなに辛い顔をしているのに、私の幸せを望んでくれているのだ。
それから私が一人で涙を流していたことに気が付いていたのね……。それでも気付いていないフリをしてそっとしておいてくれた。
口数はそれほど多くないけれど、ただ側に居てくれることがどれだけ私の救いになったことか――。
やっぱり私はここで彼と一緒に生きて行きたい!
「ケビン、私はここにいる。あなたのいない元の世界に戻るつもりはないわ。だから私をここに置いて?」
涙を堪えてにっこりと微笑んでそう口にすると、俯いていたケビンが顔を上げて再び私のことを強く抱きしめてくれた。
私も彼の背中に腕を回して逞しい胸に額を擦り付ける。ドクンドクンと脈打つ心臓の音が彼の緊張を物語っている。そんな私も同じなのだけど。こうやって抱き締められるのって温かくて気持ちが良くて幸せな気持ちになるのね。
「愛してる。アンジェリカ、もう君を離してあげられない。俺には君が必要なんだ――」
ゆっくりと彼の顔を見上げると涙で潤んだ紫色の瞳が、キラキラと光っていてとても美しかった。思わず見惚れていて、柔らかく温かい感触が唇に触れるまで彼の顔が近付いていたことには気が付かなかった。触れるだけの優しいキスは直ぐに離れてしまい、それが何だか寂しくて、もっとして欲しいと思った私ははしたないけれど、ケビンの首に腕を巻き付けて自分から彼の唇に口付けた。そんな私の行動にケビンは驚いていたけれど、すぐに嬉しそうに目を細めて私の口付けに応えてくれた。
何度も角度を変えて唇を合わせているうちに、湿り気を帯びてしっとりしてきてとても気持ちが良い。キスって、こんなに気持ちが良くて幸せになれるものだったのね――。
二人で愛を語り合った日は、夜遅くまで色々なことを話し合った。
今まで言うことが出来なかった愛の言葉を飽きることなく、お互いが安心できるまで何度も何度も――。
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